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活動的なライフスタイルが子どもに与える効果 3選

 小児理学療法の分野では、脳性麻痺を含む様々な疾患を持つ子どもたちへの治療アプローチが大きく変化してきました。従来は、主に受動的な運動や特定の技能の訓練に重点が置かれてきました。

 一方で、近年では、より活動的な子ども主導のアプローチの有効性が強調されています。このような変化のきっかけの一つが、Damianoの2006年の論文「Activity, Activity, Activity: Rethinking Our Physical Therapy Approach to Cerebral Palsy」です。

 この論文は小児理学療法における新しい考え方を示しました。20年近く前の論文ですが、今もなおこの論文の主張の重要性は高いままだと思います。この記事では、Damianoの論文を基に活動的なライフスタイルがもたらすメリットについて掘り下げていきます。


活動的なライフスタイルの利点1:健康状態の維持と身体機能の向上

 中程度のレベルの身体活動を定期的に行うことが健康状態の維持と身体機能の向上にとって重要であることは広く認識されています。

 柔軟性にとって最も大事と言っても過言ではない筋の長さを維持するためには、定期的に筋を伸ばす必要があります。また、筋力を維持するためには筋肉に十分な負荷を、骨の丈夫さを保つためには骨に適度な圧縮負荷を加える必要があります。さらに、心臓や肺の機能を維持するためには中程度のレベルの強度で定期的に運動することが重要です。

 適度に動いていないと筋や、骨、心肺系の機能は低下してしまいます。これらの機能低下によって、歩行のスピードや持久力などが低下し、さらに動きにくくなるという悪循環が生まれます。

 特に、脳性麻痺などの身体障がいを持つ子どもにとっては、定期的な身体活動がさらに重要です。身体障がいを持つ子どもは筋力や、柔軟性、骨密度、心肺機能などの加齢に伴う機能低下の影響が大きいためです。実際に、多くの脳性麻痺者は成人期の早い段階で歩行能力を失う傾向にあることが報告されています。

 定期的な身体活動によって身体機能の低下を遅らせることができます。したがって、身体活動は健康状態の維持と身体機能の向上にとって重要なのです。

活動的なライフスタイルの利点2:社会性の発達と自信の向上

 子どもの成長にとって自発的な活動が重要です。特に神経系と筋骨格系が大きく成長する幼少期には積極的に自発的な移動の経験を重ねることが社会性の発達と自信の向上の面から推奨されます。

 なぜなら、自発的な移動は、話す、食べる、着替える、移動するなどの日常生活に必要なスキルを学ぶ土台となるためです。また、近年の研究では、自発的な移動の経験が社会心理学的発達を促進することを報告しています。自分で動けることによって「誰かの助けが必要だ。」という受け身的な考えから「自分にはできる」という能動的な考えへと前向きな変化を起こすことができるのです。

 脳性麻痺を持つ子どもたちなどのように自発的な移動能力に問題がある場合、日常生活に必要なスキルを学ぶための経験が不足することで、認知的、社会的、情緒的発達にも影響を与える可能性があります。これに対して、電動車いすなどの移動装置を活用することで、子どもたちが積極的に活動する機会が増え、社会的交流が促進され、自立心が高まることが示されています。

 自発的な活動によって、日常生活に必要なスキルを学ぶ経験と、社会的な成功体験を得る機会を豊富にすることができます。したがって、自発的な活動は社会性の発達と自信の向上を促進する上で重要なのです。

活動的なライフスタイルの利点3:脳機能の改善

 運動が脳の正常な発達と維持、さらには損傷した脳の回復を促進する役割を果たすことが近年の研究によって明らかにされつつあります。
 運動はいくつかの神経疾患に対する予防効果を持っています。また、運動はうつ病に対しても効果があり、高齢者の認知機能の低下を抑えることも示されています。動物実験では、運動によって脳の成長因子が増加することで、生涯を通じて学習と記憶が促進されることが示唆されています。

 特に幼い時期の脳の変化は劇的です。例えば、重篤な発作を抱える子どもたちが大脳半球の一部を切除する手術を受けた後、驚くほどの認知機能と運動機能の回復を遂げることがあります。

 ただし、脳の可塑性が高いが故の問題点もあります。乳児期の脳には積極的な発達上の変化が起こり、使われていない神経回路は排除され、より頻繁に使われる神経回路が強化されます。脳性麻痺を持つ子どもたちの乳児期の動きは動きの種類が少ない傾向にあります。これらの動きが定着することで、将来の動きの選択肢が制限され、運動面の予後に悪影響を及ぼす可能性があるのです。

 このことが、乳児期からの早期介入が重要と言われる理由です。発達の早い段階で機能的な神経回路が失われる前に強化するために、早期からの集中的な治療プログラムと、日常生活での豊富な運動経験が重要です。

 運動によって神経構造の望ましい変化を促し、機能的な改善をもたらすことができます。したがって、豊富な運動経験は脳機能を改善する上で重要なのです。

まとめ

 小児理学療法の分野でのアプローチは、かつては受動的な運動や特定の技能訓練に焦点を置いた治療が主流でしたが、より活動的で子ども主導の治療が注目されるようになりました。この新しいアプローチは、子どもたちが自発的に活動することの重要性を強調しています。

活動的なライフスタイルの重要な利点

  1. 健康状態の維持と身体機能の向上: 定期的な中程度の運動は、健康を維持し身体機能を高めるために不可欠です。筋肉を定期的に伸ばすことで柔軟性を保ち、適切な負荷で筋力と骨の強度を保つことが重要です。心臓や肺の機能も、適度な運動によって維持されます。これにより、筋肉、骨、心肺系の機能低下を予防し、より健康的な生活が送れます。

  2. 社会性の発達と自信の向上: 自発的な活動は、子どもたちが社会的スキルを身につけるのに役立ちます。これにより、「自分にはできる。」という自信が育ち、他人との関わり方を学ぶ基盤となります。特に身体障害を持つ子どもたちは、移動支援機器を活用することでさらに多くの社会的交流が可能になり、自立心が養われます。

  3. 脳機能の改善: 運動は、脳の正常な発達を促進し、損傷した脳の回復を助ける可能性があります。運動による脳の成長因子の増加は、学習と記憶の向上に寄与します。また、運動はうつ病の予防や認知機能の維持にも効果的です。小児期からの適切な運動が脳性麻痺を含む様々な疾患を持つ子どもたちにとって特に重要です。

 子どもたちが自発的に活動するで、身体的、社会的、認知的に健康な成長が促されるのです。したがって、早期から適切な運動習慣を身につけることが発達にとって非常に重要と言えます。活動的なライフスタイルが子どもたちの健康と幸福にとって重要な役割を果たすことは間違いありません。

参考文献

Activity, activity, activity: rethinking our physical therapy approach to cerebral palsy
Damiano DL. Phys Ther. 2006 Nov;86(11):1534-40.


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