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よなよな31 生き方

ばな子

環境

自分の子ども(中学生くらいまでかな)が遊びまわったり勉強しすぎたり外にいすぎたりするのが続いて、そろそろ熱が出るぞ〜って感じって、肌でわかるじゃないですか。そして寝込んだ子どもから笑顔が消えると、急に部屋が暗い感じになる。ふだんいかに助けてもらっているか、思い知ります。
犬とか猫とかって違う生き物だし、自分は親じゃないからそういうときの子どもと違って、わりと唐突に決定的なことがやってくるんです。私は今でもそれに慣れません。というのは、しゃべれないものが頼ってくるのって全身でだから。
18歳の亀がいるのですが、だんだん食が細くなってきて、今は私が食べやすく持ってあげているバナナしか食べません。まさか亀が頼ってくるとは思わなかった!私の手から、私が食べやすい形に伸ばして、いい感じで口元に持っていったバナナだけ食べてくれるんです。そんな信頼が18年間に育っているとは思わなかった。やる気がなかった亀はやがて自分の手でぐいっとバナナを抑えるようになってきて、いっときよりも元気になってきました。
冬は動きが少ないから(若干冬眠寄りになる)、ついつい世話がおろそかになる、それがちゃんと命に反映しちゃうということは、森の中にいない亀にとって私は環境であり自然の一部なんですね。
病院に連れて行くと、強制給餌をしたり、糞を顕微鏡で見て寄生虫がいるからって薬飲ませたり、亀にとって意味のわかりようがないことにばかりなるので、今回は連れていってません。もう少し生きてくれるといいんだけど。
なんか違うなって思ったんです、亀の糞を顕微鏡で見て、必ずいるはずの寄生虫(そんな深刻なものではなく、亀全般にいて、亀が弱ってくると少しだけ悪影響があるやつ)を発見して対処するってことが。
私はめんどうくさがりで残酷なのかもしれないけれど、この段階に医学の応用はいらないかもなと思うんです。バナナは糖分が多いから主食にしちゃいけないんだけど、他を食べずに喜んで食べているので、もしももう長くないなら食べていいよと思ってます。そう、正解はないんですよね。うちにたまたま来たってことと、いっしょに生きてきたってことだけが全てで。他の家にいたらまめに病院に行って、まだまだずっと生きるのかもしれないし。
だからうちの亀と私の運命を生きるしかないんです。死んじゃったとしても。こちらにできることは「最後好きにさせてあげてよかったな、部屋もいつもより長く解放したしな」と思える程度に、がんばりすぎずに、義務感でもなく、悔いなくていねいにやっていくことだけなんですよね。

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よなよな、人生について意味なく語り合うばな子とまみ子。 全然違うタイプだからこそ、野生児まみ子の言うことを聞くとばな子こと小説家吉本ばなな…