【hide】へそ曲がりの作詞術⑦【TELL MEに学ぶ】
はいこんにちは。
最近シャレにならないくらい温泉に行きたい作詞家、藤橋です。
昔の文豪とかって、しなびた温泉宿で机に向かって頭クシャクシャして
原稿用紙丸めてポイ!みたいなイメージあるじゃないですか。
あんなんやってみたいわぁ。まだ早いかな。
恒例の自己紹介はこちら。
さて、今回は
良い歌詞って何?
という話をさせてください。
前提として、
歌詞って正解がないですよね。
と言うより、全ての歌詞が正解です。
むしろ、創作活動における正解は自分の中にしかありません。
ここは、売れる・売れない、好まれる・嫌われる とは切り分けて考えましょう。
作詞家というのも曖昧な職業で、
特に資格や免許が必要な仕事ではありませんから、
あなたが今日唐突に「私は作詞家です」と言い出したらもう作詞家なのです。
あるのはプロ・アマの境目だけ。このへんはまた追い追いどこかで触れさせていただきます。
話を戻しまして。
「良い歌詞」のお話です。
明確な物差しがあるわけではなく、点数を付けることもできないのが芸術です。
そんな中ですが、ぼくなりの正解は「狭く深く刺す」歌詞こそが、良い歌詞です。
できるだけ多くの人の共感を得て受け入れられる!という狙いを持った曲もそれなりに見かけますが、
果たしてそれって深く刺さっているのでしょうか?
多分、一部の天才にはそれができるのでしょうが、
残念ながらぼくたちは天才とは違った戦い方をしなければならないのです。
狭く深く刺す。
イメージは、工具のキリです。
一点突破で、狭く深く刺していく。
キリは、先端が尖っているから深く入っていきます。
先端が丸くなったり平べったかったりすると、ごく浅いところまでしか入りません。ただ、穴の面積は広くなります。
かける労力(時間×才能)が同じとした時、
狭くて深い穴か広くて浅い穴、どちらを掘りますか?という話です。
ぼくは「抜けにくい」の一点で
深い穴を選択しています。
世界で一人だけ、「良すぎて死ぬ」くらいのことを思ってくれればそれが正解です。
そこから周りに少しづつ広がっていくのです。好感は伝染しますから。
では、どのように「狭く深く刺す」歌詞を創るか。
以下のようなことを意識すると良いと思います。
①特定の人物(または自分)に宛てる
ぼくの強みとして、広告業界で長く働いていた経験があります。
そこでは「誰に何をどう伝えるか」なんていう話が日常的に飛び交っていました。
そして特に「誰に」を設定するのがとても楽しく、ここについてお客さんにプレゼンするのが得意だった気がします。
これも、いくつかアプローチ方法がありますが、
一番簡単なのは既知の人物を思い浮かべることです。
そしてその人物の特性を分解してみましょう。
分解した特性の中から、その人物を決定付ける印象を拾えるだけ拾ってみてください。
あなたはその人に対して何かを伝えたいのです。
②一瞬を切り取る
例えば、「3年間の高校生活」そのものが全て記憶に残っている人はほぼいません。
思い出すシーンって、たいてい一瞬の画像じゃないですか?
その後、そこに至る経緯や心情、その後の結果などを懐かしむというプロセスを経るのが一般的です。
作詞においても、どのシーンをメインに持ってくるかを決めましょう。
そのシーンの中でも最も印象的な部分を歌詞の中で伝えるためには
「五感に訴えかける表現」が共感を呼びやすいとされています。
例
胸に残り離れない苦いレモンの匂い (Lemon / 米津玄師)
その髪に触れただけで痛いや (Pretender / Official髭男dism)
など。
五感に訴えかける表現は、実はそこかしこで見かけます。
意識して周りを見てみると面白いかも知れないですね。
③同じ視点から書く
上記のシーンを眺めているのは、いつのどこの誰でしょう?
(心理的に)上から?下から?真横から?
内側から?外側から?
過去から?未来から?
ここを定めないと、なんだかよく分からない歌詞になってしまいます。
「読者が酔う」というやつですね。
まずは見てる人の位置・時間・心情などを固定し、ブレないように気を付けましょう。
恐縮ながら、ひとつだけ自分の作品を例に出すと
イチバンガラスという曲は真横スタンスから同じ方向(未来)を向いて書きました。
細かいことですが、「手を差し伸べる」より「肩を貸す」方が同じ方向を向けるな、とか。照れくさくも泥っぽい雰囲気を出したかったです。
他にもありますが、特に重要なのはこの3点です。
遥か上の方にチラッと書きましたが、
人の好感は伝染します。
狭く深く刺し切られた人から周囲へ
じわじわと伝染していくのが、
正しい伝わり方だと思うのです。
とは言え音楽は大衆芸能ですから
マスを意識した発信も大切なのですが、
根本の精神を持っているか否かで結果がかなり変わってきます。
そして根本の精神はクリエイターにとっての「戻る場所」となり、
将来的な精神衛生に繋がってきますので、
特に自身が不安定だと認識している方には覚えておいていただきたいです。
以下、余談ですが。
hideさんの歌詞は、現在の自分から過去の自分に宛てたものが多い
という話は有名ですが
その中でぼくが一番好きなのは TELL ME です。
心理的に周りと馴染めない違和感を抱えたまま上っ面でうまいことやっていた、
幼少期と今の苦悩や悲しさを歌っている(とぼくは理解している)曲です。
これこそ
①「特定の人物(過去の自分)」に宛て、
②「本当の自分が見えない」と感じた瞬間が切り取られ、
③「同じ視点から書かれている」ことを理解していないと
「きみ」が幼少期の自分で「ぼく」が今の自分で
今から過去へどんなメッセージを送りたかったのか
みたいなことが全くわからないと思います。
とても、名曲だと思います。
以上、
最後まで読んでいただきありがとうございました。
ではでは。
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