軒下のメモ帳と出会った話
【これまでのあらすじ!】
私コンノダイチは「26時」という詩のサロンに所属している
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26時は先月11月24日(日)に東京流通センターで行われた
「第二十九回 文学フリマ東京」に出店した
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連詩集、中島敦論、Tシャツ、チョコ(!)など頒布した。たのしかった
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ひょんなことからサークル「軒下のメモ帳」さんの新刊を手に入れる
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あまり買い物をする方ではないので戦利品自体レア!
ひゃっは!!めっちゃ読む
(そのテンションの ↓ まま一ヶ月経過……)
そうだ感想書こう ←イマココ
というわけで今回は文学フリマ東京唯一の戦利品である「軒下のメモ帳」さんの新刊にして創刊号
『文芸写真集 透明』
『肌につく 湿る温度と 耳につく 恋人達を 通過する夏』
の二点を読んだ感想など書かせていただこうと思います。よろしくお願いします。
【文芸写真集 透明】
「物書き、短歌うたいがそれぞれに謂う”透明”」
と裏表紙にもある通り、「透明」をテーマにした詩と掌編小説が、同人各位が撮影した写真を添えて配置されている。それぞれの足元、日常の風景、路地裏、調度品、私室、屋上、窓枠……作品の内容とかかわりの深いもの、薄いもの、それぞれが響き合い、この一冊に特有の空気感、文脈のようなものを与えている印象。素敵だ。
[今からでも] 鱒子哉
「透明人間」を自称したらしい語り手の、少し不思議な恋心。半ば自嘲的に自身を「透明」と表現した所に現れた「君」に惹かれたが、その君はどうやら「本物の透明人間」で。最終一行に見える「本当は透明なんかじゃない自分」を自覚している様子や、「人間を辞めても彼女と居たい」というちょっと無謀な願望がなんとなくほほえましい。
[24 hours a day] 鱒子哉
コインランドリーを訪れる語り手の内心。恐らく来客である「君」は恋人なのかな、未満のような気もする。晴れたら干すつもりだった洗濯物と「あぶれそうで危うい感情」、溜め込まれたそれらを、洗い流す雨とコインランドリー。勇敢なのに、守るんですよね。守って、そして……? 気になる余韻。
[遺物] 鱒子哉
夜道に浮かぶ緑のアイツ。今やほとんど前時代の遺物であるところの公衆電話。それがなんなのかを知る自分もまた「取り残された遺物」なのではないか? という着眼点がなかなか素敵。ある種仲間を見るような親近感でソレを見ていた語り手が一瞬現れて、また夜の闇に消え去るような、そんな感覚。
[可視] 鱒子哉
星の見えない都会の夜に思うこと。遠い星々を「光で」「見る」の意味するところは掴み切れないが、本来見えるはずのものを観測できない夜を指し「つくりものの黒」と呼ぶ視線にハッとする。光を生んで闇を濃くする、そんな人間の矛盾を見ているのかもしれない。
[ヒグラシの翅] 澄玲(sumire)
雨の季節に別れることもせず消えてしまった「あなた」に囚われた「わたし」の日々。「透明になってしまったあなたと暮らしている」という一文に宿る、「不在」というものの圧倒的存在感。「どうして君は嫌いだと もう好きじゃないと きちんと止めを刺して出ていってくれなかったの だってそうだろ 終わってもいないことだけは 忘れられるはずがない」なback number の歌「半透明人間」状態とでも申しましょうか。終わらないけどもう続いてもいない、喪失することも出来なかった空虚さ。寂しい、と言い切ることも出来ないさびしさ。
[7:42] 澄玲(sumire)
透明な「あなた」のいる部屋。[ヒグラシの翅]の続きとして読みました。感じることしか出来ない存在となった、そこにいないけれどいるあなた。触れえない彼の「愛差し」に撫でられ出ていく一人の部屋。一桁台まで指定された「7:42」という時間に、二人が幾度となく繰り返した「いつもの朝」が見えるよう。愛差しいいな、愛差し。
[金木犀の気配] 澄玲(sumire)
「きみ」に去られた「ぼく」のとある朝。千ピースのパズルともなれば所要時間は莫大なもの。ずっと一緒にいたかったぼくの気持ちや、完成するまでピースを嵌めてはいけなかった二人の関係性など、いろいろな示唆を読み取ることのできるアイテムだと思いました。目の痒む彼が必要以上に目を擦るのは、金木犀アレルギーのせいだけではないのでしょうね。
[アレルギー] 澄玲(sumire)
そうか、こう来るのか、という心地。[金木犀の気配]の「きみ」ですね。この季節よく目を擦ってしまう「あなた」を思いやるような言い方に、彼女の気持ちが見えてくる。置いて行かれる彼をいたわることでいなくなる自分の心を軽くしたいようにも思えますが、「あなた」に「ちがうもの」を見ていってほしいという思いもまた本当なんだろうなぁ、と。「居えない、感えない、触えない」に「みえない」と同一の読みをさせる言葉遣いの自由さ、見習いたい。
[口笛] 小岩井豊
姿なき口笛の主は。衝動的に人を殺したところを目撃され、万策尽きた主人公の耳に鳴り響く、懐かしい口笛の音。どうしようもなくなってしまった「僕」が対峙する過去からの音。こんな「もうおしまいだ」「人生詰んだ」というような状況で何が起きるかは想像するしかありませんが、どうしてでしょうこの「口笛」には、「あー、聴こえるかもしれないな」と思わせてくれる説得力があります。それは今思い出してもどうしようもないことで、しかし今思い出さなくてはいけなかったことで。終末を前に訪れる刹那の邂逅、内省。逃れようのない現実=サイレンの音が脳裏の口笛をかき消すラストまで、全体にとても淡々と荒涼としていて、主人公を通して「ある世界の終わり」をこの屋上に見たような心地がしました。
【肌につく 湿る温度と 耳につく 恋人達を 通過する夏】
タイトルからして短歌。クール。B'zの曲「愛のままにわがままに僕は君だけを傷つけない」よりも長い。凄い。「恋人”非”募集中」をテーマにした小説二編、短歌群一編という構成。”非”募集中ですよ、”非”募集中!
[夢の静寂] 鱒子哉
「ある願望」を秘めたチョーかわいい(新宿のチャラ男評)お姉さんの生活と目的。序盤の展開で「ああ、他に片恋中の異性がいるからこの人は恋人”非”募集中なんだな」と予想させられてしまいますがさにあらず、徐々に明かされる彼女の信仰にも似た野望にぎょっとさせられます。「ええっ、そっち!?」ってなるし、なった(語彙力)と同時に彼女が理想とする彼との関係にはなんというか、そういうものに縋らなければ満たされない現代人的な孤独や臆病さも見えるような気がします。理解されえない内実を抱え、それでも自分は救われ選ばれていると胸を張り生きるしかないその有様。「恋人”非”募集中」というこの一筋縄ではいかないテーマを象徴するような一作です。んん、しかしこの健くん、ちょっと羨ましいような、可哀想なような……
[哀れ蚊] 澄玲(sumire) [短歌解説]Emma
連作短歌によって描き出される「忘られぬ夏」を抱えて生きる女性の姿。31字の文学が折り重なり、響き合い、点描のようにして浮かび上がるエモーション。随所に挟まれる独白のような「非短歌」もなかなかいい味で、57577に慣れてきた脳にスパイスを効かせてくれる。「この十年の間になにかとりたてて良いことがあったかと訊かれればなにもとりたてて悪いことがなかったことだと答えるほかない」などはかなり強力。連作短歌で物語を描く、という手法は「読者に余白を想像させる」手順が追体験を促すので、抒情的部分とは相性バッチリな印象。反面、叙事的な部分、物語自体の本筋を追うには向いていないという弱点もあるため、「哀れ蚊」というタイトルも含めたすべてを理解して感動するには巻末の筆者コメント、およびEmma女史による解説を読んだ後でもう一度読み返す必要もあるのかな、と。吸う生き物なんですよね、蚊。とはいえ「事件」まで知って読み返す二周目はまた違った味の感動があり美味だったので、結果的には一粒で二度三度美味しいとてもよくできた作品群でした。ごちそうさまでした。
[金の馬車] 小岩井豊
5回に1度遮断桿の下りない踏切と、そこを通りかかる二人の女と。これは強烈でした。ラスト数ページを読んだとき「マジか」って声が出ました。急いで読み返せば「こびりついた染み」などの僅かな要素も後半に効いていてニヤニヤ。ただ、オチが真相だったとすると、前半の語り手がとぼけすぎていて二重人格か記憶喪失みたいになってしまうなぁとか、文章の語り口があまりにも堅実によく出来ているので「就活大変なほどの低ランク大学に通うことを内心恥じている女学生」の語りにしては違和感あるかもなぁ、とか(読み始めは一人称こそ「わたし」ですが、三十代の男性の話かと思って読んでいました)グレートな一作だけに気になる点もちらほら。とはいえ「恋人”非”募集中」のテーマを負うのが誰なのか明らかになるバーでのシーンとか、嬉々としてハンドバッグから眼鏡を取り出して掛け始めるあの人とか、グッと来た点はそれ以上にたくさんあって、とても良いものを読ませて頂いたなぁという気持ち。ありがとうございます!
ほい、というわけで今回は文学フリマ東京の戦利品「軒下のメモ帳」さんの作品集二編について書かせていただきました。
写真、小説、詩、短歌! 盛りだくさんで、楽しかったです!!
俺もまた、何か書こう。
↑あ、超余談ではありますが、今回の文学フリマ東京で我々26時が出品したアイテムはこちらから通販承っております(マ)よろしくお願い申し上げます。
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