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東京ケアウィーク'24で見た介護・福祉分野におけるデジタル活用【ロボット編】

介護・福祉分野でもデジタル活用が進みつつある。3月12~14日に東京ビッグサイトで開催された介護業界のイベント「東京ケアウィーク'24」では、デジタル技術を活用した製品やサービスが多数展示された。その中から、今回はロボット関連を中心に、ソーシャルグッドなテクノロジー活用の視点で目を引いた展示を紹介する。

日本最大級の介護業界イベント

「東京ケアウィーク'24」は、「第10回 CareTEX東京'24」や「第7回 Careテクノロジー東京'24」など複数の展示会イベントの総称で、介護業界イベントとしては日本最大級の規模を誇る。

東京ビッグサイトで開催された東京ケアウィーク'24

HANAMOFLOR:ソニーの子ども型見守り介護ロボット

ソニーグループの「HANAMOFLOR(ハナモフロル)」は、子どもの姿をしたロボットだ。老人ホームなどの介護施設において、移動しながらコミュニケーションをとり、見守りをはじめさまざまな対応を行う。

ソニーグループの子ども型見守り介護ロボット「HANAMOFLOR」
幼児くらいのサイズ感

ソニーのロボットと言えば、犬型ペットロボットの「aibo(アイボ)」が有名だが、それらの研究開発で得られた知見や技術が応用されているという。

HANAMOFLORは、リビング内を自律移動でき、会話をしたり、歌を歌ったり、検温したりできる。子どもの姿を模することで親しみやすさが生まれ、高齢者が抵抗感なく接することができる。特に認知症患者に対しては、「ユマニチュード」のアプローチを踏まえた行動・動作をするようにプログラムされているという。ユマニチュードとは、高齢者や認知症患者に対して有用とされる介護手法で、会話の際の姿勢や目のあわせ方、動きなどが具体的に体系化されている。

顔はマンガやアニメのキャラクターのような親しみやすさのあるデザイン

HANAMOFLORは、コミュニケーションの他にも、各種センサーを使って健康情報を取得できる。例えば、額などに内蔵されているカメラで捉えた相手の表情を識別する認識技術は、カメラやロボットで培ってきたものだ。また、手の先にあるセンサーによって、握手などをした際に血中酸素濃度を計測できるなど、自然なふれあいの中で、健康状態を確認するための工夫が盛り込まれている。

手にはセンサーが搭載されており、手を握ったときに計測できる

現在はまだ実証実験などを行っている段階で、安全面や導入効果を検証しながら製品化を進めていくという。

Romi:MIXIのAIおしゃべりロボット

2024年3月3日に20周年を迎えたSNSサービス「mixi」を運営するMIXIだが、2020年からロボット事業をスタートしている。

「Romi(ロミー)」は自立型会話ロボットで、同社が独自に開発した会話AIを搭載している。近年、自然な会話が行える技術としてChatGPTなどの生成AIが話題をさらっているが、それに先行する形で取り組んできた。

MIXIの自立型会話ロボット「Romi」

Romiは、ソフトボール大サイズで移動はしないが、カメラで利用者の顔や音声を認識しておしゃべりできる。スマートスピーカーにも似ているが、小さなディスプレーが搭載されており、目と口が表示されて表情がクルクルと変わる。ちょっと高めで早口気味の声と相まって、非常に愛嬌が感じられる。実際、AIによって感情の変化を考慮した、温かみのあるコミュニケーションが意識されているという。

ディスプレーに表示された顔は表情がクルクル変わる

会場では複数のRomiが並べられており、筆者が話しかけると、その声を聴いてRomi同士の会話が始まった。その様子を見ているだけでも楽しく、癒やし効果は高いと感じた。

「撮影してもかまわないか?」と担当者にたずねたところ、その声を聞き取って「撮影するってよ?」「え、ほんとに?」「撮って撮ってー!」と、Romi同士で会話が盛り上がり、ほっこりした

AIによるとりとめのない会話だけでなく、服薬などのリマインダー機能も備えており、家族が利用状況を把握できる。そのような機能とペット的な癒やし効果から、介護や見守り用途も想定されている。

CoRoMoCo:TPRの高齢者向けサポートロボット

TPRの「CoRoMoCo(コロモコ)」は、毛むくじゃらのぬいぐるみ姿が特徴の高齢者向けコミュニケーションサポートロボットだ。身体の各所にセンサーが搭載されており、抱きかかえて、なでたり話しかけたりすると、それに反応して揺れたり声を発したりする。

開発元のTPRは、自動車のエンジン部品や住宅設備関連の製品を製造する老舗企業で、介護ロボットは新規参入となる。

TPRの高齢者向けコミュニケーションサポートロボット「CoRoMoCo」。通称「コロちゃん」

利用者がCoRoMoCoを抱きかかえた際に、目のカメラで相手の笑顔度を、左脇のセンサーで心拍数を測定する。また、口の中にも心拍測定センサーがあり、指を入れると優しく甘がみしながら測定してくれる。利用者に意識させずに計測できるように、介護ロボットならではの創意工夫が凝らされている。

筆者の指をかませているところ。痛いほどではないが、かむ力は意外と強い

思わず抱きかかえたくなるモフモフとした身体、子犬や子猫のようなサイズ、1kgという重さは、愛着を抱きやすい。また、無表情な顔も、ソニーのHANAMOFLORやMIXIのRomiとは違った魅力になっている。

毛むくじゃらの獣に見えるが、眺めているとだんだんかわいらしく思えてくる?

Pepper:ソフトバンクロボティクスの介護支援ロボット

おそらく日本一の知名度を誇るであろうソフトバンクロボティクスの「Pepper(ペッパーくん)」も、介護分野に進出している。集客・接客ロボットとして、イベント会場や店頭などでPepperを目にした方も多いだろう。

おなじみソフトバンクロボティクスのPepperくん

Pepperに関しては、2020年に生産停止の報道がなされ、「ビジネスも終了」との見方も一部で広がったが、それはまったくの誤解だ。リース期間の終了にともなって出会う機会が減ったかもしれないが、現在もPepper事業は継続中で、介護福祉の分野にも活躍の場を広げている。

Pepper for Careにはカラオケ機能があり、曲を流しながらPepperがダンスを披露する
YOASOBIの「アイドル」をリクエストしたところ、腕を激しく振って踊ってくれた

ロボットであるPepperはコンピューターであり、家庭向けの「Pepper for Home」、ビジネス向けの「Pepper for Biz」、教育機関向けの「Pepper for Education」など、用途に合わせたOSが搭載されている。

今回紹介するPepperには、「Pepper for Care」という介護向けのOSやソフトウエアが搭載され、介護施設で求められる機能を備えている。

例えば、ChatGPTと連携した自然な会話機能、顔認証で個人を特定して行うレクリエーションやリハビリテーション機能、カラオケやダンス機能などだ。ソフトウエア次第で、異なる役割を担えるようになるのは、IT技術やロボットならではの強みであり、それを生かしたPepperの新たな活躍に期待したい。

PUDU CC1:Pudu Roboticsのお掃除ロボット

ファミレスなどでの導入が広がりつつある「ネコ型配膳ロボット」。その開発元Pudu Roboticsが、介護施設向けに提供する清掃ロボットが「PUDU CC1」だ。同社は2016年に中国の深圳で創業された若い企業だが、サービスロボットの分野で多くの実績と特許を持ち注目されている。

Pudu Roboticsのお掃除ロボット「PUDU CC1」

PUDU CC1は、介護施設に限らずオフィスや学校、飲食店など、幅広い分野での利用が想定されている。基本的には、介護現場の課題である人手不足解消を目的に、人の往来がある狭い場所で、慎重な動作が求められるシーンで活躍する。

いわゆる業務用の「ルンバ」とも言えるが、業務用ならではの堅牢さや高い性能を備える。「4 in 1多用途清掃」をうたっており、「掃き掃除」「床洗浄」「吸引」「から拭き」をカバーできる。

今回のイベントでは、清掃ロボットのPUDU CC1がアピールされていたが、配膳ロボットも食事や薬を配るために利用できる。これまで紹介してきた介護ロボットとは異なり、コミュニケーション機能は乏しいが、その分実務に特化した製品と言えるだろう。

会場にはファミレスでおなじみのネコ型配膳ロボット「BellaBot」もいた

星輝しおり:YORICOMのバーチャル介護福祉士見習い

YORICOMの「寄り添いコミュニケーション 星輝(ほしき)しおり」(以下、星輝しおり)は、タブレット端末型のデジタル・コミュニケーション・サービスだ。星輝しおりという、介護福祉士を目指す(という設定の)3Dバーチャル・アシスタント・キャラクターが、高齢者に寄り添い、会話の相手になったり、コンテンツ提供をしたりする。物理的なロボットではないが、サービスとしてはロボットの延長線上に位置づけられると考えて取り上げた。

YORICOMのバーチャル介護福祉士見習い「星輝しおり」

高齢者ケアとして会話の相手をするソリューションは、これまで紹介してきたロボット型をはじめ数多く存在する。スマートスピーカーの類も、実用性に特化した会話ソリューションの一つと考えることもできるだろう。ただし、具体的な目的がない、とりとめのない会話には向いておらず、そこが課題と言える。

星輝しおりの場合は、介護福祉士見習いという設定により、利用者との関係性が明確になる。あれこれ世話を焼くのは必然として、会話の話題を用意したり、クイズや体操といったコンテンツを用意したりする。また、家族に代わって、服薬や戸締まりなどの声掛けをする。

起床時間や服薬などのスケジュールを設定できる

このような仕掛けによって、毎日タブレット端末に向かうきっかけを作り、結果として高齢者のデジタルデバイド解消と自立した日常生活支援を実現している。また、服薬などのアクションレポートを家族が確認できるようにもなっており、遠方からの見守りとしても利用できる。

星輝しおりの開発は、バーチャルキャラクター召喚装置「Gatebox」を手掛けるGateboxや介護職の専門家らと共同で行い、現在はChatGPTを使った、より会話の自由度を高めたバージョンに取り組んでいるという。

ChatGPTとの連携で自然な会話力を高めた開発中のバージョン

YORICOMは、もともと自動車関連部品を製造する日本特殊陶業の社内新規プロジェクトとして若手社員を中心に立ち上がり、その後会社化したという。従来の製品や技術を生かした部分は特になく、まったく新しい事業領域へのチャレンジになるとのことで、その点でも注目したい。

ロボットならではの良さに注目

以上、さまざまな介護・福祉現場向けのロボットを見てきた。施設運営者側にとっての導入目的としては、もちろん人手不足の解消がある。一方、利用者にも、人の手によるケアとはまた違った利点――例えば人間相手だと感じてしまう遠慮や恥ずかしさをロボットには感じないなど――があるのではないだろうか。

ロボットや機械化に対して、非人間的で冷たい印象を抱く人も少なくないが、必ずしも人間の代わりというだけでなく、ロボットならではの利点にも目を向けていけると、より良い活用ができるだろう。

文・写真:仲里 淳
インプレス・サステナブルラボ 研究員。フリーランスのライター/編集者として『インターネット白書』『SDGs白書』にも参加。

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