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ブリタニカが百科事典のリソースを活用した教育ツール「トルクレオ」を発表――「NEW EDUCATION EXPO 2024」で、実証授業校の教諭が活用例と学習効果を紹介

2024年6月6~8日、東京にて、内田洋行主催の「NEW EDUCATION EXPO 2024」が開催された。同EXPOは、各種セミナーと企業·団体などの出展で構成される教育関係者向けの大規模なイベントで、今年で29回目となる。本稿では、展示エリアで披露されたブリタニカ·ジャパンの新しい学習教育ツール「トルクレオ」を取り上げる。

テック業界さながらの盛り上がり、教育技術の最前線を展示

GIGAスクール構想の第2期「ネクストGIGA」が進行する中、今年の「NEW EDUCATION EXPO」は、まるでテックイベントのような様相を呈していた。教育現場におけるDX化や最新のデジタル活用などをテーマにした120のセミナーが準備され、全国に設置されたサテライト会場も含めた来場者数は1万人以上と、教育者たちの関心の高さがうかがえた。

東京と別日に大阪でも開催。札幌、仙台、名古屋、広島、福岡ではサテライト会場が設けられた。
1人1台端末の更新、デジタル教科書の本格導入、クラウド利用の校務DX化など「ネクストGIGA」へ向けての最新デバイスやソリューションが並ぶ

教育関連のサービスや商品が紹介される展示ブースには、120社が出展した。インテルやマイクロソフト、富士通、日本HP、レノボなど、教育現場におけるICT化に早くから取り組んできたグローバルIT企業も参加。さらに、日本文教出版や東京書籍、大日本印刷といった紙媒体の老舗企業も出展し、各種ハードウエアから教育ソフトウエア、デジタル教材、教員向けソリューションまで多岐にわたる製品が展示されていた。

ブリタニカが最新教育ツール「トルクレオ」をお披露目

展示会場の一角、「未来の教室」をテーマに設置されていたのは「フューチャークラスルームライブ」と称されるエリアだ。ここでは、オンライン授業と対面授業を自由に選択できるハイフレックス授業や遠隔授業、1人1台のタブレット端末などを活用した授業が体験できる場となっており、来場した教員たちが参加できる体験授業型のセッションも行われていた。

来場した教員たちも参加して最新の教育ツールを使った授業を体験

ブリタニカ·ジャパンは、今夏発売予定の学習教育ツール「トルクレオ」のお披露目の場として「カメラ de ドリル ~データベース×AI=創造~」と題したセッションを実施した。本セッションでは、発売に先立ち実証授業を行った、さとえ学園小学校の山中昭岳先生がその活用例と学習効果について講演し、会場と小学校をリモートでつないで実践授業の様子をライブ中継した。

百科事典×AI――デジタル時代の新教育ツール

「ブリタニカ」と聞くと、ある世代以上の人たちは、すぐに重厚な茶色の表紙が思い浮かぶのではないだろうか。英語版の『ブリタニカ百科事典』は最古の英語の総合百科事典であり、1768年にスコットランドのエディンバラで初版が刊行されたという歴史がある※。250年以上の歴史を経て、現在はデジタル百科事典や百科事典データベースへと進化し、学校や図書館、塾、予備校など、幅広い教育機関で活用されている。※britannica.com

トルクレオは、この百科事典のリソースを活用して画像検索ができる小学生向けの学習教育ツールである。「画像で検索」機能は、タブレット端末などで撮影した画像を解析し関連キーワードを表示するもので、利用者はそれを基にオンライン百科事典にアクセスできる。

写真撮影の「撮る」とラテン語の「creatio(創造する・作る)」から付けられた「トルクレオ」。発売は今夏予定となっている。

関連キーワードに基づいてAIが問題を生成する「ドリル学習」機能もある。好きな教科を選び、ドリル学習を行った後に解説を見て、抽出されたキーワードを基に百科事典でさらに学びを深めることができるように設計されている。

教科別に選択できる「ドリル学習」機能
「ドリル学習」機能ではAIが問題を生成

教育現場でのトルクレオの可能性とアイデア

フューチャークラスルームライブで行われたセッションの内容を、写真を交えて紹介しておこう。

事前に行われた実証授業は、児童2人が1組となって校舎内の好きな場所で写真を撮り、その写真を基に関連項目を検索し、内容をまとめて発表するというもの。これは小学2年生の生活科の授業の一環として実施された。

実証授業の様子 (出所:ブリタニカ・ジャパン)
実証授業の様子 (出所:ブリタニカ・ジャパン)

授業では、写真に対してトルクレオが表示した関連キーワードには、児童たちが想像していなかったものや、「なぜこれが出てきたのだろう?」と考えさせるものも含まれていたという。山中先生は「この曖昧さがトルクレオの特徴だと思った。今の時代、インターネットでさっと調べて正しい答えが出てくるのが当たり前になっている。だが『これは何だ?』というところから対話が始まり、自ら調べようとすることで深い学びへとつながっていく。それができるツールだ」と述べた。

実証授業を行った、さとえ学園小学校の教諭・山中昭岳先生がその活用例と学習効果について講演

また、当日は小学5年生を対象にした社会科の授業の様子も中継された。「埼玉県を北関東と南関東に分ける」という課題の授業で、埼玉県の地図を撮影し、ドリル学習機能を使ってAIからの問題に回答するというものであった。児童たちからは「近未来的!」「勉強になった」「勉強なのにクイズ形式でやる気が出た」などの感想が上がった。

この日、トルクレオの使用について何も説明されていなかったという児童たちだが、トルクレオが搭載されたタブレット端末を渡されると、特に難しそうな様子も見せずにタブレット端末を操作して撮影し、クイズに取り組んでいた。直感的に操作でき、反応も早そうだ。

小学校と中継をつなぎながら、会場の教育関係者たちも体験授業に参加
会場の参加者たちが「トルクレオ」を使う様子

授業案の可能性が広がる

主に教員から成る参加者たちも、児童たちと一緒に授業を体験し、その後、トルクレオを活用した授業案を出し合った。「図工の授業で、制作途中で撮影しアイデアを広げたり、制作の進む方向性を変えたりして楽しめそうだ」「社会の歴史などでメモリーツリー作成に使えるのでは?キーワードをさらに探求し深めていけそう」などのアイデアが出た。

教育現場のICT化やデジタル教材の導入では、児童·生徒の問題解決能力の向上や教育の質の向上などが、メリットとして語られている。今回のトルクレオも、その活用方法次第で児童たちの学びをより創造的で主体的なものへと導く可能性を秘めていると言えそうだ。

文・写真:遠竹智寿子
フリーランスライター/インプレス・サステナブルラボ 研究員

編集:タテグミ

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