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日本のスタートアップ「スペースデータ」、国連宇宙部と連携し地球デジタルツインで災害管理支援を開始

本稿では、スペースデータが国際連合宇宙部(UNOOSA)と共同で開始した、地球デジタルツイン構築事業について取り上げる。この取り組みは、災害管理と緊急対応、開発途上国の持続可能な開発を目的とし、高精度デジタルツイン技術を実装することで各種自然災害への対策強化を図るものだ。すでに、国連防災緊急対応衛星情報プラットフォームと連携し、トンガ王国を含む開発途上国都市のデジタルツイン生成に着手している。

デジタル×宇宙技術のAI開発で「宇宙の民主化」を目指すスタートアップ

スペースデータは「宇宙の民主化」を企業ミッションに掲げ、誰もが宇宙開発に参入でき、宇宙を利用できる環境の実現を目指すスタートアップ企業である。同社の取り組みの中核となるのは、人工衛星や宇宙ステーション、月面探査といった宇宙技術と、AI、3DCG、デジタルツインといったデジタル技術の研究だ。さらに、このデジタル技術と宇宙技術を融合し、バーチャル空間に現実そっくりの仮想世界(デジタルツイン)を自動生成するAI技術も開発している。

デジタルツインによる洪水災害時の影響シミュレーション 3.2m浸水時の市街地
デジタルツインによる洪水災害時の影響シミュレーション 4m浸水時の市街地

国連宇宙部は、宇宙を活用した持続可能な開発を加速し、各国の能力開発を支援する国連の専門機関である。また、宇宙空間の平和利用に関する国際協力を推進し、102か国および各国宇宙機関と連携して、開発途上国への支援も行っている。

災害管理サイクル全体で、各種宇宙情報の利活用を支援

今回の取り組みは、国連宇宙部が運用し、開発途上国を中心に数千の都市を支援する「災害管理サイクル」に、スペースデータの高精度デジタルツイン技術を実装し、さまざまな自然災害への対策強化を図るものだ。

初回の取り組みとなるのは、国連宇宙部が管理する「国連防災緊急対応衛星情報プラットフォーム(UN‒SPIDER)」との連携だ。UN-SPIDERは、国連総会による設置機関で、すべての国や地域が、防災サイクルを支援する宇宙ベースの情報やサービスを受けられるようにすることを目的としている。開発途上国に対しては、災害対策や早期警報、即時対応、復興など、災害管理サイクル全体を通じて各種宇宙情報の活用を支援している。

スペースデータは、今年9月に、UN-SPIDERをはじめとする国連機関や各国宇宙機関と、複数の開発途上国都市の高精度デジタルツインを生成する共同事業に着手したと発表した。対象都市には、2022年に海底火山噴火と津波災害が発生したトンガ王国が含まれている。

9月に米国ニューヨークの国連本部で開催された未来サミットにて、スペースデータの取り組みとともにトンガ王国のデジタルツインが紹介された。

今後の展開:宇宙技術で地球規模の課題に挑む

今後、スペースデータは、国連宇宙部の2つの取り組みとの連携・協力を予定している。

国連が推進するイニシアチブ「すべての人に早期警報システムを(Early Warnings for All:EW4All)」は、2022年のCOP27で提唱された。この取り組みは、世界気象機関(WMO)と国連防災機関(UNDRR)が共同で主導し、2023年から2027年の5年間で31億ドルを投じて、全世界、特に45か国の後発開発途上国(LDC)を対象に、早期警戒システムの構築を目指す。災害リスクの管理、観測・予測能力の向上、警報システムの改善、そして災害対応能力の強化を柱としている。

また、国連宇宙部が提唱するイニシアチブ「すべての人に宇宙へのアクセスを(Access to Space for All)」は、国連の関連機関や宇宙産業の既存プレーヤーと協力して、世界中の人々が宇宙産業にアクセスし、宇宙技術の恩恵を受けられるように支援することを目指している。超重力・微小重力の実験、宇宙探査、衛星開発などの分野で国際的な連携を推進しており、その一環として2015年から宇宙航空研究開発機構(JAXA)と協力し、国際宇宙ステーション「きぼう」日本実験棟からの超小型衛星放出に関するフェローシッププログラムを実施している。

イニシアチブに関しての具体的な協力内容はまだ発表されていないが、スペースデータの高精度デジタルツイン技術が、これらのイニシアチブの目標達成へ貢献することが期待される。

今回のスペースデータと国連宇宙部の連携によって、災害リスクの可視化やシミュレーションが可能となり、これによってどのような効果的な対策が策定されるかが注目される。また、今後の各イニシアチブとの連携や協業を進める中で、スタートアップ企業ならではのスピードや柔軟性を生かした動きにも期待が高まる。

文:遠竹智寿子
フリーランスライター/インプレス・サステナブルラボ 研究員

画像:スペースデータのプレスリリース(2024年9月24日付)

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