The Wrong war
プーチンの戦争、ウクライナ侵攻が根拠なき楽観、間違った前提(相手の過小評価、自軍の過大評価)、様々な要因があって政治的な勝利を掴めないであろうこと、ウクライナの全土占領はおろか半分も支配下に置けないであろうことを、欧米の軍事専門家が指摘している。
プーチンの下でロシアはチェチェン紛争、南オセチア・アブハジアでの対ジョージア戦争、2014年のクリミア併合と東部における介入、シリアのアサド政権を支援しての軍事作戦と「実績」を積んできた。しかし、今回のような全面戦争(full-scale war)、国家間戦争(interstate war)に関しては、実は経験ないよねってお話。
今日はロンドン大学キングスカレッジ戦争学部の上級講師で、ポスト・ソ連の安全保障を専門とするDr.Ruth DeyermondのTwitterスレッドの内容が明快に整理されていたのでご紹介。
ポスト・ソ連の時期におけるロシアの紛争関与は3つの基本形がある。3つともロシアが明らかに軍事的あるいは法的な優位があった。
① ポスト・ソ連の国々の分離独立運動における「平和維持」。モルドヴァの沿ドニエストルやジョージアのアブハジア地域において分離独立派に加担、これらの国々が西側機構(NATO)に参加することを妨げるため。ドンバス地方もこの一例。作戦コストは低く、分離独立派の支持を得られた。
② 理論上の分離独立地域を支援する短期の戦争。2008年のジョージア戦争、2014年のクリミア併合が当てはまる。ロシア軍は「平和維持部隊」として、ロシアが作り出したロシア国民に対する「保護する責任」を軍事行動の根拠、正当化にして敵対側を排除して地域を確保した。
③ 国内紛争における片方の陣営についての参戦。シリアがこの分類にあてはまる、チェチェンでの2つの紛争も一緒。ロシアの紛争関与は戦場での行動の違法性がどうであれ、合法であった、なぜなら当事国の要望に基づいたものか、ロシア自身が当事者だったから。
つまり、いずれも今回のような大規模の侵攻とはタイプを異にする。Dr. Deyermondは、プーチンの言葉から②のような介入作戦を想定していたのではないかと考えており、従って長い紛争をロシア軍も政府も予想していなかったとみている。今回の戦争はポスト・ソ連のロシアにとって初めて経験する戦争の形態ということになる。
以上。ロシアの侵攻にもまして、この戦争におけるロシア軍の苦戦は各国の軍事専門家、戦略研究者にとって意外なものだった。間違った戦争に間違った戦略で臨めば、ロシアほどの大国でも泥濘に足を取られることは、大きな教訓を与えてくれる。