自民党総裁選候補者の外交安全保障政策を読む(前編)

トップ選びはマジで大事である2024

かつて、「首相(総理)なんて誰がやっても一緒でしょう」というような声が出たこともあったけれど、それが真ではなく、トップ選びを誤れば国家そのものが道を誤るということを、ロシアのウクライナ侵攻や、イスラエルのガザ地上作戦など、現代の色々な事例が教えてくれる。


絶賛大統領選挙中の合衆国を見ても、トランプがなるか、ハリスがなるかで向こう4年やそれ以降の景色がまったく違うものになる。日本にとっても他人事ではなくて、仮にトランプが返り咲いた場合は同盟国にもっと軍事費・国防費を負担せよと求めてくるのは必至で、トランプ政権で国家防衛戦略(NDS)を策定したエルブリッジ・コルビーなどは、治安の悪いSNSで「中国の脅威に直面しているのだから日本はもっと防衛費を支出せよ」と対GDP比3%まで引き上げる必要があると度々投稿している。ほんと、それができたら苦労はしないと思うのだが。

自民党総裁選と立民代表選、そして総選挙へ?

英国総選挙で保守党が下野してスナクが去り、米大統領選挙でバイデンが降板し、来年のG7はメンバー大幅交代だなとつぶやいていたら岸田文雄の総裁選不出馬。そして同時期に最大野党、野党第一党、立憲民主党も代表選へ。与野党の首相候補が出揃ったら年内にも解散総選挙ありうべしな政治情勢と、国際情勢においてロシア・ウクライナ、中東、台湾海峡に南シナ海と不安定で不確実性が高まっているところで非常に重い決断を突き付けられようとしている。

いわゆるDavidson’s Window、フィリップ・デイビッドソン前米インド太平洋軍司令官が、中国が台湾に侵攻するかもしれないと述べた2027年を、我が国は誰を首相として迎えるのか。2027年に必ず中国が侵攻するというわけではないが、先般の我が国の領空を人民解放軍空軍機が侵犯し、海軍も領海に侵入し、本9月18日には空母「遼寧」が接続水域に一時侵入するなど、着実に中国の軍事的圧力は高まっている。

このような外部環境、インド太平洋そして世界の安全保障秩序が揺らいでいる今、リーダー選びを失敗する贅沢はできないものと考えている。

そんなわけで、今日は自民党総裁候補の外交安全保障に関する政見・政策を、各候補の総裁選特設サイトから抜粋、整理してみた。候補によって政策の打ち出し方、また表現・見せ方は濃淡があるのをDIME(Diplomacy, Intelligence, Military and Economics)の4つの観点で可視化し、横並びで比較するものである。

候補者9人の安保政策整理

各候補の経歴(NSC9大臣・党3役経験等)

先ず、各候補のキャリア、閣僚歴・党3役歴について。外務、大蔵(財務)、通産(経済産業)のうち2つ、党3役(幹事長、政調会長、総務会長)のうち2つを経験していることが総理の条件であると述べたのは田中角栄だそうだが、外交安全保障の観点からは国家安全保障会議(NSC)の4大臣会合及び9大臣会合に出席する官房長官、財務大臣、国土交通大臣、国家公安委員長を加えて経験を見ることにした。直接は関係ないが、一般的なCVに記載されるであろう(政界入り前の)職歴、学歴についても、ついでに拾った情報を入れたのが下表である。

総裁候補者たちのCV
  • 外務大臣経験者が上川(現職)、河野、林、茂木

  • 防衛大臣経験者が石破、河野、林

  • 官房長官経験者が加藤、林

NSC4大臣の総理以外を唯一コンプリートしているのが林、時点で外務・防衛(9大臣に拡大すれば国家公安委員長も)経験が河野と、この2人が他候補よりもポスト経験の点でリードしている。9大臣に拡げると、茂木が経済産業大臣、高市が総務大臣を経験している。

小泉、小林の両名はこの点で経験不足が視える化される。

党3役に目を向けると、

  • 石破、茂木が幹事長と政調会長の2ポスト経験者

  • 高市が政調会長、加藤が総会長をそれぞれ経験

やはりここでも40代の小泉、小林はキャリア面で不足感がある。NSC大臣ポストでは3つ経験している林、河野、そして上川が党の主要ポスト未経験である。

各候補の政策(総裁選特設サイトから)

候補者のキャリアを簡単に確認したところで、本題の候補者の外交安保政策比較に入る。討論会、演説会、メディアの発言を網羅したいところだが、出発点として、各候補が今次総裁選において立ち上げた特設サイトに掲載された政策・公約から抜粋することとした。質問への応答や討論での発言は政策理解や脅威認識、危機管理のセンスなどを見る上で判断材料になると思われるが、それぞれが政策として打ち出したものがベースラインとして適切と思われる。(正直全部フォローする時間がない)

見辛くて恐縮だが、表に上からD:外交、I:情報、M:(軍事→)防衛、E:経済(安全保障)について、石破~茂木の50音順で記載した。この全体感でどの候補がどの領域に力を入れているか、はたまた言及がなくブランクになっているかがぱっと見で判別できると思う。

DIME観点での政策比較(各候補総裁選特設サイトより)

全4観点について網羅的に、また記述も細かく書かれているのが小林、高市となる。この両名は経済安全保障担当大臣(前、現)ということもあり、Eの部分が他候補よりも充実している上、Iについても押さえている。

安全保障政策通として名前が挙がる石破は、Mの防衛、Dの外交は外交安全保障政策としてまとめているが、I、Eについては全く触れていない。外務・防衛双方を経験している河野、林は文字数はそこまで多く割いていないものの、D、MそしてEも簡潔にではあるが政策で取り上げている。

他の加藤、上川、小泉、茂木は全般的に外交安全保障政策についてはウェイトが低いのか、記載量は少ない。現職外相の上川、元外相の茂木は外交面は驚くほどあっさりとしており、茂木にいたっては防衛面については皆無であった。

もちろん分量が多ければいい、というものではない。林、河野はコンパクトに要点を押さえたという印象である。

各候補のサイトで政策を読んで、当然に触れられているのは日米関係・同盟で、多くの候補は自由で開かれたインド太平洋(FOIP)の構想にも言及があった。ちなみに日米同盟、FOIP双方の文言が政策に含まれていなかったのは河野のみである。

ここまでは4つの観点での量とカバー範囲で見てきた。次回はDIMEそれぞれの政策の記載、質的な面について分け入っていこうと思う。

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