AI絵師は何を奪い、何を生み出したのか?
人間の創作の素晴らしさ
最近、原田マハさんの本『たゆたえども沈まず』や『板上に咲く』を読みました。その中で描かれるゴッホや棟方志功が作品に注ぎ込んだ情熱に深く心を打たれました。一枚の絵に込められた想いが、時間や場所を超えて人々の心に響く。それが人間の創作の素晴らしさだと改めて感じたのです。
一方で、現代の絵画の世界には「AI絵師」という新しい存在が登場しています。AIが描く絵の美しさや完成度に驚きながらも、人間が描く絵との違いについて考えずにはいられません。
AIが「人間の表現」をどう変えるか
私の祖父は絵描きで、仕事場で黙々と作品を描いていました。母は書家として多くの書を手掛けており、筆の動きに気迫や繊細さが表れるその作品にはいつも心を動かされました。そんな家族の背中を見て育った私にとって、絵を描く人や書に込められた情熱は尊いものです。だからこそ、AIが生み出す絵の素晴らしさを認めつつも、それが「人間の表現」をどう変えるのか、考えずにはいられないのです。
AIが奪ったもの
AIが登場したことで、時間を掛けて絵を描く人が感じる喪失感は少なくありません。特に商業イラストやデザインの分野では、AIのスピードとコストの安さが人間の仕事を奪いかねない現実があります。また、AIが膨大なデータを学習して生成するため、元となる人間の作品が無断で利用されているのではないか、という議論も続いています。
さらに、人間が長い時間をかけて習得してきた技術や感性が、AIによって容易に再現されることで、「努力の価値」が軽視されるのではないかという懸念もあります。この「奪われた感覚」が、多くの絵描きに嫌悪感を抱かせる要因になっているのでしょう。
AIが生み出したもの
一方で、AIは新しい価値を生み出していることも事実です。多くのクリエイターがAIを「便利な新しい道具」として活用し、独自の表現を模索しています。たとえば、AIを使ってラフ案を大量に生成し、それを基に人間が完成させる手法や、色彩や構図のアイデアをAIに提案させる方法は、すでに現場で広く使われています。
また、AIが生み出す作品は人間にはない発想やデザインを提示してくれるため、絵描きが新たな表現に挑戦するきっかけを提供することもあります。歴史を振り返れば、写真の登場が印象派のような新しい絵画運動を生んだように、AIもまた、これからの時代に新しい創作の形を切り開く力を持っているのです。
人間の絵とAIの絵、どちらが優れているのか?
AIと人間の作品に優劣をつけることはできません。それぞれが異なる価値を持っているからです。AIの作品は驚きや新しさを与えてくれますが、人間の作品にはその背景にある「思い」が宿っています。
祖父の描いた絵や母の書に触れるたびに、私はその一筆一筆に込められた感情や物語を感じます。それはAIには再現できないものであり、人間の表現が持つ特別な力だと思います。
共存の未来へ
AIがもたらした新しい表現の世界は、人間の表現力を脅かすものではなく、むしろ広げる可能性を秘めています。私たちはAIを単なるツールではなく、共創のパートナーとして迎え入れることで、これまで以上に豊かな感動を生み出せるのではないでしょうか。
ゴッホや棟方志功が作品に込めた情熱を感じたとき、私は彼らの生き様そのものが、作品に魂を宿しているのだと気づきました。一方で、AIが描く絵にもまた、見る人を驚かせ、感動させる力があります。
祖父や母が作品に込めた情熱を尊敬しながら、AIによる新しい創作も楽しむ——そんな未来が私の理想です。