短編小説『明日、雪なら一緒にいよう。』
「遥ちゃんバイトお休みでしょ? 明日、雪なら一緒にいよう」
なんてかわいらしく誘われたら、帰りたくなくなる。
課題を終えて帰り支度をしていた私は手を止めた。
無邪気な笑顔でペアのマグカップを片付ける彼女をじっと見つめる。
「ん?」と首を傾げる姿を目にするだけで、胸の音が部屋中に響くくらい大きくなった。
できることなら。
お揃いのスウェットを着て、一緒にこたつに寝転んで、朝までおしゃべりしていたい。気がついたら頬を寄せあって眠ってて、目が覚めたら一番におはようと言いたい。
「雪じゃなくても、いいじゃん。一緒にいよう?」
「え、嬉しい! じゃあさ、今日泊まっていきなよ。実はね、遥ちゃんに相談したいことがあるの」
ねぇ、お願い。
由貴ちゃん、今だけはあなたを独り占めしたいの。
あなたが見つめる世界の中に、私だけを映していたいの。
だから今だけは、あなたが憧れる先輩の話はしないで。
「由貴ちゃんの相談て、いつもの彼、先輩のことでしょう?」
「やだ遥ちゃん、なんでわかるの。もしかしてバレバレ? やだ、恥ずかしい」
そんなの。
いつも見てるからに決まってるでしょ?
私を見てくれたら、あなたでいっぱいなことがわかるのに。
ハルがユキを溶かすように、由貴ちゃんの恋心を溶かしてしまえたらいいのに。
ハルが花を咲かせるように、由貴ちゃんに新たな恋花を咲かせられたらいいのに。
「ねえ、見て! 雪、ほんとに降ってきたよ!」
由貴ちゃんが歓声をあげながら窓の外を指差す。
二人ならんで窓ガラスに額をつける。手のひらも並べてつけると、お互いの小指が触れあった。
雪じゃなくても、一緒にいたいな。
……由貴ちゃんとずっと。