国語辞典とバナナマン
「新明解国語辞典は使わないようにしましょう」中学校の時の国語の授業で先生に言われたことを思い出した。先生から国語辞典の中には主観的な表現がなされており、授業で扱うには向かないものがあることを教えられた。当時の僕は、それに何の疑問も持たずに言われるがまま先生に勧められた明解国語辞典をひきながら授業を受けていた。そんな中学時代の何気ない授業の1コマを思い出す出来事があったのだ。
それは会社に入社してから1年間取り組んでいた再開発コンペの提出を終え、溜まった代休を取得し、いつものように在宅で一級建築士試験の勉強しながら撮り溜めしていたバラエティ番組を眺めていた時だった。社会人になり、建設会社の設計部で怒涛の日々を過ごしていた僕は何気なく自分のルーツを辿ることが多かった。そのひとつがバナナマンだ。高校2年生でAMラジオにはまった僕は当時から今まで、TBSジャンクバナナマンのバナナムーンゴールドを聴き続けているバナナマンファンだ。その日はバナナマンがMCを務める乃木坂工事中のある回、アイドルたちがオススメの本を紹介する企画の回を観ていた。そこで紹介されていたのが新明解国語辞典だった。
新明解国語辞典というワードを聞き、何気なく勉強の手を止めた僕は番組に観入っていた。そこでは、アイドルが国語辞典には個性があるということをプレゼンしていた。
新明解国語辞典で単語の説明がどのようになされているかをプレゼンターが問いかけ、それにスタジオのバナナマンや他のアイドルがリアクションするという形式だ。
そこで問題のひとつとして投げかけられたのが「人生経験」という単語だった。
新明解国語辞典において人生経験とは次のように述べられていた。
「人生において失敗や挫折をしたことがない人は経験しないもの」
それを聞いた僕はハッとした。
中学の時使ってはいけないと言われていた国語辞典にはこんなことが書いてあったのか!しかし、僕が更にハッとしたのはそれを聞いたバナナマン設楽統の反応を見た時だった。
「俺もそう思った!そのワードをひく人は相当行き詰まっている時だもんね」
それを聞いた時、今まで10年間も何故バナナマンのことが好きなのか妙に腑に落ちてしまったのだ。
バナナマンのコントの中には「絵本」というタイトルのコントがある。それは有名絵本作家に扮する日村勇紀が弟子志望の見習いを演じる設楽統に絵本が語りかける教訓を教えようとするが、設楽統がそれをねじ曲がった解釈をするという内容だ。
コント冒頭に島のターくんというタイトルの意味深な絵本が流れ、その後にそのコントが始まるのだが、最後まで最初の絵本の教訓がわからない。
最後の最後、絵本作家見習いの設楽統が「感じたままでいいじゃないか。絵本を読む人はみんな素人なんだから」という言葉を残して日村のもとを去っていく。
その時初めて有名絵本作家の日村は、あの絵本は友達の大切さを教える絵本だったことに気がつくというオチのコントだ。
僕はこのコントを見た時、自分に必要なものの意味はそれが必要になった時に初めてその意味が理解できるようになるんじゃないかと思った。
それは新明解国語辞典での人生経験という単語の説明においても同じなんじゃないか。
人生経験が必要となった人はその時に初めてその意味を知る必要がある。その時のために新明解国語辞典の編者はその答えを用意している。
そして、それを瞬時に汲み取って表現する設楽統。
なんとなく絵本のコントの意味が理解できるようになった気がした。