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上海リルは映画の劇中歌だった

フットライト・パレード

「唄えば天国ジャズソング」第11章後半は1933年(国内公開は翌年)の映画「フットライト・パレード(Footlight Parade)」とその劇中歌「上海リル(Shanghai Lil)」にスポットが。その「上海リル」をSP盤で(日本ビクター"JA-189-B")。

1933年の録音(この盤そのものは「フットライト・パレード」のクレジッはあれど戦後の再発盤だと思う)。オケはポール・ホワイトマン[Paul Whiteman Orch.]、ボーカルはボブ・ローレンス[Bob Lawrence]。このボブ・ローレンスという方、ポール・ホワイトマン下のバンド歌手として何曲かのリリースが、でも履歴がよくわからない(不勉強申し訳ない)。

映画そのものはショービジネスもの。主演はジェームズ・キャグニー[James Cagney]とジョーン・ブロンデル[Joan Blondell]といっても、昨今では通じない? 数多の作品に出演で、ジェームズ・キャグニーはフィルムノワールの印象が濃いけれど基本はボードビル、1942年の「ヤンキー・ドゥードゥル・ダンディ(Yankee Doodle Dandy)」での唄とタップを記憶されているミュージカル・ファンの方も多いかと。ジョーン・ブロンデルは日本でのヒット作品にも多くの出演が、晩年では1978年の「グリース(Grease)」に翌年の「チャンプ(Champ)」など。

「フットライト・パレード」に戻り、ストーリーは特にどうこうでは。以前紹介の1936年「巨星ジーグフェルド(The Great Ziegfeld)」に「バーレスクの王様(King of Burlesque)」などと同様、端的には、レビューのシーンを見るための映画(この作品では、特に後半はレビューの連続に)。そこが今では当時のステージを推し量るのに、またパフォーマの希少な記録ともなっている。

(IMDBのデータベースを見て「えっ!? と思ったのは、無名期のドロシー・ラムーア[Dorothy Lamour]が出てるんです、往年のロードムービーの)

主なナンバーを駆け足で紹介、まずルビー・キーラー[Ruby Keeler]を筆頭にキャットウーマンが織りなす「シッティン・オン・ア・バックヤード・フェンス(Sitting on a Backyard Fence)」、導入部ではルビー・キーラーのタップが。次、「ハネムーン・ホテル(Honeymoon Hotel)」はルビー・キーラーとディック・パウエル[Dick Powell]。次の「バイ・ア・ウォーターフォール(By a Waterfall)」が見もの、やはりルビー・キーラーとディック・パウエルのロマンスなシーンに始まり、ウォーターフォールなウォータースライダーから水中レビューに。そのように、準主役がルビー・キーラーとディック・パウエル。この二人、より知られているのは同年の大ヒット作「四十二番街(42nd Street)」、ちなみに国内でも「42ndストリート」としてリメイクされた。そして最後に「上海リル」はルビー・キーラーとジェームズ・キャグニーで、ここでもタップが見れる。

(水中レビューのシーン、簡単には、アーサー・フリード[Arthur Freed]=MGM=エスター・ウィリアムズ[Esther Jane Williams]でピンとくる方で未見であれば、これは超おすすめ、凄いです)

それと余談で、この作品にはダンスの稽古シーンが結構ある、留意は、劇中、その伴奏がピアノの生演奏である点。もちろん当時、今ほどの音響機器は波及していないが、そういう話でなく、例えリハでも、舞台の音とはこうゆうもの=生演奏が基本。特にこの御時世ではコスト面で如何ともし難い様式ではあるけれど、依然、そこにこだわり、生演奏な伴奏でのレッスンが行われているスタジオもある。

話を戻し、劇中歌「上海リル」のレコードもヒット、国内でも数多の歌手に唄われているスタンダード。では元祖日系タレント(生粋のダンサー)の川畑文子で「上海リル」、SP盤で(テイチク"0258")。ややズル盤は御勘弁。

これがテイチク(帝国蓄音器)での初レコーディング、録音は1935年(盤そのものはやはり戦後の再発盤だと思う)。ハワイアンの三世でLA育ち、英語話者にして可能なその歌唱はエキゾチックな魅力と例えるよりも頽廃美の域ではあるまいか。

そして章の〆では、やはり英語話者のリキー・宮川にもふれており、 そのリキー・宮川で「ダイナ(Dinah)」、公式で。

この音源のルーツ、おそらく1933年の録音。ライナーノーツ(原田和典氏)を参照ではシアトル生まれの二世だそうで、なるほどなイントネーションの日本語。

前回、少しふれた、西洋的情緒(エキゾチシズム)を前面に出すかのようなスタイルが当時の国内ジャズには顕著だったようですが、先の川畑文子、また以前に紹介のヘレン隅田(カリフォルニアンの二世)など英語話者にして可能な不思議な歌唱は、そう真似できるものでなく。日本語話者の歌い手もそんなテイストを活かしてはいるけれど、日系独特なエキゾチックな日本語の前には霞んでしまう。

しかしエキゾチックは日系の専売特許ではない...次回につづきます!

(紹介の公式動画はYouTubeの共有機能を利用しています。SP盤動画に関しては隣接権が消滅であろうと思われる、また権利が消滅もしくはJASRACまたはNexTone管理下に置かれている曲です)

第23回[中野忠晴 (チャイナタウン・マイ・チャイナタウン)]
第25回[上海バンスキングと川畑文子 (吉田日出子の上海リル)]