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相続放棄_その1(相続)

相続するのが嫌な場合には相続放棄ができると聞きましたが・・・、どういうことなのでしょうか?全員相続放棄したらどうなるのかな?


|相続放棄とは?

相続放棄とは、亡くなった人の(被相続人)残したすべての財産を相続することを放棄することです。

相続放棄をすると、被相続人が抱えていた借金などの返済義務を負うことがなく、遺産分割協議に関与することもなくなります。
つまり、相続人が、亡くなられた方(被相続人)の権利義務の承継を拒否する意思表示のことをいいます。

相続放棄をすると、その者は最初から相続人ではなかったことになります。

(相続の放棄の効力)
第九百三十九条 相続の放棄をした者は、その相続に関しては、初めから相続人とならなかったものとみなす。

民法より抜粋

|相続開始時に相続方法を選択可能

相続が開始する事情、つまり被相続人が死亡した場合には相続が開始されますが、その際相続人は次の三つの方法から最適な相続方法を選ぶことができます。

相続方法
① 単純承認
プラスの財産もマイナスの財産も全て引き継ぐ
② 限定承認
プラスの財産の範囲内でマイナスの財産を引き継ぐ
③ 相続放棄
プラスの財産もマイナスの財産も一切引き継がない

それぞれを簡単に説明します。

 ① 全ての権利・義務を引き継ぐことになる「単純承認」

単純承認は、被相続人のプラスの財産もマイナスの財産も全て引き継ぐ方法です。
単純承認をするためのに特別な手続きは必要なく、自動的に単純承認となります。

この場合、原則として法定相続分による割合で相続することになります。
そして、誰が何を取得するかについては、「遺産分割協議」などで決めることになります。

民法
(相続の一般的効力)
第八百九十六条 相続人は、相続開始の時から、被相続人の財産に属した一切の権利義務を承継する。ただし、被相続人の一身に専属したものは、この限りでない。

(単純承認の効力)
第九百二十条 相続人は、単純承認をしたときは、無限に被相続人の権利義務を承継する。
(法定単純承認)
第九百二十一条 次に掲げる場合には、相続人は、単純承認をしたものとみなす。
一 相続人が相続財産の全部又は一部を処分したとき。ただし、保存行為及び第六百二条に定める期間を超えない賃貸をすることは、この限りでない。
二 相続人が第九百十五条第一項の期間内に限定承認又は相続の放棄をしなかったとき。
三 相続人が、限定承認又は相続の放棄をした後であっても、相続財産の全部若しくは一部を隠匿し、私にこれを消費し、又は悪意でこれを相続財産の目録中に記載しなかったとき。ただし、その相続人が相続の放棄をしたことによって相続人となった者が相続の承認をした後は、この限りでない。

民法より抜粋

 ② 故人の財産の限度内で債務を引き継ぐことにする「限定承認」

限定承認は、プラスの財産の範囲内でマイナスの財産を引き継ぐ方法です。

限定承認をするには、相続があったことを知った日から3か月以内に、管轄の家庭裁判所に限定承認申述書や財産目録を提出する必要があります。
ただし、限定承認は相続人全員で家庭裁判所へ申述しなければなりません。

特定のケースでは大きな利点のある限定承認ですが、手続きが煩雑であることなどから利用者は少ないそうです。
法務省が公表している司法統計によると、限定承認の年間の受理件数は700件程度ということです(令和4年 司法統計年報 3家事編)。

民法
(限定承認)
第九百二十二条 相続人は、相続によって得た財産の限度においてのみ被相続人の債務及び遺贈を弁済すべきことを留保して、相続の承認をすることができる。
(共同相続人の限定承認)
第九百二十三条 相続人が数人あるときは、限定承認は、共同相続人の全員が共同してのみこれをすることができる。
(限定承認の方式)
第九百二十四条 相続人は、限定承認をしようとするときは、第九百十五条第一項の期間内に、相続財産の目録を作成して家庭裁判所に提出し、限定承認をする旨を申述しなければならない。
(限定承認をしたときの権利義務)
第九百二十五条 相続人が限定承認をしたときは、その被相続人に対して有した権利義務は、消滅しなかったものとみなす。
(限定承認者による管理)
第九百二十六条 限定承認者は、その固有財産におけるのと同一の注意をもって、相続財産の管理を継続しなければならない。

民法より抜粋

 ③ 全ての財産を一切引き継がない「相続放棄」

相続放棄は、プラスの財産もマイナスの財産も一切相続しない方法です。
相続放棄をするには、相続があったことを知った日から3か月以内に、管轄の家庭裁判所に対して相続放棄申述書と添付書類(戸籍謄本等)を提出する必要があります。

相続放棄は単独で行うことができ、他の相続人との合意は必要ないです。

手続きは比較的容易で、債務を一切引き継がなくて良いという強力なメリットがあることから、被相続人が保有していた土地や預金などのいわゆる財産よりも、借金などの負債を大きい場合などにメリットがあるといわれており、利用者が多いといわれています。

ちなみに司法統計によると相続放棄の年間の受理件数は約26万件にも及んでいます(令和4年 司法統計年報 3家事編)。

なお、被相続人の生前に相続放棄をすることはできません

遺産(相続財産)の一部だけを相続放棄することは認められていません。
繰り返しになるが、相続放棄をすると、その人は初めから相続人ではなかったものとして扱われることになるので、被相続人の財産は一切引き継ぐことはできません。

(相続の放棄の方式)
第九百三十八条 相続の放棄をしようとする者は、その旨を家庭裁判所に申述しなければならない。
(相続の放棄の効力)
第九百三十九条 相続の放棄をした者は、その相続に関しては、初めから相続人とならなかったものとみなす。
(相続の放棄をした者による管理)
第九百四十条 相続の放棄をした者は、その放棄の時に相続財産に属する財産を現に占有しているときは、相続人又は第九百五十二条第一項の相続財産の清算人に対して当該財産を引き渡すまでの間、自己の財産におけるのと同一の注意をもって、その財産を保存しなければならない。
2 第六百四十五条、第六百四十六条並びに第六百五十条第一項及び第二項の規定は、前項の場合について準用する。

民法より抜粋

|相続放棄のポイント

相続放棄に関する事柄を抽出し列挙すると以下のとおりです。

・ 相続放棄により最初から相続人ではなかったことになる
・ 相続財産が債務超過の場合、相続放棄をすることで債務を免れることができる。
・ 相続放棄は、他の相続人の同意なしに単独で行うことができる。
・ 相続放棄は、自己のために相続が開始したことを知ってから3か月以内に、被相続人の最後の住所地を管轄する家庭裁判所に申述書等を提出する。
・ 3か月以内で相続放棄をすべきかの判断がつかないときには、家庭裁判所に熟慮期間の伸長の申立てができる
・ この申立てが認められると、熟慮期間がさらに3ヶ月〜6ヶ月程度伸長される。
・ 3ヶ月以上経過した後、被相続人の債権者から請求を受け、そのときに初めて被相続人の債務の存在を知ったような場合には、相続開始後3か月を経過していても相続放棄が認められる場合がある。
・ 相続放棄をすると、後順位者が相続人となることがある。
たとえば、すべての子が相続放棄をすると、直系尊属(父母や祖父母)が相続人となる。
・ 全ての直系尊属が相続放棄をすると、兄弟姉妹が相続人となる。
・ 被相続人の配偶者は常に相続人となる

|おわりに

|このページのまとめ

今回は相続の方法、相続放棄のポイントなどの総論的なことを記載しました。
いろいろな事情で限定相続や相続放棄などの方法をとらざる得ない場合もあるかもしれませんね。
次回は、相続放棄についてちょっと深堀りしてみます。




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