判決の内容を実現させる強制執行
「権利関係の確定は裁判?」という記事で書いたように、権利の有無は裁判で確定することができます。しかし判決内容に従わない場合などには請求金などが手に入りません。判決の内容を実現させるためには次の手段に出る必要があります。
|判決内容を実現させる手段
民事事件においては、判決内容について素直に賠償してくれる人ばかりではないですね。
民事裁判は「権利があるかどうかをはっきりさせる」手段であり、かつ支払われるべき金額を認定したりしますが、確定した判決でも支払いが滞る、もしくは支払わない、支払い能力が乏しいなどの事例もたくさんあります。
つまり、民事裁判で勝訴しても1円にもならないケースもあるということです。
相手方に支払能力がなく、執行できる財産もなければ、費用と時間をかけて手に入れた勝訴判決も、ただの紙切れになってしまいます。
金銭の支払いを請求する内容の訴訟を提起するときは、請求が認められた場合に、認められた金銭を回収できる見込みがあるかどうか (回収可能性)も踏まえて、訴訟を提起するかどうかを検討する必要があります。
そのうえで訴訟を起こし、判決を得て権利を明確にして、債権を回収することになりますが、相手方が応じない場合の手段として強制執行の申立てをするという方法があります。
|強制執行
強制執行に関する法律としては、「民事執行法」というのがあります。
強制執行手続は,勝訴判決を得たり,相手方との間で裁判上の和解が成立したにもかかわらず,相手方がお金を支払ってくれなかったり,建物等の明渡しをしてくれなかったりする場合に,判決などの債務名義を得た人(債権者)の申立てに基づいて,相手方(債務者)に対する請求権を,裁判所が強制的に実現する手続です。
その中の「金銭執行」、すなわち金銭の支払を実現するための強制執行は、何を対象に執行を行うかでいくつかの種類に分けられます。
民事執行法は、
① 不動産に対する強制執行(不動産執行)
※土地、建物 など。強制競売により売却し、その代金を債権回収にあてる。
② 船舶に対する強制執行(船舶執行)
※船舶等を強制競売により売却し債権回収にあてる。
③ 動産に対する強制執行(動産執行)
※不動産以外の生活必需品ではない価値ある家財道具、現金、絵画、株券、貴金属、骨董品、時計などを売却し、債権回収にあてる。
④ 債権その他の財産権に対する強制執行(債権執行等)
※給与、銀行預金、株などを差し押さえて債権回収にあてる。
について規定しています。
相手方の資産や財産状況により、何を対象にするかが異なってくるのです。
例えば相手方が不動産を所有している場合には上記①不動産執行を行うことになるし、また車や価値のある動産がある場合には③の動産執行ということになります。
さらに不動産執行には
ア.不動産を競売で売ってその売却代金から支払にあてる強制競売
イ.不動産を競売で売らずに不動産から得られる賃料などから金銭債権を回収する強制管理
の2つがあります。
金銭執行の中でもいくつか種類があるのは、執行の対象によって合理的手続が異なります。
たとえば、不動産の場合には登記制度があるので、それを踏まえた手続が必要になるのです。
また、債権は債権者と債務者の間での法律関係ということなので、そのような事情に応じた特別の考慮が必要になるのです。
|強制執行の手続き
強制手続きの流れとしては、概要を説明すると次のようになります。例は、相手方が不動産を所有している場合の不動産執行の場合です。
詳しいことを知りたい方は個別に調べるなり、弁護士等にご相談ください。
① 申立て
不動産執行の申立ては「書面」でしなければなりません。
申立ては,目的不動産の所在地を管轄する地方裁判所(支部を含む。)にします。
② 開始決定・差押え
申立てが適法であると認められた場合,裁判所は,不動産執行を始める旨及び目的不動産を差し押さえる旨を宣言する開始決定を行います。
開始決定がされると,裁判所書記官が,管轄法務局に対して目的不動産の登記簿に「差押」の登記をするように嘱託をします。また,債務者及び所有者に開始決定正本を送達されます。
③ 売却の準備
裁判所は,執行官や評価人に調査を命じ,目的不動産について詳細な調査を行い,買受希望者に閲覧してもらうための三点セットを作成します。
次に、裁判所は,評価人の評価に基づいて入札の基準になる売却基準価額を決めます。
④ 売却実施
売却の準備が終わると,裁判所書記官は,売却の日時,場所のほか,売却の方法を定め入札手続きに入ります。
⑤ 入札から所有権移転まで
入札は手続きにおいて、最高価で落札した人が買受人ということになり,売却許可がされた買受人は,裁判所が通知する期限までに,入札金額から保証金額を引いた代金を納付することになります。
⑥ 不動産の引渡し
引き続いて居住する権利を主張できる人が住んでいる場合には,すぐに引き渡してもらうことはできません。
しかし、そのような権利を主張することができない人が居住している場合には,その人に明渡しを求めることができます。別途の手続きが必要。
⑦ 配当
裁判所が,差押債権者や配当の要求をした他の債権者に対し,法律上優先する債権の順番に従って売却代金を配る手続になります。もちろん債権者が一人だけの場合にはその債権者に売却代金が配布されることになります。
|動産等の差押え
時々テレビドラマで裁判所の執行官が、差押令状を持って債務者宅を訪問し、家具や貴重品に差押の赤紙などを貼付して差し押さえるシーンが放映されますね。
これが動産に対する強制執行です。
必ずしもその時のやり方が正しいといい難いものもありますが、強制執行における差押えは、あくまでも相手が財産を処分することを禁じる手続なので、執行官は骨董品やアート作品、高級時計など、市場価値 (換価価値)があると思われるものを差し押さえます。
また、債権に対する強制執行として、たとえば、相手に預金があったとしても、その預金を引き出すことを禁ずる手段として差押えが行われます。給与も対象となり正社員として働いている人だけでなく、アルバイトなどで働いている人の給与も差し押さえることができます。
動産執行の手続中に財産を隠したり、わざと壊したりすると「強制執行妨害目的財産損壊等罪J (刑法第96条の2)として処罰されることになります。
|差し押さえが禁止されているものがある?
何でもかんでも差し押さえられるわけではなく、債務者の生活に不可欠となる財産や宗教、教育、プライバシーなどの観点から以下の動産については、法律上、差し押さえが禁止されています。
・生活になくてはならない衣服、寝具、家具、台所用具、畳および建具、家電
・債務者の1か月間の生活に必要な食料と燃料
・66万円までの現金(一般的な生活費2か月分)
・仕事に不可欠な器具
・実印
・仏像、位牌(いはい)
などであり子細は末尾の関係法令抜粋(民事執行法第131条(差押禁止動産))を参照してください。
|民事執行法の改正
2020年4月1日に民事執行法が改正され、債務者自身が財産開示手続に協力しない場合、6か月以下の懲役又は50万円以下の罰金(刑事罰)による制裁を科して、手続の実効性を向上させることとなりました。
さらに、債務者以外の第三者から、債務者の財産に関する情報を取得できるようになりました。
※民事執行法第197条等
|おわりに
以上、裁判で権利関係が明白になったにもかかわらず、その債務の弁済を怠る場合に強制的に債権を回収するための手続きについてその概要を記載しました。
あまりあってほしくはないのですが、民事執行法を活用する事例は結構多くあります。
いずれにしてもこのような手続きが存在することを認識していただき、必要に応じて法律の専門家にご相談ください。
一方で刑事罰が設けられている事例も記載しましたので、万が一動産執行を受ける側になった場合にはその点に注意してください。
<参考>
<関係法令抜粋>
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