使用者責任・・・その3
使用者責任について3回目です。今回は使用者責任について問題なるものは何か?について簡記する。
|使用責任が問題になる事例と判例
以下のように使用者責任が実際に問題になる事例がある。
(1)パワハラ
上司のパワハラ行為によって部下が精神的な被害を受けたり、あるいは精神疾患になったり、ひどい場合は、自殺してしまうというケースがある。
この場合、加害者である上司には、被害者である部下あるいはその遺族に対する損害賠償責任が発生する。
そして、この上司は会社の従業員であることから、会社も、民法第715条により、部下に対して損害賠償責任(使用者責任)を負うことになる。
〇 パワハラについて使用者責任が認められた裁判例
★ パワハラ自殺の事例(福井地方裁判所判決平成26年11月28日)
上司によるパワーハラスメントにより従業員が自殺したとして、民法第715条に基づき、会社に対して、8000万円を超える損害賠償を命じた。
(2)セクハラ
上司のセクハラ行為による被害についても、会社が使用者責任を問われることがある。
〇 セクハラについて使用者責任が認められた裁判例
★ セクハラにより女性従業員が退職を余儀なくされた事例(青森地方裁判所判決平成16年12月24日)
出張中の旅館で部下である女性職員の部屋に入り込み抱擁するなど、上司により8年以上にわたり行われたセクハラ行為の結果、女性職員が退職を余儀なくされたとして、民法715条に基づき、会社に対して、600万円を超える損害賠償を命じた。
(3)労災事故
被災者とは別の従業員の過失により、業務中の労災事故が発生するケースがある。
この場合、国の労災保険からも一定の支給があるが、慰謝料等は労災保険からは支払いがある。
そのため、過失により労災事故を発生させた従業員は、被災者に対して、慰謝料等の損害賠償責任を負うことになる。
そして、この過失のあった従業員は会社の従業員であることから、会社も、民法第715条により、被災者に対して損害賠償責任(使用者責任)を負うことになる。
〇 労災事故について使用者責任が認められた裁判例。
★ 労災事故の事例(大阪地方裁判所判決令和元年8月27日)
倉庫内作業でフォークリフトを運転していた従業員が他の従業員の右足を轢いた労災事故について、民法第715条に基づき、会社に対して約1600万円の賠償を命じた。
(4)業務中の交通事故
従業員が業務として運送用車両や営業車両等を運転中に交通事故を起こし、第三者に被害を与えてしまった場合、従業員は被害者に対して不法行為に基害賠償責任を負担する。
その場合は、通常、会社も、民法第715条により、使用者責任を負う。
(5)通勤中の事故
従業員が通勤中に交通事故を起こし、被害者に被害を与えてしまった場合、従業員は被害者に対して不法行為に基づく損害賠償責任を負担する。
その場合に、会社も、民法第715条により、被害者から損害賠償請求を受け、使用者責任を問われるケースが少なくない。
〇 通勤中の交通事故について使用者責任が認められた裁判例
通勤中の事故の事例(神戸地方裁判所判決平成22年5月11日)
従業員が自家用車により通勤中に起こした交通事故により被害者を負傷させた事案について、民法第715条に基づき、会社に対して約850万円の支払いを命じた事例
|使用者責任と慰謝料
会社に使用者責任が認められる場合、慰謝料も損害賠償の対象となることがある。
特に、労災事故や交通事故で被害者を負傷させた場合や、被害者が亡くなった場合は、慰謝料についても会社が使用者責任を負担することになる。
また、セクハラやパワハラによる精神的被害についても慰謝料が発生し、会社が慰謝料についても使用者責任を負担することになる。
これに対して、物の損害については、通常は慰謝料は発生しない。
例えば、交通事故で被害者の車両が壊れたが、被害者に怪我はなかったという事案では、通常は、車両の修理費や車両の時価額を賠償すればよく、慰謝料の支払義務は発生しない。
しかし、相手方が死傷した事案では、慰謝料のほかにも、逸失利益、治療費、休業損害といった項目が損害賠償の対象となる。
|損害保険の活用
使用者責任を問われて会社が大きな賠償責任を負担することになる可能性がある場合、各種損害賠償保険の活用を検討すべきである。
(1)自動車保険
通勤や業務に車両を使用させるときは、必ず、自賠責保険と任意保険の両方への加入を確認しておくことが必要。
また、任意保険の加入時に、自動車の使用目的、補償限度額などを誤らないようするなど正しい自動車保険に加入することが大切である。
(2)自転車保険
自転車通勤中の交通事故で使用者責任を問われる事案も増加している。
会社が自転車通勤を容認する場合には、自転車保険への加入を義務付けることが大事であり、近年はこの対策は一般となってきている。
(3)使用者賠償責任保険
労災事故で会社が使用者責任を負担した場合の損害賠償については、使用者賠償責任保険によって対応できる場合がある。
|会社の求償権
会社が自社の従業員による加害行為について、使用者責任に基づき被害者に賠償をした場合、会社は加害行為を行った従業員に対して賠償金の全部又は一部の負担を求めることができ、これを「求償」という。(民法第715条3項)
ただし、会社が被害者に支払った賠償金のうち、どの範囲について、加害者である従業員に対する求償が認められるかについては、法律上の規定がなく、事案によって裁判所の判断がわかれている。
なお、交通事故などの過失による加害行為については、全額の求償は認められないことが多い。
|従業員から会社への逆求償について
会社から従業員に対する求償とは逆に、従業員から会社に対する求償のことを「逆求償」という。
つまり、従業員が業務に関連して第三者に被害を与えてしまい、その損害を賠償をした場合、従業員から会社に対して、被害者へ支払った賠償金の負担を求めるのが「逆求償」である。
この逆求償ができるかどうかについては、法律上の規定がなく、裁判所の判断がわかれていましたが、令和2年2月28日に最高裁判所で逆求償を認める判決が出た。
|おわりに
これまで3回にわたり使用者責任について記載しまいた。概略的な内容になりましたが、必要な方は別途調べてみてください。
判例なども見てみると一層理解を深めることができます。
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