相続放棄_その4(相続放棄のリスク)
相続放棄をすることは、負債の多い場合にはメリットがあるかもしれませんね、しかし・・全くリスクがないわけでもないのです。今回はちょっとそのことに触れてみます。
|相続人全員が相続放棄する場合
相続人のすべてが相続を放棄した場合にはどうなるんでしょうか?
次のようなことがいえます。
|後順位者に相続権が移る
第1順位の相続人が全員相続放棄した場合には、それらの相続人は初めから相続人とならなかったものとして扱われるため、当然ですが相続権は第2順位の人たちに移ります。
また、第2順位の相続人が全員相続放棄した場合には、それらの相続人も初めから相続人とならなかったものとして扱われるため、相続権は第3順位の人たちに移ります。
|土地や空き家などの管理義務(保存義務)が残る
土地や空き家などを、相続放棄をしても管理義務(保存義務)が残ることもあるのです。
「相続放棄で全ての責任から解放される」と安易に考えてしまう人が多いようですが・・・実は、そうとは限らないがのです。
相続すべき人全員が相続放棄をした場合などに生じるリスクがあるのです。
つまり相続を放棄しても対象の財産を一定期間的に管理する管理義務を負うことがあるのです。
改正後の民法940条に規定があります。
この規定(民法940条)では、相続人全員が相続放棄をしたとしても、相続財産を「現に占有している」人については、相続財産清算人に相続財産を引き渡すまでの期間、保存義務を負うことになります。
例えば
故人甲さんは配偶者はいない。甲さんの子で同居している長男Aと、別居している次男Bがいる。
甲さんの相続財産は、長男と同居していた家・預貯金及び借金300万円がある。
という場合で甲さんが亡くなった際、子供たち(長男と次男)は、家がかなり古くなってきたこと、負債があることから、家を相続する必要はないと考えて二人とも相続放棄することにした。
この場合において、長男が相続放棄をする時点で家に住んでいるのであれば、長男Aは家を「現に占有している」といえるので、相続放棄後も家の保存義務を負うことになります。
一方で占有していない次男Bにはその義務はない
ということなのです。
もちろん両者が協力して対応することはやぶさかではあありません。
なお、相続人のいずれも占有していない場合には相続放棄をする人、全員に管理義務が生じることになります。
独身の弟が死亡した場合に親もいない状態であれば、その兄弟に相続権があるわけですが、兄弟のいずれも相続放棄をした場合には、「相続者不在」という状況になります。
この場合には、残った財産は最終的に国庫に納められます。
ただし、自動的に国庫に帰属されるわけではなく、相続財産清算人(旧 相続財産管理人)の選任を申立てるなどの手続きが必要となります。
そしてこの相続財産精算人が選任され、引き渡しが終えるまでの間相続放棄人全員が保全義務(適正に管理すること)を負うことになるのです。
|後順位者がいない場合
前述のとおりであり、重複するが本来相続人となり得る人が全員相続放棄をして、後順位の相続人もいない場合は、「相続人が不在」となり、残った財産は最終的に国庫に納められます。
ただし、この場合においても、自動的に国庫に帰属されるわけではなく、相続財産清算人(旧 相続財産管理人)の選任を申立てるなどの手続きが必要となります。
相続財産清算人の選任の申立ての流れや費用の相場等については、家庭裁判所等のホームページで後確認ください。
民法では、相続財産精算人が選任され財産の引き渡しが終了するまでは、相続放棄人全員において当該相続放棄する財産を適正に管理する義務を負うことになります。
|相続放棄ができなくなることがある
相続放棄がもあるので要注意です。
相続放棄をしたくても、民法に定められている一定の行為をしてしまうと、単純承認したものとみなされて相続放棄ができなくなることがあります。
これを「法定単純承認」といいます。
相続放棄ができなくなってしまうケースの中でも特に多い事例は次の2つです。
① 相続放棄できる期限(熟慮期間)が過ぎてしまった場合
前記のように、相続放棄の期限(熟慮期間)があり、それを過ぎてしまうと原則として相続放棄をすることができなくてしまうのです。
それは、三か月という期間です。
被相続人の死後、様々な手続きに追われていると、3ヶ月はあっという間に過ぎてしまいますよね。
また、相続財産の調査や戸籍謄本等の取得も、意外と時間がかかります。
相続放棄を検討している方は、できるだけ早く行動するか、専門家である弁護士などに相談するとよいでしょう。
故人の生存中からあらかじめ相続を放棄しようと考えている方は前回記載したように準備を進めておくとよいでしょう。
② 処分行為をしてしまった
相続放棄をする前に処分行為を行ってしまうと、その人は単純承認したものとみなされ、相続人としてすべての債権債務を相続することになり(民法第921条1号)、相続放棄をすることはできなくなります。
「処分行為」とは、例えば、相続財産の一部を売却したり、捨ててしまったりする行為です。
すでに遺産分割協議書に署名・捺印している場合なども、原則として相続放棄はできません。
処分行為については、法律で明確に示されているわけではなく、運用や判例によるので、慎重に行動する必要があります。
処分行為については、特に、預金の解約、葬儀費用の捻出、亡くなった人が住んでいたアパートの契約解除、滞納していた家賃の支払いなどで、やって良いこととやってはいけないことがあるので必要があれば家庭裁判所や弁護士など専門家に相談してみるとよいでしょう。
|兄弟姉妹が相続放棄をするとその子供が相続人になる?
被相続人が借金を残して死亡し、兄弟姉妹が相続放棄をした場合、その借金は誰に引き継がれるのでしょうか。という問い合わせも多いですのでちょっと解説します。
相続放棄をした相続人に子供がいれば「子供が代襲相続するのでは?」と思われるかもしれませんが、子供は代襲相続人とはならず、借金を引き継ぎません。相続放棄は、代襲相続の原因とはならないためです。
一般的には相続人が死亡している場合や相続欠格事項に該当して相続できない場合などにおいては、その子どもに代襲相続が認められます(民法第887条2項)。
こちらの条文に規定されているとおり、代襲相続は、子が「死亡したとき」または「相続欠格事由に該当したとき」に、その子がこれを代襲して相続人となるという制度です。
したがって、兄弟姉妹が亡くなったときにはその子がこれを代襲して相続人となりますが、兄弟姉妹が相続放棄をした場合には、その子はこれを代襲して相続人となることはありません。
そして、兄弟姉妹全員が相続放棄をすると、もう次の順位の相続人は存在しませんので、相続人は不存在ということになります。
|ページのおわりに
長くなりましたが、相続放棄した場合でも、当該財産について適正な管理・保管に努めなければならない義務を負うことになる場合があるという、大きなリスクがあることをご理解いただけましたか?
昨今、地方はもちろん都会部でも相続人がおらず、いわゆる空き家になっている家屋が問題になっていますね。
これらの中にも相続放棄された相続人がいない家屋があるもかもしれませんが、相続放棄しても一定期間一定条件のもとで適正な管理を行話なければなることもあります。
相続放棄のメリットやデメリット、相続放棄後に発生するリスクなどについても、確認しておくことが重要な時代になってきました。