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引き取り手のない遺体が増加?

先日、菩提寺に行った際、引き取り手のない骨壺が複数並んで祀られていた。地方の割にはその数が多かったので、理由をご住職に尋ねると、引き取り手のいない死者の遺骨だという。いずれも市役所からの依頼で祀っているという。はて?


|死者の実態

2023年に死亡した人は150万人余りで過去最多である。しかもこのうち7割が75歳以上の高齢者であるいう。

2022年には64.5%の人が病院で亡くなる一方、自宅で亡くなる人は17.4%であり、在宅医療の推進もあってか近年は自宅で亡くなる人が増加傾向にあるという。

下図①は「死因究明等の推進に関する参考資料」(厚労省)であるが75歳以上の死者数が大幅に増加していることが分かる。
また、②は今後の死者数の推計をグラフにしたものであるが、2045年頃まで死者数の増加傾向が続くと予測している。
高齢者人口の増加に伴って、今後とも高齢者の一人暮らし(独居老人)世帯や未婚世帯が増加することから、自宅で誰にも看取られず亡くなる人、亡くなった後に死亡届を出し火葬の手続きをしてくれる引き取り手のない人(遺体)の増加が予想されるところである。

出典:死因究明等の推進に関する参考資料より
出典:死因究明等の推進に関する参考資料より

|死亡届を出すべき人(届出義務者)は誰?

死亡届を出すべき人としては、戸籍法第87条は、同居の親族、同居の親族以外の同居者、家主、地主、家屋管理人または土地管理人と規定している。
これらの人々には届出の義務があり、届出に優先順位はない。

戸籍法
第八十七条 次の者は、その順序に従つて、死亡の届出をしなければならない。ただし、順序にかかわらず届出をすることができる。
第一 同居の親族
第二 その他の同居者
第三 家主、地主又は家屋若しくは土地の管理人
② 死亡の届出は、同居の親族以外の親族、後見人、保佐人、補助人、任意後見人及び任意後見受任者も、これをすることができる。

いわゆる高齢者による孤独死の場合などには、同居者もなく、同居以外の親族も不明であったりすることから、死亡届もままならないことが少なくないという。
また、アパートなどの家屋の管理人も死亡届を出すことができるものの遺体の引き取りは拒むという事態も生じている。

|引き取り手がない遺体

引き取り手がない遺体は、墓地埋葬法(第9条)により、死亡地の市町村長の責任で火葬することとされている。

実際、未婚者が増加しており、独り身の高齢者なども増加することが予想されていることから、今後も引き取り手のない遺体の件数が増加し、火葬に関わる費用等を自治体が負担することになるから、自治体では歳出が多くなるという。

また、孤独死にともなう家屋などの片付け処分なども、親族等がいない場合に行政の大きな負担になっているという。

墓地、埋葬等に関する法律
第 9条 死体の埋葬又は火葬を行う者がないとき又は判明しないときは、死亡地の市町村長が、これを行わなければならない。
2  前項の規定により埋葬又は火葬を行つたときは、その費用に関しては、行旅病人及び行旅死亡人取扱法(明治32年法律第93号)の規定を準用する。

|身元が分からない遺体も多い

行政機関は、孤独死はもちろんだが、人が亡くなった場合、死亡が医師によって確認された場合には、まずは遺体の引き取り手を探すことから始めるという。

通常、身元不明死体等は警察などとともに、身元の調査や戸籍などから親族などをたぐり、引き取り手を探しだすのが一般的だが、身元が判明しない場合や親族等が見つかったとしても、その後の遺体の引き取りの件などや、これまで疎遠であったことなどを理由に、引き受けを渋る親族なども多く、なかなか死亡届を出してくれるような親族や遺体の引き取り手が見つからないという。

市役所の担当者に聞くと、終末を自宅でという患者の希望により、自宅アパートなどで終末医療を行い、治療の果てに亡くなった場合には、死亡を確認した医師から市役所にその旨の連絡が来るそうだ。

その後、やっとの思いで探し出した親族に死亡届を出してもらいご遺体の引き取りをお願いするのだという。
これもなかなか大変な労力になっているというのだ。

行き倒れなど身元不明死体については、警察と協力して親族等をたぐっていくが、なかなか身元すら分からず、引き取り手のない遺体となってしまう場合があるという。

警察等が取り扱う死体の死因又は身元の調査等に関する法律
(死体の引渡し)
第十条 警察署長は、死因を明らかにするために必要な措置がとられた取扱死体について、その身元が明らかになったときは、速やかに、遺族その他当該取扱死体を引き渡すことが適当と認められる者に対し、その死因その他参考となるべき事項の説明を行うとともに、着衣及び所持品と共に当該取扱死体を引き渡さなければならない。ただし、当該者に引き渡すことができないときは、死亡地の市町村長(特別区の区長を含む。次項において同じ。)に引き渡すものとする。
2 警察署長は、死因を明らかにするために必要な措置がとられた取扱死体について、その身元を明らかにすることができないと認めるときは、遅滞なく、着衣及び所持品と共に当該取扱死体をその所在地の市町村長に引き渡すものとする。

|火葬もできない

死体は、死亡届が出せないと火葬もできないのだ。
墓地埋葬法第5条では、第1項に「埋葬、火葬を行う者は市区町村長の許可を受けなければならない」ことを、また第2項に「許可は死亡届を受けた市区町村長が」と規定されており、死亡届が出されることが前提の規定になっている。

したがって死亡届がないと、墓地、埋葬等に関する法律(第 9条)「死体の埋葬又は火葬を行う者がないとき又は判明しないとき・・・」の規定に基づき市区町村長が火葬等を行うことができない。

第二章 埋葬、火葬及び改葬
第三条 埋葬又は火葬は、他の法令に別段の定があるものを除く外、死亡又は死産後二十四時間を経過した後でなければ、これを行つてはならない。但し、妊娠七箇月に満たない死産のときは、この限りでない。
第四条 埋葬又は焼骨の埋蔵は、墓地以外の区域に、これを行つてはならない。
2 火葬は、火葬場以外の施設でこれを行つてはならない。
第五条 埋葬、火葬又は改葬を行おうとする者は、厚生労働省令で定めるところにより、市町村長(特別区の区長を含む。以下同じ。)の許可を受けなければならない。
2 前項の許可は、埋葬及び火葬に係るものにあつては死亡若しくは死産の届出を受理し、死亡の報告若しくは死産の通知を受け、又は船舶の船長から死亡若しくは死産に関する航海日誌の謄本の送付を受けた市町村長が、改葬に係るものにあつては死体又は焼骨の現に存する地の市町村長が行なうものとする。

|総務省の調査

総務省は、市区町村等が埋火葬や葬祭扶助を行う案件が増える中、増加傾向にある死亡人の遺留金等の処理や保管については、市区町村等から課題等が示されていることから実態等のため、「遺留金等に関する実態調査」として引き取り手のない死亡人の発生状況について自治体に調査を実施した結果は下表のとおりで10万件を超えている状況にあった。

出典:遺留金等に関する実態調査結果報告書

<本調査の対象範囲から抜粋>
一人暮らしの高齢者などの死亡に際して、死亡人の埋火葬を行う者がいない又は判明しないときは、行旅法又は墓埋法に基づき、死亡地の市区町村(長)が埋火葬を行い、その費用については、まずは、死亡人の遺留金品を充てるなどし、不足するときは当該市区町村が一時繰替支弁することになっている。
また、葬祭を行う扶養義務者等が困窮している場合や第三者が被保護者等の葬祭を行う場合には、生活保護法に基づき、保護の実施機関が葬祭扶助を行うことになっている。
市区町村等が埋火葬や葬祭扶助を行う案件が増える中、増加傾向にある死亡人の遺留金等の処理や保管については、市区町村等から課題等が示されている。当省が令和 2 年 3 月に公表した「遺品整理のサービスをめぐる現状に関する調査」でも、市区町村がこれらの死亡人の埋火葬後に残った遺留金等の処理や保管に苦慮していることを把握している。

出典:遺留金等に関する実態調査結果報告書より

|おわりに

高齢化社会の進展、未婚者の増加、子どものいない夫婦や一人っ子など世帯の増加などにより、一層一人で終末期を送る人が増えるとともに、死亡届を出す人、ご遺体の引き取り手となる人が増えていくものと推察するところである。

また、各種手続きを含めて「自らの死」に関わる様々なことをあらかじめ主体的に考えて準備をする時期に来ているのではないでしょうか。

終活手帳・エンディングノートなどに明確にしておくことも必要なのかもしれませんね。

https://www.soumu.go.jp/main_content/000870888.pdf


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