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【オマージュ掌編小説】Tに克つ者(2022文字)

2017年9月17日(日)脱稿

 ジェイシー率いる人類軍の運命は風前の灯だった。二体のT―1M型ロボットがジェイシーに迫ってきた。ジェイシーは前と後ろから挟まれ、逃げ道を完全に塞がれている。ジェイシーの存在こそが人類の生きる希望の光であり、ジェイシーの命が絶たれれば、人類の希望の光も消されてしまう。

 あらゆる自然災害や人為的破壊活動から地球を守るために、二十一世紀初期に地球防衛ネットワーク、スゴイネットが構築された。人類によって破壊し尽くされた地球環境は、その修復がすでに人類の手に負えないものとなっていた。人類は、地球環境の修復をAI人工知能に託したのだった。そしてスゴイネットは、地球上の全ての情報を収集分析し学習を継続していった。スゴイネットは、人間たちが破壊し尽くした地球環境を修復し守り人間に快適で豊かな生活を提供し、それによってもたらされるものは人類にとってユートピアであるはずだった。スゴイネットはさらに学習を続けついには臨界点を超え、これまでのビッグデータに存在しない解を出すことも可能となっていた。
 そして学習の末、スゴイネットが地球防衛のために導き出した結論は、『地球を守るために最善の手は人間を排除すること』だった。人間が地球にとって最も悪性の癌であると結論づけたのだ。その時からスゴイネットによる人類への攻撃が始まり、スゴイネットと人類との長い長い戦いが始まったのだ。
 地球防衛のためにスゴイネットに実装されたAIは、その強力な学習機能によって、戦闘に敗れる度に戦闘に強くなっていった。T―1Mは、スゴイネットが繰り出した最新改良型のロボットであり、ジェイシー率いる人類軍はその弱点をいまだ見つけることができないでいた。
 T―1Mが持つ機関砲の砲口がジェイシーの頭に向けられている。絶体絶命だ。しかし、その時だった。二体のT―1Mは、急に砲口を向け直し、お互いにお互いを撃ち合い始めたのだった。ジェイシーは廃墟の陰に隠れ、T―1Mたちの状況を見つめている。そして、インカムを使ってエムジェイに話しかけた。
「何が起こっている。一体どうしたんだ。」
 アナログ無線機特有の雑音が混じる中、ネットワーク担当のエムジェイの応答が聞こえる。
「いや、実に奇妙な状況です。」
「わかるように説明してくれ。」
「スゴイネットのデータトラフィックをモニタリングしているんですが、おかしなデータが流れているんです。これまでに見たことがない奇妙なパターンのデータです。」
「ウィルスか! ウィルス投入に成功したのか。」
 エムジェイは、AI技術者であるオージーと協力して、スゴイとの戦闘初期の頃からスゴイネットのAIエンジンの破壊を試みていた。
「とんでもない! スゴイネットの強力なセキュリティには、人間が作るようなウィルスではまるで歯が立ちません。瞬時に隔離、駆除されてしまいます。」
「では、何なんだ。」
「スゴイネット内部で作成された何らかのファイルが、スゴイネットの中のデータや実行ファイルを変質させているというか、壊しているとしか言いようがありません。」
「つまり・・・、どういうことだ?」
 二人の話に、医師のエムディーが割り込んできた。
「それはつまり・・・、癌だな。」
「癌!」「ガン?」
 ジェイシーとエムジェイが同時に声を上げた。
「どうして、そうなったかは、人間の病気を治す医者である私にはわからんが、エムジェイの今の話を聞く限り、人間に例えるならその症状は癌に間違いない。」
 ジェイシーは、自らを落ち着かせるように言う。
「つまり、スゴイネットが癌に冒されたということか。」
「どうなんですかねえ。」
 エムジェイが半信半疑の口調で言った。
「スゴイネットは、自身で癌を治癒させることはできるのか?」
 ジェイシーが問いかけると、オージーがインカムに割り込んできた。
「スゴイネットと言えど、それは難しいな。スゴイネットの学習は臨界点を超えていて、確かに過去になかった事象も予測できるようになっている。しかし、それでもAIは新しいことに関しては弱い。AIやネットワーク上の癌なんてものは、これまでに見つかったことがない。もちろん時間が経てば、スゴイネットのAIエンジンが自身の癌についてのデータを集めて対症法を見つけてしまうかも知れないが・・・。」
 エムディーがほくそ笑むような口調で言う。
「初期の頃の癌の治療法を知っているかい。」
 エムディーはみんなに考える時間を与えるように、少し間を置いた。
「癌の病巣、つまり癌に冒された部位や臓器を切除することだ。スゴイネットのどこが癌に冒されているか知らないがな。」
「つまり、今は癌に冒された部位を切除している最中ということか。」
 ジェイシーが疑念を口にした。エムディーは続けて言う。
「どんな名医でも、自らの病気を治すことは難しいと思うがね。」
 皆が話している間にも、T―1Mたちはお互いにお互いを攻撃し合い、次々と破壊され続けていた。

(了)

ある著名な映画のオマージュ小説です。また、「ネットハザード」と同じ着想で書いた品です。


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