青の騎士ベルゼルガ物語のMSX版・未発売ゲームが蘇る
装甲騎兵ボトムズ外伝のMSX版が計画されたというのをご存じでしょうか?今回はこの幻の逸品をブラジルのMSX狂に教えて貰ったというお話です。
時は1985年の春、僕がまだナイコン少年だった時代に遡ります。1981年からのガンプラブームでプラモデルが完全に子供のホビーとして定着していた頃でした。ある日悪友FM7君の家で模型雑誌デュアルマガジンをめくっていると、
ブルーナイトベルゼルガ、MSXでゲーム化なるか!
というとんでもない情報が乗っていたのです。
その記述を抜粋してみると
同誌連載「青の騎士ベルゼルガ物語」をゲーム化
ゲームの主なスペック
●MSX対応
●32KB要(テープ版でしょうか?)
●デザイン・プログラム:マーボットプロ・近藤雅俊
ゲームの主な内容
●上から見た2Dフィールド。画面右にはステータス画面とレーダー画面が表示されている。
●全30ステージ、各面が「バトリング」の1試合にあたる。
●黒いAT(シャドウフレア)を倒すのが目的。
●基本的には敵とのバトルでゲームが進行するが、その敵から情報を収集する必要もあるため、完全に倒してしまうのもまずいらしい。
その他
●近藤氏がオリジナルで制作したもの。
●当時市販の予定はナシ。
●ゲームの問い合わせは編集部で一切受け付けない。
●「もしどこかで見かけたら遊んでやってくれ」という意味深な記事の〆。
ベルゼルガ物語は1983年の人気アニメ、装甲騎兵ボトムズの外伝的作品で「バトリング」と呼ばれるロボ格闘技戦を中心に展開していきます。このいかにも子供心をくすぐる設定にドハマりしていた僕達は「こりゃすげえ!」と大興奮していたのですが、デュアルマガジンはあえなくその号で廃刊に‥‥そりゃないよタカラさん😭
その後MSXを入手しMSXマガジンを毎号目を皿のようにして探したのですが、その後の情報は一切ありませんでした。
当時はお蔵入りのゲームも多かったですし、パソコン雑誌では自作の「なんちゃって」画像を掲載して「〇〇発売か?」なんて与太記事もあったりしたので、今回もそのケースかと思って諦めていました。それでもずっと心に残っていたので、2022年にTwitterに
「こういったタイアップのゲームも盛んに発売されました。あまり出来のよくないゲームも多かったのですが、ファンとすればそれでも発売して欲しいものですよね。僕は歴史に埋もれてしまった『青の騎士ベルゼルガ物語MSX版』の発売を、今でも心待ちにしているのです。」
と書き込んだところ、「それならここにあるぜ!」という衝撃のリプが贈られてきたのでした。SAL-Xさんは大の日本贔屓のブラジル人で、当地では発売されていないMSXturboRを所有する最高のナイスガイです。
彼の情報によるとMSX Resource Centerに詳しいレポートが掲載されていました。
37年間の時を経ての待望のプレイでしたが、僕の想像を超えた内容に衝撃を受けました。
まずタイトルがThe Iron Gauntz・アイアン・ガンツとなり、ストーリーもオリジナルなものになっています。
ゲームは閉ざされた256の部屋のある要塞から敵ロボを破壊して侵攻し、最終ボスを倒し脱出することです。
独創的なロボットデザイン・八方向のスムーズスクロール・無機質かつ神秘的な物語・複数の武器の使い分け・豊富な自機パーツのパワーアップ・ボスコニアンを思わせるレーダーなど1985年の水準では驚異的な完成度です。ただタイトル画面では1987年となっていて、2年越しの開発だったのかもしれません。
とにかく動画を見て頂ければその凄さが解って頂けると思います。OPからEDまで公開しましたので是非!
操作方法
方向: 移動
スペース: 右腕から遠距離武器を発射
シフト: 左腕から近距離武器を発射
ESC:一時停止とプレイヤー情報
カラーパネル(部屋ごとに固定されたアイテム)
緑:ゲーム内情報または敵ID
紫:エネルギーの増減、部屋の敵の復活、部屋の照明、部屋の壁をすべて取り除くのどれか
白:ステージのドアのロックを解除
マップ:プレイヤーと主な敵の位置
エネルギー:武器によって使用され、時間の経過とともに回復
ステータス:体力(頭、左腕、右腕、体/脚)
僕は当初片手間に作られた同人的ソフトなのかと思っていましたが、その完成度やスタッフロールで関わった人員の数からして市販を目的に開発されたゲームではないかと思います。未完成ではなくきちんとEDまで作られていて、デバックも殆ど完了しているようでした。
EDのスタッフロールにプログラムの近藤正敏氏の名前があるので雑誌のものと同一な可能性は高いと思います。また企画からベルゼルガに関わり、イラストや挿画を描いた幡池裕行氏(伊東岳彦氏)やその初期ペンネームであるBLACK POINTのクレジットが見られます。伊東岳彦先生はまだ漫画デビューする前の時期で、貴重な資料だと思います。各種のメカデザインとか芸術的ですよ。
さらに謎なのが作中ではSEGAのロゴが散見されるんですよ。何かしらの事情でメーカーとの折り合いがつかず、お蔵入りになってしまったのでしょうか。もしかしたらSG-1000での発売を予定して、1987年だと旬を逃してボツになってしまったのかもしれません。それならMSXでメガロムで出してよ!🥺
とにかく素晴らしい作品なので販売されていたら伝説の作品になり、絶対に購入したと思うので残念です。しかし歴史に埋もれてしまった作品を発掘できたことは嬉しいですね。
最後に…この素晴らしいゲームを僕に教えてくれたSAL-Xさんとは現在ブラジルでのTwitter運営停止により連絡が取れません。彼は直前の大洪水での避難中、最後のメッセージを残しています。
僕はまた彼と再会できる日を楽しみにしています。そしてこの投稿を彼に捧げたいと思うのです。
ありがとう、最高のMSX友よ!また会うその日まで。