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ソ連MSX物語⑨日ソMSXサミット・共感が生んだ奇跡
1985年の冬、聖地秋葉原に赴いたソ連MSXチームの任務とは…販売直後のMSXフロッピーディスクドライブを入手することでした。テープからFDDに移行出来れば自作の品質管理ソフトにおける作業効率は格段に向上します。しかしMSX1でFDDを接続するにはコツがいります。知識の全くない彼らは果たしてどうなるのでしょうか。
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某パソコンショップ店のMSXブースでソ連技術者達はロシア語で捲し立てます。
「MSX-DOSって何だ?」
「メモリ32KBのヤマハCX11では駄目なのか?」
これをパソコンの知識がゼロの父が通訳するのですから、店長さんはすぐに根を上げました。
「いま店で一番MSXに詳しい物を呼びますので…」
現れたのはバイトの大学生でした。
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メガネにボサボサ頭の「いかにもパソコン少年」と言ういでたちのバイト君は不機嫌でした。
「全くアウトロイドの攻略中だってのに・・・まずお宅らの自作ソフトとやらを見せろや。」
テープを渡すと手馴れた手つきで店内のMSXで起動させます。するとバイト君のメガネがキラリと光りました。
「ほーん機械語なのか、やるじゃない。これを組んだのは誰だ?」
「いない。グセイノフは障害者でソ連政府の許可が下りなかったんだ。」
「そうか、アンタらのお国も色々大変なんだな。よっしゃMSX振り合うも多生の縁、明日また店にこいや。」
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父の会社での研修中、ソ連MSXチームはバイト君の噂話をしていました。
「あの子は一体何者なんだ。店長より知識は豊富そうだったが、まだ私の息子位の年齢だぞ」
「とにかく今日また会えるのが楽しみだな。」
再びお店に赴くとバイト君はニヤニヤしながらフロッピーディスクを渡しました。
「ちゃんとFDD用にコンバートしておいたぞ。おまけでMSXDOSと俺様の自家製ファイラーを組みこんどいてやったぜ。」
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目を丸くするソ連技術者達。
「き、君は国立研究所の職員なのか?」
「バーカ俺はただのバイトだ。」
パソコンユーザーは瞬時に相手の技量と愛機への情熱を嗅ぎ分ける特殊技能を持っています。国籍の違いを超えてMSXユーザーが解り合えた瞬間でした。その技量に驚嘆した彼らは
ガスパジンгосподи́н(最上の敬称、日本語だと『殿』と言うニュアンス)
とバイト君を崇めます。
「じゃあ飯でも奢れよ。」
気を良くしたバイト君は日ソMSXサミットの開催を提案するのでした。
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薄暗い秋葉原の喫茶店でバイト君のMSX講義に真剣にメモを取るソ連技術者たち。誰も知ることのない日ソMSXサミット、父は両者の目の輝きを忘れられないと語りました。
それは冷戦の壁さえも越えた、MSXユーザー同士の熱いシンパシーが生んだ奇跡だったのです。
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父は彼らの姿をを『解体新書』翻訳に重ねたと言います。鎖国の江戸幕府時代、僅かに伝わるオランダ医学を追求するべく、杉田玄白や前野良沢は鬼気迫る情熱をもってこの難事業に挑みました。その偉業が来るべき明治維新の呼び水となったことは多くの歴史家が認めています。
旧ソ連は同じような鎖国体制を引いていましたが、それでもPCユーザーの知識探究の熱意の前には無力でした。その新しい風が冷戦の分厚い壁の崩壊につながった、父はそう当時を振り返るのでした。
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次回のソ連MSX物語は…秋葉原の楽しいお買い物タイムです。
ルーブルは国際通貨でなかったので、ソ連国内でドルは超貴重でした。外国製品店の利用は特権階級の共産党員でも容易ではなかったそうです。そんな中でMSX機材のお宝を前にしたソ連技術者たちの欲望が爆発します😁
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