痛みの向こう側にシーグラス
お盆休みは過去最高に長かった。11日〜17日まで休みだった。1日は病院、1日は頓服さんの力を借りてお墓参り。それ以外は家で寝ていた。Netflixでストレンジャーシングスやフラーハウスを見ながら、積みゲーをしていた。ほとんど海外のドラマは見ないが、ハマってしまった。ストレンジャーシングスの最新シリーズは、気がつくと口が空いているほど見入っていた。シーズンが変わる毎に登場人物の株も変わるのが面白かった。シーズン3の最後ではボロ泣きしてしまった。久々に泣いた。
ほとんど人と接触していないのに、風邪を引いてしまった。薬を飲みたいが、腰のヘルニアの薬と反応してしまってはいけないと、薬を飲めずにいた。咳が出るたびに腰が動く。次第に腰の痛みも酷くなってしまった。ブロック注射の効き目が切れてしまったようだ。注射で痺れているうちに治るのがほとんどだそうだが、今回はそうはいかなかった。お盆休みが明けてすぐに病院へ行き、2度目のブロック注射。今回はお尻は出さず、左側の骨盤の上部に注射をした。今回は一度で済んだ。前回もそうだが、どれだけ我慢しても、注射針が体に刺さる時に「うぅ…」と声が出てしまう。すごく恥ずかしい。注射針も太めらしいので、仕方がないと言えばそうだ。怖くて見れないけど。眠気や吐き気の副作用が出ないので、飲む薬の量も増えた。
お盆明け、久々に現場に出た。ヘルニア持ちの人が周りにはたくさんいるので、心配もしてくれたし、色々アドバイスもくれた。中には、「俺は軟骨が神経に当たったってると思ったら、コルセットして少し動けば、なんか軟骨が引っ込むんだよね。」という職人さんもいた。自分からすればびっくり人間のようだ。みんなが口を揃えて言うのは、「手術はするな」と「動かないとよくならない」だった。手術をしてもあまり変わらないことも珍しくはないらしい。みんな心配はしてくれるが、現場に出ればかなり歩かされるし、上司に至っては自分を高いところに登らせる。ずっと寝ていたから、体力も落ちて酷かった。でもなんとなく優しさを感じた。現場に出て仕事ができるか心配だったが、おかげで自信がついた。背中を向ければ腰を小突かれるから、それだけは気をつけないといけないけど。
週に1回、リハビリに行く。必ず先生の診断を受けてからリハビリという流れ。「調子はどう?」と聞かれるが、あまり大きな変化はないので、あまり変わらないです、と答える。背中を支えられ、「後ろ向いて左足で片足立ちして」と言われ、片足立ちをする。問題ない。「次は右足でして」と言われるが、力が入らず、よろけてしまう。この瞬間がたまらなく嫌いだ。なんでこんなこともできないんだと思ってしまう。「ベッドに横になって」と言われて仰向けになる。右足を上げられ、「痛い?」と聞かれる。痛い。足の小指から甲にむけて触られながら、「こっち(左足)が10点なら、こっち(右足)は何点?」と聞かれる。右足の小指側や太ももの裏が痺れている。徐々に良くなるが、10点にはならない。毎回9点と答える。「仕事に支障ある?」「おしっこは出てるかい?」「(薬の副作用で)眠気は吐き気はない?」「MRIは撮る?撮らなくていいよね?(腰椎椎間板ヘルニアと診断が出ているので、MRIと撮ったところでできることが変わるわけではない)」毎回同じ質問をされる。回答は変わらない。先生も忙しいのか、先週の記憶も無くなっているような、なんならタイムリープしてるような気がしてくる。
その後、リハビリ室に移動する。まずは機械で腰を10分間温める。血流を良くすることで、腰の痛みも和らぐらしい。機械は携帯の電波で故障してしまうらしく、リハビリ室に入ったら電子機器の電源は全てOFFにしておく。最初の頃は窓を眺めながらボーッとしていた。だけど、ここ最近はボーッとする時間もあったから、ボーッとすることにも飽きてきた。Base Ball Bearの小出祐介が出版した詩集を読むことにした。Base Ball Bearが出した曲の歌詞を集めた本。流れてくるメロディーを必死におさえ、目の前の文字や行間に集中する。曲で聴くのとは違う、新鮮な感じがした。社会人になってからは、去年の春も今年の春も同じで、おそらく来年の春も同じ。4つの季節をループしているような感覚があった。学生の頃は学年が上がることで変化が明確で、同じ季節はないと実感できていた。社会人になってからはその区切りがなくなり、同じとは言わないが、変わり映えはしなかった。同じ季節はないし、ましてや今日と同じ明日ではない。わかっていても、実感はできてなかった。そんなことまで考えていた。腰を悪くしてからは、特にそうだ。ある点から進む距離は遠くはなるが、またそのある点に戻されるような気分だった。そんな時に、ストレンジャーシングスのある場面を思い出した。舞台となるホーキンスの警察署長、ジム・ホッパーが「傷はすぐには癒えない。だが、毎日少しずつ良くなる。」と言っていたシーンを思い出す。劇中では心の傷に対して言っていたが、なんとなく腰にも当てはまるような気がした。確実に良くはなっているが、微々たるものだから治ってる気がしない。焦るから余計にそう感じる。長い目で見なければいけないのかもしれない。ボロ泣きした時もジム・ホッパーに泣かされた。こんなはずじゃなかったのに。
腰を温めて終えると、リハビリが始まる。ベッドに横になり、マッサージから始まる。痛いところを的確に指で押される。こんなところも痛むのかとビックリするようなところも押される。自分の体は自分が1番わかっているとは二度と言わないと誓った。筋肉が固まってしまうことで、神経が押され痛みが出てる部分もあり、筋肉をほぐすことで痛みを和らげるらしい。痛みによって筋肉がそれを支えるべく硬くなっているのか、もともと硬いのかはわからないらしい。押されると痛いので必死に我慢をするが、顔に出てしまう。先生は顔を見ながらマッサージをするから、「痛いですよね…」と申し訳なさそうにする。仕方がないことなのはわかっているから、気を遣わせてしまい、心が痛む。少しして「痛みはどうですか?」と聞かれる。痛みがないのでそういうと、「だいぶほぐれましたね。」という。てっきり痛い顔していたから押す力を弱めたのかと思ったら、押す力は同じだった。思わず先生に聞いてしまったが、入れる力は緩めてないと言っていた。かなり楽になる。だけど、1週間もすればまた元に戻ってしまう。
マッサージが終わると、筋力トレーニングがはじまる。ヘルニアの症状で、筋力の低下がある。腰の筋肉、腹筋周りの筋肉、体幹が落ちてしまった。バスケで宙に浮くためにはどれも必要だったのに。さらには、右足の太ももを外に開く筋肉も落ちてしまった。足を曲げて左を向いて横になり、足首をつけたまま太ももを開こうとすると、足が動かない。これは相当ショックだった。その他にも、腰に負荷をかけないように筋力トレーニングをしてリハビリが終わる。
整形外科での会計を終え、薬局に薬をもらいに行く。そこでも「調子はどうですか?」「薬の副作用はありませんか?」と同じことを聞かれる。嫌になりそうだが、向こうも仕事上必要なやりとりをしているだけだろうから、邪険にはできない。とにかく気落ちする。
仕事は、個人的には束の間の閑散期に入った。去年からやっていた大型物件も終わりが見え始めた。何もすることがない日もある。おかげでリハビリには通いやすい。周りと一緒にされたくないので、暇なところは見せない。普段は忙しくてできないことをやるいい機会だ。とりあえずOneNoteは使えるようにした。Auto CADの参考書を一冊やり終えたが業務用のレベルまで足りてない気がしたから、2冊目もやりはじめた。うかうかしてたらRPAの勉強会もはじまる。事前資料を見たけど、日常業務で使えそうなレベルじゃなさそうだった。勉強会終わったら、Power Autmateの勉強でもしてみようか、なんてやりたいことは山ほどある。腰を悪くしてから在宅勤務の機会も増えて、こういう勉強には集中できるようになった。会社にいないから余計な仕事が舞い込んでこない。移動時間も残業もなくなり、睡眠時間も増えた。今後少しでも残業時間を減らせるように勉強をしている。
怖くて先生に聞けずにいた。完治するまでいつなのか。この空いてる時間にバスケをしたかった。有給とってバスケもありかな、なんて思っていた。もしかしたら、このまま足の痺れが取れずに、スポーツも出来なくなってしまうのではないのか。調べてみたら、個人差はあるものの、「1ヶ月で痛みが落ち着き、3ヶ月でジョギング開始、6ヶ月でスポーツができる」らしい。半年もバスケができないのか。今年はもう無理か。できなくなることを考えたらいいほうなのかもしれないが、先が長い。とにかく無理はせずに、治すことに専念しなければ。そんなに時間がかかるなら、治ってまたバスケをする時に新しいバッシュでも買おうか。目星を付けてるバッシュもあるし、やりたい色もある。それを楽しみにしよう。映像みたり、バスケIQを高めるために勉強するのもありかもしれない。だけどこのバスケができない時間は、他の新しい何かを見つける時間にしよう。…まぁバスケに変わるやりたいことは今はない。それなら、自分の声に耳を傾ける時間にしてもいい。耳を澄ませるけど、声を出していないのか、出てるけどそれに気づかないのか、何も聞こえない。ただなんとなく、外に出たい気がしてるでもない。行きたいところはない。さてどうしたものかと思っていたら、職人さんから、「今日休みならオータムフェストに行かないか?」と誘われ、外に出ることにした。これはとてもタイミングが良かった。次はどうしようか。
ヘルニアになって1ヶ月が過ぎた。腰の痛みは落ち着いた。日常生活にはあまり支障がない。立ちっぱなしも問題ないし、歩くスピードも通常に戻った。早歩きは少し辛いかな。前屈みになったり、しゃがんだり、地べたに座ったりができない。走ることもできない。右足の小指は9点。痺れが気になる。仕事以外ではコルセットはしなくても問題ない。会社に着いて、「やべぇ、コルセット忘れた」と気づくぐらいだ。コルセットをすると筋力も落ちてしまう。日常生活ではコルセットは外している。「走れるまであと2ヶ月。バスケまであと5ヶ月。」そう思うようにしている。家でできるリハビリは毎日している。ベッドでは効果が薄れてしまうので、ヨガマットを買ったほどだ。やれることはやっている。来年の夏は違う夏にする。そのために明日、何か新しいことをやりたい。できるだけ心を上向きにして。ちょっと世界の見え方が違う今だからこそ、見えるものを見て楽しみたい。ヘルニアとは一生の付き合いになるらしいから、婚姻届を役所に出して、ノリで入籍でもしようか。ヘルニアは空気読まないし、主張も激しいから0日婚ならぬ0日離婚になりそうだけど。