30、50、100人の壁の正体
学生起業からはじまり、スタートアップとして資金調達して事業と組織を急拡大させ、上場というひとつの目標地点までたどりつくことができました。
事業のこと、プロダクトのことなどいろいろありますが、とにもかくにも、一番大変だったのは組織のスケールでした。
組織が大きくなるにつれ、30人、50人、100人で壁があるというのはよく言われることですが、それって一体なぜなんでしょうか?
私も、その壁のことを知りながらも理由がわからずモヤモヤしていて、そして確かに、見事にすべての壁にぶち当たりました。
痛い目にあったり、退職者が相次ぐような組織崩壊をしたりと、たくさんの足踏みをしながらも乗り越え、「ああ、そういうことだったのか」と自分なりに理解することができたことがあります。
今回は、その30人、50人、100人の壁の正体について、そしてその乗り越え方について、まとめてみたいと思います。
組織規模の問題に悩まされている経営者の方や、マネージャーの方の参考になれば幸いです。
マネジメントの最小単位
一人のマネージャーがマネジメントするチームメンバーは、何人が適切だと思いますか?
この数はスパン・オブ・コントロール(Span of Control)とよばれて研究されており、一般的な事務職では5〜7人ぐらいが適切だと言われているそうです。(定型化された業務内容が多ければ、人数は増やせる)
Amazon CEOだったジェフ・ベゾスの有名な「Two Pizza Rules(ピザ2枚ルール」でも、会議やチームの人数は2枚のピザで満足する人数(5〜8人)に抑えるべきだと言っています。
なんとなく感覚的にも、飲み会で一つのテーブルで盛り上がれる最大人数は?ということで理解できます。
6〜8人であればワンカンバセーション(1つの話題)で盛り上がることができますが、10人を越えてくると2,3グループに会話が分かれてしまったり、全然話せない人が出てきたりと、コミュニケーションの効率がグッと下がってしまう感覚があります。
マネージャーの力量や、業務の種類などでも変動はしますが、私のいままでの経験上、大体平均5人(マネージャー含め6人)ぐらいにしておくのが適切だと思います。(そう思いながら、増減しちゃうんですけどね、、)
30人の壁
1部署の適性人数が6人だとして、その部署が5部門あると
このような組織図となり、社長1人 + マネージャー5人 + メンバー25人 = 31人 となります。(そう、これが30人の壁です!)
それぞれの部門もそうですが、社長1人 + マネージャー5人で6人となり、マネジメントチームも適性な人数になっています。
社長が一声かけてマネージャー全員を集めて情報共有を行い、社長1人がすべての意思決定に関わることができるので、非常にスピーディーで一貫性のある意思決定をすることができます。
しかし、この規模を越えてくると社長1人がすべての意思決定に関わることができなくなっていき、急激にコミュニケーション効率が落ちていくことになります。
これがいわゆる30人の壁の正体で、この規模を越えてくると社長が意思決定をさばききれず、「前、社長がこう言っていた」という過去の判例をベースに現場判断をせざるを得ず、解釈を間違え後になってひっくり返されたりと、組織にフラストレーションがたまっていきます。
解決方法としては、一定の権限委譲を進めていくしかありません。
しかし、それまでの「社長がOKといえば決定」という圧倒的に高効率な意思決定システムに依存してしまっているので、なかなかそこを脱却することは困難です。
50人の壁
30人以内の高効率な意思決定システムをできるだけ維持しながらも、一定の組織規模の拡大をはかっていきたい。
そう思うと社長の右腕・左腕のようなシニアマネージャーが必要となり、組織の一定領域を担うようになっていきます。
そうして、構築されていくのが次のような組織図です。
ここでのポイントは、先ほどの高効率な30人までのユニット(部の集まり)を見るシニアマネージャー(左側の緑)と、それよりは規模が小さい3部門の20人ほどを見るシニアマネージャー(右側の緑)とに分かれています。
人数が大きいユニットの方が、会社の競争力となっている「攻め」の組織機能を管掌します。営業が強い会社であればセールス・マーケティングのような部門、プロダクトが強い会社であればエンジニアリング部門などがこれに当たります。
人数が少ないユニットの方が、会社の「守り」の組織機能を管掌します。いわゆるコーポレート機能と呼ばれるような総務・経理・人事といった部門や、カスタマーサポート、業務オペレーションを担うような部門なども入ることがあります。
「攻め」と「守り」で分けるというシンプルな権限委譲の考え方となり、社長は全社を見ますが「攻め」の部門を積極的に管掌し、定型的な業務が多い「守り」の部分は何かあったらエスカレーションするようにと大きく任せ、1人で見られる組織規模を拡張します。
この体制が、社長1人 + シニアマネージャー2人 + 「攻め」ユニット30人 +「守り」ユニット18人 = 51人 となります。
会社の頭脳である社長の意思決定リソースを、攻めの重要機能にできるだけフォーカスするという体制となっており、効率のいい1トップ体制でありながらも一定の拡張(+20人)を実現できています。
しかし、それなりに無理をしている体制となっていて、社長の右腕・左腕を担うシニアマネージャーがいかに社長と阿吽の呼吸でやれるかにかかっており、これ以上の拡張は困難です。これが、50人の壁となります。
ここから先の組織規模に行くためには、会社の意思決定システムを大きくアップデートする必要があり、社長ワンマンな会社では相当な困難が伴ってくることになります。
100人の壁
ここから先は、意思決定システムを社長個人に依存するのではなく、チームで行うという体制へと移行していく必要があります。
6人、30人、50人といった単位での組織構造を組み合わせて、このような組織図をつくっていくことになります。
ここではシンプルに、先ほどの50人体制 x 2 という構造にしていますが、いろいろなバリエーションがあると思います。
ポイントとなっているのは、シニアマネージャー(緑)の上にさらに管掌役員(紫)のレイヤが生まれます。管掌役員は1トップで意思決定できる限界の50人以内で組織を管掌し、さらにその上に社長が全社を見るような体制となります。
社長は全社の情報を網羅することはもはや不可能で、管掌役員それぞれに任せながらも全社での意思決定をしていく必要があります。
社長1人 + 管掌役員2人 + シニアマネージャー4人 = 7人ほどとなっており、ここを1つのマネジメントチームとして意思決定システムを構築します。
この、チームでの意思決定システムが「経営会議」です。いままでは「社長がOKといえば決定」だったのが、「経営会議で決議されればOK」という意思決定の仕組みに変わります。
もっと言うと、経営会議の場で決議されなければ、たとえ社長がOKと言ってもオフィシャルな決定とはみなされません。
この意思決定システムとなることで、何かあれば経営会議へ持ち込めば何でも意思決定ができるようになり、また自分の知らないところで重要な意思決定がなされることを防ぐことができます。
経営会議を回しながら、このレベルは経営会議で議論しなくても任せられるなという基準を見極めて、「決裁基準表」を策定して経営会議に上げるべき基準などを整理し、権限委譲と効率化を進めていくことになります。
100人の壁の、その先へ
このような意思決定をチームで行う体制ができてくれば、規模拡大しつづけるための型ができることになります。
この1トップで見られる50人までのマネジメント単位をどんどんと横や縦に階層化していくことで、さらに大きな規模へとスケールしていくことができるようになります。
大事なことは、ワントップな意思決定が悪いわけではまったくなく、小さな組織規模では圧倒的に効率が良いのです。ただ、規模が大きくなると上位の意思決定システムをアップデートする必要があるということです。
多くの成長企業が、50人の壁で苦しむのはこういった意思決定システムのアップデートの必要性になかなか気づけないからな気がします。実際、私達も何度も痛い思いをしながら、学んできました。
30人、50人、100人の壁というものを、ただ漠然と規模が大きくなるから難しくなるんだなと捉えず、このようなマネジメントの効率的な単位という観点で構造的に見ていくことで、適切な対処や組織設計を行っていけるようになるのではないかと思います。
Chatworkでは、2021年度で約+100人の正社員が純増となりました。足元では250人を越えるような規模感になってきてますが、この短期間で大きく人が増えたのにも関わらず、組織は非常に安定しています。
ここから先の世界にまた壁があるのかはわかっていませんが、この組織構造の根本を理解できるようになったことで、この先も組織規模を大きくし続けていくことができるのではないかと思っています。
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100人の壁を超えて上場企業のCEOとなった私がどのようにCEO業務や経営というものを捉えるようになったかを書いています。経営における動脈と静脈を意識することで、マネジメントのスタイルが確立されてきました。
今回の記事では触れていませんが、規模が大きくなった時にとても大事になってくるのが価値観の言語化です。その中でも最重要なMVVをChatworkではどう設定し、どう考え、社内浸透を図っているかについてまとめています。
最後まで読んでいただきありがとうございました。
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