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レコ屋回顧録(弐) -レコード屋勤めの話(2000年初頭)

当時はまだインターネットが普及しておらず、売り上げは店頭が9割9分、通販でレコードを買うという習慣がまだまだ浸透していなかった時代。自分が勤めていた店は比較的ウェブ通販への参入が早い方だったけど、その少し前ぐらいまでは、そもそも商品データベースが存在せず(と言うか必要なかった)、アナログに商品をカードで在庫管理していたのを思い出します。レコードと一緒に袋に詰めた商品カードの裏に在庫数をメモしてて、売れたらカード裏をチェック、在庫があるものは棚から引っ張り出して袋に詰めては店頭へ、みたいな品出しが日々のルーティンで。多分、自社EC導入前はどこも似たり寄ったりだったのではと思いますけど。

手書きキャプションで個性を出す時代

そんな時代だから商品のオーダーも電話やFAX中心(メール導入前だったと思う)、今じゃ考えられないぐらいアナログな作業が多かったこともあって、商品に付けるコメントも当然手書き。面出しと棚出し(エサ箱出し)のレコードがあって、面出しは基本的に5枚とか10枚単位、ものによっては50枚、100枚ってレベルで仕入れる売れ筋とか新入荷、棚出しは前述のカード管理の1枚出しで、売れ筋じゃない盤とか再入荷が多い。で、数を仕入れて沢山売りたい面出しの盤には、手書きで大きめのキャプションを付けるのが決まりになってて、これも当時どこも似たような感じだったと思います。今にして思い返すと、CD屋とかヴィレッジヴァンガードとか薬局(の店舗)なんかに近い雰囲気だったのかなって。本屋にも近いっちゃあ近いけど、それよりももう少し賑やかでテンション高めと言うか、自分はそんな雰囲気と温度感が好きだったし、心地良くて。
電話やFAXでオーダーした商品のラインナップも、当時はまだセレクションだけでもギリギリ他店と差が出せる時代だったけど、それに加えて手書きキャプションも差別化の大きなポイントだったように記憶しています。ハガキサイズのキャプション用紙に、カラーマジックで見出しと本文を書いていくんですが、やっぱりデザインとして読みやすくて視認性が高い方がいいし、そもそもインターネットが普及してないから、書く内容も自前の知識勝負なんですよね。そこが熱かった!ワード選び一つとってもセンスだし、ユーザーにとってもレコ屋のキャプションはかなり優先度が高い情報源という時代だったから、そこで何を・どう書くかで、売れ行きが変わってくるところを肌で感じてましたね。

金太郎飴型キャプションの是非と弊害

ちょっと脱線すると、どの店もバイヤーやスタッフがオリジナルのキャプションで独自性を高めて競い合ってたのは、本当に良い時期で。もちろん、時間と手間は掛かるし、効率だけで言えば経営的には良くないんだけど、店舗だけでセールスが完結していた当時は店舗で売るためのキャプションは言わば広告で、それこそ試聴が出来ない店舗(今じゃ信じられないかもしれないけど、一時期まではどの店も新譜は試聴できず、キャプションとクレジット、ジャケ頼みだった!)ではそれがセールスを左右する唯一のツールだったわけで。
その後、店頭には試聴機が常備され、店舗の現場にも効率が求められるようになってくると、国内のオーダー時に出回ってるインフォメーションを丸写ししたりコピーをそのまま貼ったりする店も増えてきて、どんどんそこでの独自性が損なわれていったんで、業界に居たスタッフの一人としてはすごく残念に思ってたのを覚えてます。ここ10年近くは自社ECで、販売前に予約するような買い方も出来るようになったし、余計にキャプションはインフォメーションのコピペが当たり前、稀にあるインフォの間違いがそのままコピペで広がって流布されるってケースまで出てきてるし(ちょいちょいありますよね?)、それも含めて残念。レコード自体のリリースも一時期に比べれば減ってしまって、業界の勢いが無くなってきて流通網が限られてくると、結局それなりの知名度の盤であれば同じようなタイミングでどの店にも入荷する、という状況になってきてたから、既製のレコードのラインナップで差別化するのはムリになって(バブルになってた時期のプロモだけは別だけど)、そう考えるとラインナップでもキャプションでも競合と差が付くことはなくて、あとは数十円単位の値段のせめぎ合いだけ。これも今じゃ考えられないけど、当時は12"が一枚1000円、下手したら950円とか980円で買えた時代で、利益削ってでも他店と揃えるか、10円でも安くすることに汗かいてた。これじゃあ、店は潤わないし、続かないですよね...。一時期の牛丼市場状態、みたいな。

バイヤーとしてのスキル=知識量×耳の良さ

本筋に戻すと。入社して最初の数年は、国内オーダーしか殆ど担当してなかった気がするんで、海外リストにオーダー入れてたかどうかは微妙なんですけど、それでもバイヤーとしてのスキルって、当時は知識量と耳の良さだけだったと思ってて。オーダーする際、「大ネタ、〇〇をサンプリング」みたいな前情報が分かる場合もあったけど、それだって今ほど簡単に情報にアクセスできない時代だったんで、その〇〇を知ってないと"売れる・売れない"のジャッジも当然出来ないわけで、その"知ってる・知らない"はレコードなりCDを自身で"持ってる・持ってない"(もしくは"聞いたことある・ない")だったわけで。ゆえに、例えば現場で回しまくってるDJは問答無用で強かったし、所有してるレコード量で8割方の勝負が決まるような(?)、そんな(ある意味では)分かりやすい、弱肉強食の現場だった気がします。情報収集が全ての世界で、そのやり方が今とはまるで違って、そこにこそお金と手間を惜しまなかった、そんな時代でしたね。

長くなってきたので、今日はこんなところで。

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