【ライブレポ】月に足跡を残した6人の少女たちは一体何を見たのか… 2周年記念生バンドライブ〜Selenéde〜
2023年3月4日、6人組アイドルグループ・「月に足跡を残した6人の少女達は一体何を見たのか...」による2周年記念ライブが、全編生バンドセットで新宿ReNYにて開催されました。
グループ名は縮めて「ツキアト」と言う場合がほとんど。
メンバーも最初のMCではちゃんとフルでグループ名を言うのですが、それ以降は端折り気味です。
入れ替わりの激しいアイドル界でわざわざ”6人”というグループ名を入れたところには、並みではない覚悟があるのでしょう。
だれも欠けることもなく、オリジナルメンバー6人で月を目指す。
降りられない覚悟をもって2021年3月に船に乗り込みました。
宇宙船が月に向かって描くその軌道を、いま我々は観測しているわけです。
黒が躍動
個人的には1月の対バンライブ以来2回目のツキアトでした。
初めて観た対バンライブは衝撃的でした。
なんといってもその歌声。
声量は全組の中で最大で、ただ大きいというだけでなく、こちらの心を掴んでくるような情感にも溢れていました。
照明も最大の光度で、ここが見どころだと親切に教えてくれるかのように明るかったです。
その対バンで3月にワンマンライブを開催予定と知り、流れのままにチケットを取って3月4日に至ります。
新宿ReNYで目にしたのは、黒の躍動劇でした。
歌のみならず、動きに目を奪われたのでした。
もちろん歌も期待通りというかそれ以上。
開演直前、上手袖から「ハッハッ」と聴こえてきた発声練習の声で、歌への並々ならぬ覚悟を感じます。
初見の対バンでは、重要なパートを多く歌う葵音琴さんが目立っているように見えました。
メンバーの名前が一人も分からず、一度に全員を覚えきるのは難しかったので、少なくともこの1人は記憶しておこうと自己紹介のときに聞き耳を立てていたのが葵さんでした。
この日も、音程の正確さと場の空気を変えてしまう歌声は圧倒的でした。
羽﨑ほのさんと落ちサビの前後を担当することが多いように見えたのですが、羽﨑さんが前半を歌う間、背中合わせで後半パートを待つ姿が印象的でした。
ボーカルに長けたアイドルを何人かみていると、上手さだけではなく生まれ持った声質の魅力というのもやはり大切なのだろうなと思わされます。
気持ちよく高めに抜けてくる歌声は、「声を上げろ」など暗がりから這い上がっていくような曲にも合いますが、自分としてはアンコールで披露したタオル回しソング「アオナツ」のような、ツキアトのカラーとは少し違う爽やかなメロディでこそ本領を現すような気がしています。
ラストのソロのフレーズ「全部君のせいだ」。
歌い終わった後の満足そうな笑顔とともに、叫ぶような歌い方ながらも後に残らないスッキリとした音が耳に触れてきました。
気になる場面がありました。
葵さんが序盤、上手袖に向かって何か喋っています。
袖にいるスタッフに対してだと思うのですが、手をパーにしたポーズは、なにか制止のジェスチャーにも見えます。
今度は別の曲で、人差し指を立てて"上"みたいなポーズをしていました。
恐らくですが、PAに対して音量の上げ下げを伝えていたのではないでしょうか。
前の曲ではそのままでよかったけど、次の曲ではもう少しマイクの音を上げてほしい。
そのための上のポーズだったのでしょうか。だとしたらすごい話です。
葵さんばかりにフォーカスしてしまいましたが、ツキアトの歌唱力はなにも葵さんだけではありません。
ハキハキと滑舌良くMCで喋る早崎優菜さんは、投げつけるような歌い方に特徴がありました。
高音ボイスの早崎さんが歌いだすと、暗めの色に染まっている場内に光が差してきた気がします。
写真で想像していたより身長が高くて驚いたのが羽﨑ほのさん。
羽﨑さんは曲ごとのトーンの変わり方が自在でした。
事前の予告なしでこの日から解禁した新衣装は、黒ベースの横に白いラインが何本か入った色合い。
一見してスポーツブランドのジャージっぽいなと思っていたのですが、のちのMCで本当にジャージを意識してデザインしたのだと知りました。
メンバーごとにまるっきりデザインが違うジャージ風の衣装ですが、羽﨑さんの場合はスリットを入れたロングスカートで、ヘッドドレスを付けていることもあってスポーティなジャージと言うよりはメイドさん風に見えます。
丸顔で可愛らしいビジュアルもあってその立ち姿がしっくりきていたのですが、出す音は見た目からは想像できないほど高低の幅がありました。
濃度の高さ
そしてこの日もっとも驚きだったのが、対バンでは目を向ける余裕のなかったダンスでした。
ReNYを出る時、真っ先に出てきた感想は「濃度が高い」ということでした。
ワンマンライブでしたが、本編は12曲で時間にしてわずか1時間。
アンコールを入れても1時間半も掛からずに終わるという、周年記念のワンマンライブにしてはいささかコンパクトなライブでした。
表立って喋ることの多い早崎さんはアンコール2曲目の後、ハキハキとした口調でバンドメンバーを紹介し、急き立てるように記念撮影、「というわけで、ツキアトでした!」せかせかと退場の挨拶へと移っていきます。
何かに追われているかのようにも見えます。
MCの時間も短めでした。
ただ、だからといって物足りなさや消化不良を感じたかというと全くそんなことはなく、ライブをしっかりと味わった感覚は残っていますし、ほとんど初見の自分でもツキアトというグループのことがこの1時間半弱を通してよくわかりました。
いわば、味付けの濃いライブを一気にまくったようなものでした。
アンコール後、メンバー一人一人が感想を言い合うようなシーンもありませんでした。
パフォーマンス以外の時間をそぎ落としていったわけです。
そうして隙間が埋まっていきました。
基本的に音とダンスに徹して短時間集中型でパッと終わったところに、ツキアトの矜持を見た気がします。
言葉を重ねなくても、パフォーマンスを見てもらえれば言いたいことは伝わるだろうという自負の現れだと、自分は受け取りました。
もっとも濃度の高さは、短時間に詰め込んだパフォーマンスというライブの作り方だけではありません。
パフォーマンスそのものも、非常に濃厚だったのでした。
沈む動きや、蠢くような振り付けは、何かの拍動のよう。
感情が人格を飛び出して独り歩きしているかのように見えます。
偶数の6人という利点を活かして、2人ひと組で掛け合いのような振りをすることもありました。
特に苗加結菜さんの動きは人一倍捻りが加わり、目立っています。
心の中にある黒々とした感情に深く入っていくような歌詞が多いのですが、さほど闇に入り込みすぎていないように感じるのは、意外にも笑顔でパフォーマンスしている場面が多いからなのかもしれません。
バンドのライブっぽく、アウトロで腕を回して煽ったりするシーンもありましたが、初めてということで少しぎこちなく、年相応のアイドルという感じ。安心します。
「例え闇堕ちマントルの底まで堕ちたとしても」など扱うテーマのわりに身近で親しみやすく、「『オトナ』って本当都合のいい言葉だね」などとは言うものの世の中を完全には捨てきってはいない。
そういう印象を、メンバーの表情や仕草からは受けました。
ただの思春期(厨二?)特有の反抗というのではなく、精神世界を漂っている雰囲気です。
シャンデリアが頭上に飾られて、他のライブハウスより高級感のある新宿ReNYは洋風のお城のようでした。
この日限りの特別なバンドセットが後ろで盛り立てていたため、ステージの奥行きは普段の半分くらいにまで削られていました。
下手側にあるドラムの前に透明な衝立が立っていたのは、今更感染対策かと思いましたが、恐らくダンス中に万が一ぶつかってしまうことを懸念したガードだったのだと思います。
足元には楽器のエフェクターもありましたし、6人で踊るには面積の余裕はありませんでした。
そこで3列のフォーメーションを組んで一回転したりフォーメーションを自由に行き来してしまっているのですから恐ろしい。
誰もこわごわと踊っていないため、実際の面積はともかく窮屈そうには感じず、かといって事故もありません。
たった1箇所だけ未遂がありましたが、それもだいぶ手前で抑えています。
黒い衣装を着たメンバーが狭い空間を動き回っていくと、次第に黒が濃縮されていくようでした。
照明はツキアトのカラーである紫色に転じることが多く、ライブ空間が深い夜に変わっていきました。
エンドレスラビリンス
最後に印象的だった曲をいくつか挙げてみます。
ベースの這うようなプレイが目立つ「エンドレスラビリンス」は、音の高低差が大きな曲でした。
ボーカルはサビでファルセットの域にまで達しますがヴァースではファ♯くらいにまで下がります。
かなりの低音です。
実際だとそこまで下がりきらず1度くらい上を行っていた気がするのですが、混ざり合わないはずの音がかすかに入ったことで生まれる異物感こそ、得体の知れない感情が浸潤していく「エンドレスラビリンス」らしさなのかなと思いました。
弓張月
メンバーが手に取った黄色いお札のようなものが何なのか一瞬分かりませんでした。
手首のスナップを効かせ、札らしきものを広げた時にようやくそれが扇子だと分かりました。
黒や紫を背景にした黄色い半円は水面に映る半月のようで、水面と重ねたらかりそめの満月が生まれそうです。
片手でマイクを持って歌いながら、もう片方の手で扇子を自在に開いたり閉じたりするのは、何てことのないようにやっているから素通りしてしまいそうになりますが、なかなか出来ない芸当のはずです。
上手側にいるキーボードの方を見たら、オタクがフロアの柵をきっかけにして飛び跳ねるように、鍵盤を抑えながら小さくジャンプしています。
ノリノリでした。
月に足跡を遺せ
そして「月に足跡を遺せ」。
宇宙旅行の第一歩目の曲です。
心なしか、他の曲より一層丁寧なパフォーマンスに見えました。
スクリーンには約2年前のデビュー時に公開されたMVが映し出されていました。
今とはビジュアルが対照的。
2年も経てば自然な事とは思いますが、メンバーの髪の色だったり長さだったりが大きく異なっていました。
当時のリップシーンと、いまステージでソロパートを歌っているメンバーとを交互に見比べると歴然です。
それに加えてなんとなくですが、デビューしたての頃より今のほうが厳しい顔つきになっているように見えました。
夏目一花さんの第一声がバスドラの音と重なるところが綺麗でした。
アンコールの「アオナツ」「シリウス」は本編の曲とはまた違った趣です。
「アオナツ」などタオルをブンブン回す曲。
本編まででツキアトの全てを堪能したと思ったら、まだ引き出しがあったようです。
「みんなでジャンプしよー!」
ラスト「シリウス」のアウトロでジャカジャカと楽器隊が鳴らす中、早崎さんがこう煽りました。
たしか新宿ReNYはジャンプ禁止。
入場時にはいつもジャンプ禁止のカードを手渡されます。
「いいの?」と思いながら控えめにジャンプして、密度が高く濃厚な1時間20分のライブは終わりました。
次も単独があればぜひ行きたいと、強く思いました。
「大人なんて…」っていう曲も多いのですが、新曲「オーバーキル」は詳しい歌詞は忘れましたがそれとは対極のことを口にしていた気がします。
もっとダークで、闇に満ちているのかと思いきや、メンバーは笑顔でフロアのノリ方も強制的ではない感じで思いのほか親しみやすかったのも意外でした。
見たものを詳しく文字にしようとすればするほど、まだまだツキアトを捉えきれてないことに気付かされます。
こうして書いてきた内容だけがツキアトの全てではありません。
もう一つ、追いかけていくべきグループが増えました。