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【ライブレポ】サンダルテレフォン定期公演"エス・ティー vol.11"

連日降りしきる雨で真夏の暑さはすっかりなくなり、まるで季節感が失われていた2021年8月13日(金)の恵比寿。

4人組アイドルグループ・サンダルテレフォンがこの日、月一回の定期公演を開催しました。

ダルフォンメンバー紹介

昨10月から始まってはや11回目の開催ですが、開催日がだいたい月の第二週の金曜日で固定されているということもあり、個人的にもすっかり一カ月のスケジュールの中に「定期公演」は埋め込まれています。

会場もほぼ固定で、初回を除いて全て恵比寿CreAtoで統一されています。
ここの特徴の一つとして、ビデオジョッキー、いわゆる「VJ」があります。
ステージの後ろ、そしてその左右にあって少しだけせり出した背景一面はスクリーンになっており、定期公演ではVJ TONTONさんによって、曲の雰囲気に合わせてスクリーン上の映像が切り替わります。
この日開演前のVJが印象的だったので、本編に先立って少し書いてみます。

空がきれいなVJ


恐らく夕暮れ前をイメージしているのでしょうか。
青い空に白い雲、そして上から覆いかぶさるように赤紫色に染まった空が広がっていて、中央にはサンダルテレフォンのグループロゴが開演前のスクリーンに広がっていました。
現実にも、日が落ちる直前、空の色が絵の具のパレットで無造作にかき混ぜたような不思議な色合いを見せることがありますが、年に何度観られるかどうかの貴重な光景の再現をここに見せてくれているかのようです。

スクリーンには空のイメージが半分以上を占めているのですが、画面下に目を転じるとかすかにさざ波立った海が横たわっています。
海は幻想的な空の色を反射して空との境目をなくし、開演を待つこちらの居姿までも反映している鏡のようにも見えます。
海に浮かべた船に乗って遠くを望んだ視点、あるいは浜辺から眺めている視点なのでしょう。
あこがれるユートピアとは、朝夕問わずこんな景色がずっと続く世界かもしれません。

いつも開演前のVJは季節や時期を取り入れられて趣向が凝らされているのですが、この日はそうした、見とれてしまう美しさが際立っていました。

開演~独特の低音域~

ほどなくして19時30分。いよいよ開演の時刻です。

SE「Ready to Change」を出囃子に登場したサンダルテレフォンメンバーは、終わらない夜を告げるディスコナンバー「Magic All Night」でフロアを起こしてきました。

個人的には、前回定期公演には行けず、サンダルテレフォンを観るのは7/1開催の東名阪ツアー・東京公演ぶりだったため、始まるまでは不思議な緊張感があったのですが、いきなりの鮮烈なパフォーマンスで余計なことは頭から消え去りました。

伴奏の低音は強く、イヤホンを通すよりもはっきりと響いてきます。
この低音の響きはサンダルテレフォンのライブ特有、あるいはCreAtoで開催される定期公演特有といっていいほど目立って聴こえてきます。
低音のによって身体を揺らされる感触を少しずつ思い出してきました。

そのままなだれ込んだ2,3曲目は、赤と黒のバックに白の歌詞が次々と飛び出してくる「It’s Show Time!」と、ステージ背景が1stミニアルバムを想起させるような黄色一面に染められた「Step by Step」が並び、「Magic All Night」のノリ良いテンポ感をそのままに、目線を挙げて身体を動かしたくなる曲が並びました。

ところで、今年6月にリリースされた「It’s Show Time!」は定期公演のような長めのライブとなるとこの日のように1,2曲目という序盤も序盤に披露されることが多いです。
今夜も少し長くなりそう」と、ここから熱を帯びていくライブというショータイムへのスロープを作ってくれるこの曲は、確かに序盤に持ってくるにピッタリなのですが、仮に後半に置かれたらどう聴こえるのかとふと妄想してしまいました。

伴奏がむき出しになるオリジナル曲

続いて書き残しておきたいのが、MCを挟んで披露された4曲目の「Sleeping Beauty」です。

サンダルテレフォンは、「Sleeping Beauty」はじめ、これまで発表したオリジナル曲の多くを「リミックスバージョン」として再構築しており、持ち曲12曲の実に半分がリミックスバージョンへと生まれ変わっています。
これほど既存の曲に手が加わるというのは、他のアイドルではそうそうお見かけすることではありません。

リミックスは、伴奏の音要素や振り付け、フォーメーションなどががらりと変わることから、オリジナルでは見られなかった曲の新たな切り口を我々に提案してくれるという魅力があるのですが、こと「Sleeping Beauty」のメロディーに関してはリミックスよりもオリジナルの方に大きく分があるように感じます。
あと蛇足ですが「ワンダーランド」もオリジナルが圧倒的と思います。

しかしながら、最新EPに収録されていることもあってか、ここ最近のライブで「Sleeping Beauty」はリミックスバージョンの頻度が高く、あまりオリジナルを聴けていませんでした。

この日は、久々のオリジナルバージョンでした。
ライブに行く頻度が少ないせいもありますが、聴かなさ過ぎていつ以来に聴いたのかすらもよく覚えていません。

イントロでの目覚ましのアラーム音と、ベースの打ち破るような重低音はリミックスの装飾がないとむき出しになり、久しく聴いていなかっただけに新鮮に感じます。

ここでは、藤井エリカさんの歌声がよく聴こえました。
伴奏の余韻を残す重低音と、案外あっさりとしていて、しかし高音でしっかりと主張してくる藤井さんの歌声との相性はかなり良かったです。
歌声の出方も無理がなさそうで、藤井さんが気持ちよく出せる音域とちょうど合っている曲がこの「Sleeping Beauty」なのかもしれません。

続く5曲目が「コーリング」。
この二曲は伴奏の低音という共通点で結ばれます。
アンプを通り、スピーカーで増幅される伴奏の低音は、冷気の通り道と同じくフロアの床を伝って下から持ち上がってきました。
かたやメンバーの歌声は、先に書いた藤井さんの歌声しかり高めが目立ち、こちらは天井の方から降りてきます。
ステージとフロアの距離が近い会場の特性からくるものでしょうか、両極端な高低の音は、時間を置かずあっという間に混ざってこちらに届いてきました。

名曲カバー

中盤戦。
ここから実際のセットリストと取り上げる順番が少し前後してしまっています。

前回公演から、サンダルテレフォンは定期公演で新たな企画にチャレンジしています。
それが、年代をまたいだ「名曲カバー」企画です。
前回公演ではセーラームーンの「ムーンライト伝説」を全員で歌っていたのですが、この日は小町まいさんのソロ歌唱でした。

小町さんのソロコーナーは、東名阪ツアーでも用意されていました。
誕生日間近であった小町さんへのプレゼントとして一曲分設けられていて、この時小町さんは一旦捌けて衣装チェンジをしてから出てきたのですが、この日は衣装も変えず、他のメンバー3人が捌けてすぐ曲に移りました。

カバーしたのは、ドリカムの「大阪LOVER」でした。
数年前のオーディションの時にも歌ったということで思い出に触れ、「歌いながら泣きそうだった」と振り返っていました。

確かに思い入れは伝わってきましたし、それどころか緊張の色も濃く見え、「負けないで」を歌った前回と同じか、それ以上だったようにも思いました。

小町さんについて、これまでのライブで聴いてきた感覚を書いてみると、音をほとんど外さないという安定感に加え、音が発されたその場からふわっと消えてしまうかのような儚さを感じていました。
これは、ロングトーンを活かして空気の揺れをどこまでも残す夏芽ナツさんとは対照的で、だからこそサンダルテレフォンのボーカルには幅が生まれているのだと思います。

ところがこの日は、どこか違う印象を受けました。
その場ですぐに音が消えず、空気のかたまりが滞留しているような雰囲気がありました。
奥行きを感じる歌声は、夏芽さんのそれに近い印象です。

小町さんの歌声は安定していますが、とはいえ当人は先日21歳の誕生日を迎えたばかりと、今の地点で完成しきってはいないはずです。
それはさほど年齢の変わらない他のメンバーにも言えることですが。

変化の途中であり、歌声に他の色がついてくる余地はまだまだあるのではないでしょうか。
そんな途上での変化が、この日のいい意味での違和感を覚えさせていたのかもしれません。
なまじライブを観たのが久々だっただけに、いつも以上の違いに感じていたのでしょう。

それでいて、フレーズの出だしの音を少し詰まらせるという、小町さん特有の歌い方はしっかりと残っていました。

ここからは、他のメンバーについても触れてみます。

夏芽ナツさん

安定感で言うと、先述した夏芽ナツさんのロングトーンはいつも音量や響きが充実しており観るたびに満足させてくれます。
パフォーマンスを表現するときによく言われる「伸びやか」という点では、夏芽さんは他の誰よりもよく当てはまっています。
だからこそ、歌声を聴くたびにより大きな会場で浴びることができたらな、という欲求に似たものが増していきます。

藤井エリカさん

この日は、いつもより少しばかり前の立ち位置からライブを見ることができていたのですが、よく見え、かつ新たな気付きが大きかったのが藤井エリカさんでした。

カラーが入り、一部編み込みを入れて全体にウェーブがかった髪型の藤井さんは、一つ一つの動作の切り替えに力強さがありました。
振り付けそのものが特別大きいわけではないのですが、動きの区切りとともに音に身体をぶつけているように見えます。
半年前くらいのライブレポで、「サンダルテレフォンのメンバーはステージ上で大きく見える」と書いた記憶があるのですが、藤井さんはこの力強さによって見栄えの大きさを出しています。

普段ツイッターで観る姿は華奢なのに、ステージだとやけに大きく迫ってくるような感じがあるところが不思議というか面白いところです。

体幹の強さも垣間見えました。
序盤のある曲、4人で縦一列のフォーメーションをとったとき、先頭の夏芽さんと藤井さんとで立ち位置が被ってしまったようで、ほんの少しふらついていたのですが、それも分かるか分からないかという程度の微妙なふらつきにとどめていました。
隙間からちらっと見えた藤井さんの足は細く、こんな細さでよく体勢を保っているなと感心してしまいます。

西脇朱音さん

西脇朱音さんは指先が目を引きます。

ピンと張られているのですが、それ以上に反りがあってカーブを描いているように見え、長く綺麗に映ります。
藤井さんとは異なり、動作の大きさによってシルエットの輪郭を何重にも見せる西脇さんですが、手先という細かい点にも気を配っていることが分かります。

VJが展開する「かくれんぼ」の世界

セットリストに戻ります。
開演前から目に焼き付いていたVJでしたが、ライブ中盤のこの曲でも効果的に使われていました。

それが「かくれんぼ」。

時代変わらず、多くの人が何処かで感じるであろう「遠くに隠れてしまいたい」「出口もなく正解もない」憂鬱を、子供遊びの「かくれんぼ」になぞらえて歌った曲です。
意味深な歌詞とは裏腹に、振り付けにははないちもんめなどをして楽しげに遊ぶ動きが取り入れられています。

この日、背景のVJに注目すると、ABメロではオレンジ色に燃える夕焼けの映像が映し出され、夕方を告げるチャイムのような伴奏やメンバーの歌声とリンクしていました。
カラスの声まで聴こえてきそうです。
まさに「かくれんぼ」に連想される、のどかなイメージだったのですが、サビに入ると一転します。

時間軸は夕方から夜へと切り替わり、オフィスビルなどが立ち並ぶ都会の雰囲気が展開されました。
都会の人工的な光に照らされ、隠れる場所もない。
かくれんぼには不向きなシーンを出すことで、歌詞に見え隠れする居心地の悪さをここに示しているのかもしれません。
少し考えすぎかもしれませんが。

そして、ラスサビにかけては視点が急に上がり、夜空に光る星空のショットへと変わっていきました
そこまで抱えていた悩みすらもちっぽけなものだと包み込むような意味が含まれているのか、あるいは「丸い月も雲の隙間でかくれんぼ」という歌詞のイメージの表象なのかいろいろ考えを巡らせたくなりますが、ともかくゴミゴミとした街を抜け出した少しばかりの「救い」をここに感じます。

後半戦。

碧い鏡」「SYSTEMATIC」というシリアスな曲の並びは、メンバーの真剣な面ざしと表現によって世界観に説得力がもたされました。
「碧い鏡」でのBメロには、夏芽ナツさんのソロ「”特別”であること憧れて」(2番では「他ピント外れてしまったかのように」)があります。
ひたすらに繰り返される鍵盤音のような伴奏を下敷きにして、このパートでの夏芽さんの歌声はさえわたっていました。

そして、この日の最後には、サプライズ的に「Follow You Follow Me」のリミックスバージョンが披露され、第11回定期公演の幕が閉じました。

サンダルテレフォンのメンバーの視線はいつ見ても広く、フロアの端っこに立っている人でも、曲をあまり知らない人であってもライブに置いていくまいという意気が見えるようです。
初見の方の絶賛ツイートが次々飛び出すのもよくわかります。

次回の定期公演は、8月28日に誕生日を迎える夏芽ナツさんの生誕祭もかねて9月3日(金)に開催されます。

小町さんの生誕祭同様、ソロコーナーもあるそうです。
夏芽さんセレクトの一曲は、好きと公言しているハロプロの曲なのか、あるいはこれまでの他メンバー同様オーディションでかけたような思い出深い曲を披露するのか、チャレンジングな曲を歌うのか。
何がチョイスされるのかは全く見当つきませんが、楽しみに待ちたいと思います。

見出し画像:サンダルテレフォン公式ツイッター画像 (@sandaltelephone) を改変


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