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【ライブレポ】Gran☆Ciel 3rd one man live -Future-

昨年の12月頭に生まれた「 #しえる0129フルバンドワンマン 」というハッシュタグ、7人の後ろから聴こえてくる豪華な生バンドセットの音、そしてバンドの音を響かせるに不足ない、品川インターシティーホールという縦長の会場。
最後のMCで涙を流すメンバーもいました。
7人組アイドルグループ・「しえる」ことGran☆Cielが1月29日に開催した3rdワンマンライブ「Future」。


この日が特別な意味を持っているであろうことは、過去にグループを観たのが対バンのたった一度きりで、メンバーの顔と名前がいまだ完全には一致しない自分でも分かります。
天音七星さんのブログを読んで、開催が昨2022年の7月のワンマンライブで発表されたと知りました。
「不安だった」と解禁当初の思いを口にしたメンバーもいたように、大きな会場でのライブは必ずしも嬉しさが100%というわけではないと思います。
ちゃんと埋まるのだろうかという心もとなさや、半年間という長めの準備期間でモチベーションを維持する据わりの悪さなどとも付き合っていかなければならないはずです。
でも自分が観たのは、エピソードやここまでの道のりや思いというよりも、ステージで歌って踊る7人の姿。
これのみでした。
泣いてしまうほどの万感や、楽器隊とボーカルの呼吸から生まれる、これぞ生バントという自然な音の変化が伝わってこなかったわけではありません。
ただ、気づけば横をすり抜けていました。
余計なものは全てそぎ落とされ、あたかもすぐ目の前に7人だけが居るような感覚。
奥行きのある会場の後ろのほうにいたので視界がさえぎられることもありましたが、そんな障害も気にならなくなっていました。
しかも不思議なことに、そこには自分の意志が無かったような気がします。
首を伸ばし、目を凝らしてメンバーになんとか焦点を当てたのではなく、頭をガッと掴まれて視界を固定されているような感じでした。
いわば受け身の状態。
釘付けとよく言いますが、釘というより太いねじをインパクトで打ち付けられたかのようでした。
強い力が自分を抑えこみ、否応なしに集中”させられている”という感じです。
ステージ後方にはバンドマンが勢ぞろいしていました。
生バンドライブの時の常連メンバーで、そちらも見どころだったのでしょうが、7人以外には紗がかかってぼやけました。
楽しみにしていたキーボードの運指も追いかけることができません。

ここまでステージに集中させた見えない力とは何だったのでしょうか。
7人が作る動きは、7人であるからこそ綺麗に見えます。
例えば、連鎖する動き。
一番下手の誰かが腕をふわっと上げると、上手に向かって同じ動きが連なっていくシーンがこの日、何度もありました。
真綿が舞うような美しさです。
」ではワントップ3列の隊形をつくり、一番奥の二人がとりわけ大きな動きをみせます。
ダンサーが2人いるかのような感覚を覚えるのですが、他の5人が皆歌っているかというとそういうわけではなく、ソロ(ソリ)を歌うメンバーと、特に歌わず奥の2人ともまた違う動きをする3人という構成でした。
実に多彩な役割分担です。
4人や5人のグループなら実現しなかったでしょう。
誰かを極端に前に出すこともしないところは集団走っぽいのですが、ただ横に並んで走っているのではなく、7人で長い長い棒を抱えて走っているという印象を受けました。
端から連鎖していく振り付けは、誰か一人のタイミングのズレで不格好になってしまうでしょうし、誰かが欠けてしまうようなことがあったら、その穴にばかり目がいってしまうと思います。
連日ライブのあるライブアイドルにしては珍しく、なかなか勇気のいる魅せ方です。
連携が大切なフォーメーションで、覚えるのは相当苦労するだろうなと思ったものの、観ているだけだと非常に分かりやすいように感じました。
それぞれの姿が出来る限り重ならないような構成や移動となっていて、全員に等しくスポットライトが当たるようになっています。
その結果、非常に見やすくなっています。
何か分からないけれども複雑なことをやっている感じですごい、というのではなく、目の前で起こっていることを理解した上ですごい芸当をやっているなと思うわけです。

一方で、何をやっているかさっぱり分からなかったことがあります。
ダンスです。
細かいリズムで次の動作に移っていく速さが特徴なのですが、リズムが非常に取りづらい。
基本的に振り付けはメロディーや歌詞が出来た後に作られるものだと思うので、振りはメロディーの区切りや言葉の合間などちょうどいいところに合わせる形で当てられるものだと思っていたのですが、しえるの場合は必ずしもそうではなさそうでした。
ただ主旋律を追っているわけではなく、振り用の独自のメロディーを刻んでいるように見えます。
BPMが同じくらいの、まったく別の曲を下敷きにしたのかのようでした。
音にはないもう一曲がどこかで流れているかのようで、メンバーはよくこんな難しい振りを平気でやっているなと思ってしまいます。
音の数と動きがマッチしない振り付けの複雑さは、字余りにも似ていました。
振り付けのABCというよりもXYZと言えそうで、なかなか変則的です。

速くて独自のリズムを刻む一方で、無駄な動きは少ないという印象です。
ターンがさほど多用されるわけではありませんし、腕を上げて伸ばすありがちな動作も少なめです。
その動きが最も効果的に映る時を見計らって、ここぞというベストなタイミングで思い切りターンをするような印象でした。
1番では下手側でソロを歌っていたメンバーが、2番の同じパートを歌うときに上手にいる、なんていうシーンがありました。
センターというポジションは、対照的な立ち位置の折り目である一方で、歌詞の1番2番の鏡という面も持ち合わせていました。
速めの振りはついていけないほど目まぐるしいのですが、逆にテンポを落とした振りとなるとこれでもかというほどスケールが大きくなります。
近代風のダンスというより舞踊とかが近いかもしれません。
優雅な動きが、緻密なフォーメーションと繰り出すタイミングによってさらに鳥肌ものになります。
隅々まで計算しつくされた動作でした。

フリコピが得意なアイドルオタクであっても、しえるのそれは流石に真似できないだろうとフロア前方を観ていましたが、やはりフリコピの波は小さめでした。
グループカラーなのか、青一色のサイリウムが上下しているのみです。
分解して取り出してみれば、個々の動作は最高難度というほどでもないかもしれません。
しかしメロディーとは違うリズムの取り方と速さが加わると、格段に難解なものに変わります。
これまで単射のピストルしか知らなかった人が初めて機関銃に触れたらどうなるんだろうと、ふと頭をよぎりました。
これまで絶対的だとしていたものがいとも簡単にひっくり返るというパラダイムシフト的な体験をしたとき、どれほどの衝撃をうけるのでしょうか。
しえるのダンスを観た時、そんなことを考えていました。
自分の受ける感覚はもしかしたら、銃の画期的な発明を初めて観た人のそれと似ていたかもしれません。

ライブはその日来てくれたお客さんと一緒に作るものだから
アコースティックコーナーで、ギターの平田さんがこういいました。
ライブでの協同作業はいくつかあります。
コールや手拍子やシンガロング、それに加えてアイドルではフリコピ。
演者と動きをシンクロさせ、ある種のトランス状態に陥ったフロアを観たとき、第三者はこう感じます。
「一体感がものすごい」
ところがしえるは(全てではないですが)その逆を行っていました。
振り付けについて来させる気すらなさそうでした。
本気でついていこうと思ったら、前後左右にびっしりとイスが並べられたこの日の座席ではスペースが足りません。
それくらい激しいのですが、ただ面白いことに、一体感というかステージと繋がっている感覚がなくなったわけではありませんでした。
動きにはついていけなくとも、目線や意識はステージに吸い寄せられていきます。
自分が動けずじっとするしかないだけに、集中がさえていました。

1曲目「スタークラシック」や4曲目「」など、照明が抑えられて目の前が真っ暗になるシーンが何度かありました。
さすがにここでは見えなくなって意識が途切れるかと思いそうなものですが、むしろ逆でした。
見えないことでより興味が煽られます。
感覚が研ぎ澄まされ、姿を再び現したときにはより明確な像になりました。
そこには歌って踊る7人の姿しかありません。
気が付けば、頭を掴まれて固定させたような感覚がやってきていました。
2時間以上にわたるかなり長めのライブでしたが、爆音に近い音圧に押されながらもメンバーへの集中は一貫していました。

それ以外の情報はひとまず隅に追いやられ、背景と同化します。
不安混じりだったという思いを知るのはすべて披露し終えたあとのMCでしたし、くしゃくしゃになった模造紙を目にしたのは退場するときでした。
Future」を迎えるにあたって、メンバーは自作のポスターを作っていました。
主催対バン問わずライブの10秒撮影可能タイムの間にその模造紙を広げてアピールしていたのですが、無数のしわが折られて広げられてした回数を物語っていました。

グループを知ってライブに通っていけば背景知識が増え、何より情が移っていきます。
そうなったときに変わっていくのがライブの見方。
今まさにステージ上で起こっていることだけを眺めているように見えて、じつはその裏にある自らとそのグループのこれまでや、メンバーへの思いも乗っけて見通していくようになります。
「いいライブ」とは、パフォーマンスそのものの善し悪しだけでは語れません。
こちらの思い入れの深さも重要で、何も知らないより知っているほうが断然加算する項目も多くなる。
ずっとそう信じていたのですが、この日ひっくり返りました。
全くと言っていいほど思い入れが乏しいのに、よく見知ったグループの時と同じくらい心が震えてしまいました。

多分、この日のようなしっかりとしたホール会場ではなく、足場が荒れた岩場のようなところでのパフォーマンスだったとしても、目線や意識は変わらず持っていかれたと思います。
ある意味で装飾や環境を忘れさせる7人は、ホールのお膳立てが無くても関係ない気がしました。

ライブの開幕は、意外な場所から始まりました。
夢咲りりあさんが「スタークラシック」の冒頭を歌いながらゆっくりとした足取りで下手から出てきたのですが、足元はステージではありません。
傾斜のない平らな品川インターシティーホールの、S席と一般席の間にある広い通路でした。
夢咲さんが上手側に移ろうかというとき、他のメンバーがようやくステージに現れます。
成熟して凛とした歌声が、縦長のホール内に広がっていきます。
まさしく主役でした。
お客さんの間から視界を捉えたとき、スポットライトが光っているのが分かりました。
端までたどり着いた夢咲さんは6人に合流し、ほとんど暗転して全く顔が分からないステージへと入っていきます。

イスはアコースティックコーナーから出てきました。
単独では恒例行事のようですが、座って歌うのは初めてのようです。
「いつもは同期した音を聴きながら演奏してるけど」
いつもバックバンドメンバーとして帯同している、ギターのひらっちこと平田さんが言います。
ここでは一旦離れて、自由なその日のフィーリングでね
そういえば、7人はイヤモニを着けていないようでした。
それでいて、主旋律を全く無視したような難しいダンスが出来てしまうのだから驚きでしかありません。

余計なものは、ここでも捨てられていました。
緊張や硬さです。
アレンジしたJewel☆Ciel時代の曲を披露した7人は、それらと全く無縁に見えました。
隣同士で楽しそうに話したり、上体を大きく揺らしながらリズムに乗ったりと自由です。
緩やかな振り子時計のようでした。
望月希美奈さんはタンバリンを足に当てて音を出し、小林夢叶さんはマラカスを振っています。
見るからに楽しんでいました。
「皆さんもゆっくりとして...」天音さんの言う通り、こちらまでリラックスしてきます。
歌声だけが響く場面でこれほど落ち着いていられるのは、いわゆる場慣れというものなのでしょうか。
ギターの平田さんを見ると、大きく口を開けて子供に歌詞を覚えさせるような雰囲気で口ずさんでいました。
和やかな空気は、ここが700人キャパの会場だということを忘れさせます。
ごくごく小さな公民館で音合わせをしているのかと思ってしまいました。

ダンスに対し、7人の歌はざっくり言ってしまうとパワープレイ。
針に糸を通すような正確さが無いことはないのですが、自信を持って出されているからか音源との音やリズムのズレが新たなアレンジのように聴こえ、ミスという風には聞こえません。
音源通りに出すのもいいですが、今日は生バンド。
これもこれで良いなと思ってしまいます。

もう一人のギターとして三宅さんがバックバンドに入ってから、雰囲気はがらりと変わっていきました。
ほとんど一色のみだった照明が初めて赤と青の2色になった、「Future」でした。
この日のライブは、「Future」を中心に構成されていたのだと思います
ライブの表題であり、昨年リリースしたアルバムのリード曲でもあります。
上丘鈴華さんがフロアに気合を入れ直した直後。
頭上のモニターがつき、ステージの様子を映しだしたのもここからでした。
後から考えれば、ラストスパートに向けた最高のカンフル剤でした。

しかし、当時熱を感じたのはそうした情報が頭にあったからではなく、あくまで目の前のパフォーマンスからでしかありませんでした。
全ての楽器が同じ8ビートを刻む頭のフレーズと、それに合わせた腕の振りと足の踏み込み。
これを見たとき、その後の盛り上がりまで不思議と一気に想像できてしまいました。
明らかにこれまでと何かが違います。
実際フロアも、先ほどまでより揺れが大きくなっていました。
大切にされてきたであろうことは、これだけで察せました。
この半年足らずで数え切れないほど踏みしめられ、揺るぎなく固まった地盤の上だからここまで湧けるのでしょう。

ボーカルの声量はこのあたりから群を抜いた伸びを見せるようになりました。
牧野真琴さんは、後半のほうが声が出ているような気がします。

ただでさえ跳ねるような動きで目を引く濱田菜々さん。
Furture」の冒頭はセンターでした。

濱田さんが目立つところに行けばいくほど、よりステージがキレているように見えます。
ライブ配信のアーカイブが残っているのですが、それを頼りに書いてしまうとただの作業になってしまうとの思いから、記憶のみをたどってここまで書いてきました。

今ようやくアーカイブを観始めているのですが、はじめに書いた「別の曲の振りを当てているような/高速の振り付け」が当てはまりそうな曲は記憶ほど多くはありませんでした。
それどころかたった一曲、「Future」だけではないかとすら思うようになってきました。

他を差し置いてある一曲だけが強烈な印象を残し、その一曲がライブトータルの印象までも決めてしまうことはまれにありますが、その曲がライブの造り手がメインに据えたかったであろう「Future」だったことは、向こうの思惑通りだったのだろうなと思います。
ステージとの距離は遠く、メンバーと目を合わせることはおろか表情をくっきりと捉えることさえもできません。
振りコピで心を通わせることも難しかったにも関わらず、(推測ですが)意図通りに受け止めることができたのは、ステージがそこまでのみちのりを丁寧に導いてくれたからでした。

フロア発信の熱にも頼らず、計算しつくして出した答えを示してもらったライブは非常に清々しかったです。

もはやカバーと言えないほど何度も歌っているであろうベビレの名曲「夜明けBRAND NEW DAYS」のときも、しえるらしい細かいテンポがダンスに加わり、7人だからこそ生まれるフォーメーションと音の広がりを活かしたパフォーマンスでした。
初めて観た対バンで天音さんから6人が分身しているように見えると書いたのは、本編ラストの「この声」でした。
この日も綺麗な分身です。
ツインテールの望月希美奈さんの歌声の頼もしさに、遅まきながらここで気付きました。

ライブアイドルではほとんど恒例の終演後物販は、この日は無し。
身体を酷使するだけでなく頭を使うライブなので、この2時間半だけで余力も残せないほどボロボロになったであろうことが伺い知れます。

何もせず観ているだけなのにこれほど納得して心が動いたのは初めてで、何か新しいライブの見方を覚えたような気がしました。

次のワンマンは7月16日に現在建設中のZepp Shinjukuにてあるそうです。
再び重大ライブまで半年ほど空くこととなりました。
キャパは品川の倍以上。
そのころ自分はどの位置から眺めているのか、楽しみです。

M1. スタークラシック
M2. ひみつDIARY
M3. Do you love me?
M4. 雲
M5. Tomorrow
M6. 願いYou&I
(M7~9アコースティックコーナー)
M7. 蒼の向こう
M8. 明日へ!
M9. ナツオト
M10. キミと僕の蒼空(そら)
M11. 奇蹟はきっと My Days
M12. 情熱の分子が一度揺れたら
M13. ソレハキボウ
M14. Future
M15. 夢ガチャ☆
M16. Message!(2022ver.)
M17. short story
M18. 夜明け Brand New Days
M19. この声
En1. First Star
En2. つなぐ
En3. 虹



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