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【ライブレポ】KEYTALK 野郎ナイト~男祭り2024~

まず脱ぎ始めたのは八木氏からでした。
テキーラのショットをおかわりし、既にやや赤らんでいた顔がより深い赤に変わっていきます。
この日二杯目だったのは、すでに本編の「テキーラキラー」で飲んでいたからでした。
アンコールから着てきた「DANCE WITH YOU!」のTシャツ。
原文は「DANCE WITH ME?」とあるところを「ME?」を線で消して「YOU!」と同じ意味でもより強制的なニュアンスに変えたといういかにも男らしい、強いTシャツです。
黒のそのTシャツを脱ぎ、待ちきれないようにフロアにダイブ。
最も人で溢れているフロア中央に飛び込んでいくあたり、KEYTALKの明るさを裏付けてきた八木氏の陽の部分を感じます。

それを見て武正もワーッとさけびながら上裸に。
八木氏も武正も汗を上半身のいたるところに帯びています。
その武正は上手のほうに、下から崩れるようにしてフロアに落ちていきました。
両手を上げて崩れていくその姿を見て、なんだか懐かしい感覚がしました。
小さいころの、遊んでいる感覚。
身近な電子機器がテレビくらいだったころ、隣の市へいくことすら人生をかけた大冒険だったころに遊んでいた感じにどこか似ているところがあるなぁと思ったのです。
世界はスマホや携帯の中にはなく、自分の足で踏んだ土や雑草の上にのみありました。
コンクリートジャングルに取り囲まれ、首を前に出して鉄の石を凝視する日常ではもはや大きなエネルギーとともに自発的に動かなければ感ずることのできない、生の感覚です。
これだけの大人数と遊んだ経験なんてありませんが、皆で同じところを向き、ひたすら純粋によりひりひりするほうを追いかけていく瞬間のカタルシスを感じました。
肉体を通し、五感を媒介にして走り回っていたあの頃を思い出したのは、いつも以上に余計なものから解放され、いつもは燃えてくる実感のない少しばかりのヒリつきも生まれてくるくらいのひと時がこの1時間半にあったからなのだと思います。


2024年7月28日は、自分にとっては活動休止前最後となるKEYTALKのライブでした。
15分押しで入った下北沢ADRIFT。
照明は消毒用UVライトのような人工的な青い光がぼんやりと光っています。
開演も15分くらいずれ込み、いつしかふっと青い光が消えました。
綺麗な身の引き方です。

ほんの少しの間をあけ、大歓声が起こりました。
いつもは拍手半分声援半分くらいのこの”予感”の合図ですが、この日はADRIFTを膨張させるくらいの歓声が占めていました。
手を叩きながらも、それを声が圧倒していきます。
そして男の群れは前へ。
圧縮により、前はぎゅうぎゅうになる一方で後ろはそれなりの余裕ができ、明らかな疎と密の差が生まれていました。
そこから「物販」でメンバーが飛び出してくるまでの流れはあまりにいつも通りすぎて、実はこの当たり前もここ一カ月近くは貴重な光景になっていたことをすっかり忘れていました。

「お騒がせして。。。」
武正が神妙にしゃべりだすなんてことはもうありません。
音とともに真っ先に出てきたのが八木氏。
前に突っ込んでいくフロアとぶつかるようにやはりフロアの真ん中で、お立ち台から身体をよじって手をうんとのばしてここから飛び込もうという勢いです。
ついで武正と巨匠。
こわばっていない、自然な笑顔を久しぶりに見た気がします。
というか、これまで当たり前だった自撮りや仲良しな動画がここ最近一切止んでしまっていたので、メンバーを拝めるのがかなり恋しくなっていたところがあったのかもしれません。
「野郎ども、祭りを始めようぜ!」
セリフは定かではありませんが、我らが兄やん・巨匠がたきつけると、再びフロアが怒号のような声で応えます。

ハコワレサマー」前奏からアイドルの現場のように野太い「オイ!オイ!」が響いていました。
自分もここでリミッターを外しにいったところがあります。
後にキーを下げていたらしいと知ったのですが、テンションで半音分を上げて聴き取っていたのか、一切気付きませんでした。
かっこもつけなくていいし、遠慮もしなくていい。
頭を抑えつけていた何かの存在に、それが外れることで初めて気が付きました。
「oh oh~」
サビではフリコピよりも掛け声のほうが遥かに盛んでした。
そうか、ここのパートも一緒に声を出せるのかとこの日はいくつもの曲で何度も気付かされましたが、その一発目がここでした。
「ハコワレサマー」しかり、フロアの声援が加わって新たな形での完成をみた曲がこの日は多かったように思います。

照明はありったけの彩度とともにぎらぎらとフロアに照りつけ、そのたびに汗が噴き出してきます。
「お前らそんなペースで最後までいけんのか!」
巨匠の煽りをみなまで聴き終わる前に、声が地響きとともにあがりました。
男だらけの空間はそこまで強烈な匂いがあるわけでもないのですが、自分がそこにいても違和感のないような、いやに統一感のある匂いが広がっていて、それもまた居心地の良さを演出していました。

ドラムのかすかな助走から「wow wow~」と続く「ナンバーブレイン」もすさまじかった。
Aメロ直前のクラップでほとんど全員が両手を上げると、見やすいところにいたつもりが視界がかなり埋もれてしまいます。KEYTALKのライブではなかなか味わえない光景です。
ここからダイバー発生。
上は騎馬戦のような荒々しい、殴り合いの様相です。
下手側に居たのでよく見えた巨匠は、目をかっぴらいて前だけを向き、これまで見たことがないような表情をしていました。
合いの手の多さもしかり、「NB」は歌詞も口を大きく開けて発声するところが多いような気がします。
口を閉じる間もないというか、急こう配を転げ落ちるような加速度をもって突っ込んでいくこの曲はもはや、勢いがあると称するだけでは足りません。
初めは青だった照明は暖色系を照らしだし、サーモグラディーに明らかなグラデーションを描きました。

color」のラスト、「ラララ~」のところも当然みんなで大合唱だったのですが、たしかここで巨匠が真ん中のお立ち台の上から耳をこちらの傾け、イヤモニ越しに届く声援を確かめているように見えました。できることなら外したかったろうなと思いますが、リズム隊が欠けているだけにそこは規律に忠実でした。


MCでも男たちの熱は止まず、喉を通る水はなんとか冷たさを保っています。
「ぺーい!」上手のほうから聞こえてくると、武正が嬉しそうに振り返りました。
そうして「ぺーい!」の応酬となっていくのですが、フロアから発動のパターンは初めて見ました。
元気いっぱいの武正ですら押され気味です。
「フェスより声出てるんじゃね?」
300人未満でフェスを越えることができたと聞いて、なんだか嬉しくなります。

祭りやろう」の時だったかと思うのですが、暗転したフロアで巨匠がステージ上で「しゃーいくぞオラ!」みたいな声を上げていました。
フロアにというよりも楽器隊に向けてです。
もうテンションが斜め上に向いているのは明らかでした。
ここでも「ああ〜」の声が大きく、本来切なさと一緒にいるはずの曲の雰囲気が変わっていました。

はじめスモークだと思っていたのは、フロアから湧きだしてくる汗の上気したものだと気付いたのは5曲目の「アゲイン」あたりからでした。
やけに紗みたいなものがかかっているとおもったのですが、もちろんそこには本物のスモークや演出もあったのでしょうが、それぞれの身体から出てくる水分だったようです。
武正がギターのソロプレイをするたびにフロアはそちらのほうに動き、左右の人口密度が変わります。
汗は身体のあちこちを通り、腕はスコールに打たれたように濡れてきました。
タオルはほとんど使い物になりません。

ここから「もういっちょ」「ブザービーター」のブロックは、どこか懐かしさを覚えました。
KEYTALKが曲をリリースした時期のなつかしさというより、曲調の趣深さです。
古い書庫から引っ張り出した本についてまわるかび臭さは、刷りおろされた当初からついていたものではありません。
時代を下っていくにつれて次第にくっついてきたものだと思います。
かび臭さと同じに例えるとあまり聞こえは良くないかもしれませんが、一朝一夕には身につかない熟成の証拠だと思っていて、それに似たものをこれらの曲からも感じます。
音を長めにとることで個々の楽器を際立たせた曲のつくりが、主張と前進によってアピールする若さたっぷりの音とは対極をなしていて、そこがもしかしたら大股で余裕な感じを与えるのかもしれません。
もちろん叙情的な詞もあるでしょう。
浮かんでくる情景もどういうわけかセピア色です。

ライブに行きだしたのはせいぜいこの5,6年なので新しめの曲のほうが思い入れが深いのですが、大声と「灯りさす道を辿れば~」での特大のクラップに押される「もういっちょ」を聴いたとき、やっとこの曲が真の意味で日の目を浴びたような気がして、親心に似た感覚を覚えていました。
制限がないところで遊んで貰えてほんとうによかった。

「オムスター!」「サコ!」「タケ!」
今夜だけはビールでなくテキーラで乾いた喉に幸せを運んだ「Monday Traveller」のあと、じれたようにメンバーを呼ぶ声がありました。
「早く帰ってこい!」という声が飛んできたとき、3人ともニヤッとした気がしました。
一挙手一投足で浮いたり沈んでしまったりするこの頃、そんな表情を見るだけで安心してしまいます。

巨匠は「ちょっといいですか?」と急に切り出したかと思いきや、顔を急にゆがめました。
急に感慨深くなって泣きそうになったのかと思いきや、マイクを通して言いたかった下ネタを絞り出し、フロアからは大歓声。
八木氏はそういう言葉を覚えたての中学生よろしく、これまたどストレートな下ネタを発していました。
KEYTALK TVなどを見ていると4人が下ネタでキャッキャする様子があちこちで収められているのですが、そういう時の発信源は大抵八木氏で、応用して膨らませるのは大抵義勝でした。
彼がいたらもっと最低なオチがあったんだろうなと思うと、完全体での男祭りという未来をどうしても想像してしまいます。

マキシマム ザ シリカ」〜「グローブ」〜「ミッドナイトハイウェイ」は、時系列を入れ替えながら、少年から青年へと移り変わる様子を丁寧に映し出しています。
伸ばしたてのひらの先には、遠く遙か遠くおぼろげな光しかないかもしれないけど、その存在を信じてやまないからこそ今の僕がいる。

小さな小さなスタジオで4人のセッションから生まれた「orange and cool sounds」、音源からのうねるようなベースの音が何よりも明瞭に聞こえてきました。

Summer tail」にギターを持ち替えた「」。
さわやかな風は、汗をかいた肌をさらさらと通り抜け、気持ちよく乾かしてくれました。
音と音との間のブレイクが生まれる時、何かしらの音でまみれていたこれまでとは打って変わって静かになりました。
空調のモーター音しか聞こえないほどさざ波になるのですが、序盤の押しがあったからこそ引きがより目立ちました。
男祭りだからといって暴れる曲で固めるだけでなく、いつも通り多彩な曲をやって欲しいとはライブ前に願っていたことですが、期待通りでした。
勢いだけで走り続けるわけでなく、ときどき織り交ぜるゆるやかさが、より良い音にこだわったKEYTALKらしさを現しています。

「このハコにはこの酒があることを知ってるか!」
テキーラキラー」で再びフロアは揺れ出し、サビではクラップの花が咲きます。
ライブが始まってから武正は、終始穏やかな、とても満足そうな表情でフロアを眺めていましたが、このあたりからは目が細くなり、悟りを開いたような顔になっていました。
「テキーラキラーキラキラ」ツインボーカルを前提とした曲で息継ぎもままならない中、巨匠が天井を乱暴に見上げてマイクから離れることがありました。
ここはみんなに歌ってほしいというサインです。
全員でツインボーカルの一翼を担うことができました。
「グローブ」しかりこの曲しかり、この日はフロアからの声を求める場面がかなり多いように感じました。

不思議なものです。
やがて歓声は意味を持たない音に変わっていきました。
さっきまで一つ一つの野次がちゃんと聞きとれていたのに、あるときから漫画でよくみる擬音みたいなワーワーしか聞こえなくなりました。


あと2曲。あと2曲。
記憶のなかでは巨匠は何度も何度も唱えるようにライブの残りの灯がわずかなことを呟いていました。
感じ取ったフロアの空気が少しピンとしてきます。
ここで改めてマイクをとりました。

(意訳です)
「こういうことがあって、自分たちの曲を今まで以上に聴くようになった。」
「家でいつもは歌わないパートの練習していたんだけど、いつまでも時間を忘れて歌っていられた。そういうとき、やっぱり俺は歌が好きで、俺には歌しかないって改めて気付いた。」
歌に見出され、歌に憑りつかれた男の覚悟を見たように思います。
逃げられないし逃げようとも思わない。
多分彼なら、あらゆる可能性も模索しつつも歌とそれを表現することはやめないのかなと、こちらの勝手な解釈ではありますがほっと一安心しました。

ダイバーが出る「黄昏シンフォニー」を自分は初めて見ました。
駆け足のような八木氏のドラムが鳴り出します。
巨匠はダイバーのほうをみて笑いかけ、再びギタープレイに戻ります。
「始まる 始まる 今 今」掛け合いが自然発生し、綺麗な夕焼けがメンバーの背中に現れました。

「いつもはみんなの背中を押すつもりでこの曲を歌っているんだけど、今日だけは...!」
「今日だけは歌える人は歌って俺らの背中を押してほしい」
Oh! En! Ka!
気が付けばずっと握りこぶしを掲げていました。
「何度だってまたそこから立ち上がるんだ」
こんな”ド”のつくほど直球の応援歌ですが、これこそがKEYTALKの魅力だと思います。
「まだそんな青臭いの...」って言われても構わずストレートを信じて駆け抜けてきたから今の地位があると思うのです。
変にこねくり回すのは似つかわしくありません。
後で参戦した方のレポを読んだら、涙でぐしゃぐしゃになったひとが続出したとしりました。
自分もかなり琴線にくるところがありました。
基本的に感傷っぽくなることのなかったこの日のライブですが、唯一あるとすればみんなで歌ったこの曲でした。
巨匠の声は前半より苛烈さを増していき、耳が痛かったです。


「本当にこれで最後だからな!」
アンコールの「夕映えの街、今」はサビ歌いだしのライブバージョンではなく、音源通りの始まり方でした。
戦闘機が地面にのめり込むような暴力的な音はいつもより激しさを増しています。

印象的だったのは、巨匠がマイクをずっと離しませんでした。
「夕映え」でダイブしたあと、ぐちゃぐちゃになりながら「染められることもない~」とマイクをフロアに向け、みんなで合唱するのはお決まりの光景だと思っていました。
この日、あれだけフロアのコールやコーラスを求めていたのに、巨匠はそこでマイクを離しません。
むしろ口により密着させて歌っています。
歌うに絶好なパートであるにもかかわらず、です。
果たして、巨匠は最後まで一人で歌いきりました。
マイクにしがみついた執念。
暴れ出すフロアを眺めていた時に怖さを感じていましたが、それとはまた種類の違う怖さが生まれていました。

「ありがとうございました!」
喉が割れるような八木氏の絶叫。
はなさかじいさんのようにピックを投げて配っていた武正は、いよいよ投げるものがなくなったときくしゃくしゃに丸めたセトリ表やタオルなど投げられるあらゆるものを投げていました。

巨匠は「支えてくれてありがとう!」
「来てくれて」ありがとうではなく具体的な行動と相互作用をともにする「支えてくれて」からは、この場にいる全員がもれなくライブに加わった響きがありました。
共依存や共犯は、自分から求めるだけでなく相手から求められて初めて成り立つものだと思っています。
フロアから割れんばかりの声を送ることで巨匠やKEYTALKの添え木になることができていたのなら、これに勝るものはないでしょう。

はっきりとは確認できませんでしたが、武正の口数がしだいに減って感極まったような顔つきになっていました。
物を投げまくっていたのは、涙を誤魔化すためだったのかもしれません。

どういう状況であれ、現場にいくとネットとは別世界の印象を持つもので、物販に並んでいても開演を待っていても、9月以降への不安や心配のようなものを耳にすることも感じることもありませんでした。
アドリフトが歪むのではないかというほど暴れていたのも、満足な活動が見られないフラストレーションよりも、待ちに待った女人禁制の宴という感が強かったです。
もちろん自分もそうでしたし、メンバー3人もそう見えました。

帰るとき、フロア入り口のガラスが水滴で曇っていました。
指でなぞったら絵が描けるほどです。
光沢のあるドアや壁は男たちの手汗がついてべたついていて、決して外も涼しいわけではないのにフロアとの寒暖差がありました。
恐ろしいことです。
盛りのついた男を箱の中に200人超押し込めるとこうなるのかと半ば動物実験のような感覚も覚えながら、さっきまでの嘘のようなひと時を思い返していました。


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