【ライブレポ】うるトラすフェスタ vol.11
2023年1月14日、有楽町のヒューリックホール東京にて「うるトラすフェスタ vol.11」(うる祭)が開催されました。
以下16組の出演です。
夢アドやFragrant Drive、そしてぴるあぽなど好きだけれどもなかなか一緒になることのないグループが一堂に会するだけでなく、気になっていたけれど機会がなかったグループを観られる絶好の舞台でもあり、かなり楽しみにしていました。
今年の自分の目標は「知見を広げる」こと。
ものを書くにはその背景知識がなくてはいけないと痛感する日々です。
そのため、好きなグループ以外にも目を向けなければと思いながら今年は動き始めているのですが、「うる祭」もその一環でした。
観たのは一応全組。
昼過ぎに始まったトッパーの夢アドから最後のAKB48 研修生17期生まで、初見グループは半分以上ありましたが勉強と思って全て観てきました。
かなり楽しみにしていたシークレットシャノワールが体調不良によって出演キャンセルとなってしまったのは残念だったのですが、新たな発見あり、当初のイメージとのギャップありと7時間にわたる長丁場もさほど疲れず楽しかったです。
ただ全組に触れられるかというとそれは自分の筆力では到底無理なので、11組に絞って書けるところを思い出しながら書いてみます。
1.夢みるアドレセンス
13時にはじまったうる祭。
一番手は、いくつかある目当てのうちの一組、夢アドでした。
新メンバーとして昨2022年5月に6人が加入して8人体制となった夢アドのことは新体制お披露目ライブや周年ライブなどでちょこちょこと見てはいたのですが、歴代最多タイの人数になったことでライブの密度が高くなった印象を受けていました。
現体制の持ち曲は結成10年間で積み重なった数々の曲のうち勢いある曲を特に厳選してきたような感じで、曲単体の火力が強いため間違いなくフロアが湧きたつのですが、曲の良さだけに寄りかかっていないようにも思うのです。
そこが今の夢アドのすごいところです。
中でも歌声は目覚ましく、ほとんどのメンバーがアイドル未経験から入ったはずにもかかわらず、煽りや威勢だけでごまかさない芯を食った歌声を出していることに魅力を感じていました。
言ってしまえば、自分が観てきた範囲では今がいちばん歌が上手いと思っています。
観るたびにちょっとした感動も貰いながら、昔を多少なり知っているだけにまだまだ続いてほしいという応援の気持ちも抱きつつ眺めていました。
いくつものグループをみている現状ではありますが、歴史という点では一番の思い入れがあるグループかもしれません。
今回は自分にとってアットジャム以来のステージ。
夏ぶりということになります。
あのときとの違いを挙げるとするならば、(上から目線かもしれませんが)全体の底上げがなされたように感じました。
新メンバーという呼び方もよろしくないかもしれませんが、これまではパート割が比較的多い柊木まあやさん、最上真凪さんへと目が集中してしまうところがあったのですが、藤白れもんさん、櫻野ちひろさん、さらには安達玲奈さんなども以前より存在感を増していて、視線はあちこちを忙しく動き回ります。
非常にすらっとしていてどこか別の世界の人のようにも感じる関根奈々葉さんは、余裕のある笑顔が良かったです。
最上さんはMCの時に咳き込んだり多く水を飲んだりして調子が良さそうには見えませんでしたが、そのぶん柊木さんの声が良く響きました。
マイクへの音の乗りも良かったのかもしれません。
セットリストは「ステルス部会25:00」「舞いジェネ!」「アクセラレーター」「メロンソーダ」「17:30のアニメ」「ファンタスティックパレード」と、王道とも言えそうなスキの無い強い曲ぞろい。
ラストに披露されたファンタスティックパレードは、作詞作曲がKEYTALKの首藤義勝です。
この曲をきっかけにKEYTALKを知りました。
イントロが流れる時、思い出深い7年以上前の曲が今でも大切に歌われていることを実感して泣きそうになります。
広い会場でスペースが結構空いていたので、周りを気にすることなくフリコピをしているとたちまち暑くなり、先ほどまでの外気の寒さとの寒暖差でクラっとくるほどでした。
ここから7時間もあるから消耗を抑えるためにおとなしくしていようと思っていたのですが、流れてくるメロディーを受けて身体を動かすなというのが無理な話です。
照明が眩しく光っていました。
シークレットシャノワールのキャンセルにより、25分出番のところを30分枠となったこの日。
止まることがないライブを終えた8人は、約2時間後に控えた新宿での別ライブのために忙しそうに消えていきました。
2.HOT DOG CAT
3組目のFragrant Driveとイベントで一緒になる機会が多く、名前もよく聞きます。
一回くらい対バンで観たことがあったんじゃなかろうか...
そう思いながらメンバーを待っていました。
4人体制になって間もないですが、この日は3人の出演。
かりに以前観たことがあっても記憶が定かではないのは、当時の自分のフィルターには引っかからなかったということなのかもしれませんが、この日は違いました。
特筆したいのがフロアの乗せ方。
ハンバーグをこねてフライパンを振るう「遠距離ハンバーグ」の振り付けは今でも頭に残っていますし、ラストの「キラキラ☆ポジティブ」ではひずんだギターの音に乗り、バイクにまたがるかのような動きを見せることがありました。
いずれもパントマイムのような、歌詞が分からなくとも一目見て飲み込めてしまうキャッチーさがあり、眺めるも楽しいですし真似するも良し。
何よりすごいと思ったのは、フロアからのクラップや拍手などの拝借の仕方です。
ヴァースの裏拍や8ビートのクラップを煽るのがピカイチで上手かったです。
特にこれといった決めゼリフがあるわけでもありません。
執拗にクラップを促すわけでもありません。
それなのにクラップをしてしまいたくなる。
印象深かったのが、前のほうに席に座りながらもクラップし続けている方が沢山いたことでした。
「映画館みたい」とどこかのアイドルが表現した会場・ヒューリックホールは、固定式の柔らかいイスが設置され、角度のついた大きな会場です。
まさに映画館のよう。
基本的に7時間立ちっぱなしでライブを見てはいたものの、たまに座りながら観ていて気付いたことがありました。
座って観るとかなり集中力が削がれてしまいます。
居心地の良い柔らかいイスに一度腰かけてしまうと、副交感神経が優位になるのか、音を聴くというよりリラックスのほうが勝ってしまうのです。
リラックスモードに入ったが最後、次に立ち上がるまでは拍手やフリコピへの意識は薄れ、時間が過ぎるのを待つ状態。
逆に興味がなかろうと、予習でさほど惹かれなくとも、立ち上がって観さえすればほどよく緊張感が残って眠気は飛びます。
何にも分からなくとも、分からないなりに身体を動かして乗ろうとする姿勢さえあれば不思議なもので、退屈しきってしまうことはありません。
座りと立ち上がるのには思った以上の差がある。
これはちょっとした発見でした。
それだけに、。座っているのに乗るなんて結構難しいと思ったのですが、HOT DOG CATの時には座って眺めているだけのような人たちでさえも手を叩いてライブに参加しています。
自分のように、立ち上がってそれなりの関心を示す層だけではなく、ほとんど無関心に近いくらいの人達の心を掴んでいたのは見事というほかにありませんでした。
この客層が全て立ち上がるようになれば、その頃にはもうHOT DOG CATは界隈を飛び越えた人気グループになっているのだろうなと思います。
3.Fragrant Drive
両手を頭上に伸ばし、輪の中心に向かってそれぞれの手を重ねる、例えるなら開く前の花びらのような最初のフォーメーションをみて「恋花」だと分かるのが少し遅れました。
見知った前体制・5人の時と比べると、7人もいる現体制では輪の径が大きくなってより花感が出ます。
知り出した頃から今までの年数を歴史と捉えて感情移入するのが夢アドであれば、その点での歴は浅くとも一時期のライブに通った回数が思い入れの深さに変換されるのが、自分にとってのFragrant Driveです。
現体制となってからは片手で数えられるほどしかライブに行っていませんが、通っていた時期は間違いなくあるわけで、興味が薄れたわけでもありません。
ただ、現場での反射神経のようなものは正直でした。
「恋花」の導入を一瞬迷ったところに、大きなブランクが現れています。
2018年末の結成からこれまで、衣装の色は全てグループカラーの赤系だったFragrant Drive。
昨2022年の秋に開催された東名阪ツアーのファイナル・O-crest公演からお披露目された新衣装は、これまでの伝統をひっくり返すかのように真っ白なものに変わりました。
代表曲「胸の奥のVermillion」の「Vermillion」とは朱色のこと。
太古の昔にはバーミリオン顔料として神聖な壁画などに重用されていたものの、硫化水銀からなるこの顔料は超有毒でした。
知らずに多用した末に、発生するガスで中毒患者が続出したといういわくつきのこの朱色が曲名に入っているのは、文字通り観る者を”中毒”にしてしまおうという意図も含まれているのかなと思っているのですが、グループを象徴する赤色を新衣装では一切排除しています。
前身グループやかつて同レーベルだったグループの曲を継承して歴史を受け継ぐ面を見せつつも、一方ではグループカラーをバッサリ切ったのは、そこにネガティブな意図は無かったにせよどこかで”何かを変えないと”と託すような思いがあったのでしょうか。
ともあれ初めて観たその白衣装はしかし、思っていた以上にしっくりきていました。
膨張色たる赤が抜かれて、透明感を超えて弱弱しい印象になるのかと思いきやそういうわけでもなく、むしろ肩から下の手や腕の動きが見やすくなった等の利点のほうが多そうです。
以前見た昨2022年のアットジャムEXPOで見せた、7人が曲の合間に甘い言葉を投げかける演出を見て、現体制ではかなり可愛い方向にシフトしているように思ったのですが、この日は可愛さよりもひたすら釘付けにするようなセットリストとパフォーマンスでした。
あくまで個人的に、と書きますが、これこそがFragrant Driveの真骨頂であると感じます。
「恋花」「胸の奥のVermillion」でグループの根っこを示し、「Let it flow」で流れるままに揺蕩うしなやかさを、「好きだ!」で4ビートに合わせて練られた分かりやすい振り付けでキャッチーさを、30分ライブで疲れてくる後半にもかかわらず畳みかけるような「Growing Up!」「Saty Gold」ではびくともしない幹の太さを見せつける。
ろくに行っていない自分が知ったような口で言えるものではもはやありませんが、見届けたかったライブの完成形であり、他の人にぜひ見てほしいと強く推薦したくなる構成でした。
かりに自分がこの日初めてFragrant Driveを見る身だったらと考えてみましたが、前段階も何も知らなくとも恐らく好きになっていたことと思います。
センターの立ち位置が多めで、歌割も多い千代田流季さんを中心にライブは動いていきました。
首を直前まで残して、かつターンを早めることで頭ごと持っていかれるように見せる動きは圧倒的で、首の切り方、回転数、力強さなどは素人でも伝わってきます。
与えられた居場所ではなく勝ち取った勲章であり、中枢を担っているという心意気も千代田さんからは伝わってきますが、夢アド同様個人軍にはなっていないところも特筆すべきところでしょう。
「恋花」での、普段を見ていないのでどのパートかは忘れてしまいましたが、乃上恋々さんが下手側に来たとき。
乃上さんの上半身の動きは、ほぼ毎回のライブでかかっていた前体制ではお目にかかったことのない、新たな動作でした。
体制が変わってからといってダンスにアレンジが特別加わったわけではないと思うのですが、それなのに新鮮に見えたのは、振りそのものではなく次の動作に移るまでの繋ぎ方に一工夫加えたのかもしれません。
三丸結愛さんの声は、広がりを持つというより一本の線のようです。
線のような歌声というと、どうしてもテグスのような細くて遠くからだとほとんどそれと分からないものを思い浮かべがちなのですが、三丸さんのそれはかなり太めの線です。
もしかしたら他のメンバー以上にライブで改良を重ねてきた、音楽ジャンルでいうところの”エクスペリメンタル”が似合いそうな片桐みほさん。
観るたびにフロアとのやりとりや発生の仕方、目に見える動きなどが違うのですが、この日もそうでした。
自分が見ていないこの数カ月にも、毎日ずっと研鑽を続けてきたのだろうなと思うと胸に来るところがあります。
全体通して流れとして素晴らしかったのが、「Growing Up!」からラスト「Stay Gold」。
「うまくできなくても明日になればできるさ」という「Growing Up!」の歌詞は、これといった出来事がなくとも自分に説かれているように思いながら聞いていました。
久しく曲を聴いていなかったので分かりませんでしたが、この曲には7人が輪になって、あたかも楽しそうに話しているように見えるシーンがあるようです。
ここでは、Twitterなどを見ているだけでも伝わるメンバーの仲の良さが詰め込まれているように思いました。
楽しさが余ったのか片桐さんは、もはや目をつぶって心地よさそうにしています。
ストリングスの音から急にせわしくなる「Saty Gold」、千代田さんが気持ち早めに歌うシーンがありました。
2番頭、「過ぎ去りし日々と追憶」の「追憶」というフレーズです。
譜割りより前のめりのリズムで歌っていたのですが、恐らく誤って突っ込んだテンポになってしまったのではなく、あえて走り気味にしたのだろうなという気がしました。
聞きなじみないリズムを耳にした違和感よりも、急流に乗ったような爽快な感覚のほうがよほど強かったです。
4.君とセレンディピティ
「偶然の素敵な出会い」という意味の「セレンディピティ」を初めて目にしたのはどこかの総説だったと思います。
世の偉大な発見はすべからく(とまでは言わないまでも多くは)初めから予期されたものではなくセレンディピティから生まれているという話で、例を挙げてみればペニシリンの発見や強化ガラスの開発など、求める結果どころか失敗かと思ったところに思わぬ幸運が潜んでいる。
しかしそれは狙って得られるものではなく、日々たゆまぬ実験を繰り返す根気と、セレンディピティをきっかけとなり得るほこり一本ほどのわずかな違和感を掴み取る観察眼みたいなものを養わないと決して得られないのだと、たしかそんな内容だったかと思います。
2022年10月にデビューしたばかりの「君セレ」こと「君とセレンディピティ」は、かつて聞いたことのあるそのフレーズが引っかかってデビュー当初から注目していました。
キャッチフレーズは「この出会いが幸せな未来になりますように」
日々新たなグループがどこかで誕生しては知らないところでひっそり幕を閉じ...を繰り返すアイドル界で、誰のリツイートでまわってきたのかは分かりませんが君セレのことを知れたというのも一つのセレンディピティなのかもしれません。
薄いピンクとも茶色とも取れそうなメンバー5人は、常に落ち着いているように見えました。
あまり曲の情報が出ておらず、記憶もぼやけているのですが、ともかく不快さが一切ありませんでした。
強いインパクトを刻み込まれるわけではありません。
やや引き潮からのスタートです。
しかし、ステージが進むにつれて時間差で良いなとじわじわ実感していく。
平均値より最大瞬間風速で突き抜けたもの勝ちという、タイパ重視の昨今の流れでいえば損することもあるのかなとは思うのですが、この日の25分枠のような長い時間で見れば、浄化されるようなステージにマイナスな感情を抱くということはまずないはずです。
気持ちのいい音楽と、ハード過ぎない動きは初見のイメージ通りでしたが、それにしても新人っぽさが見当たらないことには驚いてしまいます。
ある曲のラストで腰に手を置いてポーズを決めるシーンはやけに絵になっていて、最近は結成間もないとは思えないほどクオリティの高いグループは多いけれどそれにしても...という思いでした。
「何かの偶然でお会いした皆さんと素敵な時間を過ごせたらなと思います」とグループ名を印象付けるようなコメントを挟みながらのMCも手慣れていて、ここから2曲は撮影可能曲ですと告げたときには誰かが「半目を撮らないでね(笑)」と笑いをとってみたり、初披露の新曲を持ってきましたと言ったときにも緊張している素振りがまったくありません。
確か「君といつまでも」というその曲は共感性が高く、ファンの方のみならずメンバー5人の関係にも通じることがあるのだといいます。
その5人の関係性に触れたMCではアイドル界いち仲が良いグループと言っていました。
仲良しな芸人コンビやトリオが最近目立ってきたように、グループアイドルでも仲良しどうしの集まりというのが主流になっているのかもしれません。
5.Gran☆Ciel
イメージとはこんなに浅はかなものだったのかと実感しました。
名前だけは結構耳にする機会が多いグループです。
Luce Twinkle Wink☆やAnge☆Reveなどが所属し、かつては(で合っているでしょうか)愛乙女☆DOLLもいた老舗のアイドルレーベル「ArcJewel」に籍を置くグループ。
「えーじぇー」などと言われるその一大勢力は他グループとの関わりも深く、自分が見ていた中で言えば、既に解散してしまった転校少女*ともよく対バンやコラボステージを行っていたり、グループではありませんがFragrant DriveのプロデューサーがAnge☆Reveの楽曲制作に携わっているなどSNSでも何かと見聞きします。
中でもGran☆Cielは、かつて所属していた安藤笑さんが元転校少女*の塩川莉世さんに顔が似ていて公私でも仲が良いことから、しょっちゅう一緒になっているイメージでした。
ただ自分にとっては全くの初見。
どうやらベビレの「夜明けBRAND NEW DAYS」をカバーしているということだけはどこかで聞いていて、解散直前の転校少女*が進めていた往年の名曲カバー「LOVE IDOL PROJECT」を思い出していたのですが、それ以外にさほど前知識を蓄えてきたわけでもありません。
予習も他のうる祭出演者に比べたらしていないに等しいほどだったのですが、というのも音源を聴きこまなくともこのグループのカラーはなんとなく分かるような気がしたのでした。
恐らく聴かせるような楽曲でエモーショナルなステージなのだろうと。
転校少女*との対バンでのファンの感想ツイートなどからそう読み取っていたのですが、エモーショナルを売りにする転校少女*ともステージの魅せ方が似ているから同じステージに立っても喧嘩せずコラボステージも実現し、ファン層も互いに重なるのだろうと勝手に想像を膨らませていたわけです。
いわば、全く見たこともないのに知った気になってしまっている。
好きなグループとイベントで重なることが多いのに今まで素通りしていたことも含め、中途半端に目にしていることが新鮮味を失わせていました。
先ほどの君セレではありませんが、思いもよらないところでの事故的な出会いから好きになっていくというパターンがアイドルでは多いです。
この間行ったバンドのフェスではHump Backのボーカルが「ライブっていうのは恋愛と一緒や」とセレンディピティ的な偶然の必然を語っていましたが、そうしたときめきも追いかける要素としては大切だったりします。
「しえる」でそれを起こすには、あまりに目に触れすぎました。
自分が好きなのはまさにエモーショナルなステージのグループです。
恐らく似たような性質のGran☆Ciel(当時はJewel☆Cielでした)も好きになる素地はありました。
ただ既にそうしたグループは転校少女*含めいくつか見ていて、改めて追いかけるキャパシティなどどこにもありませんでした。
「気が向いたら見れるから」という消極的な姿勢に変わってしまうとなかなかライブに足が向かいません。
正直なところ、当分観ることは無いだろうなと思っていました。
実際、転校少女*解散後はSNSで見る機会も少なくなり、埋もれかけていたのですがうる祭によってようやく叶ったという、長々としましたがこれが経緯です。
さてようやく目にした生の「しえる」、一言でいえば想像以上でした。
ロングスカートを巻き上げんばかりの身体を大きく使ったダンスに、パーカッションの音とともに遠くから足音が聞こえてクライマックスに向かっていくというベビレの曲を連想するメロディーは、エモーショナルという言葉で括ってしまって間違いではないと思います。
間違いではないのですが、ただエモーショナルと雑に言っても軟弱なものではなく、そこかしこに剛健さも感じました。
これは想像した範囲を遥かに超えていきます。
振り付けは細かい16ビートのリズムからなるものが多く、初見だと目が追いつきません。
細かくして速さも求められる振りなのに7人の動きは揃っていますし、それに加えて挙げたいのが群舞へのこだわり。
縦にぴったり連なった7人が、先頭の天音七星さんが横に動いていくごとに一人ずつずれていき、最終的には扇子が開くように全員が横に並ぶという一連の流れはあまりも綺麗に重なりすぎていて、天音さんが分身しているかのように見えました。
バレエを踊っているようなゆったりとした動きもまた魅力です。
失礼ながらもっと小さくまとまっているイメージを勝手に描いていた自分は大いに裏切られました。
転校少女*の持ち味が重厚なボーカルワークだとすれば、しえるのそれはこだわりぬいたフォーメーションと糸を引くようなダンスとでも言いましょうか。
動作は決してゆっくりではなく、むしろ16ビートメインと速いのにも関わらず、丁寧だという印象が絶えずありました。
1月29日にワンマンライブ「Future」を全編生バンドセットで開催します。
この日は特に魅力的なライブがあちこちで行われる中、そのどれもをすり抜けるようにArcJewelの無料会員に登録してチケットを取っている自分がいました。
少しは他との天秤にかけたものの、行くべきだろうという声がどこからか聞こえてきた気がしました。
偶然の出会いではなくとも、気になってきたときにちょうど目の前に重大なライブがぶら下がっているというのもまたセレンディピティだと思います。
それをきっかけに好きになっていったグループはいくつもありました。
まだメンバーの顔と名前も、曲もあまり入っていません。
でも、「何かが起こるだろう」という期待感だけはあります。
何事も、知りたてのころが一番楽しい。
こうして始まっていくのかもしれないというときめきだけで動くのは久々で、今から非常に楽しみです。
6.Shibu3 project
目に飛び込んでくる鮮やかな赤は、人数が多いだけにより膨大な情報量です。
中学生のメンバーもいると聞いて、年齢差に愕然としたのですが、何十人も抱えるshibu3projectで挙げるとすればやはり他よりも分厚い人数ということになるでしょう。
それがいい方に作用しているなと思ったのが「PPP」。
シンセやパーカッションの音がかわるがわる登場し、それらの高めの音とメンバーの多さから来るナチュラルな音ブレが共鳴していて気持ちよく、周りを立派な囲いで覆われたような頼もしさを覚えました。
根っこにあるのは応援歌。
意図通り前向きになるのは、他でもなく大所帯のshibu3projectだからこそなのだろうと思います。
ラストの曲を誰かが「マテリアルガール」というのを聞いて、タイトルに聞き覚えがあるなと思ったら自分の知っている曲でした。
プラチナムプロダクションの先輩グループ・PASSPO☆の「マテリアルgirl」です。
転校少女*の「LOVE IDOL PROJECT」でもカバーされた曲ですが、ぱすぽと言えばこれ、という曲は他にも沢山あるはずなのに「マテガ」がやけにカバーされるのはなにか理由でもあるのでしょうか。
もとはロックな曲でも、ついてまわるその重さを感じさせず、どこか楽々とパフォーマンスしているようなメンバーを眺めながら、未だ残る平成の平成のいい匂いを感じていました。
7.アルテミスの翼
一見するとフリルのついた、いかにもアイドルっぽいミニスカートの衣装。
しかし「アルツバ」をそこから受ける第一印象だけで決めつけてしまうと見るものも見られないような気がします。
志向するのは、そのフリルをターンによって吹き飛ばしてしまいそうなロック調の激しいサウンドです。
圧巻だったのが、「Proud of」「Lock on」のラスト2曲でした。
予習していた時に自分のアンテナが立った2曲でもあります。
荒んだ感じが素晴らしいなと思ったのがアクエリアス・イオリさん。
フロアにクラップや手を挙げるよう求めるのですが、その煽りからはまるでロックフェスに来たと錯覚させられるほど達者でした。
「次は手を挙げてみよっか」「今度はクラップいこうか」
友達に促すような、実にフランクな言い回しを早口で語っています。
ピンボーカル用の、小高い台さえあったらそこに立ちっぱなしで独擅場になっていたのではなかろうかいうほど支配していました。
「Lock on」は「Rock on」とも言い換えられそうな、イントロでの腿上げのごとく足を上下させながら手を顔の横で振るダンスなど動きの多い曲です。
「提供された幻想 訴えるような残像を」から始まる歌詞も、荒廃とした空気の中、一心で狙いを定める様子が伺えてなるほどまるで獣狩りのような曲だと思ったら2番に入るところで一変。
「このキモチ気付いてないはずないでしょ? もう2,3秒で Luv Luv Luv Luvが暴走」など、誰か特定の相手を思わせるような歌詞になり、そういう意味でのlock onなのかと面食らうのですが、それでもサウンドは絶えず暴力的なわけで、アイドルだからそうした歌詞を書いてアイドルらしさを味付けしている程度に過ぎないと思います。
サビに入るとき、「ぶっこんで(ぶっ飛んで)」とほとんど叫ぶように放つシーンがあるのですが、イオリさんの喉をつぶした発声は曲から描くイメージそのままでした。
アイドルっぽさはここでは不要です。
「ぶ」の音に全体重を預け、予想だにしない音を出してこそです。
アルツバは以前に見たときも良いなと思っていたのですが、先に書いた4,5曲目の雰囲気が本線ならば、またライブに行ってみたいと思いました。
8.月に足跡を残した6人の少女達は一体何を見たのか…
この日一番の衝撃でした。
9組目に出演の、通称「ツキアト」。
蓄光素材からできているのか、衣装の胸元の模様が暗がりでオレンジ色に光る中、「声を上げろ」で始まったライブは、洪水のように注ぎ込まれる歌声に圧倒されました。
葵音琴さんを筆頭に声量がたくましく、比較的マイクの乗りが良かったこの日のPAを差し引いても強い音圧。
思わずのけぞってしまいます。
それに加えて忠実にメロディーをなぞる正確さもありました。
「夜に目が合った月に恋をしかけたよ」から「また弱気になりそうでも負けない...」への流れでは時空がゆがんだように足元がぐらつき、ただごとでは無さそうな緊張感が一瞬走ります。
半拍置いて息を吸う音が聞こえたかと思えば、サビの「声を上げろ」とキーメロディーが流れだし、とめどなく音が押し寄せてきます。
サビに入っていくこの展開は、もはやアイドルソングとは思えないような起伏にあふれていました。
「その声を頼りに進むんだ」指さしながら上手、下手の隊列をメンバーが入れ替わるとき、声の出所である早崎優奈さんは投げつけるような声でありながら、表情には若干の笑顔がこぼれていました。
進んでいく道が間違いであるはずがないという、自信しかない笑顔です。
「声を上げろ」サビの途中で再度出てくるこのフレーズはセリフ調で、誰かが口にした後6人は「wow~」と咆哮のロングトーン。
身をかがめて全く動かない人もいました。
そうして出された音は限りある魂を削りながら生み出された産物です。
一日に何度も披露はできないでしょう。
照明も相当な盛り上がりで、この日一番の光量はどこかの曲で葵さんがソロを歌った時のピンク一色のライティングの時でした。
白黒に明滅したり、そのスパンの速さでブラウン管のような緑がかった光がメンバーに掛かっているように見えることもありました。
ベースのひずんだ音で、底からふつふつと湧いてくるのが「エンドレスラビリンス」。
「過去も今も未来さえ...」でのピアノの音、スポットでのファルセットは非常に美しいです。
雑に包んでしまえば、実に暗部が似合うグループだとも言えそうなのですが、ツキアトは必ずしもそこだけを売りにしているわけではありません。
映し出されたシルエットに見る美しさもさることながら、幅広く受け入れられる親しみやすさ、普遍性をも持ち合わせているように思うのです。
定期的に開催されているこのうる祭は、大本がプラチナムなのか、他の顔ぶれが変わってもツキアトはじめテラス×テラス、ぴるあぽやShibu3projectなど、プラチナム所属のグループは毎度のごとく出演しています。
ダークなツキアトの後ににぎやかで王道路線のテラテラを持ってくるというタイムテーブルの配置は、2組で中和をはかったのかもしれませんが、ツキアトにとってはホームグラウンドなわけです。
タイムテーブルの真ん中、夕方の人も集まりやすいホットスポットということで、このあたりから人が増えだしたのも実感しました。
人気ぶりを始まる前から思い知りながら、紫色のサイリウムがあちこちに点在する中ライブを見ていましたが、25分間を通してここまで人気になる理由が分かった気がします。
アングラも突き詰めていけば近寄りがたいニッチなものにならざるを得ない、というのが常なのかもしれません。
しかし、暗部に光を徹底して当てながらも、ツキアトは親しみやすさも失くしていません。
展開が暗くて重くとも、最終的にはアイドルの曲として枠内に収まっている。
この枠を誰が決めたのか、そもそもあるべきなのかという話は置いておいて、ゾーンを外れずにこのライブを完成させているのが素晴らしいのだと思います。
9.iLIFE!
笑いの取り方のパターンとして、一つに「共感」が挙げられます。
いわゆるあるあるネタです。
表現の仕方は様々で、面白おかしくいじることなのか、ツッコミのワードに使うのか、はたまた悪口としてストレートにぶつけるのかは芸人それぞれだと思うのですが、その震源地には多くの人が共通して持っているであろう考えや認識があるはずです。
(それを思えば、自分は時として評価が対照的に語られる2019年のM1チャンプも2022年のチャンプも原理的には同じことだと思っているのですがどうでしょうか。)
皆が心の底で思っていることを板の上でうまい事料理してもらうことで、時に連帯感、ときに言いたいことをよくぞ言ってくれたという爽快感などから笑いにつながる。
ところが、これはお笑い限定の法則ではありませんでした。
音楽ライブにも共感からくる一体感が存在するのだとここで知ったのです。
2020年にデビュー、TikTokを発端にアイドルオタクのみならず若者文化として爆発的な人気を呼んでいる7人組グループ・iLIFE!のことを、自分は不勉強であまり知りませんでした。
それまで全く聞かなかったのにある時から急に話題にのぼりはじめ、気が付けばフェスや対バンでも常にメインを張っていたという感覚です。
ふるっぱーと同じようにすい星のごとく現れ、あれよあれよという間にライブアイドルシーンの中核に登りつめているのをかなり遠くから眺めていました。
この日は初めて目にしたわけですが、登場前のフロアの様子を観ているだけで令和新時代の足音は伝わってきました。
ツキアトの出番から人は増え始めたものの、どのグループの時もそこのファンだけが立ち上がって応援するような感じで、依然として着席率は高かったです。
もっと言えば人数が増えだしたといっても広いヒューリックホールのこと、まだ満席にはほど遠く、前後左右に十分なスペースはセンター付近にも見つけることが出来ました。
このまま最後まで行くのかと思いきや、流れを変えたのがiLIFE!でした。
登場直前、いつのまにかじわじわと増え始めたお客さんで中央部分の席は埋まりはじめ、うる”トラ”すフェスタということにちなみ、タイガースのユニフォームを着てメンバーが出てくるころにはそのほとんどの方が立ち上がっていました。
体感8割くらいは初めから立っています。
こんな光景は今までの6時間弱で一度もありませんでした。
自分のように「人気だしとりあえず」という薄い層も少なからずいたはずです。
だとしても始まる前からこんなに立っているものなのか。
カルチャーショックを受けた気分でした。
自分が知っているのは「アイドルライフスターターパック」この一曲のみ。
ライブアイドルの世界では曲やライブの型が大方似通っていて、それに合わせたコールもよくも悪くも通り一遍です。
だからこそ、特にコロナ前であれば全く知らないアイドルのステージでも、型どおりに声を出して盛り上がっておけばある程度はついていけるし会場も暖まるという利点はあるのですが...
コールの種類も特に2016年以降は多岐にわたってかつ細分化されていき、いわゆる「mix」も○○mixなど亜流が次々と生まれるようになったそうなのですが、そのあたりは自分はよくわかりません。
それでも「タイガーファイヤー」に始まるオーソドックスなmixやBメロでのオーイングなど基本的なものは今でも決して廃れていませんし、コロナで発動する機会が減ったとはいえ自分の身体にもしっかりしみ込んでいます。
意味の分からない言葉を叫ぶコールやmixは、ある程度アイドルオタクを経験してきた人であれば誰しもが持っている共通言語とでもいうべきものなのでしょう。
そんなオタク誰しもがかかえる共通言語を曲中に入れてしまった曲こそ「アイドルライフスターターパック」でした。
声出しが増えてきたここ最近は、失われた3年弱を取り戻すかのようにアイドル・運営が率先して予習動画などを上げてコールを促すようになってきましたが(コールなどは自然と生まれるものだと思っている自分はこの流れが大嫌いですが)、そうではなく音源の中に「虎、火、人造繊維...」などのコールが曲の一部として入ってしまっているのです。
型式通りの展開へのツッコミやライブあるあるを歌詞に入れながら、絶対どこかで聴いた覚えしかなさそうなメロディに、本来オタク発信のコールやmixを入れてしまう。
メロディはそれこそコールが発動しやすそうな典型的なアイドルソング。
正直掃いて捨てるほどライブハウスに溢れているメロディや展開ですが、はっきり言えばメロディの美しさなどここでは関係がないのでしょう。
むしろ、うんざりするほどありきたりだからこそ効くのです。
手垢のつきまくった曲調だからこそ多くの人に「あるよねこの感じ」と思わせてしまう。
長年ライブアイドルに浸かっている人ならばにやけながらうなづいてしまうでしょうし、逆にコロナ禍からアイドルにハマった方は、歌詞をなぞるように曲中のコールさえマスターしてしまえば、iLIFE!だけでなく他の大抵のライブアイドルでも通用する一人前の乗り方を手に入れられてしまいます。
まさにアイドルを始めるに必要十分な「スターターキット」がこの曲なのでした。
発明としか言いようがありませんし、一時のバズりを画策する他グループの制作側からしたら「やられた!」と思ったに違いありません。
YouTubeのMV再生回数を見てまた驚きました。
400万回越え。
ライブアイドルではどんなに間違っても届かないような数字です。
コメント欄にはTikTokから来た一般人なのか、mixの言葉の意味不明さを面白がる方などで溢れていましたが、オタク以外も惹きつけてしまう魔力みたいなものを改めて感じました。
自分はこの曲しか知らずに臨みましたが、なにせ「アイドルライフスターターパック」の共感性と乗りの良さに惹かれていたので、他を知らなくとも「なんとかなるだろう」というノリで見ていました。
ノリが良い曲が多いだろうから、その場のなりゆきに任せていればいいだろうと思っていたのです。
しかしまさか本当になんとかなってしまうとは思いもしませんでした。
これも知らなかったことですが、曲そのものにコールが紛れ込んでいるのは「アイドルライフ...」だけではありませんでした。
裏メロかのようにメンバー名のコールが入っている「会いにKiTE!」や、曲名からしてそれでしかない「可変3連MIXをおぼえる歌」なんて曲まであります。
どの曲も、コールのタイミングやmixの入る間奏の余白、あるいは振りまで全てが典型的なライブアイドルのパッケージでした。
おかげで、全くの初見でも身体にしみ込んだ乗り方でなんとなくついていけます。
前の席では、はじめなんとなく立っているだけだった方が中盤にかけてテンションが上がってきて終盤にはしゃいでいたのが印象的でした。
立ち上がって観ていたのは体感では8割ほど。
それまでの着席率の高さから言えば十分すぎるほど立ち上がっていましたが、それでもメンバーは物足りなかったのか、中盤のMCで誰かが残りの2割に対し「立って立って~」と呼びかけていました。
そのうち半分ほどは立ち上がったでしょうか。
これで9割以上。
こうなってくると立っていないほうがおかしいという状況です。
ライブを観ていて全く分かりませんでした。
なんでこんなに楽しいのだろうか。
初見で曲もろくに知らず、(失礼ながら)メロディーが心に触れた訳でもありません。
そもそも曲調を忘れてしまいました。
そんな程度です。
周りを見渡せば皆が踊りに耽っているからというのもあるでしょうが、一つ言えるのはステージに特大の共感があったこと。
初見の自分も、初めは乗り気でなかったおじさんも、立ち上がっていた9割以上の人達が共通して抱えるあるあるをiLIFE!は25分間に詰め込んでしまいました。
共感が拍手笑いを生むのはお笑いだけではありません。
音楽ライブでも、床がぐらつくほどのうねりとなって共感の波が押し寄せてくるのだと知りました。
10.Peel the Apple
場をひっくり返すほどの共感をかっさらっていったiLIFEの直後に出てきたのはPeel the Apple,通称ぴるあぽでした。
数あるプラチナム所属グループの中で貫録のトリではありましたが、流石にiLIFE!の後。
苦しいかと思いましたが、立ち見の状況だけではiLIFE!に負けないほどの盛況です。
もしかしたら、先の出番でもフロアにいた人の多くの目当てはぴるあぽか次のAKBで、iLIFE!はとりあえず見とくか、という程度のラフな距離感の方が多かったのかもしれません。
だとするとアウェイをホームに変えてしまったiLIFE!の凄さがより際立ってきます。
ともかく7色のカラフルなサイリウムが光るステージ、ぴるあぽはヒューリックホールに先日終わった秋ツアーの初日公演で立っていました。
天地がひっくり返った落ち着きのないフロアは、グループの頭文字「P」を現す敬礼っぽいポーズに足踏みから始まる勇ましい「リンゴの皮をむくな!~Don't Peel the Apple~ 」始まりでストンと落ち着きを取り戻した気がします。
振り付けの真似しやすさはやはり武器になります。
ワンマンなのかと思ってしまうほどフロアの振り付けが揃っていました。
細かい感想は秋ツアーのファイナルのライブレポに譲るとして、佐野心音さんのロングヘアーが動くたび自在に持ち上がり、どこかの曲での小田垣有咲さんのソロが良く聴こえたのが印象的でした。
11.AKB48 17期研究生
振り返ってみれば、10年以上にわたる自分のアイドルオタク人生の原点は、「ポニシュ」や「ヘビロテ」を出した頃のAKB48でした。
当時中学生。
クラスの半分くらいは誰かの推しで、CDの貸し借りや校内放送の選曲、さらにはぷっちょとのコラボ商品など、いたるところにAKBの存在がありました。
周りが神7推しばかりの中、総選挙16位くらいのきたりえを推していたことをいじり気味に珍しがられていたことも思い出します。
きたりえがマイナーだとは思いませんが、他の人が大抵総選挙トップ10以内の人を推すところを、言い方を悪くすれば「安定しているけど注目度はさほど...」というきたりえをチョイスしたところに、実力はあるのに光が当たっていないライブアイドルを追いかけている自分の原点があるような気がします。
AKBにはまったく興味がない人も当然ながらいましたが、同年代のカルチャーで一つの革命だったことには間違いありません。
近頃濫用されて久しくなった「神」という言葉は、神7や「神曲たち」に代表されるあの頃のAKBが起源だったと思っています。
笑顔のメンバーが勢ぞろいしたCDジャケットを机の上に置いているだけで、アイドルにすぐそこで見てもらっている気になって勉強などを頑張れる気がした「遠距離ポスター」のような体験。
2010年末にお年玉で買ったきたりえのポスター風カレンダーは、一番映りのいい表紙を破かれないまま今でも実家にずっと飾られています。
自分の遍歴はそこからハロプロ、ももクロ、女子流、フェアリーズ...とどんどん興味が広がり、果てはこうしてライブアイドルに行きつきました。
未だ不勉強ながら知っていることも増えましたし、なにより多少は冷静に見れるようにもなりました。
「遠ポス」のような妄想を膨らませることももうありません。
それでも、ひな鳥が生まれて初めて目にしたもののを親と認識するのと同じように、初めてその世界に入ったときに身体に入ってきたAKBは色濃く記憶に焼き付いているものです。
「黄金センター」で始まったライブは、「言い訳Maybe」「君のことが好きだから」「大声ダイヤモンド」と、まさに神曲たち収録の曲がずらりと並びました。
MV含め、歴代最強のグループアイドルソングだと思っている「君好き」を聴けただけで天にも昇る気持ちだったのですが(書こうとするといくつかの記事になってしまいそうです。)、一番心に来たのは、この日研究生が曲の由来にあやかってじゃんけんで歌割を決めたという「チャンスの順番」でした。
12月にリリースされたこの曲は、じゃんけんのように誰にでもチャンスは平等にあるということを説く一方で、「たとえビリでも焦ることないさ どこかで風が吹いたら追いつき追い越せる」と、目の前の勝ち負けが全てではないとも語っています。
ちょうど受験期だった自分が当時それをちゃんと理解していたかは定かではありませんが、日の目を浴びてこなかったメンバーが突如としてセンターに就いたのをみて漠然と「人生何とかなるだろう」とは思っていたはずです。
当時のじゃんけん大会のドキュメンタリーでは各メンバーそれぞれに個別の密着カメラが付いていて、そこでの振る舞いなどからあるべき姿を学んだところもありました。
非常に思い入れの深い曲です。
自分がAKBを観ていたのはせいぜい「Give me five!」くらいまでで、今日も恐らくそれ以降の知らない曲ばかりをやるのかなと思っていたのですが、まさかここまでどストライクな曲で固めてくるとは夢にも思いませんでした。
嬉しい形で裏切られました。
思わず前の席に手をついてしまいます。
じゃんけんでソロを勝ち取ったメンバーは緊張からか、あまり上手く歌えていなかったようで笑顔も硬かったのですが、新人離れしたライブアイドルが多い中でその反応はむしろ新鮮で、それでこそ普通の女の子がスーパーアイドルになっていくAKBのストーリーそのものです。
この先が気になって仕方ありません。
古めの曲が多数披露されてフロアは総立ちの盛り上がり。
後から見ると、前方優先席にこんなにいたのかというほど人でいっぱいになっています。
よく考えたらAKBのライブを見るのはこれが初めてでした。
イベントに行くのは握手会だけで、あとは全て在宅で楽しんでいました。
今では考えられません。
それなのに、以前にも体験したような懐かしい感じを覚えます。
AKBを発端として姉妹グループ、ライバルグループ、かつてのメンバーによるプロデュースグループなどいくつも生まれました。
全盛期と比べると斜陽に差し掛かっていると言わざるを得ないAKBを横目に、それらのグループが今やグループアイドルの覇権を握っていますが、自分はかたくなにこう言いたいです。
AKBが原点であり、AKBこそ至高なのだと。
湧きかえるフロアを見て、そう感じました。
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