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【ライブレポ】群青の世界 全国ツアー「High five」ファイナル東京公演

4月3日(日)、5人組アイドルグループ・群青の世界が渋谷Veatsにて全国ツアー「High five」のファイナル東京公演を開催しました。

入場してまず目にしたのは、見慣れない光景でした。
ステージ上に紗幕が下りています。
ファイナルということで、これまでツアーで回ってきた5箇所とは違う仕掛けを用意しているのだろうと思ってはいましたが、その一つがこの紗幕でした。
場内には群青の世界の曲のインストバージョンが次々と流れていますが、紗幕は沈黙したまま。

開演時間の16時45分を過ぎたころ、場内BGMの音量が上がり、グループのSEが流れ出しました。
紗幕にも何やら文字が現れました。

「Tour Final Start」

上手奥からメンバーが1人ずつ登場しました。
身に着けているのは、見覚えのある藤色ベースのロングワンピ衣装ではありません。
この日解禁すると予告されていた、新衣装です。
アンコールや途中からではなく、冒頭からいきなりのお披露目でした。
しかし紗幕はまだ上がりません。
肝心の新衣装も、紗幕にさえぎられて詳細が見づらいです。

半袖だということくらいは分かりました。
これからやってくる暑い夏は、夏仕様のこの衣装とともに過ごしていくのでしょう。
胸元のピンク色っぽいリボンは目立ちますし、その下は黒のギンガムチェック柄のようです。
実際は胸元のリボンはピンクというより紫色で、黒ではなく青のチェックだったのですが。

M1.BLUE OVER

鍵盤の音が鳴り出します。
ツアーファイナルの一曲目は、この曲からでした。
今回のように、前の曲からの続きでなく、まっさらなステージで無音の状態から始まると「BLUE OVER」はことさらに映えます。

相変わらず紗幕は閉じたまま。
薄い布がフロアとステージの間を分厚い壁でさえぎっています。
はっきりとは5人の顔つきが見えません。
反対にステージの5人も、フロアをどこまで視認できているのでしょうか。
お互いまるで違う世界にいるかのようです。
ブラウン管の向こうには実体がないのと同じように、いま自分が見ている先にあるのは電波を通した虚なものではないのか。
そんなはずもないのに、ほんのすこしだけ突拍子もない考えが頭をもたげてきました。

そう思わされたのには、もう一つわけがあります。
曲が始まってから、紗幕をスクリーン代わりにして様々な模様が投影されていました。
紗幕の役割は、単なるパーテーションにとどまりませんでした。
上から下へ、下から上へあるいは斜めへ...
モノトーンの模様は一つの形に収まらずに、形を変え数を増してスクリーンの中を浮遊していました。
いま、ステージ上にあるのは投影された不規則な模様と実体のぼやけたメンバーの姿です。

曲に立ち返って、この「BLUE OVER」。
聴くと、心のどこかがざわついてくる感覚があります。
広い、広い、広い 空を壊してしまえば
拳を叩きつける振り付けがサビにあるのですが、これは堅い意志というよりも、ざわざわとして落ち着かない心をなんとか鎮めようとする動きだと思っています。
不規則で不安定に揺れる紗幕の模様は、曲の心模様をそのまま映しているかのようでした。

M2. 夢を語って生きていくの

BLUE OVERでこれといった名前をもたず漂っていた形が、この曲では歌詞となってスクリーン上に飛び出してきました。
言葉の強さを思い知る曲です。

ぼくらだけはもがいて いつだって次の夢を見てるから

赤い照明に照らされたメンバーの顔には、赤黒い影が色濃く焼き付いています。
依然降りたままだった幕が上がったのは、次の曲からでした。

M3. メロドラマ

静かなソロはまず一宮ゆいさんから始まり、工藤みかさんが続きます。

まだ 誰も知らない メロドラマ

フレーズが切れ、シンフォニックな前奏の音が加わってくる直前、紗幕は上がりました。
ここでようやく、衣装の全貌を目にすることができました。
こうして見てみると、新衣装では過去衣装にあった上品さよりもアイドルっぽさを出していることがわかります。
メンバーにもよりますが、左右でアシンメトリックなのは過去衣装と同じでした。

それにしても、紗幕が消えたときに湧いてきた一種の感激のようなものは忘れられません。
やっと「肉眼」で観ることができたという安堵に似た嬉しさです。
メンバーの姿がいつも以上にはっきりと目に映った気がしたのは、紗幕にさえぎられていた間、今か今かと感覚が研ぎ澄まされていったからなのかもしれません。
色のない照明は5人のことをリアルさをもって照らしていて、これまで違う世界だと思っていたものが急に接近してきた感じに見えます。
なんだか、初めてコンタクトをつけた時の感覚を思い出しました。
それまで像のぼやけていたものが見えると、大袈裟でなく世界が変わった気がしますしちょっとした嬉しさもあります。

この日初めて目に触れる新衣装はじめ、紗幕無しの光景に目が慣れてくるまでは全てのものが新鮮に見えました。

M4. アンノウンプラネット

三周年ライブも、前回観たツアー大阪公演もこの曲が一曲目でした。
「僕はここにいる」と、「群青(あお)の世界」にいることを曇りなく宣言するこの曲を聴くと、群青の世界のライブに来たのだという実感が増します。

「メロドラマ」は途中からだったので最初から紗幕が上がった状態ではじまったのは「アンノウンプラネット」からでした。
それまでの良曲3曲を盛大な前振りに使った、二回目の幕開けを見たようです。

M5~7. コイントス~Quest~シンデレラエモーション

4曲披露したあとのMCでは、「ずっと言いたくてたまらなかった」という紗幕の演出に触れ、やがて衣装の話題に入っていきました。
以前のインタビューで「かわいい系」の衣装をずっと着たかったと言っていた一宮さんは、心なしか数段増しで嬉しそうです。
季節をフライングした半袖衣装は、夏の気分にさせてくれます。
話もそこそこに、ここからは夏らしい曲がここから連続しました。

真冬かというくらい寒く、季節外れの天気だったこの日は夏とは対極にありましたが、「コイントス」「Quest」「シンデレラエモーション」は爽快感を運んできました。
夏とは無縁の屋内であっても清涼感が素晴らしい。
この先やってくる、カンカン照りな季節の屋外だと効果はとてつもないでしょう。
ステージの奥、信号機のように縦に並んだ照明は、先ほどとは打って変わってカラフルな色でステージを照らしていました。

メンバー各論

ここで少しメンバーのことを書いてみようかと思います。
水野まゆさんの歌い方はすごくうっとりとしていました。
マイクを持ちながら右から左へと見渡していくときもゆっくりめで、表情は優しいです。

工藤みかさんの魅せ方は、非常にステージ映えするなと思いました。
目線の切り方や、意志を筋肉に伝えている感じなど、ため息が出るほど圧倒的です。

笑顔と言えば横田ふみかさんみたいなところがありますが、村崎ゆうなさんの笑顔はまた違った意味で印象的です。

口を開けたまま微笑んだ顔つきはハードなダンスが続いた後半ブロックでも変わらず、余裕を感じさせました。
上体をひねったり、マイクを持つ方の腕を掲げて指を開いていったり、どんな動作でもただただ楽しそうです。

いや、楽しそうというのはどのメンバーを見てもでした。
リハーサルから用意してきた笑顔ではなく、フロアからのレスポンスを受けて初めて出てきたような笑顔です。
どこかの曲の間奏で横一列に並んだとき、熱を帯びていくフロアを5人がしみじみと眺めていたのも印象深く、MCで村崎さんの「好きになってくれた皆さんも含めて群青の世界の一員」という言葉をふと思い出しました。

M10. Puzzle

群青の世界の曲は、いざ歌ってみようとすると意外と苦労するんじゃないかかと思っています。
何が難しいのかというと、音の高低差、それも低音の深さです。
曲のなかで一番低い音を探してみると、他アイドルのそれより低い気がします。
極端な高音はないのですが、深い低音によって音域が広がり、ピタリと声を当てるのが結構大変なんじゃないかと思っています。
でもこの低音は、歌いにくいというだけでなく曲に彫りというか深みを付け加えているエッセンスでもあるのかもしれません。
そう思う象徴的なメロディーが、この「Puzzle」にあります。

サビの「新しいメロディーを奏でよう」では、一番低くもぐりこんだ「デ」の発音から階段状に上がっていくように音を刻んでいるのですが、最低音からググっと上がってくるこのメロディーに一気に心を掴まれる気がします。
平坦なところからは生まれない音の豊かさに、心が刺激されます。
この曲に特別感を出している決定的なパートはずばりここなのではないか、そんなことを思いながらステージをみていました。

M11. 青い光

本編中二回だけのMCは短く進み、あっという間にラストスパートへとなだれ込みました。
冒頭から走り気味の手拍子が鳴り、工藤さんのソロは少し速めでした。
この曲、歌詞を書いたのは工藤さんです。
歌詞づくりにあたり、高校球児から話を聞いてヒントを得たといいます。
2020年夏、コロナ禍で夏の甲子園の機会すら失われてしまうという、後先考えても特殊な経験をした高校球児です。
彼らから聞き出した心境と、水野さん村崎さんを加えた5人体制という、大きな転換期を迎えるグループの姿とを重ねて歌詞が練り上げられました。
応援ソング風ではあるのですが、ダンスやサウンドにひとひねりがあるのが群青の世界らしいです。

アウトロでこちらを振りむき、次の曲に進むまでに少し間があきました。
やがて、スティックがハイハットに振り下ろされた音が聴こえてきました。
4回鳴らされるまでもなく、反射的にこの曲だと分かります。

M12. 僕等のスーパーノヴァ

2022年8月、現5人体制が始まってからちょうど2年を数えるタイミングで、群青の世界は生バンドセットのワンマンライブを「青の幻想曲〜Blue Fantasia〜」を開催すると発表しました。

生バンド付きのライブは、グループとして初の試みです。
アイドルらしさもありつつ時にゴリゴリのロックサウンドも聴かせる群青の世界の曲が生バンドを従えるとどう化けるのか、楽しみでしかありません。
とりわけこの曲は、キーボードももちろん加えた形の生バンドで聴きたいところです。

最終章のないストーリー」で本編13曲のライブは終わりました。
サビで2,3,4,5と指を広げていくのは何度やっても楽しいです。
ボリュームに溢れすぎてて、開演からここまでで1時間ちょっとしか経っていないというのがピンときません。

アンコール

三周年ライブの時も思ったのですが、群青の世界のメンバーは「アンコール」というワードを意図して口にしていない気がします。
終演後に頂いたフライヤーにはしっかりアンコールの曲まで書かれていましたし、想定しておらず拍手を聞いて慌てて出てきたなんてことはもちろんないのですが、なんとなく拍手が始まって当たり前のように出てくるという、ともすれば形式的になってしまうアンコールは、けれども決して当たり前ではないという意識から来ているのでしょうか。

En1. 新曲「最後まで推し切れ」

ひとしきり喋った後、横田さんだったか村崎さんだったかが言いました。
「新曲があります!」
前作と同じく杉山勝彦さん作の一曲は、これまでの曲とは180°違うそうです。
タイトルは「最後まで推し切れ」。
なんとなく察せられますが、ここではアイドルとヲタクとの関係がそのまま歌われています。
目線はファンからみたアイドルの姿で。
「推し切れ」は自らに言い聞かせているのでしょう。

「重要なお知らせ」
推しの卒業発表を目の前にして、動転するという描写からこの曲は始まります。
メロディーはあまり覚えていませんが、確かにメンバーの言うとおりこれまでの曲とまるっきり違う印象を受けました。
なにせタイトルがストレートで、比喩めいた歌詞やタイトルが多い群青の世界の曲には珍しく、展開を想像しやすそうなネーミングです。
一宮さんのセリフ調の歌詞もあったり、メロディーよりも言葉として耳に入ってきやすさを感じたので、初めてグループを観る方が多いフェスなど外向けでインパクトのある曲かもしれません。

En.2 However long

テープを逆回ししたような音からアンコール2曲目「However long」が流れてきました。
音源には冒頭の逆回しのメロディーはないのですが、ライブで前の曲から連続するときにかかるようです。

先に書いたもう一つの「杉山勝彦曲」がこの曲でした。
単に杉山曲が続いたというだけではなく、この並びにこそ意味があるような気がしています。
「However long」、一見して恋愛ソングです。

「だけどさみしくて さみしくて 今 全身が拒否してる 君を引き留めたい ワガママだとしても」

しかし、別のパートから引っ張ってきた「共依存」「限られた季節」、あるいは「果てのある空の群青」というフレーズからは、こうも考えることはできないでしょうか。
限定された時間でしか会えないアイドルとファンとの関係にも、この歌詞がそっくり当てはまるのではないかということです。

そう思う理由は、歌詞作りの裏側にもあります。
「青い光」で工藤さんが球児にインタビューして着想を得たように、「However long」では杉山さんが群青の世界メンバー一人一人に話を聴き、その内容が歌詞に反映されているそうです。
「ファンと自分たちの関係を表現するなら?」「これまでの活動を振り返ってどう思う?」
共依存なんていう小難しい言葉は、一宮さんの口から実際に出たワードらしいです。

「最後まで推し切れ」が推しとのエンディングを迎える別れの曲であるとするならば、「However long」は今まさに応援中の心境を歌った曲と見ることが出来るのかもしれません。
時系列にして「However long」~「最後まで」の流れでしょうか。

面白いのは、「最後まで~」はアイドルの卒業をテーマにしているのにメンバーは口を揃えて「楽しい曲」と言い、かたや楽しい盛りの「However long」は、レコーディング時にメンバーに「もっと切なく」と注文が飛んだという、表向きに見えるものと隠された裏側で二曲の雰囲気が交差しているということです。

新曲「最後まで~」で強く意識づけられたからこそ、「However long」が凄く切なく聴こえてきました。
思えば「However long」の前に聴こえてきた巻き戻しの音は、「最後まで~」の時点から、好きなアイドルが卒業して目の前から去ってしまうことなどつゆぞ考えもしなかった頃を「However long」で回想するきっかけの音だったのかもしれません。

En3. カルミア

アンコールラストの曲は「カルミア」。
綺麗な五角形をした花をつける淡い色の植物「カルミア」には、大きな希望という花言葉があるのだそうです。

この日は希望に溢れた告知・情報解禁がいくつもなされました。
東阪仙を巡る「0のポラリス」開催、カバー動画の公開、8月のバンドセットワンマンライブ、そして新曲披露。
まだまだ止まりません。

楽曲派アイドルと呼ばれる群青の世界、曲に劣らずメンバーのパフォーマンスも素晴らしく、世界観を語れる稀有なグループだと思います。

この先会場の規模が大きくなる期待はもちろんありますが、それ以上に例えば冒頭の紗幕演出をさらに展開した3D的な演出だったり、ホールでのもはやコンサートといえるような荘厳なライブなど、一般のライブアイドルの域に収まらないような環境での活躍も観てみたいものです。

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