【卒業ライブ】Fragrant Drive 伊原佳奈美&三田のえ Farewell Party
卒業していく2人が残していったのは、現体制最初で最後のワンマンライブという置き土産だったように思います。
3月21日(月祝)、5人組アイドルグループ・Fragrant Driveが「伊原佳奈美&三田のえ Farewell Party」を開催しました。
2018年にClef LeafとseeDreamの合併により結成されたFragrant Driveは、メンバーの脱退や加入などを経て現在は板橋加奈さん、伊原佳奈美さん、片桐みほさんのオリジナルメンバーと2020年11月に加入した辻梨央さん、三田のえさんからなります。
1年半近くにわたって活動してきた現体制のFragrant Driveからこの日、伊原さんと三田さんが卒業することとなりました。
ふたりの卒業発表があったのは、2月22日。
卒業までに設けられた期間は、約一カ月でした。
カウントダウンが始まってからというもの、頭には日ごとに減っていく数字がぶら下がり、心に去来するのは様々な感情でした。
僕はだれか一人のメンバーに偏るわけでもなくFragrant Driveというグループが好きなので、2人が卒業したからといって行かなくなるつもりはないのですが、それでも5マイナス2というのがどうも冷静に出来ません。
いや、正確に言うと卒業を惜しむ気持ちはありつつも、1年ちょっといわゆる「主現場」の一つとして通ってきた割に案外あっさりと受け入れられていることも感じていて、そんな自分に戸惑っていました。
かといって、新体制に向けてスパっと切り替わっているかというとそういうわけでもなかったのですが。
ただ一つだけ言えるのは、Fragrant Driveはこれでおしまいではないということだけです。
二人が抜けることは重すぎる出来事ですが、そればかりをハイライトして重々しくなってしまうのもよくありません。
一つの整理をつけるためにも、あの日のことを文章として残したいと思います。
全てを出した
二人とFragrant Driveとのお別れの場は、秋葉原AOHARIUM TOKYO。
三田さんの生誕祭を一カ月前に開催した会場でもあります。
昼夜二部制で、一部が「現体制ラスト単独」、そして夜の二部が「Farewell Party」でした。
振り返ってみると、今のFragrant Driveの全てが残らずステージに出ていた気がします。
暖色系のステージライトに当てられたメンバーの顔からは汗が引かず、髪は時間と共に乱れていっていました。
パフォーマンスに次ぐパフォーマンスでMCの時間をかなり削っていたため、二部アンコールのメンバースピーチまで汗が引くことは恐らくなかったのではないでしょうか。
これに加えて書き残しておきたいことがあります。
一部と二部とで、今できるほとんど全ての曲を披露したということです。
「今できる」曲の中には、現体制での初披露曲もありました。
曲の継承
Fragrant Driveは、長く太い歴史を背負っています。
それは、かつて所属していたアイドルレーベル「Label The Garden(LTG)」の歴史でもあります。
LTGには、Fragrant Driveの前身・seeDreamやClef Leafはじめいくつものアイドルグループが所属していました。
しかし、時は流れてその多くは解散、LTGという母体すら2020年9月に停止してしまいました。
移籍後ここまで活動を続けているFragrant Driveは、LTG唯一の生き残りです。
いま、Fragrant Driveのセットリストには、LTG曲の数々が入っています。
とうに解散してしまったグループの曲は、なかなか歌われることはありません。
ほこりを被ってしまうのがほとんどですが、LTG曲はFragrant Driveが存在する限り生き続けます。
LTG曲が現体制のもとで復活するペースは、特にこの2022年に入ってから加速度的に増しました。
1月はFlower Notesの「Stay Gold」にClef Leafの「カウントダウン」
2月はseeDreamの「キミのもとへ」、3月はClef Leaf「I’m a dreamer」
卒業ライブの2日前には「Clover」の初披露がありましたし、卒業ライブで初お披露目となったClef Leafの「ありがとう、またね」に至っては、Fragrant Driveの結成以来初めてのカバーでした。
平日は会社員として働いている片桐みほさんの仕事終わりに合わせ、数時間のレッスンを繰り返して曲を仕上げていったそうです。
二部では卒業メンバーのスピーチタイムがありましたが、ほとんどの時間はパフォーマンスに充てられていました。
合計3時間近くにわたった両部では、仕上げたばかりの曲が全て披露されました。
既出の曲やワンコーラスのメドレー含め、かかったのはのべ32曲。
まさかほとんど全ての曲をやってしまうとは思いませんでしたが、ただ曲を披露することだけに満足しないのが、Fragrant Driveです。
(ほぼ)全曲披露のことには予告含め特段触れませんでしたし、こちらとしても気が付いたら、曲のことに意識が向きはじめたような感覚でした。
現体制でワンマンライブがしたい。
一年ほど前、伊原さんがこうツイートしたことがありました。
衣装の早着替えをしたり、長めのMCコーナーで思いを語ったり、長尺のライブ時間でたくさんの曲を披露したり...
ワンマンライブならではの緊張感や高揚感は、そう何度も味わえるものではありません。
機が熟さないと得られないものだからこそ、その味を一度知ってしまうと中毒のように求めてしまいます。
伊原さんがこうつぶやいた時は、まだ新体制になって数カ月でした。
グループとしての足場を均しているような頃で、披露できる曲数も少なかったです。
持ち曲を徐々に増やしていっている段階だったかと思いますが、一年前から卒業を考えていたという伊原さんの頭の中にはこのツイートをした時点ですでに「卒業」の腹積もりがあったのだと思います。
後にも書きますが、あまりSNSなどに感情を出さない伊原さんがぶつけた「ワンマンをしたい」というストレートな欲求は、自らのアイドル活動が終わりを迎えてしまう前にせめてあと一度だけでいいからワンマンのあの感覚を味わいたいという願いが込められていたのかもしれません。
この日、卒業していく二人には特別に、卒業衣装が用意されました。
2021年末のARスポーツ「HADO」のアイドル対抗戦で勝ち取った優勝賞金100万円を使い、元アイカレの佐藤春奈さんに作成依頼したものです。
デザインには、それぞれの意向がふんだんに盛り込まれたそうです。
三田さんはスカ丈を短くしたり大きなリボンをあしらったりいわゆるアイドルっぽく、伊原さんはピンクのお花をちりばめ、頭にはティアラをつけてお姫様っぽい仕上がりになっていました。
二部の途中から、二人はこの卒業衣装に着替えてのパフォーマンスでした。
現体制の一年ちょっとで積み上げた曲をこれだけ披露した上に、衣装チェンジ。
相当なボリュームです。
単独ライブと名の付くライブは現体制でも何回かはありました。
しかし、ワンマンライブと言えるのはこの日だけだったのではないでしょうか。
そのきっかけがメンバーの卒業だったことは残念ですが、最後の最後に伊原さんの願いが叶ったのかもしれません。
ここからは、印象的だった曲やシーンを抜き出して書いてみようと思います。
まずは一部から。
◆現体制ラスト単独
片桐みほさんは、たとえ一方通行になろうが構わずフロアと会話しようとしてきます。
会話というのはなにも例えではありません。
とくに至近距離で目が合うときなど、本当に喋っているような感覚に陥るのです。
一部では、そんな片桐さんの笑顔にすごく心を軽くしてもらいました。
いつもと変わらないパフォーマンスからは、必要以上に悲しんでもらいたくないような意志が伝わってきます。
「Growing Up」や「パピナ」あたりでは、いつものライブの感覚を取り戻し、すっかり楽しさに包まれていました。
中盤にやってきた、楽しいもののどこか切ないブロックで印象深い曲が、「You」。
偶然にも、卒業していく二人がそろって頭のパートを歌います。
Aメロ歌いだしのソロは、1番が伊原さん、2番が三田さんです。
さらに落ちサビは伊原さん。
二人のソロパートは長めでした。
「斜め下つないだ手だけが...」ここで一区切りと思っていたら、2フレーズ目「斜め上...」まで続きました。
5人でほとんど平等にソロパートを分け合っているFragrant Driveの歌割のなかでは珍しい長さです。
真っ直ぐな恋愛ソングであるこの曲。
「あなただけを あなただけを あなただけを 好きでいるの」
王道アイドルそのもののフレーズですし、ここを歌えるのはアイドルでいるときだけの特権です。
そんなフレーズを歌う二人を観たとき、ふと寂しさに支配されました。
まだ泣き所には早いのですが、落ちサビではすすり泣きの音が聴こえた気すらしました。
ガルスピ
終始笑顔で安定したステージングだった片桐さんの顔が、涙とともに崩れたシーンがありました。
アウトロ前のクライマックスに差し掛かる「ララー」と手を左右に振る振り付けのところです。
ここで直感的に分かりました。
この曲を5人で披露するのはもう最後なのでしょう。
「ガルスピ」だけではありません。
持ち曲(ほぼ)全曲披露の気配はまだ感じていませんでしたが、一部で披露された曲のほとんどは二部でかかることがないのだろうと予感しました。
刹那、感情が途轍もないスピードで追いつきだしました。
ときに実感というものは遅れてやってきます。
一部の始まりから心して聴いているつもりではあったのですが、もうこの曲は5人で最後なのだという意識がそれまでなぜかピンと来ていませんでした。
「ガルスピ」での片桐さんの顔が泣きそうになったのを見たとき、ぼんやりとしていた感覚が形になって目の前に現れました。
涙を隠すためなのか、片桐さんが曲終わりに手短な挨拶をして捌けていったのが印象的です。
一部は約1時間で終わりました。
続いては二部、「Farewell Party」です。
◆Farewell Party
チケットは完売で、AOHARIUMは先月開催の無料ライブ以上にいっぱいになりました。
フリコピが難しいほど窮屈なスペースしかないというのは、久々のことです。
17時半の開演予定時間を過ぎました。
ステージとフロアとを隔てる黒いカーテンの向こうには、既に5人が控えているはずです。
流れてくる登場SEにかぶさって聴こえてきたのは、メンバーの掛け声でした。
フロアの方にまで伝わってきた小さな揺れは、円陣を組んで踏み出した足の重みなのでしょう。
5人分の揺れを感じるのは、もうこれが最後です。
Fragrant Driveは、MCでの立ち位置が基本的には固定されています。
最初のMCでまず挨拶するのは最上手側のリーダー・板橋さん。
そこから左に向かって一人ずつ自己紹介をして、最後に受け渡されるのは最下手側の片桐さんです。
そのままの流れで片桐さんが「私たち」と合図し全員で「Fragrant Driveです!」、これがいつもの流れでした。
二部のあいさつで、片桐さんは「私たち」の前にこう付け加えました。
「この5人で」
いよいよこの時がやってきてしまったかという感じです。
まぎれもなく5人で最後のライブが、ここから始まりました。
二部のライブは、一部と同じく「胸の奥のVermillion」から始まりました。
この曲に関しては辻さんがセンターだといっていいでしょう。
センター・辻さんの顔の迫り具合は、これまで観てきた中でも間違いなく一番でした。
Melt
2番Aメロでは、上手側で辻さんと伊原さんの掛け合いが見られます。
身長差のある二人。
頭上いっぱいまで伸ばした指を触れあうシーンがあるのですが、背の高い辻さんが意地悪をするように背伸びをしたり指を反らしたりして指を遠ざけ、くっつけようと伊原さんが小さくジャンプしたりいっぱいに伸ばしたりする、なんていうちょっとコミカルなくだりがあります。
この掛け合いも今日でラストです。
途中までふざけ合っていた二人のやり取りは、恋人繋ぎで終わりました。
この日のAOHARIUM TOKYOのPAは、MCでメンバーの衣装の金具の音まではっきりと拾うほど強めに効いていました。
ですが、そんな音がピタリと止んだ時間がありました。
それが「Melt」の落ちサビ、板橋さんが歌い始める時のことです。
冷たい雪が唄い融ける春 やがて背中を押すかのように咲いて
板橋さんは、わりとブレスを大きめにつけるほうです。
ソロに差しかかり、呼吸を整えるために息を吸ったとき、同時に周囲の音も吸い込まれました。
うるさいくらいに響いていた伴奏も、ここでは静まり返りました。
三田さんの歌が加入当初よりすごくよくなったと書きましたが、アイドルを何年間もやっている板橋さんも板橋さんで、ここ一年だけを見ても表情と歌声が連動してきている感じが増しています。
息を吸うところでは、緊迫感のあまりこちらも一緒に吸ってしまいます。
カウントダウン
「ライブでミスをあまりしない」
「かりにミスしてもそれとわからないような顔をする」
衣装替えのために一旦捌けた伊原さんの着替えを待つ間、のこったメンバーで語る思い出話に、こんな話題が上がっていました。
そんな冷静な伊原さんですが、さすがに最後のライブともなると歌詞を間違えたりと緊張していたようで、メンバーの目にもレアな伊原さんが映っていたようです。
いつもの伊原さんと違う点でいうと、もう一つ印象的なシーンが「カウントダウン」でありました。
ソロで歌う落ちサビ終わりにかけ、伊原さんはそれまで押さえていたなにかを外したようにクレッシェンドの強めな声を出していました。
ステージ上で冷静を保っている伊原さんには珍しいシーン。
これは緊張からではもちろんなく、意図して感情を昂らせていたのでしょう。
この姿には胸を打たれました。
アウトロでは、一人ずつセンターに向かって歩いていていきます。
手前、左右に散らばったメンバーの間を蛇行するように移動する様子は、グループを離れて自らの道に進んでいく二人と、残ってグループを守り続ける三人との分かれ道を暗示しているかのようでした。
Stay Gold
意外と抜けている人が多いのか、Fragrant Driveメンバー、とくに伊原さんはセットリストをなかなか覚えられないそうです。
登場ギリギリに確認するばかりか、本番中にも尋ねることがあるとのことです。
逆に一番覚えているのはだれかというと、片桐さんだそうです。
ノンストップで続いた後半戦、曲間に片桐さんの口が動きました。
唇の動きだけでは読み取れませんが、なにか3文字をメンバーに伝えています。
答えは、「ステゴ」。
Flower Notesの「Stay Gold」でした。
すぐさまイントロが流れ、スピード感ある難度の高いダンスが始まりました。
「儚い永遠の輝きよ」
アイドルとはこういう存在なのかもしれません。
Farewell Party本編は、続く「ありがとう、またね」で幕を閉じました。
アンコールへ入っていきます。
アンコール
ライブ前、ファン代表の方からサイリウムを二本頂きました。
それぞれ卒業する2人のメンバーカラーに光ります。
水色が三田さん、そしてピンクが伊原さんです。
光らせるタイミングは、アンコールで訪れました。
まずはこの曲。
ふたりのストーリー
先に書いたように、Fragrant Driveは前レーベル・LTGの他グループの曲を多く歌い継いでおり、歴史への意識や横への連帯感が強いです。
もちろん昔を語り継ぎ記憶にとどめておくことも素晴らしいのですが、忘れてはいけないのはFragrant Driveは今を生きているということです。
昨2021年のクリスマスにデジタルリリースされた「ふたりのストーリー」は現体制で唯一のオリジナル曲であり、過去曲と等しく大事にされるべき曲です。
「キミのことが キミのことが キミのことが 大好きだと」
落ちサビのソロを歌う三田さんのことを、片桐さんは感慨深げな目で見つめています。
震えながら歌っていた加入当初と比べると、歌が見違えるようによくなりました。
三田さんは、その歌声もなのですがマイクを持っていないほうの手つきも特徴的です。
右手を顔の前にやり、その手で何かを引っ張るようにする姿は、声帯とは別のところでキーの調整をしているかのようです。
この曲では、冒頭のパート、落ちサビ、そして最後のパートと、大事なパートのソロは全て三田さんです。
現体制の曲ではありますが、三田さんのための曲といっても良いでしょう。
加入組とはいえ前グループでの豊富な経験がある辻さんに対し、Fragrant Driveが初めてのアイドルである三田さんにとっては、これがアイドル人生最初で最後の曲になるかもしれません。
Evergreen
そしてアンコール2曲目は「Evergreen」。
伊原さんが所属していたClef Leafの曲です。
「笑顔が作れなくて怒られた」
アイドルになりたてのころの伊原さんは、表情に乏しく笑顔が出てこなかったそうです。
彼女の5年間の活動のうち、僕は最後の1年とちょっとしか知りません。
その目線から見ると、笑えなかったなんて信じられませんし想像もつきません。
目を細めて歯を見せる表情は、よくソロの歌い終わりで見られました。
ここの表情が凄く良いです。
落ちサビを歌うのは、もちろん伊原さん。
主役に向けられたピンクのサイリウムの数々を目にした片桐さんは、耐えられませんでした。
胸の奥のVermillion
フロアの温度は、後ろから焚かれたスモークとともに急激に上がりました。
いつもFragrant Driveの傍らにあったのがこの曲だと思います。
Fragrant Driveからリリースされた1stシングルの表題曲であり、楽曲の強さとパフォーマンスでうならせるFragrant Driveの名刺代わりの一曲です。
5人の始まりもこの曲でした。
現体制になったときのことを少し書いてみようかと思います。
2020年11月、新メンバーを迎えるという形で現体制のFragrant Driveは始動しました。
お披露目ライブは渋谷duoで開催の、「サコフェス」でした。
新メンバーの情報は皆無に等しかったといいます。
誰が、そして何人入ってくるのかということすら全く明らかにされず当日。
それが分かったのはステージの上ででした。
Fragrant Driveの出番となり、SEに乗ってまず片桐さんと伊原さん、板橋さんが登場。
少しの間を開け、新メンバーとして辻さん、三田さんがフォーメーションに加わりました。
ようやくここで、「新体制」の全容が明かされたことになります。
幕開けを飾った曲、それは他でもない「胸の奥のVermiliion」でした。
アンコール1,2曲目で卒業する二人との関わりが強い曲が続いたところで、最後に来るのはこの曲しかあり得ませんでした。
この日の辻さんは、誰よりも安定していました。
ライブ後半にかけ、見送る側の板橋さん、片桐さんが涙をこらえきれなくなっていても、辻さんだけは感情を抑えていたように見えました。
ステージが成り立っていたのは、辻さんが乱れず引っ張っていたからでした。
そんな辻さんが唯一耐えられなくなったシーンがあります。
それが、この曲の落ちサビ、自らが歌うソロパートでした。
「胸の奥で薫り発つVermillion わたしの胸に希望灯してくれる」
入りはいつも通りでした。
しかし、後半にかけて感情がこらえきれなかったようです。
あの辻さんでさえも、詰まっていました。
結果として押し切りましたが、辻さんが歌うパートで歌い切れず止まっちゃうのではないかなんて心配になったのは、今までの記憶を丁寧に遡るまでもなくこれが初めてでした。
MCでは伊原さんと三田さんの卒業コメントはあったものの、残る3人が思いを語ることはありませんでした。
代わりに3人から卒業メンバーには板橋さんが手書きした「卒業証書」が手渡されました。
しっかりとしたつくりの証書は、2人が充実のうちに活動をやり切ったことの何よりもの証明です。
約二時間。
これでライブは終わりました。
3人が去った後、伊原さんと三田さんが最後の挨拶をしていましたが、三田さんは先日の生誕祭でもそうだったように手で照明の眩しさを抑えながら、フロアにいるお客さん一人ずつと目を合わせようとしていました。
ただ時間も押していましたし、満員のお客さんだったため最終的には全員まで行きつかず、最終的には引きずられるように退場していきました。
ライブの内容は以上で、ここからは2人やグループのことについて自分が観てきた印象とともに書こうと思います。
伊原佳奈美さん
小さいころからアイドルが好きだった伊原さんにとって、アイドルを志すことは自然な流れだったのでしょう。
ほぼ毎日更新されていた伊原さんのブログには、アイドルの話題がたびたび登場します。
同業者として勉強するという目的はあったのでしょうが、オフの時間を使い切るくらいライブ映像に没頭してしまうそのモチベーションの源は、単に好きだからということに尽きるのでしょう。
エゴサーチしていいねを押したり、リプ返をしたりと、アイドルがSNSを戦略的に使っている今の時代ですが、伊原さんはあまり積極的ではないようです。
昔がどうだったのかは知りませんが、少なくともこの1年ちょっとはそうでした。
浮上することも少なく、先に書いた1年前の「ワンマンライブをしたい」ツイートが珍しいと思ってしまうくらい、感情を吐き出すことが滅多にありません。
どうも、あるところできっぱり一つの線を引いているように見えます。
ステージや特典会以外にもコミュニケーションが取れるSNSはすごく便利ですし、アイドルが見せてくれるオフステージの様子や少々の本音は、その人となりを知れたような気になる点では凄く良いとは思います。
でも、あまりに本音が過ぎたりモノ申すような文が目立つと、すこしSNSとの距離感が近すぎやしないかと思ってしまうことがあります。
アイドルでいることはある種特殊な世界に身をおいていることのはずなのに、近づいてくるSNSは時にその魔法を解いてしまいます。
古い人間なので、アイドルにファンタジー的なものを抱いてしまう自分にとっては、人間らしさを出し切るのではなく適度な距離感を保つ伊原さんの接し方は見ていて気持ちが良かったです。
三田のえさん
伊原さんとは対照的に、この世界に入るまではアイドルに対しての知識がほとんどなかったそうです。
グループにいるときから個人活動をしていた三田さんにとってアイドルとは、自己表現の手段の一つだったのでしょう。
いくつかの選択肢の中からチョイスしたのが、アイドルというお仕事だったのだと思います。
卒業コメントでは、ニュアンスですがこう言っていました。
「みんなのことを考えた結果、辞める選択をした」
ぱっと耳にしただけでは、なかなか聞きなれない不思議な響きです。
グループにという枠の中で歌い踊るアイドルを見に来ているはずの我々にとって、そのアイドルが活動の中途で辞めるというのは、求めるものからはどうしても遠い結果のように思えてしまうからです。
相反する言葉が混ざったこのコメントからは、グループという船に乗っかって進めるよりも良い自己表現の場所を見つけた、という意味が込められているのでしょうし、確信のような匂いも感じました。
こういう書き方をしてしまうと、まるで三田さんが活動半ばで投げ出したように見えるかもしれませんが、そんなことはありません。
歌しかり、ダンスしかり、表情しかり、三田さんは出来る限りの工夫と努力をステージに注いでいました。
パフォーマンスにゴールはないのかもしれません。
しかし、アイドル未経験からはじめた三田さんがこの1年とちょっとで一つのゴール、チェックポイントに到達したのは疑いようのないことだと思います。
何事も、誰かがセーブしないと心配になるくらい根詰めてしまうような三田さん。
卒業コメントを話すとき、そらで話すと長くなるからと、内容をペラ1枚にまとめてマイクの前に立っていましたが、発したコメントは打ち込んだ字面をそのまま追っているわけではありませんでした。
時折紙から目を離し、少し考え込むような姿を見せており、その場で浮かんだ言葉を選ぶようなシーンもありました。
机の上で冷静になって書いた文字は、いざその日その場所に立つとしっくりこないことがあります。
しかし、次の言葉を語るときは紙から目を離しませんでした。
「今日でお別れだとは思っていない」
弱気な発言の多い三田さんですが、珍しく言い切ったような口調です。
クリエイティブに富んだ三田さんのことですから、その言葉通り、ひとつの方法にとどまらず様々な形でわれわれをワクワクさせてくれることでしょう。
業後間もなく、三田さんはYouTubeチャンネルを開設し、「Cinematic Vlog」をアップしました。
2分足らずの間に、それこそ一本の映画のような充実感が得られるような動画です。
1年4カ月で見せてもらったもの
恐らく、2人は卒業時期を延ばしてくれたのだと思っています。
突発的に思い立ったことではなく、伊原さんは一年くらい前から考えはじめ、三田さんは明言してこそいませんでしたが、考えることは何度もあったそうです。
辞めるタイミングは、この日よりいくらでも早まっていた可能性はありました。
でも、ここまで活動をしてくれた。
そのおかげで、この1年ちょっとでいくつもの素敵な景色を見させてもらいました。
単独公演やアットジャム、HADOの優勝、仙台でのクリスマス対バン、NPPにテレビ出演...
居続けることだけを是にするのは違うと思いますが、5人体制をここまで観てこれたことには感謝しかありません。
そして、二人がグループに置いていった最後の作品が、この「わくわくづくり」でした。
「わくわくづくり」の種
卒業発表から遡ることひと月前の1月ごろ、三田さんがこんなツイートをしていました。
伊原さんと三田さんのツーショットに、「わくわく作り中」の文字が。
意外な組み合わせに、何だろうと思ったものです。
先月2月に開催された三田さんの生誕祭では、三田さんが手がけたフォトブックが販売されたのですが、ショットの選定をするときには伊原さんに大分助けられたとのことでした。
となると二人で集まっていたのはこの写真選び?
そうでは無かったようです。
卒業の数日前、その答えが分かりました。
伊原さんより自身初のミニ写真集「Mi piaci」をリリースするとのお知らせがありました。
これでした。
どうやら、ふたりで集まっていたのはこの写真集づくりのためだったようです。
「わくわくづくり」ツイートの真相とともに、もう一つ明らかになったことがあります。
昨2021年11月の数日間、片桐さんを除くメンバー4人は沖縄に居ました。
ライブがあったわけでもありませんし、プライベートな旅行を楽しんでいたわけでもありません。
仕事だとのことでしたが、何のために沖縄にまで行ったのかは全く触れられていませんでした。
伊原さんの写真集の告知とともに、メンバーから謎の沖縄旅行についても明かされました。
じつはこの3泊の沖縄旅行は、写真集のために伊原さんを撮影するためだけの「ロケ」だったのでした。
フラドラらしいライブ
ライブ中、やりたいことをやり通せた三田さんと伊原さんの表情を見ると、泣き顔はなくほとんど笑顔でのパフォーマンスでした。
ワンマンライブをやり切った満足感だけが残ったのかなという印象です。
いや、正確に書けば三田さんは泣いていました。
伊原さんの卒業スピーチの時、後ろでコメントを聞きながら大号泣でした。
でもこれは、本人に言わせれば意味合いが違うようです。
自分の卒業とは別に、ふとファン目線に立ったときに伊原さんの卒業が途端に寂しくなったのだと。
自分はこれでお別れでなく、活躍する場所を移動するだけだから、ということを繰り返し言っていました。
三田さんに見えていたのは、マイクの前で語る伊原さんの背中と我々の顔のはずでしたが、気持ちは一段低くなったフロアから伊原さんと向かい合っている感覚だったのでしょう。
残る3人は泣いていましたが、印象的なのがほとんどパフォーマンス中の出来事だったこと。
落ちサビを歌うとき、輪になって顔を見合わせたとき、前列で二人きりになったとき...
どれも「ライブ中」の涙だったところに、普段からライブを大切にするFragrant Driveらしさがあるような気がしました。
やりたいことをやりきったのではと書きましたが、一つあるとすれば5人の歌声が吹き込まれた音源がわずか一曲「ふたりのストーリー」のみだということです。
「胸の奥のVermillion」だけでも再録バージョンを聴いてみたかったというのは贅沢な願いと思いつつ、未練がましく書いてみたくもなります。
ともかく、こうしてFragrant Driveの現5人体制は終わりました。
今日で3月も終わり、4月からは新体制がはじまります。
既に4月30日に開催の「クロフェス」に出演すること、新体制から衣装を一新するお知らせはありましたが、それ以外はベールにつつまれています。
あと一カ月ほど、こちらも楽しみに待ちたいと思います。