【解散ライブ】転校少女* THE LAST LIVE ~With You~
2022年1月、4人組アイドルグループ・転校少女*が解散しました。
グループは2014年に5人組の「転校少女歌撃団」としてその活動をスタートし、現名義「転校少女*」への改名やメンバーの入れ替えなどを経て、現在はオリジナルメンバーの松井さやかさんと塩川莉世さんと、2020年の6周年ライブから加入した佐々木美紅さんと成島有咲さんからなります。
これが、現在のグループコンセプトです。
エモーショナルかつ文系的要素にあふれた楽曲をパワフルなステージングで表現するグループ
解散ライブは、2022年1月16日にZepp Hanedaにて開催されました。
豪華な生バンド「転校バンド」付きのライブです。
天気は快晴。
会場最寄りの「天空橋」駅の創設当時の仮称が「羽田空港口」駅であることからも分かるように、Zepp Hanedaは空港の目と鼻の先にあります。
駅から会場まで歩いて5分ほどの道中では、青空に向けて飛び立っていく飛行機を何機も見送りました。
この記事は、前半は解散ライブについて、後半はグループや各メンバーについてのコメントという流れになっています。
開演は16時半、終演予定は20時。
3時間半にもわたるライブが予定されていました。
空っぽのバンドセットが、ステージの上に乗っかっています。
開場からしばらくした16時過ぎには、後輩グループ・白夜のカフカの3曲パフォーマンスで暖まりました。
定刻になり、BGMの音量が変わりました。
下手側の袖からは、転校少女*メンバーが円陣を組んで出したであろう掛け声がうっすらと聞こえてきました。
間もなく登場してくるはずです。
ちらほらと席を立つ人も出てきて、自然と拍手が生まれてきました。
流れ出したのは、グループの初期から現在までのOvertureをつなげたOvertureメドレーでした。
2018年Ver.が鳴りだすころ、まずは転校バンドのメンバーがステージに現れました。
続いて現在のOvertureが流れ、ピンク色の「春めく坂道」衣装を着た転校少女*メンバーが出てきました。
超長尺のライブが、これから始まります。
M1~M4 ミリタリーアイドル
転校少女*は、2018年5月に現在の名義となりました。
それまでは「転校少女歌撃団」というグループ名で活動しており、とくに結成当初は「ミリタリーアイドル」がコンセプトでした。
架空の女子校:「私立元麻布学園」に転校して「歌撃団」に入団しているというシチュエーション
歌って踊るだけではなく銃を持ち、時にサバゲ―をするというのが、当時の転校少女のスタイルだったと聞きます。
ハンドサインが振り付けに入っている曲もあります。
「歌撃」はやがて「過激」なほうに変わり、タガメやサソリを食べたり、自力で火おこしをしたりという、今ではあまり想像が付かないような活動もしていたそうです。
ライブの幕開けは、持ち曲も少なかったその頃、ライブで何度も披露されたであろう初期曲が並びました。
広い広いZepp Hanedaで、後ろの転校バンドと自らの音を見失わないように、メンバーはイヤモニをつけていました。
リハーサルや場当たりを重ねたとはいえ、慣れないイヤモニで様子を見ながらだったであろう歌声は、やがていつもライブハウスで我々を圧倒してくる時と変わらないボリュームと圧力に戻っていきました。
初期のコンセプトどおりの攻撃的な曲や振り付けが多いこのブロックでは、バンドとの親和性がとても高いように思います。
4曲披露の後、MCへと移りました。
MC
今日の意気込みなどをじっくり語るのかなと思ったのですが、意外にもメンバーの挨拶は手短でした。
名前を告げ、「よろしくお願いします!」これくらいで受け渡され、早くも次の曲へと入っていきました。
M5~6 ミリタリーアイドル②
恋はカムフラージュ
Love Range!
MCを挟んだこのブロックで続いたのも、初期曲でした。
佐々木美紅さんと成島有咲さんが、1年ちょっと前の加入にも関わらず、これらの曲と昔からなじんでいたかのように扱っている姿を目にすると、成長とはこういうことなのかと実感させられます。
M7~M8 新体制の曲
M7 ときめけ☆アフタースクール!
佐々木美紅さんと成島有咲さんは、2020年11月に開催の、結成6周年記念ワンマンライブにてデビューしました。
アンコールからの登場で、その際披露したのが「Girl*s Time」とこの「ときめけ☆アフタースクール!」でした。
正式な新体制発足からしばらく、この曲はライブで頻繁に披露されましたし、新メンバー込みで再録もされています。
いわば「ときめけ☆アフタースクール!」は彼女らにとってはデビュー曲みたいなものであり、思い入れもかなり深い曲であろうと思います。
「メイク 前髪 バッチリ パッツン そんなの意味なくなくなくなくない?」
数少ない新メンバーのパートの一つがこのフレーズでした。
半分セリフのようなパートです。
はじめはフレッシュさ全開でかなりテンション高めに歌っていて、先輩メンバーの歌う他パートからは浮いていたのですが、いつからかかなり落ち着いた歌い方に変わっていました。
なんとなくこのあたりから、新メンバーが転校少女*にフィットしてきたような印象があります。
M8 春めく坂道
これまた思い出深い曲です。
新体制となってからの2021年3月31日にリリースされました。
転校少女*最後のシングルとなりました。
「ひらひらと花びらが季節を越えて」
塩川さんが歌うクライマックスでは、最高音(ハイF?)を迎えます。
かなりの高音です。
ライブ前いつも塩川さんは「きょうは季節こえられるかなぁ?」と不安げだったそうです。
少なくとも僕が観に行った時では、越えられなかった日を見たことがありません。
屈指のボーカル、塩川さんだからこそ歌えたパートでした。
M9 色を出す新メンバー
曲名やメロディーのわりに結構エモーショナルな曲だと思っています。
4人で「100」の文字を作っていました。
100年キミだけ愛し続ける
100年キミだけもう迷わないよ
落ちサビを歌う成島さんの歌声は高めに動き、泣きだしてしまいそうな切なさを乗っけてきます。
ここは序盤のハイライトでした。
もうきっとキミを泣かせないよ
佐々木さんの歌声は逆に低めが混ざります。
佐々木さんと成島さんが自らの色を出すようになったこと。
そのことが、転校少女*のライブの質を押し上げました。
曲が終わり、松井さんと佐々木さんは袖に捌け、塩川さんと成島さんが残りました。
MCでも始まるのかと思いフロアが座り出したら、「まだ休憩とかそういうんじゃないから!」と二人からは突っ込みが入りました。
M10~M17 メドレーコーナー1
すぐに曲へと入りました。
ここからは塩川さん・成島さんと松井さん・佐々木さんの2組みに分かれ、各曲ワンコーラスあるいはワンハーフでのメドレー形式のパフォーマンスになります。
ライブ前、全曲披露するとはどこにも予告していませんでした。
しかし、ライブ予定時間が3時間半とかなりの長さであること、かつここにきてやってきたメドレーコーナー。
残さず全曲やる気なんだなと、確信に近い予感が生まれてきました。
メンバーは捌けるごとに衣装をチェンジし、水兵さん、メーテル、COSMOS衣装など過去の衣装をかわるがわる着て出てきました。
M14 Step By Step
主役はいただきましょう
成島さんらしく、高らかに宣言していました。
M15 PAINT GIRL
成島さんと塩川さんはともに声質が高めで、どこか似ているところがあります。
ユニゾンを聴くと、声の見分けがつかないことも多いです。
泥だらけの掌で だからこそつかみ取りたい
このパートは、いつもであれば松井さんと塩川さんのハモりになります。
主旋律を歌う塩川さんに対して松井さんが上からハモリをかぶせているのですが、この日塩川さんは成島さんにメインを任せ、ハモリをコーラスしていました。
M16 Catch Me
「大人組」の佐々木さんと松井さんがこの曲にはピタリとハマります。
挑発的な表情が上手いです。
M18~M21 メジャーデビュー以降
続いては「情熱リボルバー」衣装を着て、メジャーデビュー以降の曲が連続しました。
M19 Mad Good Love
シンセの音に合わせて人差し指を上げながら、4ビートのリズムでぴょんぴょん跳ねます。
新体制の初期に割と披露してくれたのですが、披露できる曲数が増えるにつれて頻度がへっていきました。
サビでは腰を落としながら手を前後に動かして迫ってくるような振り付けがあります。
1月のライブレポで、ここでの成島さんの腰が低くて良い、みたいなことを書いた記憶があります。
それはラストライブであっても変わらずでした。
録画を見てみると、このあたりから塩川さんの声が若干変わってきていることに気付きました。
その前のMCでも、いつも聞こえてくる感じとちょっと違うなと思っていたのですが、さすがの塩川さんをもってしても、ほとんどノンストップでここまで続けたことの疲れが出ているのでしょうか。
M21 リバース・エイジ
あやふやな言い回しで更新されるセリフ
約束したその「いつか」は無かったことになって行く
塩川さんの代わりを、佐々木さんは見事に務め上げました。
思い入れが深いだけに佐々木さんや成島さんの話が多くなってしまいますが、いつもは先輩メンバーが歌うパートをきっちりと歌い切ったことには感銘を受けました。
ここまでで早くも21曲が終わりました。
M22~M23 メドレーコーナー(4人歌唱)
M22. Mr. Dream
再度4人に戻ってのパフォーマンスです
ソロダンスを佐々木さんが踊り、ラスサビを歌うのは塩川さんです。
先ほど声が調子悪いのではないかと書きましたが、とんだ杞憂でした。
塩川さんの歌声はどこまでも真っ直ぐで、突き刺さってきます。
M23 バ・ビ・ブブブー・ブートキャンプ 〜プラクティス1 夢みるアッパーカット〜
「ブーキャン」でおなじみのこの曲は、回し蹴りあり、パンチあり、しまいにはスクワットありと、翌日に響いてきそうなエクササイズが盛り込まれています。
「最後のブートキャンプへようこそ!」
初めて観たのが定期公演で、その時はAKIBAカルチャーズ劇場の椅子席だったため、スクワットしようにも出来なかったことを思い出します。
ドラムの青山さんが口ずさんでいるのが見えました。
長い長いメドレーコーナーは、ここで終わりました。
ーーー
4人はステージから一旦去り、真っ暗だったステージ上にはスクリーンが現れました。
幕間映像です。
映像には事務所に集まった4人の姿がありました。
4人にはクイズやゲームなどが出題され、全員が正解したりクリアするまで帰れない、しかも間違えるたびに何かしらの罰ゲームがあるという企画「全員クリアするまで帰れま10」が始まったのでした。
常識問題だったり、メンバーの生年月日などの問題だったり、問題としてはさほど難しくはないはずなのですが、誰かしらがミスり、苦いお茶や顔パンストなどの罰ゲームを受けていました。
収録したのは、ある日のライブを終えた夜遅くだそうです。
時間が深まるにつれ、徐々に壊れていくメンバー。
罰ゲームの一つには、コオロギの生焼きを食べる、というものがありました。
最近話題の、高タンパクな昆虫食です。
初めて知ったのですが、松井さんは虫が大の苦手でした。
他のメンバーは嫌がりながらもなんとか食べていたのですが、松井さんだけはどうにもならず、食べる食べないのやりとりだけで30分、1時間と過ぎていっていました。
サバゲーや自給自足生活体験をしていた転校少女歌撃団時代、松井さんだけは仕事にならないからと虫まわりのことはNGだったそうです。
その後コンセプトを一新し、転校少女*として「過激」とは無縁になって安心したはずなのに、最後の最後でまた過激に戻ってしかも虫を食べる羽目になるとは。
かわいそうと思いながらも面白かったです。
何時間もかけ、何個も罰ゲームをさせられた末にようやくメンバーはクリアしました。
「ここらはライブ後半戦です!」
4人は場面転換を促し、ステージはやや暗くなりました。
ーーー
4人がステージに戻ってきます。
真っ白な、解散発表してから新調された衣装に変わっていました。
M24~M28 LOVE IDOL PROJECT曲
ここからは、2021年の夏にスタートし、11月のアルバム発売まで駆け抜けた「LOVE IDOL PROJECT」曲がメドレーで披露されました。
ライブアイドル界を盛り上げてきた名曲をリメイクの上、転校少女*メンバーがカバーするというのが「LOVE IDOL PROJECT」でした。
まずはPASSPO☆の「マテリアルGirl」からです。
解散ライブを前にメンバーは「初めての人でも楽しませるから来てほしい」「是非じゃなくて絶対」と口にしていました。
少しでも多くの人の目に最後の姿をとどめていてほしいし、感情を分かち合いたい。
心に残るパフォーマンスをしてみせる。
そういう意気などからくる「絶対」という言葉なのでしょうが、広くアイドルファンに知られている「LOVE IDOL PROJECT」曲を披露する、というのも一つにはあったのかもしれません。
まだ活動しているグループもありますが、これらの名曲に転校少女*が再びスポットライトを浴びせたことの意義は大きいです。
対バンライブでは、転校少女*を知らない方でも「LOVE IDOL」曲なら知っていると、フリコピの輪が出来ていました。
どんな良い曲も、いずれ時代が移りゆけば語る人も少なくなり、ほこりをかぶってしまうものです。
「今度は”LOVE 転女 PROJECT”をやってほしいよね!」
解散してしまうグループはこれから出てくるグループに託すよりほかはありません。
本当にどこかのグループがカバーしてくれないでしょうか。
M29 じゃじゃ馬と呼ばないで
「LOVE IDOL PROJECT」5曲に続いたのは、「じゃじゃ馬と呼ばないで」。
かつて在籍していた古森結衣さんが、転校少女*の前に所属していたGALETTeから引き継いだ曲です。
ワンハーフの間奏では、オリジナルの伴奏にギターの音が加わり、シンセの音はサックスっぽく聴こえてきました。
せーので揺らせ 前を照らせ
振り返らずに行くよ
大サビに入る直前、3カウントを指で刻むパートがあります。
このカウントが弾みとなり、大サビに入っていくはずなのですが、この日は3カウントを刻む前に音が途切れ、メンバーの動きが止まりました。
思わず「えっ」と声が出てしまったのですが、これは一層の盛り上がりをつけるための、ちょっとのブレイクでした。
少しの空白を置き、松井さんの「Zepp Haneda、揺らせー!」の声を合図に音が鳴り出し、ステージ前方からは勢いよくガスが噴射されました。
MC
「LOVE IDOL PROJECT」のリリースイベントや秋の全国ツアー「LOVE IDOL TOUR 2021」のあたりから、メンバーの絆が今までになく深まったことなどを語っていました。
M30~32. アコースティックコーナー
「ここからは、4人の歌声を思う存分聴いてもらうためにアコースティックコーナーにしました」
「じゃじゃ馬」の揺れが収まるころ、塩川さんがこう言いました。
ここから3曲のブロックは、アコースティックコーナーでした。
次の曲を予感させるピアノの音が鳴り出します。
M30 ショコラの独白
「切ないね片思い 神様なんて意地悪」
4人は中央に立ち、フロアとお互いとを見ながら歌っていました。
「今じゃ些細なことが気になるしもう 何も手につかない」
佐々木美紅さんは、マイクを遠ざけながら鼻にかかった歌声で読み上げます。
松井さんや塩川さんは、静かな入りからグンと伸びてきました。
それぞれの歌声が気持ちいいです。
4人のコーラスから出される音の粒がステージ中央に一旦集まり、まとまって霧雨のように降ってくるような感覚をこの時覚えました。
霧雨はやがてザーザー降りに変わりました。
ステージのほうから叩きつける雨音がしてきます。
M31 She’s Rain
「手を繋げないからと 一つの傘に入って はみ出さないように くっついていた」
ここは成島さんに一番ハマっているパートかなと思っています。
「どんな日も好き だったのに」
「好き」のあと、佐々木さんはほんの少しだけ、メロディーに遅れない程度のタメを作ります。
一糸乱れぬ正確さと、あふれんばかりの思いを込めた音の数を持ち合わせた塩川さん・松井さんの歌声が全体をリードをしつつ、佐々木さん・成島さんがのびのびと音を出しています。
この空間にずっと居たいという思いしか生まれてきませんでした。
アコースティックの始まりから通底している鍵盤の音は、ゆるやかに次の曲へと誘導しました。
M32 Winter Wish
クリスマスなど特定の時期を連想させるワードをあえて入れずに、冬の季節が広く思い起こされる様に作られたというこの曲。
秋から冬への入り口とも取れますし、あるいは春へと向かう雪解けの季節を思っても良いのかもしれません。
「会いたい」と
願って 願って 積もっていく想い
いくつもの季節を越えてきた
このあとに大サビ「あなただけ想って 想って 見上げる空に...」となるのですが、歌詞カードを観るとその間に「またね」の3文字が入っています。
しかし、実際にはここは歌われません。
口には出さずに飲み込んでしまいます。
この日、紫っぽくステージを染めていた照明は、ちょうど大サビ前で暗くなりました。
ソロを歌う松井さんの、息を吸い込む音が聴こえてくるまでの間、「またね」の三文字がくっきりと浮かび上がってくるかのようでした。
MC
「コロナでコールが聴けなくなってから、今まで以上に歌を届けたいという思いが強くなった」
松井さんは言いました。
一方で、成島さんと佐々木さんはコロナ禍での加入のため、コールを聞いたことがありません。
そのことを改めて知った松井さん。
「コールが出来るようになったらまた集まりたいね!」
現実的にはどうとかそういうことは抜きにして、こうしたポジティブな未来を語ってくれるのが松井さんです。
後にも書きますが、応援しなければという気持ちを駆り立ててくれた存在と思っています。
M33~M34 エモーショナルな代表曲
「次の曲は、エモーショナルな転校少女*を代表する曲です」
ひとくさりあったあと、佐々木さんがおもむろにマイクを取り、下手側に歩きながら次の曲を紹介しました。
この流れと佐々木さん下手のフォーメーションは、もうあの曲しかあり得ません。
M33 プロムナードの足跡
佐々木さんのソロダンスから始まります。
加入当初からダンスを身上としてきた、佐々木さんの見せ場がとにかく多い曲です。
この曲は「ライ麦畑でつかまえて」からインスピレーションを受けて作られました。
物語の主人公・ホールデンが抱く思春期特有の、様々な感情が交錯する様子が、都会の真ん中で立ちすくみ、見知らぬ人の波に邪魔だとばかりに押されるようなダンスで表現されています。
ステージの広さを十分に使った、もはや演技といえそうな佐々木さんの表現には鬼気迫るものがありました。
伴奏のストリングスの対旋律には、この日はギターの音が加わりました。
より心がかきむしられるような感覚になっていきます。
M34 この世界にサヨナラして
白の光は、真っ白な解散仕様の衣装をより光らせます。
「あきらめないで前に進め 君に届け」
ラストパートでの塩川さんの歌声は、空気を切り裂くように鮮烈でした。
誰も入り込むことの出来ない、塩川さんの独擅場です。
MC
グループが解散に至った経緯を話していました。
コロナ禍になって悩むことが多く、今後を考えた結果とのことでした。
こちらについては後述することにします。
M35~M37 天体シリーズ
「それでは...聴いてください」
松井さんの曲振りに、少し間が空きました。
続いても、グループのコンセプトであるエモーショナルを体現した曲たちでした。
「歌撃団」から「*」へ改名をしてコンセプトを一新したタイミングが、図らずもこの曲を初披露したタイミングに近かったそうです。
M35 銀河列車
星のように照明が輝きだし、会場は天球のようになりました。
思わず見上げてしまいます。
松井さんはマイクを両手で包み込み、大切そうに歌っていました。
曲の終わりに差し掛かるころ、メンバーそれぞれが空を指さす姿は弓なりで、背筋をまっすぐ直線状に伸ばしているよりも真っ直ぐに見えました。
M36 星の旅人
これまた感動的なバラードは、あの「星の王子さま」がモチーフとなっています。
「僕と出逢ってくれてさ ねぇ ありがとう」
節目節目で別れを惜しみ、その先を明るく照らしてきたこの曲は、解散ライブではフロアとステージとで交わす最後の挨拶へと変わりました。
転校少女*のバラード系の曲は、その場に立っているだけで激しく情動を揺さぶられるようなところがあります。
ここで、一区切りです。
再び音が止み、松井さんが喋り出そうとしました。
しかし、この一言を絞り出すまでには時間がかかりました。
マイクを持ち上げる手が重そうに見えます。
「私たちが転校少女*で居られる時間はもうすぐ終わります」
拍手が長く続きました。
幕を閉じる時間が少しずつ近づいている寂しさが、実感をもって襲ってきています。
次に用意されていたのは、強引にお別れムードを振り払うかのような曲でした。
M37 瞬け、プルート
天体シリーズの曲は続きましたが、これはテンションが変わってバンドチックな「瞬け、プルート」です。
テンポが一気にあがりました。
それにしても、ここにきての塩川さんと松井さんの頼もしさたるや。
終わりにかけて間違いなく疲れているはずなのに声量はたくましく、どうして序盤と変わらぬ音量が出せるのか分かりません。
熱い鼓動 悲劇のままじゃ終われない
M38 WONDER WAVE!
「ときめけ☆アフタースクール!」に匹敵するくらい、この1年かなりの頻度で聴いてきた曲です。
これまでの空気はプルートとともに一掃され、楽しい雰囲気へと一変しました。
潮風が 背中押すよ
歌う塩川さんの周りを三角形状にメンバーが囲みます。
塩川さんは歌いながら一人一人と目を合わせていました。
間奏では、バンメン紹介が挟まれました。
ベース、ギター、ドラムと続き、最後にはキーボードです。
キーボードのえなっちこと鈴木栄奈さんソロの後、気付かないうちにメロディーへと戻されました。
「最高記録を更新しそうだよ」
最後は4人がステージ前方で収録しているカメラに向かい、「明日へ飛び込もう君と」指さして終わりました。
MC
「楽しいー!」松井さんが叫びました。
WONDER WAVE!での高いテンションのまま、塩川さんが「やってみたかったんだよね」という「男の子ー!」などと呼びかけ、フロアの中で当てはまる人が拍手するという、よくライブで見かける流れをやって遊んでいました。
ただ、楽しい雰囲気も束の間でした。
エモーショナルというだけあり、感情はあちこちをせわしなく行き来します。
「もっと話したいことがあるんだけど...」
時間はあっという間に過ぎていくもので、もう本編最後の曲になってしまいました。
解散ライブのサブタイトルに挿入されている一曲です。
転校少女*が現在の路線に舵を切ったきっかけが、この曲との出会いだったそうです。
M39 With You
「こっちだよ」って君の声が聞こえた
サビのアカペラコーラスからはじまりました。
バンドセットも止んでしんとしている中、塩川さんがまず先陣を切ります。
そこから松井さん、松井・塩川ペア、最後には「君と一緒なら乗り越えてゆけるんだ」
と佐々木さんと成島さんが加わりました。
原曲よりスローなテンポで、4人は歌詞を咀嚼するように一言ずつ口にしていました。
やがて伴奏が流れ出し、曲本編が始まっていきました。
「会いたいよ」って言葉 ポツリつぶやく
塩川さんが落ちサビを歌いだすころ、5cm角くらいの銀色の紙吹雪が祝福するかのようにハラハラと落ちてきました。
Hello my friends I’ll be with you
Thank you my friends I’ll be with you
コーラスが終わりアウトロが鳴り続けるなか、佐々木さん、成島さん、松井さん、塩川さんの順に一人ずつセンターに向かい、深々と礼をしてから去っていきました。
アンコール
アンコールを求め徐々に大きくなる拍手の中、バンドメンバーと転校少女*メンバーが再登場しました。
始まったのは「NEVER ENDING STORY」。
紙吹雪のなごりが数枚落ちてきていました。
いつでもこの曲は、始まりの気持ちに戻してくれます。
「With You」でステージから離れる時、4人は涙を流していたり、それを懸命にこらえようとしていたのですが、「NEVER ENDING STORY」ではそんな感傷的な気持ちは「楽しさ」の下に追いやられました。
塩川さんと佐々木さんが抱き着いたり、4人で固まってわちゃわちゃしたりと、はしゃいでいるメンバーが印象的でした。
途中、佐々木さんがステージの前の方まで来て座り込んでいるのが見えました。
どうやらステージの端っこから最前列のファンの方ひとりひとりに向けて歌いかけ、コミュニケーションを取っているようでした。
このシーンを捉えようと、後からテレビカメラが追いついてきます。
「嬉しい!」
曲が終わり、喜びを爆発させながら、松井さんは水を飲んでいました。
出てきたばかりなのに、もう水を飲みたくなるほどはしゃいでいることがうかがい知れます。
ここからは「ネバエン」の余韻もそこそこに、各メンバーの最後のスピーチへと移りました。
思うことについてはこの後により詳細に書くので、ここでは内容を手短にまとめます。
喋っているメンバーを見上げると、時折目にきらっと光るものが見えました。
各メンバーのスピーチ
佐々木美紅さん
本音を言えば、転校少女*の佐々木美紅の歴史をもう少し残したかった。
色々なことがあったけど、みんなのリプやいいね一つでも活力の源になった。
成島有咲さん
デビューしたライブでは出番が二曲だけだったけど、たった2曲だけでもめちゃくちゃ緊張した。
あの日ステージで2時間半のライブをこなしている先輩メンバーを見て、絶対こんなの出来ないよと思ったが、今日それを遥かに越える時間のライブが出来てしまっていることが信じられない。
松井さやかさん
最後の対バンライブで語った内容も入れました。
もうちょっと大きい景色をみんなと見ていたかったし、すごく頼もしくなってきたありとみくが先輩になる姿も観たかった。
(塩川さんの方に向き直り)年の差なんて関係なく(松井さんと塩川さんは7つ離れています)何でも話した。
莉世を越える相棒は絶対に居ない。
ステージ上が何よりも大好きで、これより最高の場所はない。
歌って踊ることが何よりも大好きで、アイドルになるために芸能界に入ったから、歌って踊ってみんなの前で笑顔を届けられていることが心の底から楽しい。
アイドルを職業に出来てよかった。
塩川莉世さん
1カ月前からこのスピーチで何を言おうかと悩んだ結果、前もって内容を手紙に書いてきました。
グループ結成当初はどうしたらこのグループに必要な人になれるのか、個性はどうしたら出せるのかを悩んだ時もあったそうです。
松井さんはホントのお姉ちゃんのように接してくれ、こんないもかっていうくらいに息が合う。
互いへのメッセージが、塩川さんがあらかじめ手紙に書いたことと、松井さんのその場でのスピーチとで全く同じ内容だったことがなにより物語っています。
「アイドル最高でした!」
普段は飄々としている塩川さんの目から涙が流れています。
でも、悲しむのはここまででした。
「まだまだ転校少女*と楽しめますか!」
スピーチが終わり、松井さんがこう煽りました。
持ち曲42曲のうち、40曲が終わりました。
後2曲が残されています。
もうバラードは歌い切りました。
後に控えるのはこれまで幾度となくフロアを盛り上げてきた曲たちです。
En2 TRIGGER
まずはこの曲。
1番Aメロが始まってすぐ、上下のお立ち台に松井さん・塩川さんのオリジナルメンバー2人が上がり、ふたりだけでほとんど歌い通しました。
そして2番。
先輩メンバーがは奥に下がり、今度は成島さんと佐々木さんが足元を気にしながらお立ち台に上がりました。
転校少女*を観出したタイミングが新メンバーの加入時期とほぼ同じだった僕にとっては、
お立ち台に立つふたりの姿を観たとき、1年感での成長の過程とその成果までを見届けられたことへの喜びと、転校少女*の重い看板を背負い乗り越えてきた二人への改めての尊敬の念などが一気にやってきて、こらえきれませんでした。
「終わりたくない!」
間奏では一人一言ずつ気持ちを叫びました。
松井さんのこの絶叫が耳に残っています。
時代が変わってく どんどん廻ってく
このわたしを中心に Round&Round1! No.1!
塩川さんの落ちサビで、ピンク色のサイリウムが無数にステージ中央に向けられました。
この景色ももうすぐ見られなくなってしまいます。
「TRIGGER」が終わってからしばらく、空気が止まりました。
メンバーは水を飲んだり、後ろを向いて何かを言おうとしたけど何も言えなくなったり、所在なさげにそわそわしています。
残すはあと一曲。
いよいよ次が、転校少女*として最後に披露する曲となってしまいました。
En3 Girl*s Time
新メンバーお披露目があった6周年ライブのオーラスに披露されたのも「ガルタイ」でした。
あの時、新メンバーは黒のロンTにタータンチェックのプリーツスカートという「研修生衣装」で、各自でデザインしたグッズTシャツを着ている先輩メンバーとの違いは見た目にも明らかでした。
でも、この日は皆同じ衣装で肩を並べてラインダンスをしています。
その光景は、一年前とはまるで違っていました。
気が付けばステージの上には、滑りそうなほど無数に散らばった紙吹雪が層をなしていました。
「楽しいが一番上にある」
松井さんの言う通りでした。
クラップを思う存分して、フリコピをして、声は出せないながらも全てを放った感があります。
「言い残したことない?」
「絶対あるんだよね。あるんだけどさ」
こんなことを言いながら全員での記念撮影、バンドメンバーを含めての挨拶を終え、バンドメンバーは捌けていきました。
4人だけになったステージでは、メンバーが輪になって何やら話していました。
今一度のお別れの挨拶だったのでしょうか。
「以上、転校少女*でした、ありがとうございました!」
メンバーは上手、下手に手を振り、最後は肉声の「ありがとうございました!」
腰から大きく頭を下げ、3時間半のライブが終わりました。
もう出てくることはなさそうです。
席を立とうとしたとき、ステージ後ろの幕が二つに割れ、白いスクリーンが顔を出しました。
4人での最初で最後のアーティスト写真の横に、この日のライブ制作などに関わったスタッフの方などの名前がエンドロールのように流れ出しました。
BGMにかかっていたのは「星の旅人」。
しかし、2019年にリリースされた「COSMOS」収録の音源とは違います。
当時は居なかった成島さんと佐々木さんの歌声が聴こえてきます。
どうやら、現体制4人の歌声でした。
2番に向かうころにはエンドロールも終わり、各メンバーからの直筆メッセージ、そして「1.16以降」のそれぞれの道が初めて告知されました。
佐々木さんと成島さんは、新グループでの活動に向けて、松井さんはソロ・新プロジェクトに向けて、塩川さんはソロプロジェクトに向けて準備中だそうです。
各人の一新されたアーティスト写真も公開されました。
救いだったのは、薄々そうだろうなとは思いましたが、4人が4人とも次の進路でも表舞台での活動を続ける、ということでした。
まだ、会いに行ける可能性があります。
「出逢ってくれて、ありがとう。」
再び転校少女*のアーティスト写真と、その左上に書かれたこのメッセージが映し出された後、場内アナウンスが流れ出し、場内は明転しました。
活動7年間というのは、ライブアイドルではかなり続いたほうです。
その間にあった様々な出来事を「歴史」として重々しく振り返る演出だってあり得たかもしれません。
しかし、幕間映像に出演したのは現メンバーの4人で、企画の趣旨も「最後に向けて4人の絆を深めよう」でした。
この日はCSテレ朝チャンネルで独占生中継が組まれていました。
もっとテレビ的な、人工的な感動の演出をするのかなという予感も失礼ながらよぎったのですが、思いのほかあっさりとしていました。
「今」の転校少女*を強く意識づけた、ライブ重視の3時間半でした。
転校少女*は、なまじ塩川さんと松井さんの歌唱力やパフォーマンスが圧倒的なだけに、彼女らの横につくと見劣りしてしまうのは仕方がないと思います。
言い方は適切でないかもしれませんが、ふたりのグループという印象のまま終わってしまってもおかしくなかったかと思います。
しかしラストライブは、何も2人だけが突出していたわけではありませんでした。
メンバー皆が肩を並べて歌い、踊っていました。
「さやりせ」も全力ですが、彼女たちだけが目立つわけではありません。
加入組の「ありみく」がオリジナルメンバーと競っています。
目線も聴き耳も、等しくどのメンバーにも向けられます。
だからこそ3時間半ものライブメインの構成が成立したのでした。
松井さんがスピーチで成島さんと佐々木さんにあてた「頼もしくなった」というコメントは、子供の成長を見下ろしながらかけるという段階ではとうになく、同じ目線に立ち、全てをゆだねることが出来るという安心感、信頼感からくる響きでした。
メンバーの変更があっても転校少女*を転校少女*たらしめたのは、「さやりせ」の二人が看板を守り続け、「ありみく」の二人がその高い壁に挑戦し、最終的には上り切ってしまったことに他ならないと、今一度強調したいです。
結束、絆。
言葉だけで当てはめるのは簡単です。
言葉にできない、4人のまとまりがあってこそ成立した素晴らしいライブを、最後に見せてもらいました。
ここからは後半として、各メンバーやグループについて書いていきます。
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業界屈指のボーカルにフレッシュな新メンバーの力が融合
新体制となってからの転校少女*は、たびたびこう形容されていました。
オリジナルメンバーであり、かつ歌唱力が飛びぬけている塩川さんと松井さんに対し、成島さんや佐々木さんといった新メンバー組は「フレッシュ」さが魅力だということです。
確かに7年間グループを主力として引っ張ってきた二人と、転校少女*人生が1年未満の新メンバーという構成を図式化するのであれば、この言い回しでちょうど収まりがいいのでしょう。
でも、加入後早い段階からいわゆる「新メンバー」のパフォーマンスは、フレッシュだとするには不自然なほど成熟していました。
具体的には、例えば先述した「TRIGGER」での成島さんの高音や、「プロムナードの足跡」での佐々木さんのダンスなどでした。
研修生衣装を着ているときからスポットでは光り、存在感を放っていました。
ライブに月二回程度しか行っていなかった者の感覚ではあるのですが、彼女らがスポットだけの活躍にとどまらず、「新メンバー」という冠を名実ともに外したなと感じたときがあります。
それが、2021年6月に開催されたノンストップライブではないかと思っています。
3月末リリースの「春めく坂道」のリリースイベントからツアーまで数カ月にわたった過密日程を終え、ツアーから2週間程度経って開催されたのがこのノンストップライブでした。
春の全国ツアーを成功裏に終えた新生転校少女*は、各都市を巡る過程で曲の選択肢を確実に増やしてきました。
元々の歌割が多いこともあり、松井さんと塩川さんの「さやりせ」パートが多いのは変わらずでしたが、やれる曲が増えていくにつれ、新メンバーにも任されるパートが増えてきていました。
6月5・6日に二部制で開催されたこのライブシリーズは、「ツアー延長戦」と題され、1日目が「転校少女*編」2日目が「転校少女歌撃団編」ということになっていました。
最新曲から時代を上るような構成でセットリストが組まれ、僕が行った6日の二部、つまりシリーズのラストライブでは、音源化もされていない、結成最初期の曲が8曲披露されました。
解散ライブの序盤に披露された曲です。
2021年に行った転校少女*のライブで、唯一ライブレポに残していませんでした。
曲としては知っていても乗り方などがよくわからない曲が多く、2年ぶりの披露となった「Love Range!」など懐かしんでテンションの上がっているフロアと温度差を感じ、どう書いたらいいものか..となって結果書かなかったのですが、新メンバーがもはや自分たちの曲として初期曲を消化していた頼もしさはよく覚えています。
曲の歌詞と振り付けを覚えることはもちろんのこと、フロアとコンタクトをとったり、客席にアピールする余裕すらも見せていました。
しかも間にMC無しのノンストップということが恐ろしいです。
ノンストップシリーズの他3公演には行きませんでしたが、最後のこのライブを観ただけでいかほどのものだろうかということはすぐに想像できました。
新生転校少女*は、たった2日間の内に、当時の持ち曲37曲のほとんどを完成させてしまったのでした。
特筆したいのが、6周年での新加入から今まで、新メンバーはグループの活動を止めずにレッスンを重ね、曲を覚えていったということです。
土日は複数のライブに出演しながら、ニューシングルの収録やリリースイベントもしながら、新メンバーは披露できる曲数を地道に増やしていきました。
春頃は1日に2~3曲のペースで覚えていったといいます。
リリースイベントを走り切り、ツアーを完遂した時点で、もう転校少女*の立派な一員であることに疑いの余地はありませんでしたが、この日ほど新メンバーの姿が大きく見えたことはありませんでした。
「色々あった」こと
メンバーはお別れのあいさつで、こう口にしていました。
色々のなかの一つには、このことが含まれているのでしょう。
新体制の発足時に6人だったメンバーは4人にまで減りました。
不可解な脱退のたびに、運営のやり方などに口出しをする人は多くいました。
普段から転校少女*に通っている方ならまだしも、対バンなどでちらっと見ている程度の人までもどういうわけか口出しをしてもいました。
内情は我々に分かるはずもないのに、乏しい情報だけを頼りに決めつけたようなツイートや文章だっていくつか見かけました。
思うのは勝手ですし言いたいことも分かるのですが、ライブアイドルの世界は狭いものです。
グループに残るという選択をし、スタッフを含めた転校少女*チームとしてまだ頑張っていこうというメンバーの目に、そうした文章やコメントが留まらないとも限りません。
普段から自意識過剰な傾向にあるアイドルオタクは、センシティブだったりネガティブとも捉えられるようなコメントにこそ「もしメンバーの目に触れたらどう思うだろう」という想像力を働かせて欲しいと思うのですが...
さもしいコメントを目にし、メンバーは多くを語りたくなったこともあったかもしれません。
でも、僕が観る限りでは、表には出しませんでした。
ライブに足を運べば、むしろ自分があまりに考えすぎてしまっていたのかなと思わされるほど、変わらず素晴らしいパフォーマンスがいつもそこにありました。
転校少女*の居場所はあくまでライブでした。
蛇足的な話ではありますが、ここは触れておきたかったことです。
続いては、各メンバーについて思うところを書いてみます。
佐々木美紅さん
転校少女*で居られてこんなに嬉しい、このメンバーとパフォーマンスできてこんなに楽しい。
ずっと並々ならぬ転校少女*愛を表現していたのが佐々木さんでした。
加入当初からダンスが得意と公言し、パフォーマンスには自信を覗かせていました。
笑みを見せながらのパフォーマンスには目を奪われます。
「プロムナードの足跡」など加入早々から任されていたソロダンスも素晴らしく、過去に経験があったとはいえ新人離れしていました。
かたや歌声では、低音が聴こえてくる一方で高音が苦手な印象を当初は受けていました。
でも、あるとき気付いたら音域が広がっていました。
苦にしていると勝手に感じていた高音を、佐々木さんは楽々と出しています。
ダンスの上手さは、リズムを外さない歌にも活きてきていました。
新グループでも間違いなく、スキルメンとして輝くことでしょう。
成島有咲さん
顔を膨らませたり、八重歯を見せて笑ったり、パフォーマンス中の表情は本人も自覚するように「一番可愛い」です。
陰影がついた横顔や、伸ばした手の先の綺麗さは、ライブハウスのような狭い箱で至近距離から照明に当てられると非常に映えます。
でも成島さんは、こうした外側だけでは語れません。
「どんなに辛いことがあっても、自分から辞めるとは言わないと決めた」
解散ライブのスピーチではこう言っていました。
並大抵の決意ではありません。
「どうせ新メンバー、すぐやめるんでしょ?」
この声を聞いて悔しくてたまらなかったそうです。
過去14キロのダイエットに成功したときの原動力も、人から言われて傷ついた一言だったそうです。
言われたことをなにくそとバネにして行動の糧にしてしまう成島さん。
可愛さの中に、太い幹があります。
「ダンスも歌も、みんなほど飛びぬけては上手くないけど」
スピーチではまた、涙ながらにこう言っていました。
「誰よりも元気をあたえられるような存在になれればと思ってアイドルをやってきた。」
「なれてましたか?」と問いかけ、フロアから返事がわりの拍手を浴びた顔は嬉しそうでした。
本人はパフォーマンスでは目立たないとは言っていますが、先に書いたようにステージ上でのたたずまいは出色でしたし、個人的には印象深いシーンがあります。
転校少女*がNPP2021のステージに立ったときのことです。
加入から間もなく、新体制の発足直前でした。
全曲披露はまだ叶わず、新メンバーは先輩メンバーに混ざって1,2曲のみの出番でした。
このとき全員で披露していたのが「TRIGGER」でした。
先の解散ライブレポでも書きましたが、成島さんのソロパートは2番サビでの
「リアルを撃ち込めば」というフレーズです。
たったワンフレーズではあるのですが、リズムは速くて音は高いという、転校少女*曲特有の楽しさと難しさが凝縮されており、難易度は高いはずです。
伴奏に負けない音圧の「リアルを...」を聴いたとき、思わず「すごい...」と口にしてしまいました。
歌割りさえもっと増えれば成島さんはもっと化けるのではないか。
その後の成長についてはここまで書いてきた通りです。
あの時感じた衝撃を覚えていたから、Zepp Hanedaでお立ち台に立って「TRIGGER」を歌う姿に胸を打たれたのでした。
春ツアーあたりからはオチをつけたりと自然とトークの中に溶け込み、MCを盛り上げてもいました。
松井さやかさん
転校少女*は、僕が観出した頃にはすでに結成6周年を迎えていました。
立派な老舗グループです。
それだけに知らない出来事がたくさんあるのですが、松井さんはことあるごとに昔のエピソードを披露し、その当時を知る人、知らない人との間を埋めようとしてくれていました。
ライブアイドルは閉鎖的な世界で、新規の人はなかなか入りづらいものです。
でも、松井さんはグループを知ったばかりの人にも本当に優しく、誰でもライブへ来やすくなるような環境を作ってくれていました。
ある日の定期公演、メジャーデビューアルバム「COSMOS」衣装で久々に登場したときには、リード曲「星の旅人」のMVでの裏話を語っていました。
「じゃじゃ馬と呼ばないで」のMVは、新宿マルイメン屋上で収録されました。
カメラを持ち寄ったファンの方が屋上でのミニライブの光景を撮影し、そのカットが繋がれて一編のMVとなっていたのですが、大サビで手を左右に振る動作のとき、撮りながらも曲に乗って思わずカメラを左右に振っている方がたくさんいたそうです。
実際にMVを観てみると、たしかに左右に揺れてもはやカメラの機能をなしていない一眼レフやスマホカメラがちらほらと確認できます。
ある日のライブで「じゃじゃ馬」を披露した時のこと、その日も当時と同じく撮影可能ライブでした。
大サビ前にきたとき、松井さんは「カメラ持ったまま踊って!」と無茶ぶりをしました。
確か初めて転校少女*のワンマンライブに行った日でしたが、言われるがままにスマホを振った記憶があります。
のちのMCでは、煽ったときにふとMV撮影のことがフラッシュバックしたと、もう何年も前のことをまるで先週のリリースイベントでの出来事かのように楽しそうに話していました。
特に節目、記念日的な日でなくともそうした話題を届けてくれました。
それに、こうしたエピソードは何もその時初めて披露したわけでもないと思います。
「懐かしいね!」と当時その場に居合わせた人と共有するというだけではなく、それこそこの日初めて転校少女*のライブに来た人でもイメージを膨らませ、空気感を少しでも味わえるようにという丁寧な語り口でした。
大抵この後、同じくそのシーンを体験したはずの塩川さんに向かって松井さんが「りせ覚えてる?」と振り、塩川さんが「うん!覚えてるー」と答えながら明らかに怪しそうだというくだりがあり、ここまでがセットでした。
松井さんが一つ一つひもとくようにエピソードを披露してくれることによって、転校少女*の長い歴史に少し触れられた気がします。
そうしたエピソードが積み重なって今があると強調し、これからも思い出に残るイベントやライブを他ならぬ現メンバーでしたいと、エピソードトークの後には欠かさず付け加えていました。
先に出した、「コールが出来る世界線になったらみんなで集まりたいね!」という解散ライブでのコメントは、まさにその集約でした。
あともう一つ。
いつかの配信で話していたことが印象に残っています。
ニュアンスですが、お母さんから「まだまだステージに立つ娘の活躍を見られているのが嬉しい」と言われたそうです。
小さい頃なら幼稚園の学芸会など、ステージでなにかを披露する機会は誰でも多いと思うのですが、それも大人になっていくと減っていきます。
多くの場合は機会すらありません。
しかし、松井さんが長年続けてきたこのアイドルという職業は数少ない、ステージに立って輝くことの出来るお仕事です。
転校少女*を続けるということは松井さんにとって大きな親孝行だったようです。
活動してきた7年間で、松井さんは辞めたいと思ったことは一度もないそうです。
すごいなと舌を巻きますが、同時に松井さんならそうだろうなと納得させられるところもあります。
ライブでは客席のあちこちにまで平等に目線を配り、ライブの一回一回が大切だとは解散を宣言する前から口にしていました。
平日夕方の、人が集まりにくいライブでは「時間を作って来てくれてありがとう」とことさらに強調して伝えてくれることもありました。
転校少女*そのもののような存在でした。
今後はソロで活動するとのことですが、どういう進路に進んでいくのでしょうか。
松井さんの特技は即興のハモリです。
アコースティックライブやさやりせハーモニーでは、松井さんのハモリが音に層を生んでいました。
曲のプロデュース能力もあります。
ソロでの活躍も楽しみにしていたいと思います。
塩川莉世さん
塩川さんは、一声で会場の空気を変えてしまえる稀有な存在です。
人間、すごいものを目の前にすると何も言えないばかりか笑ってしまうことを教えてもらいました。
これまでのライブレポで何度もあれやこれやと取り上げてきましたが、塩川さんの歌声の前には言葉は不要だと思っています。
ソロ名義「SHUGAR」ライブを2回も観ることが出来たのは幸運でした。
もっと「見つかる」べきですし、今からは想像がつかないような、もっと大きな場所に立っていてほしいです。
ここからはグループ全体、特にコロナ禍以降の活動について書いてみます。
越える必要のない壁
コロナ禍となって以降、活動が思うように出来なくなったことが解散の理由の一つだと、最後のMCでメンバーは言っていました。
このことに触れてみたいと思います。
第一波の頃にまで遡ると、2020年春から夏にかけ、転校少女*は5カ月間ライブ活動を自粛していました。
7月に再開したものの、自粛が明けてからしばらくの主催公演では、ファンにはライブ中のフェイスシールドの着用が義務付けられていました。
薄いプラ板を挟んで眺めると、ステージは遠く感じてしまいます。
フェイスシールドを取って観ることが許されたのはたしか2021年3月ごろだったかと思いますが、その後も目に見えて影響を受けていました。
夏頃、LOVE IDOL PROJECT が始まったばかりのころなど、誰かがかかり、やっと復帰できると思ったら別の誰かがかかる...みたいな状況が続きました。
個人の大きな仕事があったのに、メンバーの罹患による濃厚接触者ということで、遠征先からイベントに参加せずとんぼ返りせざるを得なかったメンバーも居ました。
コロナにかかってツアー初日に立ち会うことが叶わなかったメンバーも居ました。
誰が悪いということでは決してないのですが。
どのグループにも等しく降りかかった災厄ではあるのですが、活動を満足に見られないのはなかなか苦しいところがありました。
言ってみれば、越えなくても良いはずのハードルを無理矢理設定され、つけなくていい足かせを勝手にはめられたような感じです。
せっかく新体制の発足から活動を止めずライブを詰め込んでいたのに(初めて観たライブでは、この日4公演目だとMCで言っていました)、その場で足踏みせざるを得ない状態が続いたことは相当にもどかしかっただろうと思います。
ただ一方で、コロナ禍という特殊な状況は、個人的には転校少女*を知り、好きになっていくきっかけを作ったのも事実ではありました。
転校少女*の存在を知って以降、よくYouTubeでライブ動画を観ていました。
公式が上げる動画です。
動画内には日英の字幕があり、タイトルの最後には「for J-LODlive」と書いてあります。
コロナで影響を受けたエンタメ界への助成金の一つで、ライブ映像などに英語字幕をつけて海外向けに公開することでいくばくかの補助金がおりる、というものが「J-LODlive」なのだそうです。
5分以上のライブ動画であれば申請基準を満たすそうですが、転校少女*はありがたいことに長尺のライブ動画を上げてくれています。
再生時間が30分や1時間というのを見るに、恐らくMCを除いた本編ほぼすべてなのでしょう。
運営的には、動画公開はあくまで助成金への方便にすぎなかったのでしょうが、こちらとしてはグループに興味を持ち出した頃に曲の雰囲気を知ることができ、それがライブへのモチベーションに繋がりました。
振り付けやクラップの「予習」のツールにもなってくれました。
早くから転校少女*のライブを楽しめたのはこの動画のおかげでした。
その当時はさやりせに加えて小倉月奏さんという3人体制でした。
小倉さんも「さやりせ」に並ぶほどボーカルに長けていたので、3人の歌声は配信であっても臨場感に溢れていました。
聴きごたえのある動画を、繰り返し何度も観ていました。
動画を見返して思い出しましたが、自粛期間から復活した2020年夏ごろ、転校少女*はオリジナル曲のリミックスに挑戦していました。
曲の後ろと始まりをノンストップでつなげてみたり、そのつなげ方も凝っていたりと、転校バンドを活かして色々と面白いことをしていたようでした。
解散ライブで披露された「ショコラの独白」~「She’s Rain」~「Winter Wish」の流れは動画でよく観ていたリミックスを彷彿とさせましたが、願わくば現4人体制でのリミックスを見ていたかったなと思います。
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最後に。
解散ライブはこれ以上なく素晴らしいライブでした。
感情がここまで動いたライブはそうありません。
でもそんな素晴らしいライブも、時間が経っていくにつれて代謝され、断片的な記憶になり、いずれ頭の中で再現することは残念ながら不可能になるでしょう。
こうして書いているそばから、記憶が徐々に薄れていっているように感じています。
こうして記事に残しているのは、そうした身体の自然な反応に対しての少しの抵抗です。
やがて読み返したときに断片を繋ぎ合わせる助けになればいいなと思い、この記事を書きました。
転校少女*を知ってから、グループのライブレポや曲紹介など、これまで29本の記事をnoteに上げてきました。
この解散ライブの記事をもって30本目。
30本にとどめた文字の中では、まだ生き続けていてほしいなと思っています。
1年ちょっと。
成島さん、佐々木さんとほぼ時期を同じくして転校少女*を知ったため、観ている期間としてはかなり短いかもしれませんが、この間非常に楽しかったです。
ありがとうございました。
4人のこれからも応援しています。
見出し画像:転校少女* (@tenkoushoujo) 公式ツイッターアカウント画像を改変