【ライブレポ】Fragrant Drive 現体制1周年記念公演 SEVENTH HEAVEN 90min GIG
可能性とか成長、進歩などというものは、だだっ広い海にわけもわからず放り出されただけでは実感するものではなく、昔と今とを確認する地点や座標みたいなものが必要なのかもしれません。
それは、会場が目に見えて大きくなるといった分かりやすい上り階段である必要は必ずしもありません。
波立つ浜に寂しく打ち込まれた杭のようなものでも十分だろうと思います。
自分の居場所がどこかも定まらず、気が遠くなるほど続く円感状の水平線を仰いでいるときには見えなかった景色も、杭にたどり着いたときにははっきりと見えてます。
そこに手を伸ばしたとき、冷静にこれまでを振り返り、確信をもってこれからを望めるものなのでしょう。
前体制のある時から生誕祭や単独公演などでよく使われるようになった秋葉原のAOHARIUM TOKYO。
前体制のラストライブもこの場所でしたし、去年のまさにこの日(4月29日)に行われた現体制お披露目公演の場もここでした。
いわゆるアキバの街を象徴する電気街口ではなくその反対側、ヨドバシのある中央改札から出て首都高の高架をくぐった先の、一歩進めば住宅街という静かな場所に位置するこのライブハウスで観たのは、7人組アイドルグループ・Fragrant Driveの可能性だったように思います。
「25曲くらいだっけ?」「いや、30曲越えてるはず」
一年前のお披露目ライブでパフォーマンスした曲は4曲でした。
「胸の奥のVermillion」「恋花」「Evergreen」という、前体制やその前からずっと定番だった曲たちに、久しぶりに日の目を浴びた「Let It Flow」を加えた4曲です。
4人の新メンバーが入ってがらりと顔ぶれが変わった現体制。
三丸結愛さんと乃上恋々さんに至っては「アイドル一年生」でした。
準備期間もさほどありませんでしたし、たった4曲も無理はないと思っていましたが、それからきっかり一年経ち、過去レーベルであるLTGの曲も継承しつつ持ち曲は一気に30曲以上にまで増えました。
この日はアンコール合わせて18曲セトリ(うち新曲は2回披露)だったので、曲かぶり無しでもう一回90分尺のライブセットリストが組めてしまうということになります。
去年の現体制一年目を概観すると、夏フェスから新曲「好きだ!」が発表され、秋からは東名阪ツアーを敢行。
グループ全体のカラーでもあった深紅の衣装は、ファイナルからは漂白されて真っ白な衣装になりました。
新規も増え、勢いづいているのは間違いなさそうです。
さて次の展開は...?というところでやってきたのがこの1周年ライブでした。
一年前と同じ場所での周年ライブともなれば、その当時と今とを重ね合わせて違いを透かして見るというのがよくある見方かなと思います。
とくに自分はあまりFragrant Driveのトレンドをこの数カ月追えておらず、そもそもライブが3カ月前の対バン、単独ライブに至っては現体制のお披露目にまで遡ってしまうという有様でした。
そんな状況ですから、間違い探しではないですが「あの頃とどう違うんだろう?」という見方になってしまうのも避けられないことかなと思ってしまうのですが、もはや比較できるような問題でもないことは、一曲目「胸の奥のVermillion」のイントロから明らかでした。
最初のブロックは、因縁深いことにお披露目の時のセットリストと全く同じ4曲です。
辻梨央さんの目が光っていました。
白目の部分が、すぐ斜め上から照りつけてくるライトを反射してこちらを照らしていたので
す。
しかし、フロアを観ている時間が長いから自然と光っているという風でもありません。
手鏡の向きを変えてベストなポジションを見つけるがごとくあえて角度をコントロールしているかのように思えるのです。
目が光るというのは比喩的な意味も含まれています。
「胸の奥のVermillion」や「Let It Flow」といった芸術性がものをいう曲では、自分が知る限りでは一番厳しい顔つきをしていました。
圧倒されてしまうような目力です。
かといって緊張の糸を張りっぱなしというわけでもなく、あえて声を絞り気味にして集中力を掻き立てる場面もあります。
薄味な箇所を意図してつくり、濃い方を強調するという見せ方は、頼れる仲間がいるから自分だけがアクセルを踏みっぱなしにしなくてもいいという、一年間うちに生まれていった心のスキマのように見えました。
「入れ替わりの多いアイドルの世界で、1年間7人でずっといられているのは凄いことだと思う...」
全てのプログラムを終えた後、最上手側の板橋さんが言いました。
神妙な顔つきのメンバーの中で、真っ先に感情を爆発させたのが隣の辻さんでした。
途端にうつむいたかと思ったら、目を真っ赤にして泣いているのです。
まさか辻さんがと驚いたのですが、久々に行った自分に意外だと思わせるほど、この1年で大きく変わっていったところがあったのでしょう。
個人の活動としても、グループの在り方としてもです。
これは全くの邪推だと読み流して頂きたいですが、きっとストイックな辻さんですから、自らの出来なさを責めて(ライブ前後は不調だったと聞きました)その一方で助けてくれる仲間の存在を一層認識したのかもしれません。
声出しも解禁されて久しく、開演前の影ナレの時点で何人かの方が元気に返事をするなど暖まりきっていたフロアは、メンバーの登場とともにさらに温度を増しました。
空気をせき止めていた仕切りがカタンと外されたのか、空調が止められたのか、ものの数分で熱波がやってきます。
目の前の霧がスモークなのか失われていく水分なのかも分からず、後ろで比較的おとなしめに観ている自分ですら汗が背中を伝うのを感じます。
「みんなこの水分回収しないと!」
4曲ごとのブロックの合間にはメンバーが水を飲むように呼びかけていましたが、その裏ではマイクをとっていないメンバーが下手側の袖に駆け出すのを何度も見かけました。
こちらに発信しているようでいて、自らの体調を確かめていたのでした。
最前列とステージとの間がとある事情によりいつもより遠ざけて区切られていても、片桐みほさんのフロアとのコミュニケーションはいつも以上に盛んでした。
コールを口ずさみ、耳に手を当てて「コール小さくない?」と煽ることすらもあります。
バウアーが挑発するときのポーズです。
片桐さんはウインクという武器を積極的に使うようになった気もしました。
ターゲットをピンポイントで定めて目を合わせていきます。
AOHARIUM TOKYOはステージに向かう光が強く、逆にフロアは背景の黒と同化してしまうためステージから客席が見づらいと見いたことがあったので油断していたのですが、結構見えていたようでした。
右から左へという視線の動きは、掃除をしているようにも見えます。
ただもう少し突っ込んだ言い方をすると、日本語の掃除というよりも、圧倒するとか捲るとかいう意味の「スイープ」という言葉のほうがしっくりくるかもしれません。
片桐さんのおかげで、やや空いたステージとの距離感が埋まりました。
メンバーの顔や首のあたりには早いうちから汗が光っていました。
衣装の白がしまった印象を与えるのか、汗にまみれた立ち姿はほどよく影が付き、彫刻したように筋肉質です。
はしゃいでいるメンバーが多いようにも感じました。
やはり1周年を無事にこのホームと言うべきAOHARIUMで迎えられたことへの安堵がなにより大きかったのだと思います。
仲の良さもあるのでしょう。
平均年齢が下がったというだけでなく、いまのFragrant Driveは芽が出て間もないグループのように若々しいです。
その中で、一人「意外と緊張しなかった」と、どっしりと構えていた(ように見えた)メンバーがいました。
三丸結愛さんです。
他のメンバーよりはしゃいでいなかったというわけではなく、本人としても別に大人しくしていたつもりはないと思うのですが、自分の目線からすると浮つきから一番遠ざかっていたのは三丸さんでした。
這うような歌声は低音域でよく響き、上ずりがちな全体の音を束ねています。
ソロパートのだいぶ前からマイクを手にじっとしている姿も印象的でした。
MCや特典会では楽しく喋りながらも、両手を上げてウイニングランに浸っているというよりも、クールダウンに努めているような、そういう印象があります。
「好きだ!」の動画撮影を全ライブで解禁するようになったり、現体制になってからはライブ映像を公開するのを推奨してきました。
単純だけど単調ではない、練られた「好きだ!」の振り付けだったり、フロントメンバーの目を引くダンスや声量はどうしたって入ってきますし、ここだけでも魅力は伝わってきます。
ただ、映像だけでは後列の動きまで追うことは出来ません。
入れ替わりで自分の出番を待つときの仕草だったり、ステージの隅の立ち位置にいるときの表情は、カメラを通した視界にはあまり入ってこないものです。
20歳になったばかりの乃上恋々さんは、首のかしげ方や目線の落とし方に一ひねり加わり、捉えづらい表情になっていました。
自分が知っている頃よりそうとう大人びているように見えます。
千代田さんや辻さんと行ったスキルメンと日々一緒に活動していると伝染していくものなのか、声量もだいぶ増しています。
両手で大事そうにマイクを握る小日向美咲さんも、一言では言い表しにくいような表情をすることがありました。
自撮りでは笑顔がとりわけ目立つメンバーです。
その笑顔を消している場面が、シリアスな曲で目を引くのです。
曰く「ほっとくとつい笑っちゃうから」トレードマークである白い歯を封じ込めているそうで、スマホを繰っているだけでは知ることのない女優の顔つきでした。
板橋加奈さんは、感情を歌に乗せるのが見違えるほどうまくなったと思います。
気持ちを入れすぎるとタメが入り、やや遅めのリズムになりがちだと思うのですが、それがありません。
流れてくるメロディーの上にボーカルを落とし、さらにその上に心揺さぶる共感のようなものを遅れることなく乗っけるというベルトコンベアのような流れが、一つの遅延もなく流れるように進んでいました。
進歩したという実感は、ともかく自分の居場所がわかる目印を見つけないと得られないのではないかと冒頭で書きました。
たとえそれが、その先のレールのない停車場であったとしても、そこに立って成長したと思えたほうが、来た道も進むべき道も分からずウロウロしているよりよほどマシだと思うのです。
Fragrant Driveはどうだったでしょうか。
様々な障害によって右往左往せざるを得ず、爪を研ぎ続けているしかなかった頃もあったはずです。
この日発表されたのは、新曲に加えて秋から年明けにかけて「海を越えた」ツアーの開催と、年明けの台湾での単独公演、そして2月12日に渋谷REXにてワンマンライブを開催するというものでした。
特に渋谷REXでのワンマンは、コロナの流行りはじめの頃に予定されていたものの中止になってしまったワンマンライブのリベンジ公演ということで、じつに4年越しの開催ということになります。
やや先のスケジューリングのようには見えますが、9月からツアーということはここから連なっていくであろう夏フェスで新曲を中心に新規ファンを巻き込めるかどうかが重要であり、それまでの間も準備期間として自ずと意味を帯びてくるはずです。
今や片桐さんとの2人のみになってしまったオリジナルメンバーとして、そしてリーダーとして、板橋さんは良いときも悪いときも見てきました。
そんな板橋さんが遂げた明らかな進歩は(これに限りませんが)苦境でも自分を見失わずに活動してきた証明だと思います。
特に前半のブロックなど、曲が速く感じる事がありました。
何度も聞いて少なからず脳に刻まれているビートより、ステージに吹いている風のほうが速いように思えたのでした。
音の先取りをしているような激しいダンスに、そう錯覚させられます。
身体の反動を利用してバネのように跳ねる動きは、頻繁なフォーメーションチェンジをしているわけではないにも関わらず目で追いきれません。
7人の和声は程よく混ざりつつ、時々枝分かれします。
嵐のように吹き付けるステージの中心にいたのが、千代田流季さんでした。
”キレ”としか表現しようがない俊敏な動きはもとより、洞穴にいるのかと思ってしまう奥行きのある声は出色でした。
「言葉の壁も見た目の差異も全て乗り越えて歌は響く」(この詞であってますか?)
4ビートに合わせて拳を突き上げる振り付けとともに、上手さよりも気持ちで押し切るようにメンバーは歌います。
初披露の新曲「ぼくらのうた」です。
グローバルな友情論はアイドルに限らずよく取り上げられるテーマではあります。
ただ、その言を実際に行動に移すグループは、そのうちどれほどいるのでしょうか。
言葉やポーズだけだと鼻で笑われてしまいますが、Fragrant Driveは台湾遠征などをもってこれから挑戦しようとしているのです。
作詞したであろう貝塚P特有の小難しい言葉選びもあって、ずしんとした説得力をもって歌が響きました。
現体制になってから正直なところ、あえて前体制を無視するかのように急激に可愛い路線に突っ走っていったことが受け入れきれずにいるところがありました。
見るスパンが数カ月単位と大幅に開いてしまったのは、自らの理想像と実際の方向性との乖離が一因でもあります。
ただ、この90分で見たのは、可愛いさから険しさまでどちらにも偏り過ぎずかつどちらも重んじるという、まさしく観たかったライブでした。
Fragrant Driveの現状を表していると思ったのは「Growing Up」から「Stay Gold」への流れでした。
結実から朽ちぬ輝きへ。
Growing Upのアウトロに続く、Stay Goldの突然レーンが動き出したような速めのイントロもあり、何かのきっかけでロケットスタートを切りそうなグループの雰囲気がこの2曲に凝縮されています。
去年の新体制お披露目ライブから大きく成長したのは明らかでした。
あらゆる面においてです。
同時に、可能性や伸びしろの余白もこの日のほうが大きく見えました。
そう思ったのも、数か月後、一年後の明確な目標が定まっているからだと思います。
まだ新曲もツアーもなにも発表されていなかった初お披露目のときもそれはそれで楽しみでしたが、次々と告知がなされて「後はやるだけ」という状態の今はその時以上に引き締まっているのではないでしょうか。
ちょうど一年。
ここを区切りにして、綺麗でまっさらなページに新章が加わりました。