【ライブレポ】Fragrant Drive 単独公演「カウントダウン」2022.02.23
ストリングスの音色が情緒を目覚めさす「カウントダウン」から始まったライブは、片桐みほさんがソロで歌うところから始まる「眠れる姫にくちづけを」を経て「恋花」、最後は板橋加奈さんの落ちサビパートがある「Melt」へと続いていきました。
これら序盤の4曲は、どれも感傷的な気持ちを持ち寄ってくる曲です。
メンバーが曲の世界を離れて素に戻る最初のMCまで、どういう顔をしてステージを見ていいのかわからなかったのは、この日を迎えるにあたって4曲の世界観以上に複雑な感情を捨てきれなかったからでした。
カウントダウン
2月23日(水祝)、5人組アイドルグループ・Fragrant Driveが池袋リヴォイスにて単独公演を開催しました。
予定されていたライブ時間は、1時間と長いです。
ここ最近のFragrant Driveは、長めの単独公演が立て続けに組まれていました。
3週間ほど前に同じく池袋リヴォイスで開催されたのはPASTELLとの合同フリーライブで、これは50分。
そしてつい3日ほど前に行われた二部制ライブは、一部が無料ライブ、二部がメンバーの三田のえさんの生誕祭という構成で、どちらも1時間を越えました。
1カ月の短い期間にこれだけの長尺ライブが挟みこまれるというのは、長年アイドル活動ををしてきたメンバー達にとってもなかなか経験の無いことのようです。
まるでツアーのようだと、メンバーの誰かが言っていました。
さながらこの日は「池袋公演」。
ライブ開催のお知らせは、つい2日前に発表されました。
日曜夜に開催された三田さんの生誕祭の余韻が、まだ残っています。
それこそ対バンライブなら急遽となるのも分かるのですが、まさか単独でしかも60分とははなはだ急な話です。
公演タイトルには、「カウントダウン」と打たれていました。
1月末に現体制で完成させたばかりの、Clef Leafをオリジナルとする曲「カウントダウン」からきているのでしょう。
仰々しいこのタイトルが意味を持つと知るのは、告知翌日のことでした。
ライブ前日の夜、Fragrant Driveの公式アカウントから「大切なお知らせ」がアナウンスされました。
「大切なお知らせ」は、その字面だけでアイドルファンを神経質にします。
内容とは、三田のえさんと伊原佳奈美さんが3月21日のライブをもってグループを卒業するということでした。
卒業を知り、その日までの残り日数を意識しはじめる。
そういう意味での「カウントダウン」だったのでした。
急遽単独公演が組まれ、それがまた1時間という長尺だったのも、ライブをたっぷりやりつつ2人が今の気持ちを吐き出すにはこれくらいのまとまった時間が必要だと、そういうことだったのでしょう。
卒業を知った時点では、これもいつかくるものと存外落ち着いて受け入れられていました。
でも、ライブとなると別です。
5人での活動を見られる時間が迫ってきている事実が頭にあると、目にするものや耳に入ってくるものへのフィルターがいつもと違います。
伴奏は3週間前のフリーライブよりも音圧高くガシガシと鳴っているように感じ、歌声からは別れを連想させるフレーズを拾ってしまいます。
1曲目「カウントダウン」にはこんなフレーズがあります。
人生の100%すべて ふたりでいられるわけがないじゃない
卒業発表前から、伊原さんの歌うここの歌詞は、いつかは目の前からいなくなってしまうアイドルの儚さを語っているような気がしていました。
いつまでも続いていくものは一つとしてない。
PAの加減なのかいつも以上にむき出しで鳴らされる伊原さんの声を聴くと、実感がより湧いてきました。
3曲目の「恋花」。
選んだ道は 険しく長い
三田さんがこのパートを歌います。
3月末を境に、グループとは違う方向に向かっていく三田さん。
直後の歌詞「切り拓いていくから」までをつなげると暗示めいたものに思えてきました。
水色の照明に変わった4曲目の「Melt」、始まりのパートは三田のえさんから伊原佳奈美さんへのリレーでした。
雨上がりの空気の香りが 遠い記憶呼び起こして
幼き日のあなたの笑顔が 頬を染めて消えるの Melt into…
ここで襲われたのは、以前別のライブで感じた、身体が震えるような感覚。
その場に立っていられなくなりそうなほど、メロディーや歌詞が非常に染みてきます。
ふたりきりの毎日には 限りがあるの
Bメロでは、5人が円を作り、その内側を向きながら歌います。
それぞれと目を合わせ、笑顔で向き合っていたのですが、何かいつもと違うような気がしなくもありません。
真っ黒で長い髪にウェーブをかけた辻梨央さん。
送り出す側です。
揃えられたその前髪は重く見えました。
真剣な目がそこから覗くとき、その奥にはどんな気持ちが隠されているのだろうかと考えて勝手につらくなります。
もしかしたら深い意味はないのかもしれませんが、辻さんは2人のスピーチの時にも考え込むような表情をしていました。
この日は、MCコーナーが3回巡ってきました。
ただ、最初の2回では卒業のことには一切触れず。
初披露の曲のことやメンバー同士での絡みなどで楽しげに進んでいきましたが、ラスト2曲を控えた最後のMCで板橋加奈さんが切り出したところから空気が変わりました。
ここで、卒業していく2人の口から改めて思いが伝えられました。
思い出せる範囲で書いてみます。
【コメント】伊原佳奈美さん
前グループから活動してきてここまで5年間。
優しい人達に囲まれた環境で活動してきて、甘えてきた部分もあった。
「しっかりしないといけない」。
生誕祭などで抱負を聞かれるたびにそう答えていた。
そうは言いつつもなかなか変われなかったが、現在22歳、周囲では4大を出て就職する人も。
新たな一歩を踏み出し変わっていくために、ここで卒業を選択した。
この日は伊原さんがたくさん喋っていました。
セットリストを覚えるのに苦労して、いざステージに立っても片桐さんなどしっかり覚えているメンバーに聞くことがいまだに多いというエピソードも披露していました。
現にこの日は、言ったそばからMC途中にメンバーにこっそり(?)確認している姿もありました。
既出だったかもしれませんが、他愛もない話題を出してきたのは、この場を重苦しい空気にして欲しくないという心があったのかもしれないと邪推しています。
ほぼ毎日更新されるブログの、この日のライブ後の記事にはこう記されています。
みんな笑って過ごしてね!!!
私もたくさん笑って楽しく過ごすから!!
この言葉がすべてなのだと思います。
【コメント】三田のえさん
卒業コメントをまず語り始めたのは三田さんでした。
でもなかなか言葉を継げず、一言が出てくるまでに時間がかかりそうだったので伊原さんにバトンタッチしたのでした。
伊原さんの後、再度仕切り直してのお話です。
天井を見上げて言葉を探していました。
空調の音が聞こえてくるくらい、沈黙の時間が続きました。
どんな言葉も正解でないような気がしたから、なかなか出てこなかったのでしょうか。
沈黙の間、三田さんのなかにそんなせめぎあいがあったような気がします。
それでも、一つずつ文を繋ぎ合わせてこのようなことをコメントしていました。
みんなを楽しませること、わくわくさせることを毎日考えてきた。
生まれてきたアイデアが形となったのが「ぴえたん」のプロデュース、撮影会などの個人活動。
さらにわくわくさせることを突き詰めて考えていた結果、グループを抜けた方がいいのではないかという結論に至った。
「ファンを幸せにするのは今卒業することではないよ」
という人もいるかもしれない。
でも後々の活動を見てくれれば「こういうことをしたかったんだ」と分かってもらえると思う。
このライブの直前、三田さんはこうツイートしています。
大前提に、見てくれる人達のことを考えてのことだとは重々伝わってきています。
三田さんはアイドルのことをあまり知らないまま業界に飛び込み、活動を始めてからはまだ1年ちょっとしか経っていません。
この決断がファンにどういう受け止められ方をするのか想像つかなかったそうです。
喋っているとき、身体はフロアと正対せず、やや上手側の斜めを向いていました。
曲中のソロパートでは一瞬詰まるシーンもあり、トークでは伊原さんと対照的に口数は少なめで、ほとんど喋っていませんでした。
この日のステージに立つことへの怖さが、こうした様子の裏にはあったのかもしれません。
ライブ内容へ
ここまでがコメントで、以降は披露された曲について書いてみます。
現体制終了のカウントダウンが始まったこのタイミングで、新体制初お披露目の曲がセットリストに入ってきました。
seeDreamの曲であった「キミのもとへ」。
回想しているような歌詞を読むに、その時の舞台は学校生活、時期は「卒業」のワードが入っていることからも桜の舞う頃を思い浮かべているのでしょうか。
サビには、東西南北に針を指す振り付けをしながら「迷わずに飛び出そう 風のコンパスが向くほうへ」というフレーズがあります。
なんだか、二人へのはなむけのような感じにも思えてきます。
季節的にもマッチしています。
聞けば卒業発表とは関係なく、その前から仕込んでいたとのことでした。
初披露の場所などを選んでいたら遅くにずれ込み、たまたまこのタイミングとなったそうです。
最後のMCの後に披露されたのは「胸の奥のVermillon」。
直前までスピーチをしていた三田さんが曲振りをしました。
ライブで欠かさず披露される、グループの代表曲です。
いつもはSEや前の曲からの流れの中にイントロが紛れ込んでいたため、曲名を告げて披露されるのはしばらくぶりだった気がします。
アウトロで5人がそれぞれの方向に手を伸ばしていくとき、いつものフォーメーションだと辻梨央さんが五角形の頂点に立ってフロアと対峙します。
この日はたしか伊原さんがその位置でした。
曲が終わり、三田さんが走ってフォーメーションに移動しました。
ラストは「Stay Gold」。
駆け抜けていくこの曲は、1月の現体制初お披露目のときからライブの最後に持ってこられることが多かったです。
全てを乾かしてカラっとした気持ちにもさせてくれて、ラストにふさわしい曲です。
「カウントダウン」で悲壮な雰囲気から始まったこの日のライブですが、最後には「儚い永遠の輝きよ」と救いを残して締めくくられました。
ライブ後の特典会で、メンバーとは、卒業についての話をするつもりはありませんでした。
比較的ライトな立ち位置から見ている自分の立場で何を言うべきでもないと思っていたのです。
でも、5人のほとんどはハートの部分であるこの話題を振ってきました。
楽しいからこうしてステージに立っている。
まだまだ大きいところに連れて行くので。
その中で、4月以降もグループに残るメンバーからは、こんな言葉を頂きました。
3.21までも、またそれ以降も、ここで終わるグループではないと思っています。