【ライブレポ】透色の秋 全国ツアー2022 初日東京公演
2022年9月3日(土)、渋谷DIVEにて表題のライブが開催されました。
7人組アイドルグループ・透色ドロップの秋ツアー「透色の秋 全国ツアー」の初日公演です。
東京公演を皮切りに11月19日のファイナル東京公演まで新潟、福岡、大阪、名古屋、仙台と地方五か所を巡るツアーで、6月末に終えたばかりの東名阪福ツアー「目に見えない大切なもの」を越えるグループ史上最大の規模となっています。
◆もはや狭い会場
代官山方面から並木橋交差点に行き、明治通りを恵比寿方面に向かって少し歩いた先に渋谷DIVEがあります。
初見だと見落としてしまいそうな小さな立て看板を目印に左に曲がり、階段を登ってすぐ目の前に見えてくるのが会場の2階入り口なのですが、建物の外観は一見ライブハウスとは思えないような見た目をしていて、スタッフやお客さんなどが立っていなければ住宅街に溶け込んだ喫茶店と見分けがつきません。
真裏にはアパートがあり、生活と非日常の境目のようなところに位置しています。
渋谷CRAWLというライブハウスから派生し、規模を倍に拡張してオープンしたのがDIVEということで、オープンはコロナ禍の2020年末。
つい最近建てられたばかりの新しい会場です。
自分はオープンから1カ月足らずの時にライブアイドルのソロイベントで来たことがありました。
渋谷・恵比寿エリアという立地で、新しくキャパも大きいライブハウスであることから、ライブアイドルのイベントが平日休日問わずいくつも組まれており、特に透色ドロップや翡翠キセキの所属する事務所、エイトワンはここを使ってのイベントを頻繁に開催しています。
「Go To DIVE」という事務所主催の対バンライブがレギュラーとして存在するほどです。
透色ドロップにとってホームのような会場だというのは、この日のMCで「渋谷DIVEの思い出」を語ったことからも分かります。
MCのワンコーナーになってしまうほど、DIVEは思い出深い場所なのでした。
話の中で思い出深い出来事として上がったのは、橘花みなみさんの最初の生誕祭をオープンしたてのこの会場で開催したこと、さらにその後2期生として5人が加入した時こ新体制お披露目ライブの会場でもあったことなど。
透色ドロップもDIVEと同じく、コロナ禍のなかデビューしました。
2020年6月のことです。
この災禍でエンタメ業界に生まれた苦しみみたいなものは、両者共通して抱えているはずです。
似たもの同士としてシンパシーを感じているかもしれません。
ただ、今年5月に梅野心春さんが加入したあたりからは「Go to DIVE」などへの出演もめっきり減った印象で、他イベント含めDIVEに立つ機会も格段に少なくなりました。
そのため、先輩メンバーと違って梅野さんは回も浅く、この日が2回目のオンステージでした。
Go To DIVEに代表される事務所内での対バンライブが激減した一方で、ステップアップのための対外的なイベントは数を増しました。
梅野さんの初お披露目ライブは「ッスッゴイライブ」という不定期開催の対バンライブでした。
ここには、トッパーの透色ドロップの後になんキニ!、ジャムズ、デビアン、マイディアなど錚々たるグループが並んでいます。
知名度の高いグループばかりのところに飛び込み、胸を借りるようなステージへの出演はこの後も続きました。
フェスのメインステージを飾るグループとの共演は珍しいものでもなくなってきました。
大きな規模の対バンへの出演とともに、フェスのメインステージ争奪戦や「IDOL OF THE YEAR」といった、ライブアイドルの中では知名度があると言われるグループが必ず通ってきた登竜門的イベントへの参加も増えだしました。
ここで優勝することはまた別の要素が絡んできますが、まず参加グループにノミネートされた時点で一つの勲章を得たと言っていいと思います。
優勝できずとも勝ち得た出場権こそ、地道に集客を増やし力をつけてきたことのゆるぎないしるしです。
そうしてやってきた久々のDIVEは、ちょっとした凱旋公演の趣もあったかもしれません。
自分にとっては、DIVEで観る透色ドロップは初めてでした。
開場から少し遅れ、黒枠にガラス張りの建物へと入り上手側に通じる階段を降りると、既にフロアは人であふれていました。
前売り券は早々に完売。
400人キャパの会場は、フリコピをする余裕すらないのではないかというほどぎっしりと埋まっていました。
最後列に入るしかなかったのですが、後ろであればまだなんとか空いています。
お客さんが入り切った後に滑り込んだのは、かえってラッキーでした。
対外ライブで力をつけてきた透色ドロップにとって、ふるさとであるはずのDIVEはもはや狭すぎる会場でした。
開演前から、これは誰の目にも明白であったと思います。
ではここから、ライブの内容へと入っていきます。
18時、ほぼ定刻だったと思います。
瀬川奏音さん曰く「前より増えた」という何段か重なったスピーカーから、びっくりするほど大きな音でOvertureが鳴らされました。
見並里穂さん、橘花みなみさん、花咲りんかさん、佐倉なぎさん、瀬川奏音さん、天川美空さん、梅野心春さんの順で上手から登場してきます。
狭く感じたのは、フロアのキャパシティだけではありませんでした。
ライブの模様を収めたYouTubeのアーカイブ映像には、2階から撮ったと思われるショットがたびたび映し出されていました。
45°ななめ上くらいの角度からなので、メンバーの顔に加え、フロアからだと死角になってしまうステージ奥まで良く見通せます。
そこから見てみると、ステージの奥行きがさほどないことに気が付きました。
幅もありません。
7人では手狭です。
ただ、会場に居て生の動きを観ているときにはそんなことは一切感じませんでした。
アーカイブを見て初めて知ったのでした。
言い換えれば、最初から最後まで狭いように見せなかった7人の動きが素晴らしかったということになります。
フォーメーションチェンジが多いだけではなく、その移動も上手の人は下手に、下手は上手にというたすき掛けの複雑さがあったりするので、息が合えば綺麗に見える一方で少しでもタイミングがずれると締まらない移動に見えたり、最悪の場合ぶつかってしまうなんていう危険も秘めてるのが透色ドロップの動きなのですが、この日は危なっかしさが一切ありませんでした。
「ミスがあった」と何人かは言っていましたが、致命的なものは恐らく一つもなく、客に分かるか分からないかくらいの高度なレベルだったのだと思っています。
狭い分一人一人の動ける範囲も小さく、やり慣れている会場とはいえよくこんな狭いスペースでぶつからずに踊っているなと、上からの視点をみて感嘆してしまいます。
◆新たな武器
Overtureの鳴り出しは大きめだなと感じたボリュームでしたが、メンバーの声がマイクに乗るころには聴きやすい音量になっていました。
上げ過ぎたと思ってPAで調整したからなのかもしれませんし、あるいはメンバーの歌声が心地よく、大きさが気にならなくなっていたのかもしれません。
3月の単独公演、5,6月のツアー、そして争奪戦などをたたかった夏フェスと、数々の重大イベントを乗り越えてきた今年の透色ドロップの大きなテーマが、歌声の改善だったのではないかなと自分は思っています。
時期をより狭めれば、5,6月の二周年ツアーが始まる少し前から、メンバーの歌声が明らかに伸びました。
元々分かりやすかった瀬川さんや見並さんだけでなく、他のメンバーも目に見えて底上げがされています。
3月の単独公演を観て、自分がグループの歌声について書いたのは「やや声が弱弱しい」という感想でした。
弱弱しいというのはたかがオタクが批判をしたいという意図ではなく、そもそも透色ドロップの曲があまり声を張り上げるような種類のものではなく、その割に音域が高めなので高音をしっかりださないといけないため、両者のバランスをとった「最適解」が、か細く息が多めな歌い方となのだろうという意味合いでした。
そして、その歌い方はなにもマイナスではなく、「君が描く未来予想図に僕がいなくても」のような儚い曲は、細い声があることによってより脆く感じます。
これも透色ドロップに必要な成分だというのが当時の感想でした。
あの頃書いたことが間違いだとは思っていません。
しかし、その後の梅野さん加入前後のライブを観るにつれ、先に書いた考えを改めなければいけないような気がしてきました。
「心細げな」という形容はもう透色ドロップのボーカルには似つかわしくなくなってきているように思うのです。
ライブアイドルに典型の、音量さえ出して細かな技術を全て飲み込んでしまうような歌い方へ変貌したわけではないのですが、一人一人の歌声が断然クリアに聴こえるようになりました。
7人の歌声が、粒立って聴こえてきます。
これまでは集団走気味で、一人一人の歌声があまり見分けがつかないところもあったのですが、今や歌にも個性がよくわかります。
単に自分の視力が上がっただけなのかもしれませんが。
元々、ステージを丸ごと使ったダンスや表現には目を見張るものがありました。
ここにきて、新たに歌という武器が加わりました。
歌に磨きがかかったと傍目にも分かるようになったころと、大きめの対バンライブに出演するようになった時期が重なったのは偶然とは思えません。
この日は、音量のわりに高音が全くきつくなかったのが印象的でした。
◆寄り添う新曲
さて、順を追ってライブのことを振り返ってみると、特別衣装で登場した一曲目は新曲でした。
「自分嫌いな日々にサヨナラを」。
8月の終わり、予告も無しに突如グループ4本目のMVが公開されました。
これまでの3曲とは違うのが、ストーリー仕立ての構成となっていることです。
衣装を着てのダンスショットはありません。
7人は独立した存在としてそれぞれの役になり切っています。
カフェで勉強する学生、そこで働く店員、あるいは進路に悩む人。
立場は様々なのですが、誰を観ても共通しているのが現状に満足していないというか、何かを抱えているような感じに見えるということです。
店員役としてゴミを捨てに行っている橘花さん。
曲の前半で丁寧に描写されるのはなんてことないルーティンのワンシーンですが、憂鬱そうなその表情からは心の中に広がったもやもやがその袋に押し込められているような気もします。
そして、彼女らの生活の端々に出てくるのが「透色ドロップ」という存在です。
見並さんは、アイドルになろうかと一歩踏み出そうとしている人の役。
「アイドルをやらないと死ねない」透色ドロップのオーディション画面を開いています。
もしかしたら、MVのようにカフェで進路を考える一コマが、九州で社会人をしていた当時の見並さんには現実であったかもしれません。
まるで前日譚のようです。
かたや、瀬川さんと佐倉さん、あるいは勉強の合間に眺めている梅野さんが眺めているスマホに映るのは「だけど夏なんて嫌いで」。
今の透色ドロップの映像を本人たちが見ています。
カフェの別の席では、眠り込んだ客役の花咲さんを瀬川さんが起こすシーンがあります。
目が覚めたとき、そこは楽屋でした。
背中をゆすっているのは、店員ではなく仲間となった瀬川さんです。
アイドルをやる前、透色ドロップに入る前の夢を出番前の楽屋で見ていたのかもしれませんし、あるいは現実はカフェで止まったままでその後のシーンは全て花咲さんの夢の中なのかもしれません。
ラストシーン。
この日のライブと同じ特別衣装を着た7人が楽屋から出て円陣を組み、ステージに向かっていきます。
カーテンが開き、誰も居ない客席の方を向いて7人がこの曲の最初のフォーメーションで整列して幕を閉じるのですが、ここも色々と考えさせられます。
紆余曲折を経て、様々な背景を抱える7人が集まって透色ドロップとなり、円陣を組んでライブに臨むシーンだとも捉えられるのですが、自分は現実とリンクしたものではなく、アナザーストーリーを観ているような感覚も覚えました。
「別の世界線」と言われる類のものです。
画面の向こうの世界は虚像ではなく実像として存在し、その世界ではここから「自分嫌い」のMV撮影が始まるのだろうと、そんな気がしたのです。
フォーメーションを組んでいますから、別のMVにはダンスショットもあるのでしょう。
しかし、別バージョンのMVはこの世界にいる限り見ることができません。
ところで余談としてこの日のMCで、新曲について何人かのメンバーがコメントを語ったシーンを一個挟みたいと思います。
「みんなも知ってると思うんですけど、私は自分のことが好きなので」と言いだしたのは橘花さんでした。
小さな笑いが起きる中「自分のことを嫌いだなって思う人にちょっとでも背中を押せたら良いと思います。」と言いながら、押すジェスチャーのつもりだったのでしょう。
隣で話を回していた見並里穂さんのことをグーで叩くような仕草をしていました。
押すのではなく叩いています。
曲そのものに触れると、これまでにない曲だと思いました。
歌詞にあるように
というのがこの曲の主題だと思うのですが、その伝え方がとても優しいです。
慰めるわけでもなく盛り立てるわけでもなく、思い悩む人のそばに寄り添って何も言わずに言葉だけを置いていくような、そんな印象を受けました。
大きな波を起こすことなく、4分半ただずっとそこにいてくれるような曲です。
聞き終えた時に劇的な効果を生むような曲ではないかもしれませんが、間違いなく楽になった心持ちを実感します。
ゴールは他の既存曲と同じだったりするのですが、その過程がまるで違う曲だと思いました。
例えば「孤独とタイヨウ」や「衝動」みたいな曲も最後には希望を見せて終わるのですが、これらの曲はそこに至るまでにいくつもの展開があります。
人間の心のように複雑に絡み合ったものをほどいていった末に見えてくるのがショーシャンク的な開放感あふれる喜びという感じです。
「自分嫌い」にはそれがありません。
まどろっこしさがなく、言葉として分かりやすいです。
ライブは新曲一曲だけを披露し、すぐMCに移りました。
「はい、始まりました!「透色の秋全国ツアー2022」、皆さん初日から盛り上がる準備は出来ていますかー?」第一声は梅野心春さんでした。
6月の下旬に終わった2周年記念ツアーからこの日のツアー初日までは二カ月とちょっとしか空いていません。
そのわずかな期間で明確に変わったことがあるとすれば、梅野さんから新メンバーという冠がなくなったということです。
ツアーの第一声を務めたことがそれを象徴していました。
前回の2周年ツアーまでは慣れないフォーメーションに苦労したようですが、すっかりものにした今とても頼もしいです。
梅野さんの挨拶と同時に流れてきたのは「きみは六等星」へとつなぐSEでした。
新曲はこの日が初披露ということで緊張したらしく、何人かの顔は赤く上気しています。
ひとしきりコメントを発したあと、佐倉さんがSEの終わるタイミングに合わせて導入のコメントを上手くまとめました。
SE通り、2曲目は「きみは六等星」。
その後の「君色クラゲ」と合わせ、いきなりハイライトのような曲目です。
自分は橘花みなみさんがダンスしている姿が凄く好きなのですが、なにが良いかというと「君色クラゲ」や「アンサー」のサビで腕を回すときの勢いです。
他のメンバーより速すぎないギリギリの速さで、遠心力に任せて振る腕が観ていて気持ちいいです。
そんなイメージがついているため、いつしか全力というワードで真っ先に思い浮かぶメンバーは橘花さんになりました。
「君色クラゲ」では間奏に花咲りんかさんのソロダンスがあります。
あまり個人をフィーチャーするような動きやパート割が少ない透色ドロップにしては珍しいシーンです。
ある瞬間、ピアノの小気味よい音に乗せて踊る花咲さんの姿が、海を模して水色になった照明に重なる時がありました。
久々だという天川美空さんが曲振りをしたという「ぐるぐるカタツムリ」、そして「恋の予感!?」はTIFで初お披露目となったこの特別衣装と一番マッチした曲だと言えそうです。
ポップな曲で序盤にしてはハイペースなほどに飛ばしてきます。
特別衣装はグループで初めての半袖で、見た目には涼し気なのですが、早くもこのあたりから顔に汗が目立ち始めてきました。
人で埋まった会場、空調が効いているとはいえそれを上回るほどに熱もこもってきました。
◆意図のある表情
観ていると、表情やフロアとのコミュニケーションも以前から進化している気がします。
目立ったところで言えば、佐倉なぎさんは口を閉じた笑顔が印象的でした。
口を開け、白い歯を見せて笑うのがアイドルの振りまくオーソドックスな笑顔かと思います。
もちろんそうした笑顔も多いのですが、それだけでなくバリエーションに富んだ表情をしていました。
佐倉さんに限りませんが、きっと我々の目に触れないところで試行錯誤を繰り返してきたのでしょう。
後半の、明るさを抑えてメロディーでメッセージを包み込んだような曲たちが並んだブロックではメンバーの表情がより輝きだしました。
素晴らしいなと思うのが、どの場面を切り取っても表情に意図を感じるということです。
裏を返せば、意味のない表情をしていないということで、では意味のない表情とは何だと言われても困ってしまうのですが、とにかく惹きつけられてしまいます。
アーカイブを見倒した年明けのある対バンライブのことを思い出していました。
目に焼き付けたあの映像よりも良い表情になっています。
照れだとか、中途半端で抑えた表情がなくなりました。
表情管理なんて考えたこともない素人の意見ではありますが、もう少し踏み込んで、どこがいいのかと考えてみると、メリハリ。
ここが大きいのではないかなと思いました。
シーンごとに役者のようにパッと切り替えるところはもう透色ドロップのレベルだと大前提として、それ以上に一辺倒な表情になっていないところに最大のメリハリがあると思います。
聴かせる曲で締まった顔をするだけではなく笑顔を見せたり、楽しい曲で緩みっぱなしではなくところどころに切ない顔を入れてきて胸をざわつかせてきたりと、駆け引きのようなつくり方が絶妙です。
フロアのほうを向いた顔つきばかりではなく、メンバー間のやりとりも目につくようになりました。
まるでそこで会話が起こっているかのような感覚さえします。
全編ストーリー仕立てのMVが作られたのも納得です。
◆好きな曲
この日のMCではメンバーが自らの好きな曲を挙げるくだりがありました。
これまでも何度かあったのですが、数カ月単位ではさほど変わらないかと思いきや、ほとんど全員更新されていました。
しかも面白かったのが、ここ半年のうちに出た曲を挙げていたのは最新曲の「自分嫌い」を推した花咲さんだけで、他のメンバーは今まで長く付き合ってきた曲を「一周まわって」大好きになったとしていたところです。
もしかしたらいつもと同じでは面白くないのではないかと次点の曲を選んだ人も居たのかもしれませんが、透色ドロップは良い曲ばかりなのでちょっとしたきっかけで好きな曲が様変わりするというのも凄くよくわかります。
最近の自分は「≒」「やさしさのバトン」が上位を勢いよく追い上げてきています。
唯一の不動は、言う前から分かり切ったような空気が漂っていましたが瀬川さんの「アンサー」。
瀬川さんにとってはこの曲が透色ドロップ加入のきっかけであり、曲の質以上に思い入れが大部分を占めているため、以降の曲でこれを越えるのはかなり難しいと思いますが、大逆転もあるかもしれないので、推し曲は定期的に聞かせてもらいたいところです。
◆じっくり聴かせる曲
「恋の予感!?」を書いてから大幅に脱線してしまいました。
続く6曲目「やさしさのバトン」から再び順を追っていこうかと思いますが、ここまでで長くなりすぎたのでやや各論的になります。
一番好きな曲だという橘花さんが7曲目「≒」の曲振りをしました。
センターが奥になるような扇形のフォーメーションの真ん中に落ち着きながら、何かを飲み込んだようにタイトルを告げます。
Cメロ「僕ができない事は君に全て任せるよ...」、ここは先のステージ上でのコミュニケーションがよく見える場面です。
一人が隣の人の手を取り、そのメンバーが別の人を...という風に伝染していき、最終的には7人の周りに目に見えない鎖ができていく様子をここに見ることが出来ます。
8曲目「アンサー」。
何度も同じことを書いて申し訳ないのですが、「アンサー」には思い出があります。
自分が透色ドロップを知りたての頃観たライブで、このグループは何かが違うなと思わされたシーンがありました。
それが2番Aメロ「リスクを背負うことや見たことない事実を 無謀だとか簡単じゃないんだって否定した」での、前に出てきた3人のメンバーの表情です。
下手から見並さん、花咲さん、瀬川さん。
オーバーともとれる身振りをつけて歌う両脇の二人とは対照的に、首から上を動かさず真っ直ぐ前だけを見た花咲さんというコントラストが印象的でした。
曲は予め音源で聴いていましたが、もっと淡々と歌うのかなと想像していたのでイメージとのギャップに驚きました。
たまらず初めての特典会に行ったのを覚えています。
あれから1年が経ちました。
9月5日の対バンライブ、まさしく「#月見並里穂」の時期でした。
3人の身振りも観るたびに微妙に変わっていったのですが、それよりも自分にとって大きな変化がありました。
「アンサー」のこのシーンが、以前ほど強烈なシーンとして頭に残らなくなったことです。
何も知らなかった当時、たまたま目に留まったこのシーンのみ刻まれていたのですが、演技派なシーンは他にも数多くあることに気が付き、他のシーンで薄まっていったのでした。
10曲目「衝動」。
「鍵が掛かったままの白い扉 叩く音がする 聞こえるでしょ?」
花咲さん、天川さんの二人が歌います。
手を上下させるとき、互いにうなづき合いました。
ここにも小さな会話が生まれています。
梅野さんの加入で最年少ではなくなったものの、未だにみんなの妹感がある天川さん。
ふわふわとして捉えづらいところがあるように見えるのですが、シリアスな曲ではすっかり調和しています。
全体的な歌声は「衝動」でとくに上ずっている感じがしました。
蓋をしていた衝動がうごめきだし、抑えられなくなった感情が上めのキーとなって現れてきています。
11曲目は「ユラリソラ」。
ピッタリと揃ったダンスと違い、声には個性がむしろ出てくるようになりました。
薄く伸ばしたフィルムのように、7人の歌声はそれぞれに色を持っていて、光の下で重ねると違った色が出てきます。
2番の天川さん、梅野さんのパートもその一つでした。
振り返ると、6曲目の「やさしさのバトン」から11曲目「ユラリソラ」まで連続した聴かせる曲のブロックでは、2回MCが入りました。
7曲目と10曲目の後です。
MCを挟むと一回現実世界に戻るので、ステージに釘付けにしておきたいならMC無しでその間を通し、MCを切り替えのタイミングにすることが常なのかなと思うのですが、透色ドロップはそんな場面で2回も入れてきました。
ここを演じ切っている姿を観て、セットリストの組み方のさらなる可能性を感じました。
この後、空気が変わります。
聴きなれないメロディーが流れました。
しばらくひそんでいた明るさが戻ってきます。
やがて、「だけど夏なんて嫌いで」のサビのメロディーだと気づきました。
恐らく「だけ夏」のSEが披露されるのは初めてだったのではないでしょうか。
前回の2周年記念ツアー直前にお披露目となり、真夏の主役として駆け抜けてきたこの曲も、秋ツアーでは主役ではなく脇で盛り立てます。
替わりにやってきた新曲が先の「自分嫌い」でした。
この曲が定着してくる冬にかけてはまた新しい曲が出てきて、それがフィーチャーされるのでしょう。
この繰り返しで、思い出とともに曲が積みあがっていきます。
「だけど夏なんて嫌いで」に始まったラスト3曲は「ネバーランドじゃない」「夜明けカンパネラ」と、残っていた切り札を立て続けに出してきました。
はやる気持ちからなのか、イントロが前の曲に被せ気味にかかってきた気がします。
全14曲。
「夜明けカンパネラ」のあと、すぐ記念撮影タイムに入ったことから、アンコールがないことを察しました。
本編とアンコールとでブランクを入れることで生まれる間の時間や、アンコールのおまけ感を嫌ったため本編を膨らませて全て収めたということなのでしょうか。
個人的には、これでよかったと思っています。
◆多忙の中始まったツアー
今回のツアーは、前回ツアーより間もなく、さらには大型フェスやイベントで大忙しだった8月の夏休みシーズンの余韻がまだ冷め切らないころのスタートでした。
アットジャムはつい先週のことです。
そして、ツアー直前に「自分嫌い」のMVが公開となったことを思うと、恐らくこの時期に合間を縫って撮影やレコーディングを行ったのでしょう。
他のライブアイドルグループも似たような状況とはいえ、かなりの多忙です。
見ていて「もう少し休めないものだろうか」という気持ちはどうしてもありました。
特に足腰に爆弾をかかえる見並里穂さんにとって、ツアーを完走するという目標は他の6人以上に高いはずです。
2周年ツアー前に怪我の報告があったとき、主催ライブで100%を出せるように日々の対バンライブは休み休み出るのかなと思ったのですが、実際の対応は特典会で座って対応することくらいで、ライブを間引くなんてことはしませんでした。
ここは個人的には少し意外でした。
その程度でごまかせるほど軽いものとは思えなかったからです。
この日も怪我のことに軽く触れていましたが、パフォーマンスはそれを感じさせないどころか忘れさせるような素晴らしいものでした。
とはいえ、オフステージでは見るからに足を重そうに引きずる姿を一度でも見てしまうと、果たして「すごいよね」と手放しで称賛するだけが正しい事なのかと思ってしまいます。
健康な他のメンバーも、はっきりとした形になっていないだけで心身ともに相当きていると思います。
ファンの人が推しを心配するツイートを見かける回数は夏くらいから増えた感覚です。
しかしながらこの日は、そんな満身創痍も、ツアーが始まってしまえば関係ないというようなパフォーマンスでした。
7人がどれほどこの秋を大切なものと位置づけているのかがはっきりと伝わってくるような、素晴らしいライブでした。
先週のアットジャムもよかったのですが、ツアーとなるとまた一段も二段もギアが上がります。
大きなステージにたくさん立った3年目の夏は、アイドルオタクに見つかる機会も多かった事と思います。
夏で終わりではなく、むしろここからどれだけ離さないかが重要だという想いがステージに乗っかっていました。
単独公演では毎回心に残る素晴らしいライブをしてくれる透色ドロップ。
ライブのたびに期待値が上がっていき、いずれ青天井になってしまうのではないかという気さえするのですが、今回も越えてきました。
ツアーはまだ始まったばかり。
ファイナルの11月19日まではまだ2カ月余りあります。
2周年の時のような、毎週末ツアー遠征という超過密日程ではなく、9月にあと新潟と福岡を残すのみで、そのあとはほとんど隔週のツアースケジュールになっています。
全部に行くことは諸々あって叶わないのですが、行った先々でどんなステージと出会えるのか、楽しみにしています。