【ライブレポ】千也茶丸(KEYTALK義勝)茶会-放浪編- 新宿LOFT第二部
2023年3月9日(木)。
新宿LOFTにて、4人組ロックバンド・KEYTALKのベースボーカルである首藤義勝による弾き語りライブ「茶会-放浪編-」が開催されました。
千也茶丸はソロの名義です。
インディーズかそのころにソロでの弾き語りはやっていたようですが、いつからかご無沙汰になり、復活したのがここ数年(このあたり情報間違ってるかもしれません)。
いつもであれば手にしないギターを持って、流浪するかのように全国数か所をまわっています。
今回はその2箇所目、東京公演でした。
1週間前には、バンドとして2回目の武道館公演を終えたばかり。
まだ余韻が引ききらないうちに初日の札幌公演を前日に終え、この日の昼過ぎに新千歳から東京に戻ってきたようです。
繰り返す言葉
「3月の忙しい時期だから来れないって声も多く届いていて」
これまでの弾き語りもそうでしたが、平日の夕方開催なのでなかなか行けないという方も多く、そのことは本人の耳にも入っていたようでした。
その一方で、二部開催だったこの日の第二部は開演が20時30分と遅めなこともあり、100ちょっとのキャパに対して2000以上(途中から5000とか言いだしてましたが)もの応募が集中。
当たってラッキーだとは思っていましたが、まさか20倍超などとはつゆぞ思わず、リアルな数字を聞いて自分が少なからず強運の持ち主だったことに気付かされます。
身近な距離感であっという間にリラックスムードが広がる会場のコンパクトさに未練も残しつつ、次回はもう少し規模を広げてCLUB QUATTROで、なんて話も出ていました。
「みんな(忙しい中)来てくれてありがとう」
1時間10分くらいのライブの間じゅう、何度となく出てきたのがこの言葉でした。
武道館公演での、深々としたお辞儀を思い出します。
武道館のファンの方によるレポでは、いつにもまして4人からの「みんなのおかげ」や「ありがとう」といったファンへの感謝の言葉が多かったとお見かけしました。
行けないという声にも目を通し、こちらの事情も重々慮った上で繰り返し投げかけてくれているのでしょう。
4缶ほどのお酒を飲み干してしたたかに酔っぱらってきた終盤では、途中のMCで喋ったのと同じ内容をさも初めて言うかのように繰り返してフロアからクスクス笑いが漏れるなんていう場面がありましたが、「来てくれてありがとう」という言葉は恐らく、意図して繰り返していたのだと思います。
会場の新宿LOFTは、KEYTALKがインディーズ時代によくお世話になった会場の一つのようで、「いろんなことを教わった」といいます。
そのころのとんでもないオフレコ話が飛び出して下積み時代の苦労を知りつつ、「いとこのお姉ちゃんみたいな」店長の”ヒグチさん”とは久しぶりに会って積もる話に花が咲き、気が付いたら開演時間だったみたいな話もありました。
酔っぱらって繰り返し話していたのはここのくだりでした。
恐らく本人は繰り返していたことなんて覚えていないと思います。
距離感のギャップ
開演時間となり、場内BGMに乗ってぬっと現れてきた義勝は、白のスニーカーに黒のスキニー、トップスには3LくらいありそうなグッズのロンTをダボッと着こなした格好でした。
1週間前の武道館より色落ちしたベージュっぽい髪色に、ほんのりとピンク色が乗っかっています。
SEはおろか、場内BGMの音量が上がることもなくあまりに突然登場してきたのには驚きました。
運良く最前列で観られたのですが、2歩くらい歩み寄れば触れられそうな近さに義勝がいます。
武道館で遠巻きから眺めていた人が、すぐそこにいる。
あり得そうであり得ないシチュエーションなのですが、現実では起こってしまっています。
初めはどうもピントが合いませんでした。
箱が違ってくると見え方も変わっていきます。
小さなライブハウスで椅子から見上げていると、武道館アーティストというより、バンド活動をしているお兄ちゃんというような感じに見えてきました。
そういう感覚で眺めている現状がいまいち信じられません。
ライブはふわっと始まりました。
このレポが多くの人の目に触れるとはとても思えないのですが、とはいえ他のファンの方が気を遣ってひた隠しにされている中、オープンアクセスな場所に無造作に放ってしまうのもどうかと思うので、セットリストはぼかし気味に書きます。
お客さんは100人程度。
落ち着いた雰囲気です。
義勝自身もリラックスした感じでラフに来るのかと思いきや、手元の小さな机の上に置かれた酒缶をわけもなく並べ替えたり、手を滑らせてカポを飛ばしたりと、やや硬くなっている気がしました。
自分だったらすぐ近くで100人にじっと見つめられる中でなにかやれと言われてもアガるだけで、それが普通なのかなと思うのですが、会食で手持ち無沙汰になっておしぼりの袋をいじるのに似た落ち着かなさは、数え切れないほどの舞台に立って場慣れした義勝でも多少は持ってるのかなと、すこしばかり身近に感じます。
一曲が終わるごとにぽつりぽつりと喋りだすというスタイルで、ライブは進んでいきました。
時の流れはゆっくりとしています。
義勝の喋る言葉に耳を傾けながら、先程の一曲の余韻に浸ります。
「今日昼間は北海道にいたんですけど、新千歳空港のラーメン街道に行ったのね。知ってるかな。ラーメン屋さんがたくさんあるところ。お昼どきでどこも行列が出来てて、一番並んでないところに行ったらめちゃくちゃうまくて。」
「だからみんなも、人に惑わされず自分の感覚にしたがって選択したほうがいい。」
細かい言い回しは全くのニュアンスですが、ラーメンの話から急展開して人生訓を語りだしたときにはさざなみの笑いが立っていました。
捨てられる楽譜
足元には、A3の紙にコピーした楽譜が散らばっています。
一曲弾き終わると義勝は、楽譜を乱暴に下に投げ捨てていたのでした。
使い古されたように見えたシワは、じつは各地で投げ捨てられて生まれたシワだったのかもしれません。
時間が経つごとに足元の紙は増えていきます。
ただ、敬愛するサザンの曲をカバーしたときだけは、「ありがとう」なんて言いつつ丁寧に足元に置いていたことは忘れずに付け加えておきます。
トークは更に進んでいきます。
「ソロ名義の千也茶丸ってなんて読むんですかってよく聞かれるんですけど...(自主規制)」
「すすきのから歌舞伎町にやってきました」
軽めの下ネタ(とも呼べないかも知れませんが)でジャブをかましたら冷ややかな反応。
「ゴリ滑っとるやないか!」
KEYTALKは男子高校生のようなノリが多くて、下ネタも少なからず出てくるのですが、家でKEYTALK TVなどを一人で観るぶんには大声で笑える一方で、周りに人がいると大っぴらに笑っていいものかとためらってしまいます。
恐らく他の方もそんな感じだったのではないでしょうか。
人数が少ないだけに、たった一人のリアクションでもかなり目立ちます。
バンドの時にはなかった声
間近で聴くことのできた義勝の歌声には、いくつもの発見がありました。
例えば、声質は何種類も使い分けています。
低音はアコースティックということも手伝ってささやきかけるような感じ。
波打たせて響かせるのではなく、包み込むような印象です、
知っているKEYTALKの曲でも、しばらく何の歌なのか分からないときがありました。
バンドとして出すときよりもトーンが違うのか、聴き慣れない低音で思いのほか曲の雰囲気が変わります。
義勝といえば外せないのがハイトーンボイス。
その高音も多彩でした。
ふわりと舞って消えていく風花のような高音は、KEYTALKのボーカルの一人として歌っているときにはあまり馴染みなかった声です。
声変わり前の少年のようでいて、一方で何もかも知ってしまったかのような声も聴こえてきました。
音源やライブでよく聴いていたのは、しっかり発声された刺すような歌声なのですが、その中間地点に位置するような歌声でした。
押すというより引いた歌声のように聴こえます。
普段はバンドの音に負けないように強めを意識している部分も少なからずあるのでしょうか。
一方で、合間にはゴホゴホ咳き込むシーンもあり、言い方は悪いですがオッサンのそれでした。
歌声の無垢な感じとは正反対です。
「(咳き込むのが)武道館じゃなくて良かった」なんて言っていましたが、多忙の影響は隠せていないようでした。
武道館後の義勝の(KEYTALKの)スケジュールはなかなかハードだったようで、あちこちを飛び回っていました。
武道館の後はプロデュースアイドルの仕事で韓国へ行き、大阪の野外ライブに出演、その後FOMAREツアーに呼ばれて金沢に出向き、義勝は弾き語りで北海道へ。
そして北海道から東京へフライトしてきた足で新宿LOFTにやってきたようです。
家賃の更新で大家さんと交渉中のおうちに帰ることが出来たのは金沢と北海道の間くらいでした。
そのあたりの忙しさが、喉にきていたのでしょう。
酒の横に置かれた、喉を潤す水蒸気みたいなものを吸引しているシーンもありました。
タバコはまだ止めていないようですが、流石に心配になります。
歌声のバリエーションだけでなく、歌っている姿をまともに見るのも初めてでした。
いつもはモニター越しです。
口角を下げ、口周りの線を強調させるような顔つきで歌うのだと、接近して初めて知りました。
ただ、どんなに眺めていても、どうやったらあの魅惑的な高音が出てくるのかは、首筋まで目を凝らしたとて全く分かりません。
持ち曲なのに
時折目を大きく開き、譜面を目で追いながら弾いていたのですが、流石にKEYTALKの曲ともなると譜面は大体頭に入っているようです。
カバー曲とは違い、目線を楽譜から外す機会も多かったのですが、ある曲の2番終わりから急に怪しくなりました。
ふと曲が止まります。
「あれ?」
抑えるコードが難しかったのか、譜面を見つめ、運指を確認。
再度そのフレーズから弾きなおそうとしましたが、またも間違えたのか首をひねり、もう一回繰り返してもしっくりこないようでした。
譜面を手に長考。
まさか持ち曲を中断?と思ったらこちらに向き直り、クラップの援軍を促し始めました。
「普段ベース弾いてるんだからギターとかできるわけねぇだろ!笑」
と怒りつつも、クラップの後押しもあって何とか弾き終わり、最後は高らかに「ありがとう!」
しっとりする曲に似合わないテンションの高く達成感のある終わり方でしたが、山を乗り越えただけに本人として「いままでこの曲やってきたなかで一番気持ちいい」。
詰まりはしましたが、結果としてはこれで良かったのかもしれません。
この曲の楽譜の捨て方が一番乱雑でした。
「新宿LOFTさんは歴史が古くて...」なんて話も上がっていました。
他の多くのライブハウスが名義変更や移転、あるいは消滅を余儀なくされている中で、形を変えず間もなく四半世紀を迎えようとしているのはなかなか目を瞠るべきことです。
「25年前、僕は...(自主規制)」
軟着陸すればいいところを下ネタをぶっこみ、スケートリンクのように場をツルツルにしてしまうところがいかにも義勝らしい。
ソロデビュー
札幌から始まった弾き語りツアー「茶会-放浪編-」。
義勝がソロシンガー「千也茶丸」としてデビューして初めてのツアーでした。
これまでの何回かの弾き語りとの大きな違いは、これまではあくまで4人組バンド・KEYTALKの首藤義勝がソロイベントを行っているという形だったのが、今回はバンドを一旦離れ、ソロアーティスト・千也茶丸としてワンマンを主催しているという点です。
ソロ活動のお知らせは、武道館の数日後、3月5日に発表されました。
ソロを発表したインスタにはこんなことが書いてありました。
多くの人が憧れるであろう美声を持ちつつも自覚では「下手だし」と思ってしまうことに驚きを覚えましたし、コロナ禍からレッスンに通い始めたことも初めて知りました。
基本に立ち返った結果、歌うことの楽しさを取り戻したことで弾き語りも再開し、かねてからの夢だったソロデビューにつながっていったようです。
これは勝手な推測ですが、義勝は活動の中でソングライターという意識が一番強いのかなと思っています。
作曲依頼の仕事も多いはずです。
去年の全国ツアーの動画では、楽曲提供の仕事におわれているシーンを何度も見ました。
そういえば自分がKEYTALKを知ったのも4人の曲ではなくて、義勝が別グループに提供した曲からでした。
もしかしたらこれまでは曲を生み出すことの方に重きを置いていて、自身の歌声は創作物を届けるためのツールの一つとしか捉えてなかったかもしれません。
だから出なくても下手だししょうがないと思っていた。
ところがトレーニングし直してみたら、歌声の幅は広がり、さらには自らの声を届けることが楽しくなってくるという副産物も得ました。
インスタの文章を読んだ時、KEYTALKがさらにアップデートしていく具体的な未来が見えた気がしました。
弾き語りツアー直前に発表があったことから、ソロの話がMCトークの中心になるのかと思い、同時にリリースされた千也茶丸名義では初めての曲「なんとなく」が聴けるのを楽しみにしていたのですが、「ありがたいことに忙しくて...」練習できてないとのことでまさかのおあずけ。
次回以降の茶会に持ち越しとなってしまいました。
次こそ「なんとなく」を聴くために茶会に行きたいのですが、今回使ってしまった運が果たして次回まで持っているかどうか。
今度は倍率がまだ低そうな非関東圏に出してみようか考えています。
時間の経過がゆったりとしたライブでしたが、流石に喋りすぎたのか予定を大幅にオーバー。
スマホで時間を何度も確認していました。
おしっこしたい、タバコ吸いたいなどと言いながら、ラストは2択のうちからフロアに選んでもらったKEYTALKの曲で終了。
緩い空気感も、クローズドな空間だからこそ発されるエピソードも、目を凝らして譜面を追いながら弾いてくれる曲も、限られた人達のためだけの特別なライブ空間という感じがしました。
自分みたいな軽い気持ちの人間がここに入ってよかったのかなどと少し考えてしまいますが、「あの曲」のコール&レスポンスも覚えたので、また行きたいところです。
◆セットリストはツアー後に出します
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