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【ライブレポ】群青の世界 Live Tour 2021 「Blue Symphony」Final公演

コンサートホールでの緊張感

オーケストラや吹奏楽のコンサートに行くことはあまりないのですが、数少ない記憶を思い起こしてみると、会場が不思議な緊張感に包まれていたという印象があります。
優劣を決めるコンクールの場でなくても、規律正しく演奏する楽団の方の緊張感を客席までもが共有していたような感じがありました。

曲の展開で音量が小さくなった時など、特に空気は鈍重になっていきます。
直前の小節で大きな音を響かせていたならなおのこと、物音立てられない静けさが生まれてきます。
誰からもとがめられていないのに、少しの音も立てられない気がしてしまいます。

長い時間の演奏だと凝り固まるからと、座る位置を変えようと椅子から腰を動かすことすらなぜかはばかられる感じがします。
オーケストラならではの荘厳さに、背筋を伸ばします。
楽器の音を弱めるようにと指示するコンダクターの指揮棒は、奏者だけでなくだけでなく客席までも支配してしまっているかのようです。
そんな空間が、いわゆるオーケストラと呼ばれるコンサートにはありました。

それに対し、どこで定義の線を引くかはともかくとして、同じく音楽を聴くでも「ライブ」というものになると毛色は変わります。
ことアイドルのライブともなると、静けさや重苦しさとはある種無関係になります。
ライブを待つ間は多少緊張しても、メンバーがステージに出てきて曲が始まりさえすればそれもだんだん薄まっていき、気が付く間もなく楽しさへと転化されていきます。
同じく「音を楽しむ」と書く音楽体験も、音を味わい尽くすのか、「楽しい」という意味そのままに音に乗るのかの違いで、感じかたに結構差が出てくるようです。

しかしこの日の「ライブ」には、「コンサート」に似た緊張感があったように思いました。
12月5日(日)、5人組アイドルグループ・群青の世界が表題のライブを開催しました。

東名阪仙のライブ会場を巡った、2021年の冬ツアーは、この東京・恵比寿公演がツアーファイナルという位置づけになっていました。
加えてこの公演は、グループの結成3周年記念ライブも兼ねていて、群青の世界の一つのエポックとなるであろうイベントでした。

冬ツアーのタイトルには、あつらえたかのように「BLUE SYMPHONY」とあります。
青の交響曲。
コンサートホールでオーケストラを聴いているような感覚を受けたというのは、しかしこのタイトルに引っ張られただけではありませんでした。
そのことを書いていく前に、まだライブへの参加回数は浅いものの、群青の世界が掲げる「世界」について、僕なりの解釈で触れてみたいと思います。

青で統一されたイメージ

グループ名にある「群青」、これはやや紫がかった深い青色のことを指すらしいのですが、ここではさらに意味を広く取って「青」という切り口からこのグループを語ってみます。
青という色からは、いくつかのイメージが呼び起こされます。
清流の、透き通るような青。
顔を上げた先に広がる、どこまでも澄んでいる青空。
「青が散る」なんて小説もありましたが、青春の青臭さもあるのかもしれません。

「清廉」「清純」など字で書いてみると、2つの漢字の真ん中に「青」という字が堂々と横たわっていることに気が付きます。

こうして考えてみると、何にも染まっていない純粋の象徴は白だということに一般にはされていますが、青だって色はついているけれども透いて見えるような感覚のするという点では負けていないのかもしれません。

そうした青にまつわるイメージを一手に引き受けて出来上がっているように見えるのが、群青の世界というグループです。
洗練されたメンバーのビジュアルは、青を基調とした衣装だとよく映えます。
5人から自然と生まれ出てくる雰囲気やオーラからは、数多あるアイドルグループの激流に向けてこぎ出していく荒々しさというよりも、いつまでも変わらない流れをたたえている小川のように感じます。

それに加えて楽曲です。

君のままで、僕のままでいられたこの日常で
カタチのないこの想いに気づいてしまったんだ
そっと目を閉じて 描く君との物語
神様お願いお願い時間を止めて
君だけは変わらないで

「君」を頭に浮かべて歌った曲ばかりというわけではないのですが、メンバーの歌声が吹き込まれた情緒あふれる歌詞は、ストリングスやピアノの音が加わることで引き立たせられます。
青春模様を歌った曲も多く、そのどれもに清らかなイメージがあります。
青に溢れた世界、これが、群青の世界に対するイメージです。

この日へと話を戻すと、これらの曲を歌うメンバーの声が抜群によく聴こえてきました。
これまで群青の世界を観た数回は、いわゆるライブハウスの、それもいくつものアイドルが出演する対バンライブが主でした。
その時は、工藤みかさんの歌声がとにかく抜けているなという印象がありました。
かなり出ていて自信にも満たされているなという印象が工藤さんにはある一方、他の4人は少し心細げに聴こえていました。
何も知らずに予習をしたときから曲自体は刺さってきていたので、やはりテイクを何度も重ねてエフェクトを付けた音源に勝るものはないのかな..という印象は失礼ながら否定できませんでした。
曲や音源が良質なだけに、ハードルが上がってしまった感がありました。

しかし、この日のライブ、もといコンサートで驚いたのは、工藤さんのみならずどのメンバーも歌声の乗りが良いということでした。
工藤さんが目立ちすぎるわけでもなく、むしろ後ろに控える時だって多かったです。

カルミア」の冒頭は特別に、5人のアカペラから始まりました。
直前のMCは長引いたものの、歌い始めるとスイッチがしっかり入ります。
5人はそれぞれの主張をしつつ調和を保っていました。

とはいっても、場を締めるには工藤さんの歌声を越えるものはありません。
他の4人の歌声は、広がりを含んでだ音のように聴こえるのですが、工藤さんの場合は正確な音をバシッと捉えます。
散らばった音を一束にまとめられるところは、やはり工藤さんの工藤さんたるところだと思います。

他のメンバーの歌声にも、全員ではありませんが書いてみます。

先ほど「音が広がる」と書きましたが、このおおもとをたどっていくと横田ふみかさんにたどり着きます。
まだ自分がパート割を把握しきれておらず音を追えていないからというのもあるのですが、横田さんの歌声はつかみどころが難しいです。
何がというと、声色が頻繁に変わります。

音域によって変わるのか、ハスキーがかった声質になることもあれば、他を寄せ付けないような太さになるときもあったりします。
群青の世界には、リーダーという存在はいないようですが、MCではきはきと喋る姿を観ていると、横田さんが実質的にはそのポジションに近いのかもしれません。
その時の声を聞いてみると、よく通っています。
MCからソロパートから、バラエティーに富んだ声質を横田さんは行ったり来たりしています。

※このライブから一週間も開けず、横田さんの活動休止が発表されました。喉の不調によるものだそうです。東名阪ツアーも、かなり無理をしていたのだと思います。※

ファルセットの出方にほれぼれとしてしまうのが、一宮ゆいさんでした。
一宮さんには、横田さんとはまた違う捉えどころの無さがあります。
相当ライトな位置から観てのイメージに過ぎないのですが、一宮さんにはミステリアスさがあるようで、強いアイドル性みたいなものを感じます。
このレポの最後にも、本人の言葉を引きながら一宮さんについての欄を作りました。

水野まゆさんには、なんといっても上品さみたいなのがあります。
水野さんがソロで歌い始めると、穏やかな空気が広がります。
それを見守る水野さんファン込みで暖かい雰囲気もありました。
こういう空気を出せるアイドルはなかなか少ないよなと思いながら見ていました。


ここまで青で通底したテーマで、メンバーや曲の透明感みたいなものに触れてみましたが、群青の世界のライブを語るにはこれだけだと物足りないです。
高貴だけではない泥臭さのようなものが、ダンスやフォーメーションチェンジなどの所作に現れていました。
清廉さや透明感という点だけでは、言い方は悪いですがよくあるアイドルの姿に落ち着きそうなのですが、群青の世界は真正面からこれを否定します。

動きのダイナミックさ

アイドルのステージ衣装には様々ありますが、群青の世界のそれはロングのワンピースで大体統一されているようです。

ここで書いてきたことや衣装の清廉さを思うと、動きを大人しめにしたほうが世界観が保たれそうなのですが、意外にも群青の世界の振り付けはむしろ激しめです。
ある曲では、フォーメーションで下手と上手に立つメンバーが急いで立ち位置を入れ替わる、なんて動作がありました。
ここでの移動はステップではありません。もはやダッシュです。
手や腕だけの動作を見ても、ありきたりな振り付けよりも手数が一つも二つも多めにつけられています。

青い光」のサビでの振り付けなど、歌いながらとなると結構あわただしいです。

ステージ上での5人の姿を眺めているとき、冒頭に書いたオーケストラに関連して、こんなことを思い出しました。
あるときテレビで、ドイツ郊外にある屋外ホールで開催されたコンサートの模様が放送されていました。
N響的な大所帯による演奏でしたが、ここでフィーチャーされていたのはたった一人の演奏者でした。

その男性は、打楽器の担当でした。
おそらくその道ではかなり高名で、招待されて楽団のレギュラーメンバーに混ざって演奏しているようです。
ラフな恰好をして袖まくりをするという、厳粛なオーケストラにはしてはやや浮いたスタイルは、彼だから許されているのでしょう。
その人は曲中、楽器で埋め尽くされた空間を急いで横切り、ティンパニーやら銅鑼やら木琴やらパーカッションの全てを一人で演奏していました。
そんなにあわただしくたくさんの楽器を触って、途中で何しているのか訳分からなくならないのでしょうか。
多くの管弦楽団員の姿はそこそこに、カメラの視点はパーカッションを叩くその人だけに向けられていました。

あわただしい動作を涼しい顔して、息も乱れずにこなしてしまう群青の世界のメンバーを観ていると、そのパーカッション奏者の姿に重なりました。

ここでは、村崎ゆうなさんが目を引きます。
メンバーいち長い髪にウェーブをかけていましたが、激しい動きに連れられて大きく乱れ、よりダイナミックに見せていました。

メンバーの動きは演技と言うべきなのか、あるいはあふれ出る感情の発露と言うべきなのでしょうか。
5人は曲の秘めている世界観を最大限にまで引き上げて転写していました。

そしてなにより、ホールという会場の特性も、ライブの重要な助けとなりました。

恵比寿ザ・ガーデンホールという会場

恵比寿ガーデンプレイスには、ホールのほかにもヱビスビール記念館や160mを越える恵比寿ガーデンプレイスタワーなどいくつもの施設が収められています。
地図を見てみると、ガーデンプレイス内の施設がアルファベットで割り振れているのですが、それによるとガーデンホールは「I」となっています。
イルミネーションなどを潜り抜けた先の、奥のほうにあるガーデンホールに入ると、ホールというだけあって、かつこの恵比寿という立地だけあって派手さはないもののかなりおしゃれなつくりです。

ここには6年前、アイドルのライブで来て以来なのですが、6年も経つと詳細な記憶はだいぶ薄れるようです。
1階にホールがあるかとばかり記憶していたのですが、実際には2階でした。
ライブハウスはどちらかというと地下にあることが多いので、会場に向かって階段を上ることだけでも特別なことに思えてしまいます。
床には薄いタイルカーペットが敷かれていました。
外通路から客席に通じる扉は開け放しになっていましたが、押し開けて感触を確かめなくとも厚いつくりであることはなんとなく分かります。

高さのあるステージ両端には、この日のためにしつらえられたという深い青色の幕が下りていました。
背景には白い三角形の基材がいくつも組み合わされ、光に当てられたときには反射させたり影を落としたりと、その様は乱反射に似て色々な顔を見せていました。
その後ろにはさらに、波のようにゆらめいた幕?のようなものがかかっていて、これもまた気分を高めてくれます。

青をベースとした照明はステージを照らし出し、「COLOR」ではタイトル通り多彩にも変わっていきました。
メンバーの予想外に大きな動きは照明と重なり、ホールの反響に後押しされた5人の歌声は、その日限りのハーモニーを作り出していました。

ライブハウスでなくホールだからこその見え方、聴こえ方でした。

震えるような感覚

そんなホールに包まれて立っていると、ここがすごかった、こんな技術があるんだと頭が働くよりも心が先走っていました。
因数分解しようにも、これ以上は細かく書けそうにありません。
リズムに合わせて身体が動く前に、心が揺さぶられました。
上手いとか上手くないとかそういう物差しとはもう全くことなる次元です。

歌詞で訴えかける言葉やダンスに上乗せされた感情表現を前に、身体が固まりました。
作りこまれた群青の世界を目の前に、何も出来ません。
振り付けも知らないからフリコピもしようがないのに、どういうわけか汗が流れ出てきます。
やがて終盤にきて、不思議と身体が震えてきました。
これまで足を運んだライブのなかでも、こんな感覚は初めてでした。

高さのある会場で空調がさほど効いていなく、薄ら寒く感じていたことも抜きにはできませんが、どうもそれだけでは無さそうです。

ライブ後、「今年一番のライブかもしれない」とツイートしてしまいましたが、グループごとに見せたいものが違うライブで、その出来の優劣はつけられません。
それでもこう書いてしまったのは、少なくともライブを前にしたこの震えるような感覚は他ではない、初めて得る体験だったからでした。

圧倒的な世界観を前に震えた後半は、このパートでした。

メロドラマ~BLUE OVER~アイ・ワナ・ビー

そっと目を閉じて描く意味との物語

メロドラマはまず、一宮さんの歌いだしからですが、先に書いた一宮さんのファルセットがここに効いてきます。

「BLUE OVER」

腰のあたりから身体を回し、空の青を引きずり下ろしていくようなイメージのダンスが、この曲にはあります。

明日またね と手を振る 声だけが 響く

右左の腕を固め、「響く」のフレーズでスローモーションのようになるところは、絶対に見逃してはいけないパートだと思っています。
見ているだけで胸のすくような気分になります。
落ちサビ前の間奏では、いつのまにかセンターに来た横田さんの、ギターソロに乗った力強いダンスがこの日一番と言っていいほど決まっていました。

青い、青い、青い 空を壊してしまえば

拳を4拍子で打ち付けると、本当に壊してしまいそうです。

「アイ・ワナ・ビー」

振り上げた手をおろすとき、メンバーの動作は絶妙にゆっくりです。
振り付け自体は何気ないものですが、ここの微妙な動きが付け加えられることによって後に尾を引く余韻が生まれます。

「ダメかもしれない」なんて 誰でもあると知れただけで
やさしくなりたい なれるかな?

この3曲の直後にMCが入りました。
体感としては、ここで本編ラストと言われても何の文句もないというか、むしろ収まりとしてはちょうど良いようにすら感じました。
まだ本編中なのに、最後のブロック「Puzzle」「僕等のスーパーノヴァ」では、もうすでにこの日を振り返るようなしみじみした気持ちに浸されていました。

ここからは、観て聴いて印象的だった場面を各論的に書いてみます。

「自分たちのライブを観てみたいんだよね」

MCで、水野さんはそう言っていました。
映像ではなく客席から観たいと、水野さんは言います。

映像で観ると、照明の照り具合やメンバーの動きはむしろ俯瞰になるのでよく観えるのですが、歌となるとどのグループであっても反響した音の迫力を生ほどには感じにくくなってしまいます。
ましてやステージから受ける温度感は、液晶を通してしまうと会場ほどには高くありません。

ライブの数日後には見逃し配信が公開されました。
会場で感じた歌声の良さはやはりそうだった、雰囲気だけではなかったと再確認はできたものの、なまじ生の現場に居合わせただけにそちらの思い出の方がクリアです。

こうして書いたことに説得力をもたせるには、生のライブを観るよりほかにはないのでしょう。

目立った横田さん

横田ふみかさんは、ライブの冒頭からはじける笑顔がすごいです。
かなり遠くから観ていても、すごく近づいてきているような感じになります。
本編が終わり、アンコールの拍手に導かれて再度出てきたとき、「拍手ありがとうございます!皆さんのご要望にお答えして、ライブをあと少しだけ披露したいと思います」と挨拶していたのですが、「アンコール」という語を最後まで出さなかったところが印象的でした。

一宮さんの言葉

最後のあいさつでは、各メンバーにコメントの時間が与えられました。
「ずっととかそういう言葉は使いたくない」
一宮ゆいさんの言葉です。
アイドルの有限さを思ってでしょうか。
なんかいいな、と思ってしまいました。

最後に、ホールという環境でこのライブを観ることが出来たのは幸運だったと思います。
一宮さんの言葉をさらに借りると、何のきっかけもなく群青の世界を知らなかったらこの日この場にいられなかった訳ですし、ここで得た震えるような体験は、現地に居合わせたという事実以上のなにか価値を持つように感じています。

来年以降、群青の世界はツアーの規模を福岡、北海道にまで拡大して開催します。
定期公演も、新たに決まりました。

また、この先を追いかけていくべきグループが一つ見つかったような気がしました。


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