【ライブレポ】透色ドロップ ミュージックアワード2023(曲紹介)
6人組アイドルグループ・透色ドロップの単独ライブ「透色ドロップミュージックアワード2023」が渋谷WOMBにて開催されました。
10曲セットリストの単独公演ではあるのですが、いつものライブと違うのはその10曲がファン投票によって決まるということです。
4月7日から4月末まで3週間程度の期間、ファンには自分の推し曲を一日一回投票する権利が与えられました。
そこで多くの票を集めた上位10曲がこの日、カウントダウン方式で披露されます。
一位を獲得した曲の特典は、MV制作。
企画とは別に既にMVが作られている曲もあるため、人気の曲というだけでなく「まだ作られていないこの曲のMVが見たい!」という願望が票に反映される部分はありますが、よほど意図して動かない限り毎日コツコツ積み上げていくものなので、透色ドロップが好きだったりそれなりに関心のある層のなかではこの順位がおおむね人気度を反映していると言っていいと思います。
この企画は去年のGWにも開催され、その時の一位は「君色クラゲ」でした。
あれから一年経ち、持ち曲はたしか6曲増えて22曲?となりました。
ノミネートリストに加わったのは「だけど夏なんて嫌いで」「恋の予感!?」「自分嫌いな日々にサヨナラを」「僕らの轍」「君と夢と桜と恋と」「教えてよHashtag」です。
どれもいい曲ばかりで、何曲かがトップ10に食い込んでくるのは間違いなさそうです。
MV制作というゴールに達してしまった「君色クラゲ」の票がどこに動くのかも含めて、楽しみにしていました。
前回のランキングはこうでした。
2位に60票近くの差をつけて「君色クラゲ」が一位を獲得しています。
去年の記事はこちらです
メンバー予想は以下の通り。
では早速ランキングに入っていきます。
個人的に最大の波乱は、「夜明けカンパネラ」の選外でした。
10位 きみは六等星(前回4位)
メンバーは10位のこの「六等星」のみ事前に知らされていました。
この曲を披露したあとMCに入り、下位から3曲ずつステージ後ろのビジョンに発表、そこで初めて順位を知り、3曲を連続で披露..という流れです。
ライブの本編やアンコール一曲目という印象が強くあるのは、実際にそうした機会で現れる回数が多いからでしょう。
この日も、SEが流れて上手から登場したメンバーが持ち場につく姿は何百回と繰り返したかのように自然でした。
下手から見並里穂さん、梅野心春さん、花咲りんかさんがしゃがんで外側を向き、描いた半円の中に天川美空さん、佐倉なぎさん、瀬川奏音さんが立っています。
そんな光景も、なんだか見慣れたものになっています。
去年の模様をすっかり忘れていて、10位の曲のみ順位発表の演出がないことが頭から抜け落ちていたので、ランキングとは別の前座の曲なのかなと一瞬勘違いしていました。
板付きということもありますが、一曲目の「六等星」はそれほど風景と同化しています。
一種類ではなく、様々な太さのものが撚り合わさって生まれた鍵盤の音は、曲全体で見れば楽しいはずなのにどこかにすきま風を思わせ、高めに鳴って空気を揺らす鐘(ツリーチャイム)は音階を一つずつ上がっていった後、宙で砕けて破片が舞います。
それはまるで星屑のように輝き、見とれているうちに闇に消えていきました。
透色ドロップの独特なところは儚さの表現だと思っていて、この後の曲にもたびたびこの言葉を登場させますが、「きみは六等星」はその儚さを代表するような曲です。
かといって儚さを前面に打ち出しているわけではなく、表向きは楽しさや可愛さを強調しているのですが、だからこそメロディーに聞き耳を立てた時に流れ込んでくる無常さみたいなものを感じてしまうのです。
歌詞にもまたいつまでもしがんでいたくなる味わいがあり、自分として好きなのは2番のこのパート。
「聞き耳立て情報集め 流行りの好きな曲 君を思い 夜に駆ける」
「夜に駆ける」という一語は、「君を思い」だけでなく、「流行りの好きな曲」にもかかっているはずです。
リリースは2021年2期メンバーが加入したときが初出しでした。
現メンバーの大部分を占める2期メンバーにとってもおそらく、思い入れ深い曲だと思います。
歌詞に戻ると「夜に駆ける」のフレーズ単独でもいくつかの意味を帯びている気がしていて、先の通り「流行りの曲」でもありながら、想像が膨らみがちな夜に、星の下で妄想とも言えそうな片思いの念が先走っている様子を表しているともとれなくはないでしょうか。
鍵盤や鐘の音が導く切なさもありつつ、実るかどうかわからない片思いの苦しさも歌詞に感じ、総じて「楽しいはずなのに寂しい」という印象が強くあります。
順位は前回同様堅調。
恐らく透色ドロップを好きな人でこの曲を微妙に感じる人は少ないのではないかと思うので、良い曲ぞろいの中で票を集めたのも納得です。
9位 君と夢と桜と恋と(初出場)
今年の単独公演からお披露目となった「君夢」こと「君と夢と桜と恋と」。
投票時のコメントで、「長いので『とととと』と呼んでいる」とあったのは笑いました。
バカボンのパパが「風と共に去りぬ」の漢字が読めないので、読めるひらがなだけ抜き出して「とにりぬ」と呼んでいたのを思い出します。多分そのネタからきているのでしょう。
個人の思いとしてはランクインしてくるのが少し意外だったのですが、透色ドロップのらしさはこの曲でも発揮されています。
先の「きみは六等星」や「だけど夏なんて嫌いで」にもある、楽しさの影でじっとこちらを見ている寂しさや切なさです。
印象深いのが「こんなに笑っているのにどうして涙が出るの」
結成3年が経過し、これまでの透色ドロップが大切にしてきたであろう感情を総括するような詞が現れています。
ここだけは太字でした。
笑顔とは裏腹になぜか流れてくる涙。
オリジナルメンバーとして透色ドロップの骨格を築き、長らく守ってきた橘花みなみさんがこの曲を置き土産に卒業したというタイミングもあり、桜の散り際とも重ねたこの曲は、とめどなく流れていく季節と別れのイベントを一層得難いものに変換しているようでした。
幸運にも最前で見られたこの日、佐倉さんに目をやると厳しげな表情をしていました。
これまでの集大成ともいっていい曲だと思いますが、一方で4年目にあたり新たな挑戦として作られた一曲でもあるとみても無理がないような気がします。
例えばギターが目立つ、どちらかというとロックテイストな音使いはこれまであまりなかったのではないでしょうか。
間奏など、ダンスミュージックっぽさがかなりあります。
ライブアイドルのなかではこうした打ち込みのサウンドはさほど珍しいものではなく、むしろ散々使いまわされている手法ではあるのですが、透色ドロップにとっては割と新しく、経験値をつけて音の選択肢を広げようとしているのかなと映りました。
8位 りちりち(前回6位)
好きな人はとことん好きという印象があります。
嫌いな人がいるともあまり思いませんが、去年に引き続き熱心な方々が日々マメに票を積み上げていってランクインしたのでしょう。
勝手ながらそんな想像をしてしまいます。
人差し指と親指をくっつけた手の形がかたどるのは仮面。
目の横で上下させて、誘惑にまみれた虚構とつれない現実を行ったり来たりしているわけです。
途中でBPMが変わったのではないかと錯覚してしまうほど速くテンポがつかみにくいことや、小刻みなダンスが随所にあることからメンバーは振り入れにとにかく苦戦し、しばらく筋肉痛に悩まされたと、お披露目当初に口にしていました。
圧巻は、ワンマンや単独ライブでたびたびやってくる「桃郷事変」への繋ぎ。
「りちりち」の最後の音と、「桃郷事変」の開幕のSEの音の間に空白は一切ありません。
両者ともに透色ドロップの中では異質なファンキーソングですが、全体のなかのたった一曲だと特殊という言葉で片づけられてしまうのが、2曲以上似た系統の曲が存在するだけでジャンルとして確立されたように思うのだから不思議なものです。
「事変」が次にやってくることは「りちりち」のあたりから大抵は予感していて、それも込みで心が弾んでいくのがまた楽しい。
単純に盛り上がるわけではなく、危険な火遊びのようなハラハラ感を背負いながら沸けるところに2曲の魅力があるように思います。
もっともパフォーマンスするメンバーにしてみればライブ終盤にこの2曲連続はかなりしんどいとのことで、投票コメントを受けてこのような言です。
「体力勝負」
「私たち生きるか死ぬかの瀬戸際でやってるから!」
「この2曲続いた時さ、後ろ向いた瞬間にめっちゃ息吸わない?」
綱渡りを薄目で覗いているような感覚を覚えるのは、もしかしたらメンバーから発される必死のオーラによるものなのかもしれません。
7位 孤独とタイヨウ(前回5位)
透色ドロップの曲は絶望とか嫌悪といったネガティブな感情を取り上げた曲が多い印象で、「衝動」しかりどん底からなにかのきっかけで顔を上げて踏み出していく物語のような構成が目立ちます。
4分と少しの間に人間ドラマを見せています。
「孤独とタイヨウ」に感じるのは温度。
「どんな時も独りで生きてきた」「味方なんて誰もいないって僕の口癖」と諦めながら生きてきた「僕」が温度に触れたとき、孤独から抜け出していくのですが、どこから温度を受け取るかというと太陽の光や手のぬくもり。
2つ温度はまったくひとしいように見えます。
決して急展開を見せる曲ではありません。
熱くないくらいの、かすかな暖かさでじわっと温められて徐々に色を取り戻していきます。
遠くでは鐘の音が聴こえ、普段なら冷たさを感じるはずのピアノの単音はわずかに上がっていく温度の目盛りを示すかのように音を運んでいます。
6位 ネバーランドじゃない(前回10位)
前からあった曲ですが、去年の10位から大躍進をみせて一気に6位にまで上がりました。
傘をさせば地上に雨が振り、朝日は西から昇る、おとぎ話のような夢の世界。
「だけど夏なんて嫌いで」も「夜明けカンパネラ」もまだ生まれていなかった時期は、胎盤の〆にかかることが多かった印象があり、「ユラリソラ」「孤独とタイヨウ」で落ち着いた雰囲気をかき混ぜてステージから去っていきました。
振りコピがあり、今ではコールのしやすさもあり、しかも「だけ夏」のような二面性もなくただ単純に楽しめる曲。
どんな場面でも使いやすい、便利な曲だと感じますが、よくよく考えると未だにライブ最終盤にかかる機会が多いような気がします。
ある時から、「夢のなか僕と君がいる世界(略)いつまでも消えないで」という歌詞が通説に刺さってくるようになりました。
詞の中で広げている夢の世界が、いま目の前で起こっているライブ空間を例えたもののように思えて、おひさまが西に沈む現実世界に戻りたくないという気持ちが芽生えていることに気づいたのです。
曲にそこまでの糸が込められているかどうかは不明です。
邪推するに、当時数少なかった典型的な湧き曲を一つ持っておきたいという思いから作られたのだと想像していますが、この場だけはピーターパンでいさせてくれるような、そんな気分になる名曲です。
そろそろMV欲しいですね。
5位 だけど夏なんて嫌いで(初出場)
よもや一位と期待していましたが、既にちゃんとしたMVが作られているからかこの順位に落ち着きました。
2022年、特に夏フェスの透色ドロップを象徴する曲で間違いないでしょう。
1期2期(加入と脱退を前提としているようであまりこの分け方は好きではないのですが、便宜上です)の総決算ともいうべき昨年のミュージックアワードのあと、周年ツアー前に3期の新メンバーとして梅野心春さんを迎えて7人体制で初めてリリースされた曲がこの「だけ夏」でした。
2022年6月4日。
MVに先立って音源のみ公開され、どんな振付かもわからなかった2周年ツアー福岡公演当時です。
ここで初めて自分はパフォーマンスを目にしたのですが、音だけを聴いて膨らませていたイメージ以上の振り付けに感激した記憶があります。
コレオグラファーは、透色ドロップではおなじみの元ぱすぽ☆、槙田紗子さん。
別グループの振り付けも多数担当しておられ、メロディーや歌詞をビジュアルに再現する力がすごいなとかねてから思っていましたが、この曲でも最高の形で現れていました。
曲は良さそう。果たして振り付けは...
イメージの中で築き上げていった世界観と振り付けがかみ合うのか、半ば不安も抱きつつ見ていたのですが、そうして様々な思いが混ざっていたからこそ想像の上を行く振りに驚き、そして心動かされました。
もしMVごと先に出されていたら、振り付けも予習できたので感動は薄かったかもしれません。
あるいは音源すら出されず、ツアーのステージの上でお披露目だとしたら頭に入ってくる新情報を追うのに必死で、そこまで感じ入る容量も余裕もなかったかもしれません。
当時のライブレポで印象的な動きとして書いたのは、1番では「焦がれてる」2番では「隠れてる」にあたるサビフレーズ。
前作「夜明けカンパネラ」を彷彿とさせる、ハンドベルを右、左と交互に鳴らすような振り付けなのですが、この振り付けだけで鳥肌が立ちました。
たった5文字ですが、この曲そのものを決定づけるような振りにすら思えたのです。
ところでこの曲、振り付けの真似しやすさや階段を上るように徐々に高くなっていくメロディーは夏ソングのそれなのに、タイトルや歌詞では「夏なんて嫌い」と夏を真っ向から否定してしまっています。
一見不合理さやアンバランスを感じるのですが、ここもまさしく透色ドロップっぽいなと自分は思います。
言葉的には真逆のことのようですが、どこに光を当ててフォーカスしているかの違いにすぎません。
表面上をなぞった時の感触と、奥まで手を突っ込んだ時の触り心地の違い。
夏をあらゆる角度から切り取ってみたときに生まれる感覚をすくい上げてみると、一方向だけではない感情があることに気が付きます。
メロディーをしっかり聴くとストリングス?の対旋律が案外目立ちます。
「来年も同じ気持ちで夏を迎えられるのだろうか」
「今はもう戻ってこないんじゃないだろうか」
この限りではありませんが、湧き曲として歓声とともに出迎えられるこの曲を聴いていると、盛り上がっていくフロアのなかで楽しいはずなのに、どういうわけか悲しさが浮かんできます。
限りある時間を惜しむ気持ちもあります。
このような、あらゆる方向に矢印が向かった思いや葛藤を曲として収納している入れ物が「だけど夏なんて嫌いで」だと思うのです。
去年の夏ごろによく見られた光景として、両手を振りながら前や後に駆けていくサビの振り付けのとき、上手側で泣きそうな表情をしている佐倉なぎさんの姿がありました。
いつだか直接尋ねたら「色々込み上げて泣きそうになる」という返事を貰ったのですが、インスタでも先に書いたような「名残惜しさ」「今は今しかない」という刹那感がそうさせているという風なことをつづっていたのを覚えています。
4位 君色クラゲ(前回1位)
前回一位の「君色クラゲ」。
MV制作というゴールに達したものの、ベスト5に食い込んでくるのはやはり支持の厚さです。
海にゆらゆらと漂うクラゲと、透明感をコンセプトの一つに据えている透色ドロップ。
方向も定めず、流れ着くままに泳いでいるように見える刺胞動物の姿は、「君の目を見ると地に足つかなくなって どこまでも飛んでってしまいそうだ」という、浮足立っている恋愛中の「私」に重なりますし、「砂時計の音が消えてしまっても 隣にいさせて あと少し」の2行は、常に終わりへのカウントダウンがちらつくライブアイドル特有の儚さや、これまで何度も取り上げてきた相反する感情などと絶妙なシンクロを見せています。
クラゲと透色ドロップと学生時代のひと夏。
3つの共通項を抜き出して融合させたのがこの「君色クラゲ」という印象です。
サビの振り付けには、指の間の砂を払うように細かくパラパラとさせながら腕を上下させる動作があるのですが、ここなどクラゲの触手のよう。
照明によってステージごと一つの水槽になってしまう曲で、去年のミュージックアワードでは一面アクアブルーに染まり、深い海に潜り込んだかのように思いましたし、逆にオレンジっぽい光で包まれ、眩しい陽光が注いだ浅瀬や砂浜のようであった去年のTIFの光景もはっきりと覚えています。
3位 衝動(前回7位)
手堅い人気です。
透色ドロップが他の多くのグループと何が違うかと言われたら、少なくとも自分は「衝動」をはじめとした切に染みわたってくる曲の存在を挙げると思います。
アイドル界広し(この日のキラーフレーズでした)といえど、透色ドロップが魅力的な他所のグループに埋もれていないのは、可愛らしいルックスに対してやや意外性を感じるような曲をいくつも持っているからではないでしょうか。
「衝動」については去年の個人的楽曲大賞にてかなり熱っぽく語っていて、そこで満足してしまったので、ここではそのリンクと一部分を引用するのみに留めます。
深みに入り込んでいくような曲なので、板付きでMC明け頭など空気の変わり目にいきなり披露されることは基本的にありません。
それくらい慎重に扱われる曲ですが、この日に限っては例外でした
発表されるランキングは、順番やMC直後かどうかなど考慮してくれません。
「衝動」の披露は、3位発表直後。
発表からすぐに配置につき、イントロが流れ出しました。
こんな構成は今までほとんどありません。
ちょっと特殊な導入のおかげで、和気あいあいとしたMCトークから照明が絞られ、だんだん表情が閉じていくという顔つきのグラデーションがよくわかりました。
2位 桃郷事変(前回圏外)
川崎祭りを彷彿とさせる組織票です。
普通ならこんな高順位に食い込んでくることはありえません。
一部でのノリが全体の1割弱もの票を占め、あわや一位というところまで押し上げてしまったというのは、徐々に規模が大きくなってきたとはいえど動員的にはまだまだなのだということを物語っているようでもありますが、一方で組織票があってもそれを抑えて一位を獲得した曲があるのもまた事実です。
皆が良いと評価する曲は左右されずにちゃんと日の目を見たとポジティブに捉えてもいいのかも知れません。
それはともかく「桃郷事変」、曲としては非常に光るものがあるのは間違いありません。
サックスやラッパの音が飛び交うブラス調のメロディーが陽気を誘い、「バカになれー!」と見並さんが叫ぶこの曲。
「桃」というだけあって、猿、犬、キジの手振りがサビに出てきます。
2020年のコロナ禍真っ只中にリリースされたこの曲は、間奏であたかもコールアンドレスポンスのようにフロアとステージとでこの振りを真似しあう場面があるのですが、当時コールは封じられていたため、それに替わる「ポーズアンドレスポンス」として発明されたのが由来だそうです。
「それではみなさん盛り上がっていきましょう、桃郷事変!」
必ず冒頭にくっついてくる花咲りんかさんのこの口上は、もはや曲の一部と言ってもいいはず。
「りちりち」と同じく、パッと見では大人しそうなメンバーが、見た目に反してはっちゃけるというのがこの曲の肝だと思うのですが、歌詞に注目してみるとまた違った顔が浮かび上がってきます。
「前ならえが板について流されて着飾って」
周りに流され、浮かないように装っている自分への本音からこの曲は始まります。
多様性とSNSによって好みは毛細血管のように細分化され、機械学習によって自分の興味あるものだけが延々と送り込まれてくる画面。
逆に言えば、興味のないものへの扉は、後に生まれる可能性を備えていたとしても閉ざされています。
新しい扉を開くのは、いつだって能動的な行動です。
そうなると面白いことに、いつしか枝分かれして広がっていった末端の情報のみで生活していることに気が付きます。
「穴が空いた靴下の上 お揃いのスニーカー履いて 今日も走ってゆく」
はじめは地下アイドルを選択的に観ていたつもりが、それに依存しすぎてある時からアイドル以外はほとんど入ってこないという現象が、ネットのアルゴリズムに身を任せきっているとしばしば訪れます。
便利で何でも手に入る可能性がある時代なのに、取りこぼしてしまうもののほうが多いという不思議。
やや話を大きくしてしまいましたが、桃郷事変にはつい楽なほうに流れてしまいがちな人間の業みたいなものを指摘して、くだらないことと笑い飛ばしているのです。
サビで繰り出すハイキックは目覚めの一撃に他なりません。
「桃郷事変」を聴くと、レコードの棚をほじくったり(経験がありませんが)立ち読みでパラパラめくったり、服屋でハンガーを右から左にやったりするあの時間の貴重さが頭に浮かびます。
1位 アンサー(前回2位)
そして堂々の一位がこの曲。
透色ドロップが得意とする、感情溢れる物語を一番的確に表している曲がこの「アンサー」だと思っています。
「あっ、このグループ何かが違うな」何度目かに見た対バン、メンバーの顔と名前が完全に一致していないステージで思ったのは他でもなく「アンサー」でした。
「変わりたい 変われない 臆病なココロ」
振り付けにある、8の字に腕をブンブン回す動作は、見えない縄で縛られている様を表現しているかのようにも見えます。
今のままでじめじめとした感情を抱えながら過ごすのか、それとも違う場所へ行くか。
選択肢は2つ出されていますが、答えは一つしかないことは「違う場所へ行くか」でななめ45°上を指す振り付けが示しています。
顎を上げてフロアをより高いところから見下ろすときの表情や、しゃがんだときのにらみつける顔つきには鬼気迫るものがあり、個人的な感覚でいえばここ半年の間でさらに無力感も加わりました。
流されるままに生きることを「桃郷事変」では笑い飛ばしていたのに対し、「アンサー」は真剣な顔で疑問をぶつけて変わろうとしています。
終わった後の静まり返ったフロアは、映画館に生まれる静寂に似ていました。
そうして人気と共感を集め、一位を獲得、そしてMVが作られました。
透色ドロップでは唯一のかっこいい曲ですが、3周年ツアーファイナル前に発表予定の新曲はどうやらアンサー以来のかっこいい曲だそうです。
公開日は、去年「だけ夏」のMVが上がったのと同じ6月21日です。
(最近あがったばかりのレコーディング密着動画です。いい動画なので是非)
以上がトップ10です。
若干の意外性はあったものの、おおむね納得のランキングでした。
もっとも透色ドロップの魅力はこの10曲では収まりきらず、ランクインを逃した曲にも良いものが沢山あります。
本当は圏外の曲についても触れたかったのですが、息切れしてしまったので断念します。
来年のミュージックアワードはどう変動するのでしょうか。
そもそも、無事開催されるのでしょうか。
あったとして自分がその場にいるのか、それが最大の関心事です。
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