【ライブレポ】#DSPMソノウチトロメ!!
2023年1月9日(月祝)、横浜1000CLUBにて「 #DSPMソノウチトロメ !!」が開催されました。
一見して意味の分からないこのタイトルは、ディアステージとパーフェクトミュージックの合体である「DSPM」と芸能事務所ジ・ズーが主催する対バンイベント「ソノウチ」、そして同じく対バンイベント「エクストロメ!!」のそれぞれの一部分をつまんで合体させたものです。
大抵ライブアイドルには界隈というものが存在していて、日々あちこちで開催されている対バンライブもよく見ると結構同じ組み合わせをグルグルしているようなところがあります。
同事務所やレーベルなどだけでなく、プロデューサーどうしの繋がりなど芸能人のテレビ局の棲み分けのごとく大人の事情が複雑に絡み合って界隈が生まれているのだと思いますが、せっかく良いグループがあるのに同じところをグルグルしていては外に知られずもったいないことでもあります。
それを今回は、いい機会だからいくつかある界隈を一つのイベントに組み込んでしまおうということでした。
これら3つの界隈は、全く重ならないということはないのですが普段顔を合わせることは少なく、それぞれを拠点とするグループが界隈関係なくごちゃまぜにタイテに入ったこの日はかなり新鮮で異色の対バンでした。
今後のシリーズ化も願ってしまいます。
この日自分はトップバッターから会場に入り、9番目の透色ドロップまで通して見ました。
透色ドロップが目当てですが、特に透色ドロップの場合は3界隈とも違う「エイトワン勢」であり、とりわけ出演グループとの接点が少なかったはずです。
自分もここ1年ほどは透色ドロップを中心に回しているため”ガルガル”など別界隈にお世話になることが増え、かつては行っていたエクストロメなどからも最近はご無沙汰になっていました。
そのため、多少の予習はしましたがほとんど初見のグループばかりという状態。
楽しみでもあり、お化け屋敷に入る感覚でもあり、さらにはアイドル界の潮流の勉強という側面もあったこの日、9組をひと組ずつ振り返っていきます。
1.さよならステイチューン
開演に間に合わせようとしたものの遅れてしまい、結果4曲目にまでずれ込んでしまいました。
入ったときに驚いたのはその人数。
小高いステージの足元から1,2,3,4段と段差がついて見通しの良いフロアがお客さんでいっぱいになっていました。
この日は20組近くが出演することとなっていました。
朝から夜までという長尺の対バンライブは、”通例”で考えればトッパーの時には人もまばらなことも多いはずなのですが、3界隈から精鋭を集めてきた今回はその法則も当てはまらないようです。
DSPM発の“さよステ”の規模感はわかりませんが、そもそもDSPMの母体が大きいので後から出演のグループより知名度的に劣るなんてことはなく、たまたまトッパーだったというだけのことなのでしょう。
人で埋まった場内にはサイリウムがカラフルに光っています。
耳に触れた音は、聞き覚えのある曲でした。
「TUNED!」。
予習で聴いたときに引っかかったのか、それとも別の対バンで耳にする機会があったのか覚えがありませんが、浮遊感あるサビのフレーズはどこかで聴いたような気しかしませんでした。
指をピストルの形にしてゆっくりと左から右に下回りの弧を描く振り付けでは、5色のサイリウムが一瞬消えて、半周してまた現れてきます。
譜割りが緩めなだけに、後から見ると綺麗な半円でした。
いわゆるアイドルボイスと電波のようなサウンドが、さよステの音楽の鋳型となっているのかなと思います。
衣装もオタク向けのロリータ的な可愛さに思い切り振っていて曲のイメージと相違がないのですが、個人的にこのジャンルはあまりなじみがなく正直食わず嫌いしてしまっていたところがありました。
電波ソングを発し、メンバーカラーを押し出したザ・アイドルの衣装を着て、フロアに散らばったサイリウムに支えられながらライブを完成させるというグループは、いちジャンルとして確立されているほどたくさんあります。
たくさんあるだけにどれも大差ないだろうと(失礼)色眼鏡で見てしまうところもあったのですが、さよステに関して言えば全くもってそんなことはなく、何のストレスもなくすっと入ってきました。
赤色担当の大崎瑠衣さんなど、生まれ持ったアイドル声ですが、その聴こえ方もきつくはありません。
二次元ボイスとも称されるこの声質なのに、もたれる甘さがないというのは自分にとって新たな発見でした。これまであまり経験がありません。
オレンジ色の三浜ありささんも雑に括ってしまえばにたような系統の声質と言えるでしょうか。
ただ三浜さんはもう少し芯があり、どちらかというと同じくディアステの栗原舞優さんを連想しました。
ディアステはライブアイドルシーンでも知名度があり、下地もしっかりしている印象がリルネードやミームトーキョーなどを見ていて受けていましたが、さよステも例外ではなさそうでした。
5曲目の「バカしよ?」、腕を振り上げ、片足を思い切り引く振り付けがサビにあります。
確か水色担当の常盤あい乃さん、後ろ足をここまで上げるのかというほど、背中に近いところまで持ってきていました。身体の半分がエビぞりみたいになる振り付けですが、それが上手いこと再現されています。
2.代代代
フロアのあちこちに散らばっていたサイリウムはさよステの特典会のために消え、フロアは真っ暗に変わりました。
続いて出てきたのは代代代。
2016年結成とのことで、かなり息の長いグループのようです。
オリエンタルな雰囲気に乗せてやってきた「フォローミー」から、グループのカラーは主張強く放たれていました。
始まるや否や、フロア前方、一段目に固まった「よよよ」と思しき方たちが太い声を上げています。
「よよよ」とは代代代ファンのことだそうです。
少し引いた目線で見ると、別のところでは憑りつかれたように頭や身体を揺らしている人たちもいました。
彼らもまた、よよよのメンバーなのでしょうか。
当初抱いたアングラなイメージそのままで、人目につかない地下の改装でダークな音楽にドブ漬けになった空気がたちまち広がっていったのですが、普段自分が見ているグループの”王道””正統派”ぶりをその対比で覚えつつも、不思議と嫌ではない自分がいました。
不穏な動きを見せる場内で、見慣れない光景に拒絶反応が出てもおかしくなさそうなのに、そこにつかりきってしまうのも良いなと思ってしまっているのです。
意外だったのは、派手髪のメンバーがいる一方で、真っ黒の髪で一見おしとやかそうなメンバーもいること。
衣装もハーフパンツ、丈の違うスカートなどそれぞれで違っていて多様性があります。
閉ざされた空間で、異様なまでの狂信的な盛り上がりを見せるグループ像とは裏腹に、広く物事を許容する器のようなものを見た気がしました。
気になったのは梨央さん(違っていたらすみません)。
なん百人かに一人いるかいないかというレベルの特徴的な声で、アイナの声が思い起こされました。
もんたよしのりは声帯に炎症を起こすほど毎日大声を出し続け、「ダンシングオールナイト」などに聞かれる比類なきかすれ声を生んだそうですが、梨央さんもまた、持って生まれたものでないとしたら声帯を殴り続けたのではなかろうかと思ってしまうような声質です。
パーカッションの音が、トタン屋根を打った音のように聴こえたのは「8 BEAT GANG」だったでしょうか。
右手をかざしてドンドンドンと刻む姿は、振りのイメージでは叩く動作だと思うのですが、生で観てみると叩くというよりも何かを破いている動きのように見えました。
4曲を経てMCののち、ラストの曲はこれまでと違う印象がありました。
「破壊されてしまったオブジェ」
アングラでうごめいていたところから急にメジャー感を覚える曲でしたが、初見に関わらず「意外だ」という感想が出てきたことが、既にこの空間にどっぷり浸かってしまっている証拠かのようでした。
3. 雨模様のソラリス
8組予習した中では最も好感触だったグループでした。
代代代の後に見ると、フォーメーションの秩序正しさが際立っているように見えました。
何も代代代がグチャグチャだったとかではないのですが...
メンバー5人を結んだ時に現れる五角形なり、誰かを中心においたときの四角形なりというのがシャープでとても映えます。
頭の中に点と点を繋いだフォーメーションを描かせる、とでもいいましょうか。
オレンジ担当の小泉ようさんはいわば聴かせる声の持ち主という印象で、はじめてお目にかかっても上手いなと真っ先に思わされる部分があります。ところが、どうやら小泉さんはこの間までコロナにかかっていたようでこの日が復帰戦とのことでした。
オレンジのサイリウムが目立ったのは、帰ってくるのを待ちわびた二週間余りのうっぷんだったのかもしれません。
このことを知ってしまうと、いよいよ恐ろしくなります。
コロナからの病み上がりでこんなに出るのなら、万全な状態ならどうなってしまうのでしょうか。
後遺症で高音がしばらく出にくくなるアーティストもいる中、知らなかったにしても久しぶりという気配すらしませんでした。
4. PANDAMIC
「今日はこの高身長3人で盛り上げます!」
冒頭のSEに乗りながらこう宣言しました。どうやらフルメンバーではないそうです。
確かに3人ともスラっとして背が高め。
白をベースに、脇をえんじ色と暗めの緑色で挟み、ロングスカートに一部白黒のボーダーを施した衣装が似合っていました。
赤・白・緑の取り合わせが国旗みたいだなと思っていると、一曲目は平成のバンドサウンドっぽい曲から。
住所不定無職の「マジカルナイト・ロックンロールショー」のカバーです。
メンバーは積極的に目を合わせ、その様子はこちらにも伝わってきます。
慣れないフォーメーションでぶつかってしまったあと、ステージの両端同士で「ごめん!」と言い合う場面もありました。
ベースソロにギターソロが響く「トリッキーフューチャー」の間奏で、場内に一瞬ノイズが走りました。
何事かと思っていると、岩倉葵依さんがマイクを拾う姿が見えました。
恐らく演出の一部だと思うのですが、ダンスのために一旦床に置いていたのでしょう。
ステージとマイクがぶつかって生まれた音のようです。
「Diagram」は音源で聴く限りあっさりとした淡泊な印象を受けたのですが、3人の生歌を通して聴くとわりとムーディーになっていました。
ベースが目立つ曲が多く、バンドサウンドを前には出していますが、歌声の幅もファルセットを多用する「Diagram」から奥深くまで潜る「絶対的三分間」までかなり広く、バンドの音よりも歌声がしっかりと聞こえてきます。
一見してこれと言い切れないような表現の幅があり、そこに多彩な音楽が乗っている。
これまでの3組とは違い、ショーを観ているかのような感覚でした。
ラストは「今夜が終わらない」。
こちらもカバー曲でした。
オリジナルはふぇのたすで、今度はキャッチーさを出して惹きつけてきます。
5.ばっぷる
声出しありのフロアが騒然としだしたのは、PANDAMICが捌けてステージ上に誰もいなくなってからでした。各グループの「おまいつ」とでもいうべき人達が入れ替わり立ち代わり集まってフロアを先導するように声を出していた一段目センター付近で、次のグループのファンと思しき方たちが声を上げています。
いつしかコールが始まりました。
「せーの、ばっぷるばっぷる!」
メンバーが誰もでていないのにもうコールなのか、熱いファンだなと思っていたのですが、ザワザワが大きかった理由はここではなく、かれらが手にしていたものにありました。
どこから持ってきたのか、ある方が看板を掲げています。
おおきく「ばっぷる」と書かれたお手製の看板でした。
グループにとって節目の回数のライブだとか誕生日当日のメンバーがいるとき。最後方で有志の方によってプレートが掲げられるのは見たことがありますが、最前列で長い棒付きの看板が立っているのは見たことがありません。
PANDAMICが巻き気味で終わったのか、通常であれば即転換のところ時間が少し空きました。
すかさず看板のほうから声が飛んできます。
「緊張してんじゃねーの?」
そのたびにクスクス笑いが漏れてきながら、ほどなくしてメンバーが出てきました。
ヤクルトスワローズの応援傘よりもさらにふたまわりくらい小さそうな傘を手にやってきた3人組は、教育番組に出てきそうなお姉さんといったところ。
ややくすんだ原色の赤、青、黄色、緑などを当ててジャケット風にあしらった衣装は、90年から2000年代位を思わせる、懐かしさを感じさせる風合いでした。
「Ladies and Gentleman, Boy and Girls…」
流ちょうな言葉使いで、これから始まる25分間の幕開けを陽気に宣言します。
「私たちの”歌”を刻みたい」と序盤に言っていましたが、確かに目を瞠ったのはその歌唱力でした。
3人とも非常に歌がうまいです。
しかも、その上手さもアイドル上手さとはまた一線を画しています。
小手先の技術や、あるいは多少の拙さを声量でカバーしてしまうような根性ではなく、学問的な理論を感じるような歌声でした。
喉を消耗せずに音量を出すノウハウも恐らく持っているのでしょう。
喉の奥で転がして出すような歌声に、歌い終わりをふわっと上げる歌い方。
規格外の看板や衣装からイロモノグループかと思ったのもわずかな間で、歌声を聴いてリラックスしきっている自分が居ました。
フロアへの掛け声も、保護者のようで独特です。
「初めましての人も真似してみよっか!」を契機にフリコピを煽り、言われるままに真似するフロアを見て「いいよかわいいよ!」
癒しというより、子供に戻ったような懐かしさからくる安心感がありました。
口調はおだやか、しかし恐ろしい速さで染み渡ってくる感じです。
初めに抱いた、子供番組のお姉さんという第一印象もまんざら間違いでもないような気がしてきます。
あまりにステージのつくり方が上手く、歌唱力も高いので気になって調べてみると、ばっぷるはグループとしては結成3年程度であるものの、メンバーそれぞれアイドル活動やソロシンガーとしての活動を長らく積んできたようで、個人で観ればしっかり年数を重ねたベテランぞろいのようでした。
歌声に関して相当の精鋭を集めてきたグループ。それが、ばっぷるらしいのです。
ところでメンバーの一人、牛山ももさんはかつて静岡のロコドル・ロザリオクロスに所属していたそうです。
静岡に住んでいた時、TOKAIガスなどのローカルCMにロザリオクロスがよく出演していて、ライブに行きはしませんでしたが「思い出の交差点」「Lips〜踊れ恋心~」などはたびたび聴いていました。牛山さんのいた時期とも被ります。
当時はメンバーの名前すら知らず、曲だけかじっていた具合でしたが、まさかこうして別グループのメンバーとして見ることになろうとは思いませんでした。
アイドルを数年観ていると、業界特有の”転生”や楽曲継承などでかつてデビュー時を見届けた人を数年後大幅にイメチェンした姿で全く違うグループに見つけたり、直系のグループではないはずのところで昔よく聞いた曲がカバーされる、なんてことがたまにあります。
牛山さんの場合も、まわりまわってたどり着いた、不思議な縁でした。
「I’m a President」は歌をじっくり染みわたらせるような曲。
新曲「Pick Up」を持ってきましたと言ったときに、看板のある足元から「やれんのー?」と声が飛んでくれば、メンバーは「やれるよ!笑」と返します。
そうして一つ笑いが。
ノリの良いフロアと3人とですっかり1000CLUBという世界を変えてしまいました。
しまいにはメンバーから「せーの!ばっぷるばっぷる!」
てっきりオタクだけのコールかと思っていたら、公式のやりとりだったようです。
出てきた時に手にしていた傘は結局使わずじまいでした。
小道具として出てくる曲があるのでしょうか。
6.MEWM
「地球最後の乙女戦士」は、フロアから見たら真っ黒な衣装で出てきました。
6人組です。
1曲目の「Melty Girl」は、粒だった音にアンニュイさからくる脱力感、「君にぶつけるの」の三連符、極めつけはサビラストのフレーズに合わせた指パッチンと、漂う緩やかなメロディーが気持ちよかったです。
身を任せていたくなるところがありました。
かと思えば「七色ストーリー」ではパーカッションのドンドンと鳴る音から攻勢へ。
サビでの全員そろったターンが非常に綺麗でした。
グループコンセプトに「戦士」とあるので、「SHER-LOCK」含めゴリゴリのロックを効かせている印象で、えてしてこうした曲は勢いのある一方で雑に見えてしまうこともあるのですが、全くもってそんなことはありませんでした。
「ロマンチックダンス」の真似しやすさも良いです。
7.IDOLATER
丈が長いスカートを履き、これまでとは違う空気が流れ込みます。
指先に神経がくまなく行き届いたような...というのは綺麗なダンスに対してよく使われる表現で、IDOLATERについてもそう言いたいのですが、振り付けはその綺麗な指先や関節の使い方を見せるようにかなり練られているように感じます。
フォーメーションで5人が重ならないようせず一人一人に注目させるようにすることや、指先に視線を集めたいときにゆっくりとしたリズムにすることなどが徹底されていました。
あるいはメンバーの、無意識下でそうした振り付けに目を向けさせる技術もあるのかもしれません。
「Vapor City」の2番、「何度も同じような道 辿って来たとしても」と歌いながら腕に指を這わせてどこかに飛ばす振り付けはじっと見てしまいますし、「DIAMOND」のサビでの構成。1番ではソロを歌う奥田彩友さんを中心に置いて、踊る他の4人との線をはっきりと引いているように見えたのですが、2番に入ると両端の2人によるソリに変わり、振り付けも全く同じではなさそうです。
印象深いのは「消せない・・・」。
感情をあらわにしたダンスが群青の世界に似ているなと思ったら、作曲した方が群青の世界の多くの曲を手がけている三谷秀甫さんでした。
サビの「ただ意味を持たない幸せのかけらたちを」。
右上から落ちていく右腕に操られるように5人がかがみこむシーンがあるのですが、かがみこんだ時間が実際よりも長く感じました。
直後の「Ah 集めてる」でソロを歌うひとだけが身体を起こし、ほかのメンバーがかがんでいるように見えたのですが、実際の振り付けでは歌わないメンバーも元の体勢に戻っています。
どうやらメンバーが深くかがみこんだ分だけ、こちらの体感時間も引っ張られてしまったようでした。
一番背の低い伏木結晶乃さんが目を引いて、歌が上手いなと思ったのですが、どうもこの日は声が枯れていて本調子ではなかったとのことです。
この日は病み上がりのグループもあったりフルメンバーではないグループがあったりと、何かと沈みがちな真冬のせいか本来の調子ではないグループが多かったようですが、それを悟らせないところは素晴らしいです。
一度ねじを外して全開になったところを観てみたいと思ったのが、ハイトーンの砂月凜々香さんでした。
「DIAMOND」のソロは奥田さんと伏木さんが担当することが多いようなのですが、ほとんどラストのフレーズ「痛いよって叫ぶ声も 未来に変えてくから」では砂月さんがセンターに顔を出してソロを歌います。
一瞬詰まったその声は、少しざらつきながらも引き寄せられる歌声でした。
5曲を通してIDOLATERというグループが少しわかってきたところに、最後の最後にまた別の角度から切り札がやってきたという感覚です。
このセットリストに入った曲がたまたまソロがさほど多くない曲ばかりだったのかはわかりませんが、もう少し砂月さんの歌声を聴いていたい気分でした。
8.ミームトーキョー
2021年の夏に新木場で観て以来でした。
ストリート系の衣装で出てきたミームトーキョーの魅力はそのグルーヴ感にあると思っています。
あれ以来ご無沙汰になっていましたが、ノリの良さは変わらずあって気持ちがいいです。
「リアリティ・ウォー」は新木場でも聴きました。
「ウーバーイーツ」「ソーシャルディスタンス」などと聞き流そうにも耳が立ってしまうワードを挟んだ時事を斬る歌詞を、足を大きく蹴り上げ、身体をスウィングさせながら歌う姿にはすっとした気分にさせられます。
ミームトーキョーのライブは、頭を空っぽにして身体を動かしたもの勝ちのようなところがあるでしょう。
思うよりも先に身体を揺らしていれば、タイミングを待たなくてもライブとの波長が合ってきます。
片足を蹴り上げる振り付けは、同じくDSPMのさよステの曲にもありました。
それでも、流れる音楽が違うとこうも別物に見えてしまうのかと驚きです。
「スーサイド ボーダレス」も鬱屈を吐き出すような歌詞。
顔を持たないスクリーンと、ひずみ切ったニュースに支配されるこの世の中で、優劣をつけることやそれによって自己嫌悪に陥ることは「毒」だと表現します。
身体を揺らして動き回っていけば毒はより早くまわっていくのは明白ですが、それすらも上等だという気概が「ステージ立ったらここが世界の中心」という言葉に集約されています。
そのことに気付いたとき、空っぽの頭の中に少しだけ現実を見ると同時に、常に抱える不安を抱きこむ器を手に入れた気もしました。
9.透色ドロップ
次は9組目。
自分がこの日観た最後のグループ、目当ての透色ドロップの登場です。
「この世界はきっと、透色に溢れている」というコンセプト通り、ビジュアルだけではなく紗幕を張ったようなユニゾンの歌声と儚いダンスで透明感を定義してきた透色ドロップ。
ファッショナブルに言葉を並べ立てるミームトーキョーなど、わりと個性的な8組が出演して混迷とした空気をどう透き通らせるのかなと思っていたのですが、1曲目に用意されたのはそんなカオスな雰囲気に同調するかのようなファンキーソング「りちりち」でした。
会場のつくりはフロア後列に行くにしたがって順に高くなっていくせり上がり式ですが、目線としては見下ろしていても、心理的に見上げてしまうような感覚を受けるこの曲は、メンバーの余裕の笑顔が合っています。
ブリッジのSEを挟んでやってきたのが「だけど夏なんて嫌いで」。
見知らぬ人の心をつかむキラーソングは、すっかり対バンライブの定番曲に定着しました。
余談ですが、透色ドロップは昨2022年5月に「ミュージックアワード2022」を開催しました。
1カ月の投票期間でファンより募った好きな曲のトップ10をカウントダウン形式で披露していくというライブだったのですが、あのライブ以降現体制となってからさらに持ち曲が4曲増えました。
勝手な推測ですが、恐らく3月18日に開催される新宿BLAZEでの単独公演前にも、新曲が少なくとも1曲発表されてカウントに加わると思っています。
4曲とも揃ってトップ10に入っても全く不思議ではないくらいの良い曲ですし、直近では「自分嫌いな日々にサヨナラを」や「僕らの轍」はこれまでの透色ドロップのカラーとは少し性質を異にする曲で、これを契機にこれからの曲の方向性が変わっていくかもという予感があります。
もし今年開催されたなら去年と比較して大きく順位は変わりそうですし、それだけでなくトータルの雰囲気も一新されそうな気がしてきました。
少し脱線したところでライブに戻ります。
2曲披露のあと、自己紹介と次の曲振りへ移りました。
「ここまでの2曲は、楽しく盛り上がる曲を聞いていただいたんですけど、これから披露する3曲は透色ドロップの中でもエモーショナルな曲になっています」
と見並里穂さんが言えば、橘花みなみさんが後を継ぎました。
「皆さんの大切な人を思い浮かべながら聴いてください。」
フォーメーションはすでに橘花さんを一人センターに残し、その両脇に縦一列を作った「君の描く未来予想図に僕がいなくても」のフォーメーションになっています。
とうに離れてしまった人、あるいはもとから触れられない遠い存在の人に対し、願っていることしかできないけど光の中にいてほしいという悲痛の曲。
受け取り方は恐らく人によって様々で、恋愛ソングともとれれば、昨2月に公開されたMVでの、制服を着て校舎や通学路に立つメンバーから連想して卒業ソングと見ることも出来ようかと思います。
もっと広げれば、はじめからある一定の距離があり、いつかはいなくなってしまうアイドルに対するファンの気持ちにも通じるところがある曲です。
橘花さんのこの曲振りを自分は初めて聞いたのですが、あとで直接聞いてみると、最近のライブでは何回かこのセリフから「予想図」に入っているとのことでした。
じつは曲振りした橘花さん、今年3月をもってグループを去ることが決まっています。
この日のライブの段階ではまだ知らされていませんでしたが、そこから約1週間後の橘花さんの生誕祭で、多くのファンの方を前に本人の口から伝えられました。
次へのステップアップのために一年以上前から相談していたようで、急遽決まったというものでもありません。
夏フェスや2回にわたる全国ツアーを行いながら、ずっと機を伺っていたのでしょう。
今の透色ドロップの居心地が良すぎるから、というすぐには信じがたいような理由ですが、いつまでも続く仕事ではないだけに、居心地の良さに浸かり切っているといつまでたっても抜けられなくなってしまうというのも分かる気がします。
卒業を胸にしまい続けてここまできたことを踏まえると、橘花さんが最近口にするようになった「予想図」のこの曲振りの真意も分かるような気がします。
自分がもうすぐステージを離れ、「いつかこの景色が思い出に変わっても」が現実のものになろうとする状況で、橘花さん推しでなくとも、透色ドロップを知らず橘花さんの卒業に直接の影響を何にも受けない人たちにも自分事として胸に手を当てて考えてほしいと、そういうメッセージが込められているように感じました。
事実、橘花はんの曲振りに心を打たれ、特典会に来る方もいるそうです。
卒業の報を受けてから改めてこの日のアーカイブ映像を観てみると、いつも上ずり気味の橘花さんの歌声がより上ずり、泣きそうな声になっているように聴こえました。
ここの歌詞です。
「いつからだろう君のこと 見つめるたび胸が苦しくて」
「予想図」のような曲の存在だったりパフォーマンスなどを通して、透色ドロップのメンバーはアイドルの儚さを常々説いていました。
それを痛感する機会は近いうちにやってくるだろうと根拠はないものの思っていましたが、いざ目の前にやってくると寂しいものです。
それでも、発表から2週間ほどでいなくなってしまうアイドルも多い中、2カ月あまり会える機会を残しておいてくれたのはありがたいことではないでしょうか。
橘花さんの事については卒業が近づいてきたらより深く書くこととして、ライブは「孤独とタイヨウ」へと進んでいきました。
伸ばした両腕を傾けて頭のてっぺんにもってくる振りは、天体の自転のよう。
ラストの曲は「衝動」。
またここも思い出話で恐縮なのですが、今回「#DSPMソノウチトロメ!!」を開催したジ・ズーの、界隈の垣根を超えたライブは去年の成人の日にも「ミュージックパーク」というタイトルで開催されていて、透色ドロップはその時にもラインナップされていました。
個人的には夏以来しばらくぶりにグループを見た当時、衝撃を覚えたのがその日もラストで披露された「衝動」でした。
そこから目が覚めたように透色ドロップを追いかけるようになったのは今までも何度か書いてきましたが、それ以降「衝動」が特別な曲になりました。
昨年末、サブスクで2022年に聴いた曲の集計結果を見ると、ポップスやロックなど全ジャンルとおしてトップだったのがこの「衝動」でした。
さらに、季節ごとに区切られたランキングでも全シーズンで5位以内。
偏りがあるのは否めないですが、一年中ずっと聴いていた唯一といっていい曲でした。
出会いから一年経ち、あのときと同じような状況に置かれて聴く「衝動」に浅からぬつながりを感じてしまいます。
ただ少し気がかりなことがありました。
メンバーの花咲りんかさんがこの1週間前から長期のお休みに入っていて、間奏でメンバーが作ったアーチをくぐるところや印象深いソリのパートなど、花咲さんしかできないようなパートをどう処理するのかが気になっていたのです。
透色ドロップは誰か一人を前に出すことがきわめて少なく、パート割も2人以上のことが多いので、一人が不在でも残りの少なくとも一人がカバーして形としては整うのですが、なにせ花咲さん不在の「衝動」を見たことがなかったのでいらない心配をしていました。
これまでの4曲もそうでしたが、とりわけ「衝動」には思いがあったので考えてしまいます。
とはいいつつも、終わってみれば不在をある意味感じさせない、自然な繋ぎでした。
とくに書いておきたいのが天川美空さん。
花咲さんとのソリがいきなり1番Aメロからやってきます。
「鍵が掛かったままの白い扉 叩く音がする 聞こえるでしょ?」
花咲さんの不在によってソロになった天川さんでしたが、元からソロパートだったのではと思わせるほど見事でした。
変な声だと自虐しますが、「きみは六等星」でのソロ(と呼ぶには短いですが)のように歌うモードというより話し声に近い歌声は結構魅力的だと思っています。
2番終わりの間奏では、縦2列に並んだメンバーが手を繋いで作ったアーチの下を花咲さんが走り抜けていきます。
暗い所から明るみに飛び出す瞬間です。
不在だからといってここの振りを大幅に変えることはできませんが、誰も通らずともアーチが出来て消えていく光景だけで十分綺麗でした。
「衝動」好きの自分目線では、この日はいつもより強めのパフォーマンスに見えました。
先に出したアーチのパートで列の先頭の佐倉なぎさんと見並さんがこれ以上くっつけないというほど身体を密着させるところだったり、「降り出す雨が祝福してる」での見並さんの右腕を大きく使った身振りだったり。
日によっては割と抑制的に見えることもあってそれもそれでいいのですが、感情をぶつけるようにしてより4分間が劇的になるこの日のパターンもまた良いです。
「衝動」が終わる頃、フロアからは一切声が聞こえてきませんでした。
水を打ったように静まり返っています。
他の組では曲間くらいは歓声が上がっていたのですが、それすらありません。
誰も声出し禁止なんて言っていないのに封じられたようになっています。
押しではなく引き潮のインパクトを強く残した25分間でした。