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強く願う力 :松下幸之助と稲盛和夫の出会い

かつて、経営の神様と称された松下幸之助氏が、ある経営者向けの講演会で登壇しました。会場には、成功を目指す多くの経営者や企業幹部が詰めかけており、松下氏の一言一句を聞き逃すまいと真剣な表情を浮かべていました。

講演が終盤に差しかかると、質疑応答の時間が設けられました。そのとき、一人の聴衆が手を挙げ、松下氏に質問をしました。

「松下さん。どうすれば松下さんのように、会社を繁栄させることができるのでしょうか?」

会場が静まり返る中、松下幸之助氏はゆっくりと語り始めました。

「そうですね。それは会社を繁栄させたいと強く思うことですね。」

その瞬間、会場にはどっと笑いが起こりました。

「なんだ、そんな当たり前のことか。」

多くの聴衆が肩透かしを食らったような表情を浮かべ、軽い失笑が広がりました。誰もが、松下氏ならもっと具体的な経営の秘訣を語ると思っていたのです。しかし、その言葉を聞いて心の底から震えるような感動を覚えた人物がいました。

若き稲盛和夫の衝撃
その若者こそ、後に京セラを創業し、日本を代表する経営者となる稲盛和夫氏でした。

当時の稲盛氏は、まだ無名の一技術者にすぎませんでした。京都の小さな町工場でセラミック技術を活かした新しい事業を立ち上げようとしていましたが、資金も乏しく、知名度もなく、経営の知識もほとんど持ち合わせていませんでした。ただがむしゃらに働き、少しでも会社を成長させようと日々奮闘していました。

「会社を繁栄させたいと強く思うこと。」

その言葉が、稲盛氏の心に深く響きました。

経営とは、単に資金や技術、戦略だけで成り立つものではなく、何よりも「会社を良くしたい」「絶対に成功させるんだ」という強い思いがなければならないのだと、彼は気づいたのです。松下氏の言葉は、稲盛氏にとって「経営の本質とは何か」を教えてくれる一言でした。

経営者としての覚悟
この講演をきっかけに、稲盛氏は「どんなに苦しくても会社を発展させるのだ」と心に誓いました。

当時の京セラは、まだ創業間もない小さな会社でした。資金繰りに苦しみ、技術はあっても販売先が見つからず、経営は常に不安定な状況でした。しかし、稲盛氏は諦めませんでした。「強く願えば、それは必ず実現する」という信念を持ち続け、全身全霊をかけて経営に取り組みました。

そして、その思いの強さが、次第に従業員や取引先にも伝わり、京セラは徐々に成長していきました。やがて日本を代表する企業へと成長し、後にはJAL(日本航空)の再建まで成功させるほどの経営者となったのです。

しかし、どんなに成功を収めても、稲盛氏の心の中には常にあの日の松下幸之助氏の言葉がありました。

「会社を繁栄させたいと強く思うこと。」

それは、ただの精神論ではなく、経営の根幹を支える大切な信念でした。多くの人が笑いながら聞き流した言葉を、稲盛和夫氏だけは真剣に受け止め、それを生涯の指針としました。そして、その強い信念こそが、日本を代表する偉大な経営者を生み出したのです。

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