11.半吉無双II
7月17日
リュックに水を入れたペットボトル10キロ分を入れて、院内の歩行自主トレを開始。イメージは子供をおんぶする感じ。
我が家には子供が二人おり、まだまだ遊び盛りの幼稚園児だ。公園やアスレチックに連れて行くことも多かったので、これからもしばらくはだっこやおんぶはできるようにしたい。
片麻痺でも子供と遊びたい。
重りを背負うと確かに重いが重心が低いところに移って下半身の安定感が増す気がする。だが上半身は左右に大きく揺れてバランスが悪い。イメージは地震の時のビルの揺れ方に近い。
iPhoneのヘルスケア機能をまともに使ったのは初めてだと思う。歩数だけでなく、移動スピードや歩幅まで勝手に記録してくれている。
一日7000歩以上、3km/h以上を目標にして自主トレに励んだ。歩く形、歩様も大切だが、歩様はPTさんに見てもらうことにし、とりあえず距離と速度を目標に掲げた。
これもずーみーさん情報だが、このヘルスケアには歩行非対称性なる数値がある。これが結構重要らしい。健常者の方々は全く見たことがないだろう。
歩行の非対称性とは、片方の足がもう片方の足よりも速くなったり遅くなったりする時間の割合を指す。歩行の非対称性の割合が低いほど、歩行パターンは健康的であると考えられる。
自分で言っていて何を言ってるかわからない。
要は低ければ低いほど健康な歩行、ということだ。
皆様もぜひヘルスケアから確認して欲しい。概ね5%以下になっているだろう。
稀にこのように歩行非対称性が高くなってる日を調べてみると、飲み会の日だったりする。
僕は限界まで飲むと絵に描いたように千鳥足になる。ああいう状態だと歩行非対称性が上がり、バランスの悪い歩行となる。
続いて半吉以後はどうだろう。病後"見守り"が外れて杖プラス装具で歩くようになった時期は下記の通りだ。
信じられないほど数値が高くなっている。右足に麻痺があり、足首がほぼ上がらない状態なので当然と言えば当然だ。
あくまでこの指標が正しいことは前提だが、こと自主トレにおいては、歩行の改善にこんなに簡単な指標は他にない。
歩行非対称性が100%の状態は想像できないが、これを0%に近づければ健康的な歩き方であるといえる。なぜならアップル社がそう言っている。ジョブズも天国からイエス。
この時期、歩行に関しては歩数、速度特に歩行非対称性を30%以内にすることを目標に自主トレを行って、担当PTさんに左吉が壊れないための歩様の向上、またそのため筋トレやストレッチを教えてもらうという流れだった。担当以外のPTさんの時はひたすら筋トレだった。
7月はPTさんには股関節と膝裏の筋肉、お腹をつき出す歩き方について指摘を受けることが多かった。
7月17日
言語療法で時間制限付きの小論文を書いた。この日はファスティングについて調べて、その良し悪しをまとめて、発表するといったものだった。
元来僕を知っている人ならよくわかるが、ファスティングなど僕がすることも興味を持つことも無い。良しも悪しもどっちでもいい。そういう意味では難題だ。
その前は朝ドラの変遷や、バレーボール日本代表についてなど、見事に僕の見識が無い場所を狙ってくる。病前から小論文や討論が得意だったので、知っている分野だと負荷が少ないからだろう。
担当のSTさんは僕の弱点を突くのが得意だった。
約2ヶ月のリハビリの結果、失語としてはかなり回復し、吃りも改善が見られた。
ただ今までの頭の回転数とは程遠い。言いたい言葉が出てこないため、近い言葉で言い換える。言い換えを続けていくと、本来伝えたいニュアンスや、文章の帰結点を見失ってしまう。
さらにこの言い換えの動作はかなり脳の体力、脳力(造語)を消耗し普通に話しているように見えても途中から集中できなくなったり、猛烈な眠気が襲ってくる。脳疲労ともいうらしい。
とはいえ手指に比べて回復が著しいため、言語療法としては週に一回程度に減らし、自主トレが中心になっていた。
この当時行っていた自主トレは、STさんにもらったプリントだった。文章を完成させるプリント、関連語を浮かべるプリント、クロスワードこの三つで、日に2.3枚やっていた。
加えて病棟訓練なるリハビリを行なっていた。病棟訓練とは、リハビリの空き時間に看護師さんないし介護士さんに付き合ってもらいリハビリを行うものである。
この頃は僕が看護師さんや介護士さんを初対面として、自分の病気や病状の説明をしたり、会社についてプレゼンするといった訓練をしていた。
看護師さんたちは僕が今でも軽度の言語障害に悩まされてることは知らなかったようだった。電話で話す保険屋さんも仕事の取引先も、僕は治ったと捉えていた。
しかし僕としては体感で5.6割程度しか話せていないし、頭の回転速度は半分も回っていない。短期記憶も半分程度といったところだ。
ただ現時点で医療的に僕の症状は脳の障害にも言葉の障害にも当たらないようだ。
僕としてはもっと言語機能の回復を目指したいので、これからも言語療法は続けていきたい。
色んな人にそれぐらい、と言われてきたが、脳出血で倒れてから、声質が変わった。
気づかない人も多いが、少し籠った声になり、大きい声が出しにくく枯れやすくなった。そして何より、音域が狭くなった。
足や指、言葉と比べて音域?と思う人は多いが、高校は軽音楽部で、結婚式など事あるごとにバンドをやってきた僕にとって、かなりショックだった。
これからのリハビリ次第ではあるが、ベースは現状絶望的で、発症1月前に買ったベースは今のところ日の目を見ることは無さそうだ。
となればバンドをこれからやっていくなら歌しかない。
担当のSTさんに相談してみたところ、やはり発声の方法からリハビリする必要がある。腹式呼吸はできているので、あとは歌い方を覚えていくしかない。
むしろSTさんが真面目に取り合ってくれたことに感謝である。
ちょこちょこ部屋や中庭で人目を掻い潜って歌っている。髭男やワンオクとかは全然出なくなってしまったが、よく考えたら歌わないので気にしなくていい。
いつかバンド出来たらいいなと思う。
7月19日
特注した装具が届く。納車のようにテンションが上がった。大きい段ボールの鍵を用意したいくらいだ。
僕はスニーカーやブーツを履くのが好きなので、できるだけサイズを変えずに履ける装具にこだわった。テンションが上がってあまり考えてなかったが、サイズが入らなさそうで寝る前に不安になった。
保険適用とはいえなかなかの出費だったので、もっと吟味すべきだったと反省している。
ただこの時期くらいになると装具にも詳しくなってくる。僕が作ったのはSPS-AFOという装具。男性の読者の方ならこの名前で、ぞわっとする感覚を感じないだろうか。
装具は兵器みたいでカッコいいのである。下記に僕の勉強した装具一覧を記しておく。そう思えない方は、そっ閉じして欲しい。また個人の偏見とあるので、本職の人はそっ閉略
①オルトップAFO
くるぶしの少し上から足の指の手前までを覆う短い装具。足首が下がらないようにサポートしてくれる。白い。ガンダムでいうならZガンダム。
②SPS-AFO
オルトップと同じくくるぶし辺りから足指までの装具。オルトップと比べ装甲が厚く足首のホールド感が強い。黒一色。TCGのMTGでいうなら、むさぼり食うストロサスといったところか。
③RAPSラップス
膝下からつま先まである装具。使用する人の能力に合わせて後方にある支柱の硬さ、足首の角度を調整することで歩行をサポートする。個人に合わせて、細やかな調整が行えるのが大きな特徴。麻雀の役でいえばまさに平和。
④シューホーン
同じく膝下からつま先まである装具。プラスチックでできており、足首の安定性を高めてくれます。プラスチックを削ぐことで固定力の調整が可能。ビールでいえばサッポロビール。
⑤ゲイトソリューション
これも膝下からつま先まである装具。足首の動きを油圧で制御することができ、歩くときにスムーズな体重移動を可能にする。踵が覆われておらず、かなりスタイリッシュ。ゲームでいうならデビルメイクライ。
リハビリへの取り組み方は以前から変わらず前向きだったが、この頃から環境自体に感謝するようになった。
1日リハビリ3時間とそれ以外の時間は自主トレをやっても良い。時間が来れば栄養バランス取れた食事が3食用意され、掃除やベッド周りのクリーニングも行ってくれる。
最初はまるで刑務所みたいで早く出たいと思ってたが、先輩方の発信のおかげでどんなに幸せか実感ができてきた。
こんな気持ちは、高校の時卒業した先輩が、毎日制服着たJKと同じ教室にいる幸せを教えてくれた。あれ以来だ。
そして盆も正月もなくこの体制を作ってくれてるセラピストさん、看護師さん、介護士さん、ケアマネさん、栄養士さん、清掃業者さんらにもっと感謝するべきだ。
退院したらこの素晴らしさについて、何かしらの形で、大声で発信していくつもりだ。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?