12.半吉無双Ⅱ猛将伝
7月20日
世界はサカサマさんのYouTubeで紹介されていた杖に興味を持ち、調べていくと僕の住んでる愛知県で作っていることがわかった。
片麻痺のインフルエンサー百武桃香さんがモデルを務める杖で、PTの方が開発に携わっており性能がとても高いらしい。
歩行動画や体型や病状などの情報から、どの杖が合うかを判断してくれるシステムだ。
推進力を増すためのタイプと、左右の揺れを少なくしてバランスを良くするためのタイプがある。
お値段は保険適用外で約15万円。高額だがサブスクで利用可能なので、とりあえず申し込んだ。
何より、この杖の見た目と名前がカッコ良い。
Paracane(パラケイン)
めちゃんこかっこいい。
これに関して、洒落た言い換えや形容は不粋というものだ。
めちゃんこかっこいい。
これが正しい。
早速歩行動画を撮って、申し込んだのであった。
7月22日
担当のOTさんによれば、手指や足といった末端の回復には感覚入力がとにかく必要らしい。たとえば氷の冷たい固い感覚や、天日干しした毛布のふわふわした温かい感覚などである。
病棟を歩く時には、手すりを掴んだり、カーテンを触ったりして感覚を入力した。感覚入力のためAmazonで腕からぶら下げるタイプのボールを買って、にぎにぎしながら歩いていたが、あまりにそれ何?と突っ込まれるため、夜だけ使っていた。
またこの頃チョコボールを掴むことができた。小さな球体を掴むことができたのは大きな進歩だが、食べるためには口元で力を抜かないといけない。もう一歩のところだ。
また肩肘はもうすぐ地面と水平に、90度に伸ばすことができた。動かない頃は電気刺激でひたすら動かしていたのが、自分で肩肘を動かしてサポートで電気刺激といったようにやり方が変わっていった。
腕と手に関しては担当OTさんが6月半ば頃から固定のメニューで自主トレを組んでくれていた。
午前中は指用の電気刺激器具NESSの予約、午後はリハビリと家族の面会があるため16:00から腕用のトレーニング器具ReoGoの予約。また午前中2時間、午後イチ1時間のリハビリをほぼ固定してもらったおかげで自主トレも計画的に行うことができた。
とにかくハイテクそうな機械にテンションを上げながらリハビリを行うことができた。
この週先生と話し合って、9月末での退院を決めた。
一番回復が遅れている手、腕に関しては、退院までのリハビリの方針をOTさんと話し合った。
結果8月末までは動作の再獲得を行い、9月いっぱいでそれまで獲得した動作を日常でどう使うかの練習を行う事にした。
入院当初から淡々としていて、さっぱりしている担当OTさん。物事をはっきり言うので冷たいように見えるが、僕より回復を信じてやまない態度に毎度救われる。
この日の日記には、セラピストという職業について書いてあった。
今までの人生で全く知らなかったリハビリのセラピストという職業。こんなに大変で素晴らしい仕事があるとは。
今回脳出血をきっかけとしてこの素晴らしき職業を知ったが、他にも僕が知らない素晴らしき職業はあるはずだ。退院したら今まで以上に色々な職業に興味を持っていこうと思う。
7月24日
ここ数日、夜中麻痺側の手足が上がっている状態で起きる。おそらく緊張が高くなり、痙性が強くなっている。ラオウの最期さながらだ。
先生に相談し、漢方からリオレサールという緊張を解く薬を処方してもらう。
7月26日
はんきち は でんつの つるぎ パラケイン を てにいれた!!
使ってみた感じは、とにかく早い。
しなりがかなり強いので、蹴り出す足が前に前に出される感覚がある。歩幅も広くなり、重心にブレがなく歩様もいい感じだ。
この後しばらく病院中のセラピスト達の興味を集めた。僕はドラクエの村人のようにパラケインの説明をしていた。無表情で。
またお年寄りの患者さんにはよく、パターだと言われていた。その時もしっかり村人として対応した。数日後にはプロ意識すらあった。
7月29日
セカサカさんの動画を見てAmazonで頼んでいたサポーターが届いた。
ザムストというメーカーのサポーターで、麻痺患者専用のものではなく、どちらかというとスポーツに使われるものらしい。
僕の右吉は麻痺の影響で足首が上がらない。筋肉が無いとかではなく、脳からの信号がうまく伝わらない。
この2ヶ月ほどで脳波を測ったり電気刺激を与えたり引っ張ったりしたお陰で、1センチほど浮くようになった。
しかし10回程度上げたり下げたりすると疲労で動かなくなる。これは大きな課題だ。
普通の人は意識しないが、歩くとき足首は足の角度によって動き、蹴り出し、地面を捕らえるといった実に多様な働きをしている。
これが動かない場合、着地や蹴り出しがずれたり、足の位置が悪くなり歩き辛い。
そのため装具を使って足首を上げるようにするが、回復度合いによっては装具を使わずサポーターだけで歩ける場合がある。
タイミングとしてはまだ早かったが、ゆくゆくはサポーターに変更したかったので、早めに頼んで病棟で練習しておこうと思った。
使い勝手は上々だ。ただ足首が内側に曲がってしまう内反が、装具よりも顕著に出るため、より足のつき方を改善する必要があった。
8月1日
前職の上司が新潟から見舞いに来てくれた。久しぶりに会う上司との時間は、これからも昔と変わらないと思える楽しい時間だった。アベンヌの化粧水をもらった。
この時、障害者手帳についてよく調べていた。医療保険で3級以上で大きく金額が違うためだ。併せて障害年金や諸々の申請についても知っておかなくては損をする気がして、調べまくった。
その中で目にするいくつかの言葉に違和感を覚えていた。というか障害関係の言葉は、既成だから受け入れられてるが、新規で作ろうとしたらとんでもなく炎上しそうな言葉がいくつもある。いくつか例を挙げてみる。これも主観や個人の見解なので、悪しからず。
①障害
少し前に話題になったワード。さまたげる、を意味する礙が、略字の碍に変わり、常用漢字のがい読みの害に変わっていったそう。自治体や企業単位で表記方法が違う。大まかに言うと害という言葉のイメージが良くないから変えよう派と、障害隔たりを作っているのは社会だからそのまま派と、諸派がある。
②廃用手
脳卒中に罹患し、生活のなかでは機能的に使うことができないと判断された手のこと。これも障害と同じパターンで、廃というパワーに印象が引っ張られる。
③全廃
廃用手と同じく、廃パワーワード。障害者手帳に良く表記がある。人間やその一部に使うべきじゃないと個人的には考えている。
④代償
これはリハビリ用語だ。感覚障害や機能障害をきたして、できなくなったある動きを、他の筋肉が補いできるようにすることをいう。
肘を上に上げる際、肩が横に上がったり、足を前に出す際、横から大回りをして円を描くように足が出たりすることを代償動作という。
代償が出てる、と言われるとなんとなくいけない事をしてる印象を受ける。
⑤症状の固定
これは障害者手帳と障害年金の申請によく出てくる。症状の固定とは、ある程度回復なり病気の進行が終わり、症状が動かなくなったことを指す。僕らはこれから何年でもリハビリをしながら回復を目指すのに、固定と言われると気分が悪い。
加えて障害者手帳は6か月以降、障害年金は18か月以降と、管轄省庁などに違いがあるものの症状の固定時期にズレがあるのも気に入らない。
⑥回復期、維持期
一般に回復の著しい6か月までを回復期、その後を維持期または生活期と呼ぶ。これに関しても、これから何年もリハビリ略。スーパー回復期と一生回復期に名前を変えて欲しい。
半吉のスーパー回復期はまだまだ続く。
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