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17.消えない魔球を半吉の代わりに

9月3日
作業療法で神経衰弱をした。カードをめくる行為自体難しく、覚えるのも脳に負荷がかかって中々ハードなリハビリだった。

続く別の作業療法では、遂に手指の分離運動に挑戦した。

例えば文字を書く時に、親指人差し指中指は鉛筆を握り、薬指と小指は紙を押さえるというように、指がそれぞれ別の運動をすることがある。これを分離運動という。

今まで僕の手指は、一斉に閉じる、開くといった運動しかできなかった。というかしてこなかった。今回、OTさんに言われて動かしてみたところ、親指、人差し指、小指はバラバラで動かせることがわかった。

中指、薬指は単独では動かないので、お手玉を複数個掴んで1個ずつ離す。といったリハビリで分離運動の練習をした。今後の回復に期待したい。


担当STさんと雑談してる時に、面白くて爆笑することがあった。その時、涙が出るほど笑えて話すことができなかった。

普段の会話では言葉に詰まることはほとんどなくなったが、爆笑したときは前に失語があった時のように、言葉が出てこない。

これに関しては必ず治療したい、克服したいとは思っていないが、不思議な感覚だ。

また写真を撮るときの笑顔も今までと変わったと思う。自分ではほんのり笑顔、のつもりが爆笑した時の顔、もしくは悪い笑顔になった。

個人的には笑う表情、というか感情が一番強いのではと思っている。


この日、知り合いの不動産屋さんから土地を紹介してもらった。以前から事務所及び社員寮用地を探していたが、要望に合った土地が出てきたらしい。

とても良い土地だったので、購入に向けて段取りや打ち合わせを始めた。

これから社会復帰しようという僕に取って、病室でもできる仕事はとてもいいリハビリになった。

9月4日
言語療法でしりとりをしながらオセロをした。昔なら得意そうなゲームだが病後は本当に苦手だった。
だがこの日は担当STさんに勝つ事ができて素直に嬉しかった。

友人の設計士に新事務所のプラン作成をお願いした。その他工事についても、知り合いの人にお願いをして、見積もりを作ってもらうことになった。

また発症から撮り続けている写真や動画をまとめてもらおうと、友人にクリエイターさんを紹介してもらった。

その日の夜に打ち合わせの時間を取ってもらって、今までの経緯や発信したいことなどを聞いてもらった。

病気になってから特に感じていることだが、思えばその前から、僕は周りの人達に恵まれている。本当にありがたい。

9月5日
担当OTさんに3Dプリンターでの自助具を作る企画について相談をしてみた。安全性や諸々の懸念事項からして病院とのやり取りはできなそうだが、個人としては協力してくれそうだ。

これが今後どういった形になるかわからないが、とりあえず年内には実現したいと思う。

病棟内の歩行速度を測ってみた。今までも何度か測ったが、初めて杖歩行の記録を杖無しの記録が上回った。本格的に杖無しでの歩行も選択肢に入ってきた。

友人の設計士と新事務所の打ち合わせを行なった。

9月6日
外泊日。
朝一作業療法のリハビリ。

担当OTさんは連休を取ってフェスに行くらしい。僕は来月の脳フェスには参加予定だが、音楽のフェスは今後行くことができるのか。

病院を出て土地を見に行って、現地で設計士と打ち合わせ。ここで良さそうなので、方々に購入の最終確認を取る。

子供達の好きな室内アスレチックに行く。

9月7日
不動産業者に来てもらい、買い付けを提出する。

未来予想図ⅰ

病院に戻りリハビリを再開する。

この日は午後からだったので、作業療法と言語療法の2つのリハビリを行った。

言語療法で記憶に関する検査を行なった。結果はその場ではわからないが、以前と比べて記憶力は戻ってきていると感じている。

この日遂に、自分で靴紐を結ぶことに成功した。喜び過ぎて病院を出て看護師さん達に報告した。

9月8日
この日は言語、作業、理学のリハビリ。

言語療法では、昨日の記憶検査の結果が出た。同年代の健常者平均を上回っていた。以前のIQ検査の結果も改めて見せてもらった。どちらも素直に嬉しい結果だった。

記憶や言語能力は、発症前よりは下がっている。しかし、STさんの尽力もありここまで回復することができた。そして色々な検査をやってくれたお陰で、素人の僕にも何が苦手で、何が強いかが見えてきた。

ここで満足することなく、これから学習していけば発症前の自分を超えられると期待している。

また僕の苦手なワーキングメモリーのアプリを教えてもらったので、退院後もトレーニングを行なっていく。

またこの日は先日紹介してもらったクリエイターさんが病院に来てくれ、打ち合わせできた。

発症から今までのことを話して、動画や写真も見てもらった。また別件で会社の紹介動画についても依頼をした。

この病気はあまりに人によって症状も回復度合いも違うので、サンプルはたくさんあった方が良いと思う。

9月9日
この日も作業、言語、理学のリハビリ。

作業療法では担当じゃないOTさんとまたフェスの話に。名古屋でクリスマスに行われるフェスの先行が始まったらしい。行きたい。

全然関係ないが、女の子がフェス好きと見ると元彼の影響かななどと炎上しそうな事を考えてしまう。

理学療法では、担当PTさんと真剣にスキップのための練習をした。麻痺足でのジャンプのためには、健側足を忘れないといけないらしい。

そしてその後は推し筋肉と推し骨について盛り上がった。次僕がどこかで自己紹介する時には、大きな声で推し筋肉とその役割くらいは言えるようにしておきたい。

最後に僕の担当STさんを見かけたので、スキップをしてもらった。知らないとは思うが、大人がスキップしているのを見ると幸せな気持ちになるものである。僕もスキップしたい。

その後大学の研究協力を行い、ずーみーさんとビデオ通話を行なった。

これからしたいことについて、相談をした。細かくは言えないが、ずーみーさんはスケールの大きい事を真剣にやろうとしている。その力になれたら嬉しいし、僕自身も発信していきたい。

9月10日
この日は作業2つ、理学のリハビリ。

最初の作業療法では、粗さの違う紙ヤスリや、布などを使った感覚の測定を行なった。入院直後は熱も痛みもわからず、朝起きたらどこに腕があるのかわからないほどだった。

今でも左手と比べたら感覚は弱いが、熱や痛みはほぼ戻ってきた。

また麻痺手での握る強さや、置き方を数値化する機械を使って力の入れ方や加減の仕方も練習した。

手や指は知れば知るほど奥が深く、無意識でここまで動いてるのかと驚かされる。指を使って物を触るだけで脳がかなり活動するらしい。

人の体のそれぞれの部分に対応する脳の割合を見ていくと、手が非常に大きい部分を占めている。

ちなみに脳における体の各所の割合を三次元的に表現した、脳の中の小人、ホムンクルスなる人形がある。ぜひネット検索してほしい。

巨大な手と大きな顔が特徴的な人形だが、それほど手と顔は脳において重要らしい。逆に言えば、指の回復が脳の活性化には不可欠といえる。

次の作業療法では、ほぼ初めて箸とペンの練習をした。

介護箸を使って、細かく切った消しゴムを掴んでみたが、なんとか掴めなくはない。実際の食事で使えるかと言われればできないが、数年計画で練習していくつもりだ。

ペンについては、持つことはできるが、線をまっすぐ引くのもままならなかった。自慢ではないが、同じ半身麻痺でもここまでできない人はめったにいないと思う。

せめて麻痺手で自分のサインくらいはできたらと思う。下の名前が非常に簡単で良かった。

これも中長期の目標にすることに。

理学療法ではひたすらスキップのためのトレーニングを行なった。

研究協力ではPTさんと研究そっちのけでリハビリ論で盛り上がった。

自分の病気について知っておく必要性や、自主トレの重要性、あとは定番の推し筋肉で盛り上がった。

退院まであと10日。続く。

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