⑤/⑤ 『世界インフレと戦争 恒久戦時経済への道』
⑤/⑤ 中野剛志氏著『世界インフレと戦争 恒久戦時経済への道』再読了。
構成は以下の通りです。
①グローバリゼーションの終焉
②二つのインフレーション
③よみがえったスタグフレーション
④インフレの経済学
⑤恒久戦時経済
今回は⑤の感想を書きます。
⑤恒久戦時経済
前回は、発達した資本主義社会では、継続的な政府の財政出動が必要と書きました。今回もそれを必要とする事例を取り上げます。
本書によると2020年からのインフレを含めて過去には5回のインフレがあったと言います。その5回に共通する要素は、
異常気象
エネルギー、食料価格の上昇
実質賃金の低下
利上げ
格差拡大
だと言います。しかし、4回目のインフレの際は政府の福祉政策により大きな飢餓などは避けられたと言います。ここでも、大きな政府が必要なことがわかります。では、現在はどういう状況下というと、コストプッシュ型インフレとSNSによって、格差拡大と国民分断が起きていると言います。片や、中国に目を向けると現在が危険な状況だとわかります。中国はグローバリゼーションの恩恵を一番受けてきた国です。2008年まで世界の工場と呼ばれ、輸出主導型の経済成長モデルを保ってきましたが、グローバリゼーションが失速してくると、投資主導の経済成長モデルを実行しようとしました。しかし、不動産バブルが弾けて、この計画は頓挫しました。では、国内消費型の経済成長モデルはどうかと言うと中国ではできないのではないのかと著者は言います。理由は、国内消費型の経済成長モデルには、格差の縮小が必要であり、そうなると国民の平等化、庶民の地位向上により反乱が起こる可能性が高いからというのです。では、中国に残された道は何か、それは、軍事ケインズ主義、つまり、軍事に関する需要を政府主導で創出するというものです。そうなれば、日本との戦力の不均衡はますます深刻化することが考えられます。
そんな状況において、日本がすべきことは何なのか。著者は次のように言います。まず、資源・エネルギー問題に関しては、供給源の多様化と省資源、省エネ化を進め、エネルギー安全保障については、原発を活用することだといいます。理由は、ウランが安価で、供給国が多様で、一度輸入すれば長期間使えるからだそうです。地震、津波大国の日本でそんな政策は有効なのか?と思ってしまいますが、著者はそう主張していました。さらに、著者は、日本はあらゆる分野に財政出動をして、あらゆる分野の供給能力を高めることが必要であり、そういった大規模・長期・計画的な資金を投じられるのは通貨発行権のある政府にしかできないと言います。また、コストプッシュ型インフレがもたらす社会の混乱、分断を修復するために、格差是正や弱者救済、中小企業支援も必要と説きます。特に物価高で苦しむ中なので、消費税の廃止を訴えています。ここは大賛成です。そして、日米の金利差が原因である輸入物価の高騰に対しては、利上げに反対していました。もし、通貨安の是正のために日本も利上げをするなら、経済を立て直して、それで景気が過熱してたらやってもいいだろうと言っていましたが、この本を通して著者はコストプッシュ型インフレ時の利上げに反対していましたので、100歩譲ってという前提のようです。さらに、特定の財やサービスに対する価格統制も有効だと言います。この本が出版されたときはまだまだコロナ禍が深刻だと思われてたので、衛生用品などの価格統制を想定していたようです。ここまでで、日本のやるべきことを述べていったのですが、これって戦時下での統制経済に近いですよね。著者はその通りだと堂々と宣言しています。現在の混乱する世界の中で生き残るには経済や安全保障に政府が強く介入することが必要であると述べています。さて、現実の日本はどうでしょうか。あらゆる分野への財政出動が急務にも関わらず、ありもしない財政破綻を懸念し、緊縮財政を続け、一向に貨幣を供給しようとしません。しかも、貨幣を供給するだけでは不十分で、実物資源が限られてる中での財政出動ですから、財政出動をする分野の優先順位をつけなければいけません。財務省と戦い財政出動をする決断をし、どうすれば最善の方法で実物資源を動員できるかを判断できる政治家が日本にはいるのでしょうか。著者の答えは否というふうに感じました。つまり、日本には絶望しか残されてないというのです。著者の本には絶望で終わる本が多いです。現実そうだろうなと思いますし、著者の性格もあると思います。最後に著者が敬愛するシュペングラーの名言を記して終わりたいと思います。
われわれは、この時代に生まれたのであり、そしてわれわれに定められているこの終局への道を勇敢に歩まなければならない。これ以外に道はない。希望がなくても、救いがなくても、絶望的な持ち場で頑張り通すのが義務なのだ。
以上