②/⑤ 『世界インフレと戦争 恒久戦時経済への道』
②/⑤ 中野剛志氏著『世界インフレと戦争 恒久戦時経済への道』再読了。
構成は以下の通りです。
①グローバリゼーションの終焉
②二つのインフレーション
③よみがえったスタグフレーション
④インフレの経済学
⑤恒久戦時経済
今回は②の感想を書きます。
②二つのインフレーション
まず、ロシア・ウクライナ戦争やコロナ禍はコストプッシュ型のインフレーションを引き起こしました。これについて米国の主流派経済学は二つの派閥に分かれました。「持続的派」と「過渡的派」です。前者は、バイデン政権のコロナ禍対策として行った大型財政出動などが過剰な需要を生み出したとし、財政支出の抑制や利上げを主張しました。一方で、後者は、このインフレは、コロナ禍から正常化する過程での過渡期的なものであるとみなし、いずれ収束するであろうから、歳出抑制や利上げは拙速であると主張しました。というものの、インフレーションには2種類あり、原因が異なるため、その対処法も変わりますので、まずは2つのインフレーションを説明する必要があります。まずは、ディマンドプル・インフレ(図表2-2 の左側)
と呼ばれるもので需要が旺盛になる、すごく簡単に言うとお買い物したい人達が増える、お買い物の量(消費や投資)が増えることで、財やサービスの供給能力を上回ってしまう現象です。こうなると、企業はこの需要に応えようとし、労働力を増やしたり、賃上げをしたり、設備投資を増やしたりして、供給能力を向上させます。賃金を上げたり、売り上げが上がったりするとまた消費や投資につながるので需要が旺盛になります。するとまた、供給能力を向上させようとします。こんな好循環が生まれます。これが過熱しすぎたときは財政支出を抑制したり、増税をしたり、利上げをしたりして対応します。それに対して、コストプッシュ・インフレ(図表2-2 の右側)は、何らかの原因、例えば産油国の輸出制限や食糧危機などの供給能力が毀損された場合に起こります。しかし、物価が上がっているので、国民のお財布の紐はきつくなり、消費・投資は減少していきます(図表2-3)。
そうなると企業は、売れ残りをなるべくなくそうと生産活動を落とし、リストラや機械の廃棄、工場の閉鎖などをします。そうすると国民の所得や企業の売り上げは減っていくので、ますます消費や投資は落ち込みます。しかし、物価はあがるというなんとも地獄という感じです。これは言い換えればスタグフレーションです。この本では、コストプッシュ・インフレ=スタグフレーションと書いてあります。もう一つデフレ(図表2-11)
というのがありますが、これは消費や投資が弱くなり、所得や売り上げが減少し、物価も下がっていく、するとさらに所得や売り上げが減り、消費・投資が弱まります。コストプッシュ・インフレと供給能力が毀損されていく点では似ていますが、前者は物価が上がり続ける、後者は物価が下がり続ける点が異なります。両者共、対処法は政府による公共投資や減税、給付金などの財政出動しかありません。実際、米国では、17人のノーベル経済学賞受賞者が、長期のコストプッシュ・インフレ対策としてインフラ整備やクリーン・エネルギー開発、研究開発や教育などに対する財政支出の拡大を支持しました。それに比べて日本の経済学者と言えば、ありもしない財政破綻を煽って、なるべく歳出を削り、歳入を減らすことに躍起になっている。。。ほんと、日本、残念すぎる。
では、次回は③よみがえったスタグフレーションについて感想を書きます。
以上