③/⑤ 『世界インフレと戦争 恒久戦時経済への道』

③/⑤ 中野剛志氏著『世界インフレと戦争 恒久戦時経済への道』再読了。

構成は以下の通りです。

①グローバリゼーションの終焉

②二つのインフレーション

③よみがえったスタグフレーション

④インフレの経済学

⑤恒久戦時経済


今回は③の感想を書きます。

③よみがえったスタグフレーション

この章で、著者は2021年のインフレはパンデミックによるロックダウン、労働力不足、原油価格の高騰などのコストプッシュ型(スタグフレーション)と、パンデミックによりテレワークやeコマースなどの需要の拡大、さらにバイデン政権の大型財政出動による需要の創出に起因するディマンドプル型のインフレが混合したインフレだとしています。しかし、2022年2月のロシアによるウクライナ侵攻からはコストプッシュ型(スタグフレーション)の傾向が強いとも言っています。米国はこれを受けて利上げをしますが、著者はコストプッシュ・インフレ(スタグフレーション)時における利上げは無意味どころか逆効果だと言います。理由は、利上げをすることによって企業、特に独占や寡占の企業は借り入れのコストを商品価格に転嫁することが考えられ、物価が上がってしまうから、そして、借り入れコストの上昇により設備投資が減少し、供給能力そのものが低下せざるを得ないからだと言います。

さらに、著者は、1970年代のスタグフレーションよりも、現代のスタグフレーションの方が克服するのに困難を要するとしています。大きな理由は、近年推し進められてきた株主資本主義(株主への配当を最大化する資本主義)が考えられるとしています。株主への配当を最大化するために、自社株買いをして株価をつり上げ、設備投資や研究開発を減らし、賃金も削ることを企業は余儀なくされました。その結果、労働者や庶民と株主の格差は拡大し、企業の生産能力は低下することにならざるを得ませんでした。特に日本では2005年に会社法が制定され、株式交換が外資になされることを解禁しました。その結果、1990年代半ばには日本企業の株における外国人保有率は10%程度だったところから、2006年には25%まで上昇しました。ある実証分析によると、日本の旧来型の企業の賃金のほうが高く、外国人株主の影響が強い企業ほど賃金が低いという現象が確認できるそうです。

そして、スタグフレーションによって株主、資本家が得をするという政治的な構造も中央銀行の利上げ実行への後押しとなったとも書いてあります。そもそも、インフレは物価の上昇と表裏一体の貨幣価値の下落を引き起こし、株主、資本家である債権者は損をしてしまいますので、彼らはインフレを嫌います。しかし、同じインフレでもディマンドプル型であると、労働力不足が起こり、労働者が力を持つようになり、賃金の上昇、株主や資本家との格差縮小のインセンティブが働きます。一方、コストプッシュ型では、供給力が減少し、物価が上がるので、庶民は生活が苦しくなり、需要も減ることから、労働者の力も弱くなります。もちろん、物価の高騰や貨幣価値の下落は株主や資本家にとってもダメージではありますが、庶民や労働者に比べたらそのダメージは小さいものになります。つまり、ディマンドプル型だと、労働者の力が強くなってしまうが、コストプッシュ型だと労働者の力は弱くなります。だったら、コストプッシュの方がいいだろう、さらにインフレ対策として利上げをしてくれれば自分たちへの利回りが良くなるので、ぜひとも利上げをしてほしい。そんな株主・資本家と政治・経済の関係があるようです。さらには、WW2前の世界恐慌からオイル・ショックまではケインズ的な財政政策が取られていましたが、オイル・ショック(原油価格高騰)に起因するスタグフレーションについて、ケインズ政策で需要を創出しすぎたからと藁人形論法で批判され、ケインズ政策は勢いを失い、代わりに緊縮財政や金利引き上げなどの新自由主義政策が台頭したというのです。結局は、コストプッシュ型インフレ(スタグフレーション)時の利上げは間違いなのですが、株主や資本家と政治との癒着やケインズ政策に対する誤った批判などで利上げは行われてきたということです。しかし、実はコストプッシュ型インフレ(スタグフレーション)時に利上げを行うことに関しては、もう一つの理由があります。それは、主流派経済学の誤った認識にあります。

次回は、主流派経済学がいかに間違っているかと、異端とされるポスト・ケインズ派経済学がいかに正しいか、そしてポスト・ケインズ派経済学から導き出されるコストプッシュ型インフレ(スタグフレーション)への処方箋を紹介します。


以上

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