デザイン:抽象と具象
こんにちは、システムデザイン研究所(SDL)のともです。
ピクトグラム((例えば 世界ピクト図鑑 サインデザイナーが集めた世界のピクトグラム 児山啓一))は1964年に東京オリンピックで大々的に活用され、一気に世界中に広まったと言われています。当時、まだ多くの日本人にとって英語を始めとした外国語によるコミュニケーションは難しいうえ、施設案内の英語表示も十分でなく、日本独特のインフラも多かったことから、世界中から来る人たちに不自由させないようにと考えての普及だったのだろうなあと想像されます。おもてなし精神そのものです。
このピクトグラムはその後、スポーツ大会だけでなくあらゆるところに広がり、現在はJIS規格、ISO規格がそれぞれ存在し、逐次更新されています。
本当に広く普及したピクトグラムですがその中でも、非常口の案内表示は代表的な例でしょう。この非常口サインは、1973年に熊本であったデパート火災事故で多くの犠牲者が出たことがきっかけで生まれました。自治省消防庁は、明確に非常口がわかるデザインの一般公募を1978年に行ったのですが、3337点の応募作品の中から小谷松敏文氏の作品が選ばれ、さらにデザイナーの太田幸夫氏が改良して発表されたのでした。視認性の高さから一気に普及が進み、ついに1987年にはISO規格として採用されました。ちなみに非常口に向かう人を始めとしてピクトグラムに登場する人はピクトさんというお名前なのだそうです(笑)。言語や世代を超えて、互いの共通認識を生み出すピクトグラムって偉大な発明だなあと感じます。さて、このピクトグラム、考えてみるといろいろ興味深いところがあります。
1)作る作業
ピクトグラムを作るプロセスを考えてみると、二つ方向性があるように思います。一つは、具体的な何かを抽象化をすることで本質的な部分を明確に表現する。もう一つは、具体的なものを各種比べて、共通点を取り出し、それを全面に押し出す方向です。
2)見る作業
ピクトグラムを見る、という作業も考えてみると、どうやって認知するのか興味深いところがあります。そのもの自体を視覚で捉えて直感的に認知するのか、それとも文字の補助として使うか。
たとえばアメリカでは、文字の補助としてピクトグラムが使われるケースが多々あり、アテンションのための記号として使われるきらいがあります。
また、具体的に対象を知覚するか、それとも対象の中にある機能や要素を抽象的に取り扱うか。たとえば、サッカーというスポーツを認知するにあたり、プレーしている人を見て感じるのか、それともボールやゴールを見て感じるのか、といったものです。
3)対象
もの、施設、ルール、案内、人の行為、など色々なものを表現する。ランドマークとして建物や風景を書くというのもあれば、その場所の変遷(歴史)を示すもの、さらには今そこで行われている人間の活動を示すものまで色々あります。
4)ユニバーサル性とローカル性
共通性の高い生活様式に則るものであれば理解が容易ですが、地域性のあるものでは誤解や理解不能な状態を起こす可能性があります。その一方で、ローカル性を表現するために敢えて特徴的なキャラクターやデザインを入れ込むという場合もあります。
たとえば観光スポットを示すにあたり、その土地独特のものを入れたりするのは、ユニバーサル性とローカル性を混在させた一例と言えそうです。
まだまだ面白い特徴がありそうです。
こうしてみていると、ピクトグラムは絵文字・絵記号という域を超えています。小さな絵がさまざまなことをくっきりと各人の頭の中に伝えてくれます。スポーツ競技のピクトグラムなら、アスリートが全力で走り、技を競い、観客を含め感動的な時空を共有している様子が即座に脳裏に浮かびます。さまざまなエキスをギュッと固めたブイヨンのような感じと言っていいでしょうか。視覚を通して認知されると同時に、イメージが一気に湧き起こり、空間を共有することができるのです。
私たちレヴィではシステム工学的なアプローチを日常生活の空間にも広げるべく、システミングという概念を提唱しています。その中で、KATAという、システム思考実践のためのモデル(ないしは雛形)を開発しています。ピクトグラムは私たちにとって大先輩のような存在です。
日本生まれのピクトさんが、世界中で人々を安全な方向へと誘っています。
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