涙と鼻水がにじむワイシャツ
そいつは俯き、身じろぎ一つしませんでした。
ああ、何か嫌なことがあって、話を聞いて欲しいんだな。会うなりそう思いました。
横に腰掛け話を聞くと、職場にうまく馴染めず打ちのめされているという。
ついこのあいだ転職祝でメシを奢ったばかりだ。まだ働き始めて3日目くらいだろう?
そう頭によぎりましたが、何にストレスを感じるかは人それぞれです。
私が決めることじゃない。
それに、就職や転職は大きなストレスとなるライフイベントだと言われています。
離婚、死別、病。それら分かりやすい負のライフイベント同様に、転職や結婚、出世なども多大な心理的負荷となります。
黙って話を聞いていると、そいつは「泣きそうだから」と話を切り上げようとしました。
話を終わらせず、二三どうでもいい投げかけをすると、そいつは涙をこぼし始めました。
悔しさや悲しさ、怒りの色は勿論含んでいるのでしょうが、単純に「感情のコップから溢れたもの」が涙に変換されているようでした。
泣くことは最強のストレス発散方法です。あなたも何となくご理解いただけるのでは?
泣くことで副交感神経が優位になり、スッキリしたあと、ぐったり眠くなる。
目からストレスを直接排泄するようなものだ。
それにしても、促さないと自力じゃ泣けないのか。まるで赤ちゃんの背中をさすってゲップさせてる気分だ。
ただ、そいつの「ストレス溜まったから泣く」というシンプルさは、心底羨ましい。
私なら泣けないどころか、下手に打開策を練ろうとして明後日の方向に走ってしまう。
ストレスが脳の中でスパゲティコードのように絡まり、冷静さを失ったまま弾き出した訳のわからん結論に執着し始める……危険な思考回路です。
…なんてことをポケ〜っと考えながらそいつの肩に手を回す。
辛い話を一つ一つ丁寧に聞くことは重要じゃないと思ってます。
ついついアドバイスしたくなっちゃうから。
それより、こんな時は性別等を問わず肉体的なスキンシップが意外と心落ち着くものだと我々は経験則で知っています。
触れられたことで安心したのか、そいつはいよいよぼろぼろと涙をこぼし始めました。
仕方のないやつだ。肩に回した手と逆の手もそいつの前面から回すと、包み込むような形になる。
しばらく泣かせていると、不意に前面から回した手、肘の内側あたりになまあたたかい湿り気を感じます。
大粒の涙がしみてきたのかと思ったら
コイツ!!俺のシャツで鼻ぬぐってやがる!!
ティッシュあげたのにどうして…
まあ…いいけどさ…
今日、そいつから連絡があり、なんとか職場に少しずつ馴染んでいるところだそうです。
安心しました。またシャツを鼻水でカピカピにされたらかないませんからね。
ふがーーーーだめだ眠い。そうだ私も疲れてたんだ。寝よう。おやすみなさい
唐突な就寝