コックピット
さあ俺は何機のグラマンを撃墜したか
とおじいちゃんは言う
スレ違いざまには敵さんと
コックピットのガラス窓越しに
互いに手を振り挨拶を交わしたものさ
だって、すぐにどちらかが
海に消える運命なんだ
別れの挨拶さ……
でも俺には才能があったんだ
とおじいちゃんは続ける
敵機を見ただけでそいつが
上下左右どこへ向かうのか分かったのさ
百発百中さ、だからこうして生き残ったんだが……
そう締めくくったおじいちゃんは
笑顔から一転
溜息をつくと
とても悲しそうな横顔を
最後に私に見せた
それから半年……
そのおじいちゃんが死んだ
六畳一間のアパートで
ガラス窓一つしかない
そうそこはおじいちゃんの
最後のコックピット、そこで
一人ぼっちで死んだ
三日間誰も気が付かなかった
誰と別れの挨拶を交わすこともなく
冷淡と無関心という敵機に撃墜された……
私も敵の一員だったのだろうか
涙が止まらない……
天国へ行っただろうか?
おじいちゃん、ごめんね
どうか風となり自由に
大空を再び駆け回ってほしい
かってゼロ戦を自由に
手足のごとく駆っていたように
そして戦友の元を訪れ
語り合ってほしい、いや
語り合っているに違いない
人は何のために生まれ
何のために生き、そして
何のために死んでいくのかって
(2013年4月作)
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