平等院鳳凰堂のアイドル



タイトルの通りである。平等院だからBDI48、または乃木坂や日向坂のようにそのまま平等院48としても良いかもしれない。(もしくは鳳凰堂を用いるべき?)
更に48どころか52なのでかなりの大所帯だ。
その名を雲中供養菩薩像(うんちゅうくようぼさつぞう)という。平等院鳳凰堂の壁面に、阿弥陀如来像を囲うように配置されている、アイドルである。



最初はただの仏像だった


10年ほど前、真夏の宇治と奈良へ行った。桜には遅く紅葉には早くただただ暑いオフシーズンの観光地は幾分お得に楽しめそうだという魂胆だった。幸い天気に恵まれ、女三人かしましいはずの旅行もいささか閉口するくらいに暑かった。
旅の行程はどれも楽しいことばかりだったが、それはさておき。
私はアイドルの話がしたい。

行き先は三人がそれぞれ行ったことのない場所や久しぶりに行きたい場所を選んだ。その内のひとつが平等院。私は初めて来訪した。
三人とも、神社仏閣や仏像のオタクではない。歴史オタクでもない。観光名所として歴史ある場所として、なんとなく興味がある程度である。

平等院に到着すると、先ずは10円玉の景色を探した。当時は一部が工事中で、完璧な景色ではなかったけれど、まさしく10円玉のアレだった。
平等院にはメインとなる鳳凰堂の他、庭園、茶房、集印所、それから鳳翔館というミュージアムがある。鳳凰堂と鳳翔館では、様々な国宝や重要文化財を間近で見ることが出来る。

外観を楽しんだ後は鳳凰堂へ。中央に鎮座する阿弥陀如来坐像と頭上の天蓋(どちらも国宝)は絢爛豪華そのもので見応えがあった。その壁面に、木造の小ぶりな仏像が幾つもしつらえられており、よくよく見れば天女のような姿形で、素朴で可憐、可愛らしい仏像だなと思ったのを覚えている。あれらはなんだろう、名前はあるのだろうか、ささやかな飾りにしては大きくたくさんある。

答えは次に入ったミュージアムにあった。計52躯の雲中供養菩薩像。鳳翔館には半分の26躯が展示されており、壁面のものよりもずっと近くで見ることが出来た。
遠目には可愛らしさが感じられたが、近くで見ると美しかった。経年による欠損や塗装が剥落し顕になった木目に、人の手作業と歴史が感じられた。
それらは「普通に可愛くて美しい仏像」だった。
まさかこの後アイドルとして見ることになろうとは、1ミリも思っていなかった。


アイドルは突然現る


ミュージアムにはミュージアムショップが付きものだ。京都奈良に限らず、観光名所となっている寺社というのはお守りを授かる以外に資料や土産物コーナーがあるのが通例で、和物グッズや文化財に関する書籍など様々なものが手に入る。
平等院はミュージアムショップという体裁からか、多様なラインナップが揃っていた。
ふきんが目に止まった。
雲中供養菩薩像の簡略化されたシルエットが、淡い黄色や桃色で印刷されている。そのシルエットのひとつ、両腕をやや広げ手首を曲げた姿のそれに強烈な既視感を覚えた。
これはもしや、

「フライングゲット…!」

フライングゲットとは2011年に発売されたAKB48の楽曲である。頭上で手を翼のように付けてから広げる振り付けに、そのシルエットは手の角度がよく似ていた。今見返してみるとそこまでではないような気もするのだが、当時の既視感は相当なもので、気付いた瞬間から雲中供養菩薩関連の商品が全てアイドルグッズに見えていた。

ふきん、トランプ、写真集…etc。シルエットや写真となってグッズに落とし込まれた雲中供養菩薩像の姿は、私の色眼鏡によってアイドルと化し、どれもこれもきらめいて見えた。
この発見に「アイドルだよ!平等院のAKBだよ!」と連れに興奮気味でひそめいてはあれやこれやと見本を手に取り、私の推しが定まっていた。北7号と南25号である。

雲中供養菩薩は鳳凰堂の南北の壁面にあることから、壁面の方角と番号が割り振られており、一躯ごとの固有名称は存在しない。

北7号は坐像で、足を崩した姿勢の形と、比較的大きく見える雲とバランスが好きだ。南25号は、静かに息を吐いた時のような、無防備であどけない表情が好きだ。何故ここまで具体的に語れるかと言うと、写真集を買ったからである。

ちなみに、手首の形がフライングゲットのようだと思ったのは北10号で、実物のフォームは躍動的ではあるもののフライングゲットのポーズとは異なり、シルエットで見た時に似通っているだけであった。


アイドルかどうか、ぜひ確かめてほしい


これだけ書いたものの、実はつい最近まで存在を忘れかけていた。
ここ数年で平等院鳳凰堂の企画展が巡回していることを知って思い出し、知人との会話で「平等院にはアイドルがいるんですよ」と伝えたら、えらく面白がってくれたのだった。それがこの記事を書くきっかけになった。

偶像崇拝と括れば根本的にはアイドルも仏像も同じようなものなのかもしれない。しかし平素から同列に見ている人は少ないだろう。
グッズ考案者がどのように考えデザインし制作したのかは分からないが、アイドルとして扱っても問題ないような仕様の商品を作り上げたのは、ものすごく効果的なのではなかろうか。しかもバラ売りでもなければトレードも必要ない親切極まりない箱推しの売り方である。デザインとしてよほど優秀なのか、制作側に雲中供養菩薩のファンがいるのか。いても何もおかしくない。実際、そうした目で写真集を買った人間がここに一人いるのだし。


これは旅行のひとつのハイライトであり、新しい推しとの出会いでもあった。(忘れかけてはいたけれど)
随分昔の旅行なので、手元に一切写真がないのが悔やまれる。きっと今頃は美しい紅葉とともに素晴らしい景観を楽しむことが出来るだろう。

現地で本物を見るのは勿論楽しいし、鳳翔館のオンラインストアもあるので、そちらを覗いて商品を確認してみるのも良いと思う。(リンク先の下部から見れます)


平等院鳳凰堂は現在紅葉シーズンにつき、11月18日から夜間の特別拝観を実施していたり、鳳翔館では鳳凰堂建立970年を記念して、9月から12月半ばまで特別展示が行われていたりするようです。

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